40 / 76
第三章 強さを求めて
39.食卓を囲んで
しおりを挟む「おいしー!」
真っ白な家の中、アジェラの感動したような声が響いていた。
綺麗に整頓された食卓にて、白い机の上に並べられた料理は、豪華とまではいかないものの、そこそこ良い見た目を保っていた。香ばしい香りに誘われるよう各々料理に手を伸ばせば、食べた一口目から「美味しい」の言葉が頭を占めるわけで……。
「リレイヌさまっ! これとっても美味しいですっ!」
素直に感想を伝えるアジェラに、食事を用意した張本人であるリレイヌは笑った。失敗しなくて良かったと、ホッと安堵する彼女を横、シアナが「あらほんと。美味しいわ」と和やかにスープを飲む。
「リレイヌって頭も良ければ料理も出来て、それに加えてセラフィーユの子……全く、将来有望だね」
「未来の旦那様が羨ましいですね!」
「それはそう」
アジェラの言葉に頷いたリオルが、黙々と食事をとるリックと睦月を見てニヤッと笑う。
「未来の旦那様、ね」
シアナは目を細めて、食卓を囲む子供たちを視線だけで見回した。
「……そういえば、リオルくん。『妖精の森』について、ご当主様からなにか教わったりしてるかしら?」
「ようせいのもり……?」
ごくりと口の中の物を飲み込み、リオルは考えるように上を向く。
「『妖精の森』って、確かアレですよね? 太古の昔に精霊王フェルシスにより作られたダンジョン。森には魔獣などが住み、それらはそこに居る妖精や精霊たちを守っているとか……」
「そう。それに加えて、妖精、精霊たちは警戒心がつよく滅多に人の前には姿を表さない。でも、魔導を得るためには、精霊と契約しなければならない……」
「魔導には精霊の力が必要なんですか?」
「ええ。具体的にいえば、各属性の主精霊の力が必要なの」
「主精霊……?」
アジェラが問えば、それに匙を置いたリックが答える。
「各属性の精霊の主。それが主精霊だ。例えば水のウンディーネ、火のイフリート、風のシルフに土のノーム。これらは四大精霊と呼ばれている」
「他にも光のルナや闇のシャドウ。氷のセルシウス、雷のヴォルトなどがいて、これらが加われば八大精霊なんて言われることもあるとかないとか……」
「へー」、とリレイヌとアジェラが頷いた。それに、そんなことも知らないのかと言いたげに、睦月がフンッと鼻を鳴らす。
「主精霊の知識はあって当然の常識問題。お前ら全くそんなことも知らないなんて……」
「睦月も知らなかったろ」
「うるせえ黙れ」
ケラケラ笑うリオルに、睦月はムスッとした顔で腕を組んだ。
「みんなよく勉強してて偉いわね」
にこやかに告げたシアナに、リレイヌが片手を上げた。「はい」と示された彼女は、質問よろしく口を開く。
「主精霊のことはわかったけど、それらとどうやって契約するの?」
「ええ、戦うの」
「戦う……?」
キョトンと目を瞬いた子供たちに、シアナはにこやかに笑って言い放つ。
「精霊との契約には力を示さなければならないの。つまり、戦って勝利するのが契約の必須条件」
「……俺らみたいなガキが、精霊と戦って、んでもって勝利しろって?」
「そういうこと」
ボトリと、各自が匙を取り零す。
そんな少年たちに、笑顔のシアナは「まあでも、大丈夫よ」と言ってのけた。「なにが!?」と驚くアジェラに、シアナは微笑みリレイヌを撫でる。
「試されるのは主に、この子だと思うから……」
サッと少年たちの顔から血の気が引く中、リレイヌは不思議そうに小首を傾げ、やがて「がんばる!」と無邪気に力こぶを作るのだった……。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる