27 / 76
第二章 降りかかる悪夢
26.遅くの帰還
しおりを挟む「──リレイヌ!!!」
夜。
すっかりと日も落ちて暗くなった空の下、馬車を降りたリレイヌは、駆けてきたリオルと睦月に目を向ける。なぜかアジェラの姿まであるのを不思議に思いながらふたりに寄ろうとすれば、それよりも先にリックが彼女の前に歩み出た。駆けていた皆が、足を止める。
「こんばんは、シェレイザ様。このような夜分遅くに訪問して大変申し訳ないのですが、少し話の席を取ってもらってもよろしいですか?」
にこにこと。笑顔で告げるリックに、リオルは自然と眉を寄せた。明らかになにかを企てている様子の彼に、自然と低い声が零れ出る。
「……何を企んでいる」
「企んでる? まさか。私はシェレイザ様と話し合いがしたいだけです。ええ、村に捕らわれているシアナ・セラフィーユについて、ね……」
瞠目したリオルの横、睦月が唸るように「リレイヌに何見せた」と吐き捨てた。睨んでくる二つの紫色を確認したリックは、それを鼻で笑い飛ばしてからリオルへと顔を向ける。どうやら睦月のことはスルーするようだ。吠える人狼少年をよそ、リックはリオルの傍へ。声を潜めて言葉を紡ぐ。
「ヘリートと呼ばれる男性が殺されていました。リレイヌの様子を見るに彼女に近しい人物なのは確か。そして、彼はシアナ・セラフィーユの夫であった……推測するに、禁忌とされているのはリレイヌ本人。あなた方シェレイザは、そんな彼女の存在を隠そうとしている。……違いますか?」
「……中で話そう」
告げたリオルに、リックは「寛大なるお心に感謝致します」と一言。わざとらしいその礼に、リオルは無言に。なったかと思えば、すぐに踵を返して屋敷に向かい歩き出す。
「リック……」
「大丈夫。悪いようにはしない」
不安げなリレイヌに微笑み、リックもリオルに続いて足を前へ。歩き出した彼を慌てて避けたアジェラが、忌々しいとリックを睨む睦月をちらりと見てからリレイヌの傍に駆け寄った。
「お怪我は?」
問われる不安に、それを解消せんと「ないよ」と答える。
「それより、アジェラたちはどうして外に?」
「そりゃあリレイヌさまを待ってたからですよ! 探しに行こうかどうかみんな迷ってたし……」
「……ごめんなさい」
「あ、謝らなくても大丈夫ですよ! リレイヌさまだって外に出たかっただけですもんね!?」
「……うん」
頷くリレイヌ。しかしその顔に元気は無い。
明らかに落ち込んでいる様子の彼女に、アジェラはひとりわたわたした。その後ろ、リックを威嚇していた睦月が、「何かあったのか?」と心配そうにリレイヌを見る。
「……なんでもない」
なんでもないよと、言い聞かせた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?
月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。
ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。
「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」
単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。
「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」
「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」
「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」
という感じの重めでダークな話。
設定はふわっと。
人によっては胸くそ。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
星の記憶
鳳聖院 雀羅
ファンタジー
宇宙の精神とは、そして星の意思とは…
日本神話 、北欧神話、ギリシャ神話、 エジプト神話、 旧新聖書創世記 など世界中の神話や伝承等を、融合させ、独特な世界観で、謎が謎を呼ぶSFファンタジーです
人類が抱える大きな課題と試練
【神】=【『人』】=【魔】 の複雑に絡み合う壮大なるギャラクシーファンタジーです
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる