【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

文字の大きさ
76 / 95

拒絶される理由

しおりを挟む
 国王生誕祝賀会の数日後、まさかバーバラがルーカスを待ち伏せるとは、想像もしていなかった。

 毎日王立図書館に、エレインを送り迎えしている事を誰かが知らせたのだろう、本を読む訳でもなく片隅にある喫茶スペースでお茶を飲んでいたのだ。
 ルーカスの姿を捉えると、立ち上がり用件だけを言って来た。
 「オルターナ皇子、お話をして差し上げますわ。貴賓館のサロンへ行きましょう」
 不愉快に思ったルーカスは、エレインを連れて執務室へ行こうとしたのだが、それは拒まれてしまった。
 「エリー。今日は一緒に執務室へ行こう」
 「いいえ、お兄様。私はここでバーバラ様とお話を致しますから、おいて行って下さいませ」
 「何を言っている。エリーを一人には出来ない」
 エレインは、ルーカスの言葉に構わず、バーバラへと声を掛けたのだ。
 「ごきげんよう、バーバラ様。お兄様には、お仕事がございますのよ。お話がしたいのであれば、私がお相手を致しますわ」
 バーバラは、不愉快な態度を隠そうともしない。
 「お前と話す事は、何もなくってよ」
 エレインも、負けじとルーカスを庇う発言をした。
 「それならば、お兄様も同じでしてよ。何故親しくもない女性と、二人きりでお茶を飲まなくてはいけないのです」
 険悪な二人の様子を見て堪らなくなったルーカスは、何とかエレインを連れ出そうとするが、うまく行かなかった。
 「エリー。相手にする必要は無い。今日は諦めて、僕と一緒に執務室へ行こう。本なら、あそこにも沢山ある」
 「嫌ですわ、お兄様。私は、バーバラ様とお話がしたいのです」
 
 「そこまで言うのでしたら、お相手してさしあげますわ。エレイン、付いて来なさい」
 バーバラは先にサロンに向けて歩き出したが、それに続こうとしたエレインを、ルーカスが止めてしまう。
 「エリー。行ってはいけない」
 「お兄様、大丈夫でしてよ」
 「駄目だ。一人には出来ない」
 「お兄様。私には、とても優秀な護衛が付いております。一人では、ありませんのよ。それに、ここは王宮ですわ。近衛騎士も、沢山おりますのよ」
 ルーカスが必死に引き留めている姿を見て、バーバラは苛立っていた。
 「まあ。私が、何かするとでも考えているのかしら。そんなに妹が心配でしたら、ご一緒に来たら宜しいのではなくって」
 ルーカスは不本意だがお茶を共にする事にして、アルフレッドには傍付きから少し遅くなる事を伝えて貰うのだった。
 
 貴賓館のサロンに来ると、既にお茶の用意がされていたが、椅子は二脚しか無かった。
 宮仕えたちはエレインが無理に付いて来たと思い慌てて椅子を用意したのだが、ルーカスへ出す予定だったお茶は、何故か全て片付けられてしまったのだ。
 バーバラはルーカスに媚薬を盛り、既成事実を作ろうと企んでいたのである。
 ルタオー王国での行動を知っていたルーカスは、アルフレッド共々警戒はしていたのだが、本当に行動を起こすとは思っていなかったので愕然としていた。
 この後出された物には、いっさい手を付けなかったのは言うまでもない。

 準備が整ったところで、バーバラがエレインに声をかけて来た。
 「私への話しとは、何かしら」
 エレインは、バーバラに対して怒りを携えている。
 「お言葉に甘えて、遠慮なく申し上げますわね。バーバラ様は留学生として来たと言うのに学園には通わず、貴賓館に居座りアルフレッド殿下を追いかけ回していらっしゃると聞いておりました。私は学園にいらっしゃるよう、お声をかけようと思っていたのですが、気が変りましてよ。貴方様は、いったいお兄様に、何をする気なのです。ルタオー王国での騒動は、お聞きしておりますのよ。婚約者である令息を騙して媚薬を飲ませたと言うのは、ただの噂だと思っておりましたが、どうやら同じ事をお兄様にもなさろうとされたのですね。私、怒っておりますのよ」

 バーバラは、元婚約者に媚薬を盛った事を、何故エレインが知っているのか理解出来ずにいた。
 「国王陛下の生誕祝賀会でも、婚約者のいらっしゃる令息を、お誘いしようとされていたのでしょう。バーバラ様の行動は、全て筒抜けでしてよ」
 バーバラはアルフレッドが言いふらしたのだと思うのだが、エレインの静かな怒りに恐れを感じてしまい、何も言い返す事が出来なかったのだ。
 「国王陛下の生誕祝賀会には、沢山の招待客が王宮に来ておりました。その方たちが、バーバラ様を見ていらしたのです。一人や二人ではありませんのよ。複数で、同じ事を話していたのならば、噂など広まるのは容易い事ですわ」
 バーバラはやはり男の視線を釘付けに出来ていたのだと納得し、やっとエレインに言い返す事が出来た。
 「そう。私の美貌は、目立ちますものね。いつも沢山の男たちからの視線に慣れてしまっていたから、気が付きませんでしたわ。気が付いたとしても、私に相応しくない男等、声をかけるのも烏滸がましい事ですわね」
 エレインは、冷たい微笑みを携えて、ただ静かに語るのだった。
 「バーバラ様にお声をかける殿方は、まともな方ではありませんので、お気を付けた方が宜しいかと思いますわ」
 「それは、どう言う意味なのかしら。返答によっては、ただでは済まなくってよ」
 「私が知っている事を、お聞きしたいと仰るのでしたら包み隠さずにお話致しますが、憤慨されると思いましてよ」
 バーバラは既に憤慨しているのだが、エレインの静かな怒りの前では、虚勢を張るのが精一杯だった。
 「さっさと話しなさい。じらされるのは、好きではなくってよ」
 これには、ルーカスの方が慌てて話に割って入って来た。
 「待ちなさい、僕から話そう。エリーの口が穢れてしまう」

 ルーカスは、各国にバーバラが警戒されている事を、包み隠さずに話して聞かせたのだ。
 ロイズ王国でもそれは有名な事で、誰からもバーバラが歓迎されていない事も付け加えた。
 何時何処で誰の子を孕むか分からない王女を、娶りたいと思っている高位貴族や王族はいない事を、バーバラはこの時漸く理解する事になる。
 「その様な戯言を、誰が信じると言うのです」
 「国王陛下の生誕祝賀会に出席した賓客の中に、お前の目に叶う男はいたのか。女性ばかりで、誰も誘う気にはならなかったのではないか」
 バーバラは宮仕えの言っていた言葉を思い出し、何も言い返す事が出来ず、顔色を悪くしていた。
 ルーカスは、気に掛ける事もなく、畳みかける様に言葉を続ける。
 「祝賀会に招待される貴族家は、みな爵位の高い者ばかりだからな。お前の様な尻癖の悪い女を、嫡男の嫁に欲しいと思う訳が無い。誰の子を孕むか分からない女を嫁に迎えたら、建国当初から続いている血筋が、途絶えてしまうだろう。そんな事も理解出来ず、未だにアルフレッドの妃になれると思っているおめでたい奴に、僕が本気で惚れるとでも思っているのか。媚薬を盛って既成事実を作ったとして、何が悲しくてお前を娶らねばならん。子を産みたければ、勝手に産めばいい。理不尽な遣り方で僕が被害を受けたのならば、責任を取る義理も無いだろう。逆に慰謝料を請求しても、良いくらいだ。お前に声をかけて来るのは失う物も責任を取るつもりも無い、お前と同じく快楽だけを求めて、飽きたら平気で捨てる碌でも無い男だけだ。そんな奴らとアルフレッドを一括りにされては、不愉快極まりない。お前のその自慢の美貌など、ただの性欲の捌け口に過ぎないと言う事を、覚えておけ。今更服装を変え行動を改めたところで、自ら進んで複数の男の手付きになった汚らわしいお前など、同じ席で茶を飲むのも気持ちが悪くて吐き気がする。我が国に居座られているのも腹が立つ。誰からも歓迎されていないのだから、さっさと荷物を纏めて、国へ帰れ」
 ルーカスは立ち上がると、エレインをエスコートして、貴賓館のサロンを後にした。
 去って行く兄妹の後姿を、バーバラは放心状態で見送る事しか出来ずにいる。
 全く動かなくなってしまった主を心配した宮仕えが、声をかけるが反応がない。
 何度か声をかけたところで、やっと正気を取り戻したのだった。
 「おひいさま。そろそろ日が傾いて来ました。お部屋へ戻りましょう」
 「お前たちは、知っていたのかしら」
 青褪めた顔の宮仕えたちを見て、知らなかったのは自分だけなのだと、バーバラは理解した。
 「そう。知っていたのなら、何故教えてはくれなかったの」
 「申し開きもございません」
 バーバラは、大きく深呼吸をして呟く様に問いかけて来る。
 「私は、後悔などしていないわ。そうでしょう、こんなに美しく産まれたのですもの。一人の男に縛られるなど、あってはならない事なのよ」
 「ですが…」
 宮仕えは、その後の言葉が続かなかった。
 「お前たちの言いたい事は、分かっていてよ。このままでは、私は居場所を無くしてしまう。どんな事をしてでも、オルターナ皇子を私の物にしてみせるわ。ここで諦める事など、出来るはずが無いのですもの」
 バーバラは悪足掻きと分かっていても、どうしても諦める事が出来なかった。
 ルーカスが見向きもしない原因が何かを考える事もせず、矛先は自然とエレインへと向いてしまうのだった。
 この国に来てからずっとエレインの存在を疎ましく思っていたのだが、とうとう行動を起こす時が来たと考えてしまったのである。
しおりを挟む
感想 366

あなたにおすすめの小説

婚姻無効になったので新しい人生始めます

Na20
恋愛
旧題:婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~ セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 2025年10月24日(金) レジーナブックス様より発売決定!

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

処理中です...