【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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おぞましい婚約者

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 アルフレッドは毎朝一般教養科までマルゲリーターを送って来ているが、その様子を見ていた生徒たちは、この二人の婚約が長続きしない事を悟っている。
 毎日門前で一悶着があるのだが、今朝の攻防は特に見応えがあった様で、野次馬も多くいた。
 先に馬車から降りたアルフレッドが、何時もの様に儀礼的に手を差し伸べると、マルゲリーターは手ではなく首に飛び付いてぶら下がったのだ。
 「何をやっている。離れなさい!」
 いきなり重力が伸し掛かった事で腰と膝が折れそうになったのだが、日頃からルーカスを相手に訓練をしているだけあって、片足を一歩後ろに出す事で何とか体裁を保つ事が出来た。
 アルフレッドも華奢な見た目だが、毎日の訓練を欠かさない事もあって必要な筋肉はしっかりと付いており、制服の下には見事なシックスパックが隠れているのだ。
 立太子はしていないが、一国の第一王子が衆人環視で地面に手を付き膝まづく姿を晒す等、言語道断である。
 場合によっては、高貴な身体に傷を付けるところであったにも関わらず、マルゲリーターはお構いなしだった。
 アルフレッドの体躯を想像したのか、頬は蒸気して呼吸も荒い。
 「アル様。私、やっぱりこのまま離れたくないわ。もう我慢出来ないの、お願いだから馬車で一回りして来ましょう」
 それは、馬車の中で房事を行いたいと公言したのと同義。
 婚前だと言うのに、既に事を済ました関係だと受け取られかねない発言でもあった。
 ざわつき始めた生徒たちの様子から誤解は早めに取り除くべきだと考えたアルフレッドは、唇を重ねて来ようとする重力を交わしながら、冷静さを欠かさぬ様にマルゲリーターを諫めた。 
 「私たちは、夫婦でも恋人同士でもないのだ。国が決めた婚約者として、適切な距離を保つ様にと、何度言えば理解するのかね。立場も弁えず、易々と純潔を捨てる様な発言は、ひかえなさい。不愉快だ」
 普通の令嬢ならばウエストを掴んで剥ぎ取る事も出来たのだが、このマルゲリーター重力は厄介な事にさかりが付いている。
 今も背伸びをしてでも首にしがみ付きながら、うっとりとアルフレッドの顔に見惚れており、熱い口付けを待っていた。
 こんな状態なのだから身体に触れた途端何をして来るか分からないと考えたアルフレッドは、瞬時に少しだけ膝を折り緩んだ重力の腕から少しも触れる事無く抜け出す事に成功した。
 凭れ掛かっていた支えが無くなった事で、バランスを崩したマルゲリーターは、そのまま顔面を敷石へ叩きつける事になると思われた。
 しかしどんなに毛嫌いをしていても、一応婚約者である。
 目の前で怪我をさせてしまう事は、アルフレッドの矜持が許さなかった。
 倒れて行く重力を受け止めようと差し出した手が、迂闊にもマルゲリーターの胸を押さえてしまったのである。
 「はぁぁぁぁぁ~~~ん。はぁぁ~~~~~~~~~」
 深淵の闇の中から響いて来る様なおぞましい咆哮が、学園中に響き渡ったのだった。
 その咆哮を間近で聞いてしまった生徒たちは、口元を抑えて青褪めている者や、恐怖で顔を引き攣らせている者もいた。
 一瞬意識が飛んだアルフレッドではあったが、マルゲリーターが興奮して悶えている隙に馬車へと飛び乗り、逃げる様にその場を去ったのだった。
 「これ以上、君に構っている時間等無意味だ。失礼する」
 しかし、悶えているマルゲリーターに、アルフレッドの言葉は届いてはいなかった。
 「なんなのだ、あのおぞましい声は…」
 アルフレッドは腹を押さえたと思っているので、胸に触れてしまった事には気付いてはいなかった。
 どちらでも同じ結果になっただろうが、今回の事でアルフレッドの我慢にも限界が来てしまったのである。
 醜態を重ねながら婚約者の勤めを果たす位なら、婚約者を蔑ろにしていると思われる方が精神的にも肉体的にも救われると思った事で、本格的に婚約の破棄を国王に進言しようと意気込むのであった。

 疲れ切った表情で、遅刻寸前に教室へと駆け込んで来たアルフレッドの視界には、幸せそうな表情で本を読んでいるルーカスが映る。
 彼に罪は無いが、マルゲリーターも一応オルターナ家の血を引く令嬢なのだ、屋敷での躾を怠るなと喉元まで出て来たところで担当教師が入って来た。
 ルーカスは物言いたげなアルフレッドに気付いて、同情の視線を送って来ている。
 優秀な男なので、アルフレッドに何があったのか、想像がついている事が伺えた。
 今朝の出来事は最悪だったが、マルゲリーターのいない学園生活は充実している。
 昼休みや放課後に、ルーカスと共にエレインの元へ訪れる時間が、何よりも楽しみで仕方がないのだ。
 あの屈託のない笑みが見られると思うと、それだけで嫌な事を忘れられる程、夢中になっていた。
 一分一秒でも惜しいと思っているアルフレッドは、ルーカスを急かしていた。
 「ルーカス。さっさと食堂へ行かないと、昼休みが終わってしまう。何をもたついているのだ」
 「すまないが、先に行っていてくれないか。教師に頼まれた資料が、まだ出来ていないのだ」
 「珍しいな、お前がそんな事で時間を取られるなんて。空から槍でも振って来そうだ」
 「エリーを頼む。食堂まで連れて行ってくれ」
 「お前がいないのにか?」
 「問題でもあるのか。嫌なら無理にとは言わないが…エリーが腹を空かせていると思うと、可哀想だなあ。誰か他に頼める奴は…」
 「分かった。お前がそこまで言うのなら、私が責任を持って迎えに行こう。友の大切な妹だからな、私が任されよう」
 アルフレッドは、何に言い訳をしているのか分からない言葉を吐いて、エレインの教室へと向かうのだった。
 ルーカスは、ニヤニヤしながらその後を見つからない様に付いて行く。
 資料の事は、アルフレッドとエレインを二人きりにする為の出まかせであった。
 マルゲリーターの事でかなり迷惑を掛けてしまっている友への、せめてもの償いでもあるのだ。
 アルフレッドもルーカスの思惑に気付き、初めてのエスコートをする事にドキドキしながらエレインを迎えに来た。
 「フルール嬢。ルーカスが遅くなると言っていたから、私が変りに迎えに来た。先に食堂へ行っって待っていよう」
 エレインは、一国の王子を使いっ走りにするとは思っていなかったので、驚いていた。
 「申し訳ありません、殿下。お兄様は、何を考えていらっしゃるのかしら。私は、一人でも食堂へ行けますわ」
 「大切な妹を、一人にするのが心配なのだろう。親友の悩み事だからな、私が進んで引き受けた。其方が気に病む事はない」
 「ありがとうございます、殿下。お言葉に甘えさせて頂きますわ」
 エレインは、差し出された腕に、遠慮がちに手を添えたのだ。
 嬉しさのあまり、アルフレッドが壊れた。
 「今日のランチは、なんだろうな。昨日のランチは旨かったが、今日も旨いのが出ると良いな。明日はどの様なランチなのだろうな、腹が減ったな…学園のランチはね…」
 エレインをエスコートしながら、ランチの話題しかないのかと、ルーカスはちょっと残念に思うのであった。
 こうして毎日昼食を共にし放課後は図書室で勉強を見て、授業時間以外の殆どを一緒に過ごし、二人に見送られながら王宮へ戻るのが日課となっている。
 帰宅時間ギリギリまでエレインの傍に居る事から、同じ学舎ではない生徒にまで、三人の関係性が噂になっている。
 あくまでも側近とその妹と言う立場を崩す事はしていないのだが、アルフレッドがエレインに好意的な態度をしていた事で、婚約者の挿げ替えがあるのではないかと思う生徒も出始めたのだった。
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