上 下
12 / 16

妹は相変わらずだった

しおりを挟む
 お父様が何を考えているのかは、分からないけれど、アーノルド様は立派な方だもの。
 世継ぎとして、伯爵家を支えてくれるなら、私が消えた所で問題は無い筈よ。
 毎日刺繍をしていたお蔭で手職が付いたから、雑貨店か用品店で働かせて貰おう。
 そう考えた後の、私の行動は早かった。

 休日にはあちこち周り、従業員を募集しているお店を探して、面接を受けた。
 二人部屋だけれど住む場所もあって、食事も三食付けてくれる雑貨屋で、働かせて貰う事になった。
 気付かれないに様一人でこっそり準備を整えて、お使いへ行く振りをして屋敷を出た。
 御者には、お父様への手紙を持たせて帰らせた。

 「ごめんなさい、お父様。さようなら、アーノルド様。デイジーと、お幸せに…」

 きっと、苦しいのは最初だけ、平民として働けば、直ぐに忘れられるわ。
 それから私は雑貨店の作業部屋で、毎日刺繍を施して働いていた。
 同室の女の子も、私と同じく採用された子で、直ぐに打ち解ける事が出来た。
 店主は、私の事情を聞かないから、私も話していない。
 何事もなく平穏な生活を送っていると、あっという間に半年が過ぎていった。

 店が終わって同室の子と一緒に外へ出ると、見慣れない馬車が止まっている。
 中から、紳士が降りて来た。

 「お、お父様」
 「気は済んだか?屋敷に戻るぞ」
 「え…でも」
 「馬車に、乗りなさい」
 「はい、お父様」

 今の私は平民だもの。
 貴族のお父様には逆らえないので、素直に馬車へ乗ったのだけれど…
 お父様は、同室の女の子と話をしていた。
 そして話が終わると、彼女は御者の隣に座った。

 「え、どうして…」
 「彼女は、お前に付けていた護衛だ。娘を一人で、平民街に放置する訳がないだろう。私が何も気付かないと、思っていたのか?」
 「申し訳ございません、お父様」

 全く気付いていなかったわ。
 お父様には家を出る事、貴族籍から抜いて欲しい事を、手紙で伝えた筈なのだけれど…
 どうして?
 屋敷に戻ると、お母様と妹が、怒鳴り込んで来た。

 「領地で静養なんて、何様のつもりなの?こんなに長い間家を空けるなんて、我が儘も大概にして頂戴」
 領地で静養って、お母様は何を仰っているの?
 「お姉様、ちょっとお部屋で話がありますの」

 腕を掴まれて、妹の部屋に来てみると、いきなり打たれたわ。
 驚いて妹を見上げたら、鬼の様な形相で睨んでいる。
 「何度も手紙を出したのに、返事を返さないなんて、非常識ですわ。私にどれ程苦労を掛けたら、気が済むの」

 「何を言っているの?」

 「お姉様が急に、領地に引き籠ってしまったから。アーノルド様に、刺繍のプレゼントが渡せなくなってしまったのよ。雑貨屋で見つけた刺繍小物をプレゼントしたら、直ぐに私の刺繍じゃないと分かってしまったのだもの」

 「それは、デイジーが悪いのでしょう。何故嘘を付いて迄、私の刺繍をアーノルド様に渡したの?どうして自分で刺繍をしないの」

 「私が不器用だからって、馬鹿にしないで。お姉様の癖に、生意気よ!そんなの…誰もが憧れるアーノルド様を、お姉様に取られたくなかったのよ。分かり切った事を、聞かないで。本当に馬鹿で愚図ね。明日までに、そのハンカチに刺繍しなさい、分かったわね」
 デイジーが不器用だったなんて…刺繍が得意だと、言っていたのは、嘘だったの?

 私の行動は、全て見透かされていたもめ。
 それでもお父様は知らない振りをしていたなんて、何を考えているのかしら。
 明日は、約束の一年だったわね。
 憂鬱だわ…
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

この恋は幻だから

豆狸
恋愛
婚約を解消された侯爵令嬢の元へ、魅了から解放された王太子が訪れる。

恋という名の呪いのように

豆狸
恋愛
アンジェラは婚約者のオズワルドに放置されていた。 彼は留学してきた隣国の王女カテーナの初恋相手なのだという。 カテーナには縁談がある。だから、いつかオズワルドは自分のもとへ帰って来てくれるのだと信じて、待っていたアンジェラだったが──

初恋の相手と結ばれて幸せですか?

豆狸
恋愛
その日、学園に現れた転校生は私の婚約者の幼馴染で──初恋の相手でした。

この誓いを違えぬと

豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」 ──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。 ※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。 なろう様でも公開中です。

愛は見えないものだから

豆狸
恋愛
愛は見えないものです。本当のことはだれにもわかりません。 わかりませんが……私が殿下に愛されていないのは確かだと思うのです。

処理中です...