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妹に騙されていた

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 結局複雑な心境のまま、私は侯爵邸に来てしまった。
 デイジーとアーノルド様は、先に到着していた。

 お揃いの衣装を着た、二人が出迎えてくれた。
 「お父様お母様、お姉様見て下さい。素敵な衣装を仕立てて頂いたの、似合うでしょう」
 「とても素敵よ、デイジー。貴方が幸せで、私も嬉しいわ」
 「デイジー、良く似合っているわ。アーノルド様の衣装も…刺繍が…」
 私は、襟元に刺繍を施してあるブラウスを着たアーノルド様を見て、言葉を失ってしまった。
 「気付かれましたか。私の、一番のお気に入りなのです。襟元の刺繍が美しく繊細で、この様な刺繍が出来る方は、きっと心も美しい方なのだと、感心しておりました」
 その言葉が余計に、私の心をかき乱した。
 あの刺繍は、私が施した物よ。
 友人に頼まれたと、デイジーから聞いていたのに、どう言う事?

 「嫌ですわ、アーノルド様。そんなに褒めて頂いては、恥ずかしいです。でも、お気に入りだと言われて、嬉しいわ。一生懸命刺繍を施した甲斐があります、ねぇお姉様もそう思うでしょう」
 薄ら笑みを浮かべて、私を見つめるデイジーの瞳が、鋭く私の心に突き刺さった。
 余計な事を言えば、デイジーに私の気持ちを、この場で晒されてしまう。
 「そう…ね。デイジーの言う通りだわ」

 「私が、デイジーとの婚約を薦めたのですよ」
 侯爵夫人は、デイジーとお知り合いだったの?
 「母上は刺繍が好きですからね、良い話し相手になりそうだと、とても関心してこのブラウスを見ておりましたね」
 「そうなのよ。でも…デイジーったら、私の前では一度も針を持ってくれないの。どうしてかしら?一緒に刺繍を楽しみたいのに」
 「あの…それは…」
 デイジーは、言い淀んでいる。

 「何時迄も立ち話は失礼だろう、お客様をお通ししなさい。本当に、ご婦人達のお喋りには付き合い切れません」
 「そうですね、レジット侯爵。お招き頂き、ありがとうございます」
 私は、頭の中が、真っ白になっていた。
 今侯爵夫人は、私が施したブラウスの刺繍が気に入って、デイジーとの縁談を薦めたと仰っていたわ。
 私はデイジーの友人が、意中のお相手と上手く行くように、心を込めて刺繍を施したの。
 それなのに、デイジーは初めから、アーノルド様に渡す予定だったの?
 どうして、そんな人を騙す事が出来るの?
 私達姉妹よね?
 デイジーは、アーノルド様の事が、好きではないの?

 あの刺繍は私が施した物だと言ったら、アーノルド様は、私を愛して下さるの?
 侯爵夫人は、私との縁談を望んで下さる?
 一度結んだ縁談を、壊すなんて…
 醜聞にしかならないわ。
 まして妹の婚約者を奪うなんて、無理ね…私には出来ない。
 悔しくて、悲しくて、叫びたくなった。
 私の中にどす黒い物が広がって、全てが憎しみの対象になって行くような気がした。

 もう限界だわ、家を出ましょう。
 これ以上この家族と一緒に過ごしていたら、私は壊れてしまう。
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