3 / 16
妹の婚約者
しおりを挟む
「お姉様、私婚約が整いましたのよ」
「あら、おめでとう。知らなかったわ、お父様は何も仰って下さらないから…」
「執務中はずっと一緒に過ごしているのに、愛されていないのね、お可哀想」
「そうね…お仕事の話し以外は、殆どした事がないわ」
「だからお姉様は、見放されたのよ。お相手はレジット候爵家の次男で、アーノルド様と言うの。我が家へ、入り婿として来て下さるのですもの」
「え…それは…」
「うふふ、馬鹿なお姉様。社交もしないで、家に閉じ籠って居るから悪いのよ。これからは、私とアーノルド様で伯爵家を継ぐから、安心してね」
嘘よね?目の前が真っ暗になった。
私は急いで、お父様の執務室に来たけれど…
何を話したら良いのか、分からない。
ワンピースの裾を握りしめて、突っ立っていた。
「マーガレット、何時迄そうしているつもりだ。立っていないで、座りなさい」
見兼ねたのか、お父様の方から、声を掛けて下さったわ。
「はい、すみません」
「何か用事があるのなら、簡潔に話しなさい」
「あ…あの。侯爵家から、入り婿が来ると、デイジーから聞きました。本当なのでしょうか?」
「本当だ。聞きたいことは、それだけか?」
「いえ…何故、デイジーなのですか?私は…」
それ以上は、喉が詰まって声に出来なかった。
「お前はパーティに参加しなかっただろう。毎回デイジーが、侯爵令息から声を掛けられていたと、聞いている。その縁で、入り婿の話しが進んだのだ」
私はパーティに出なかった訳では無いと、喉元迄込み上げて来た言葉を、無理やり飲み込んだ。
お母様が、連れて行ってくれなかっただけなのに…
言ったとしても、どうせ信じて貰えないのだし、今更状況が変る訳でもないのよね。
「分かりました…私の今後は、どうなるのでしょうか」
「どうもならんだろう。1年間、アーノルド侯爵令息には、お前の仕事を手伝ってもらう。その間に、爵位を継げる者かどうかの判断を下す。お前はしっかりと、自分の役割を果たしなさい」
「承知…致しました…」
その後自分が何をしていたのか、どうやって部屋に戻ったのか、何も覚えて無かった。
侯爵家と、伯爵家での話し合いが、どの様に行われたのか分からないけれど…
私の気持ちの整理が付かないまま、彼は執務を覚える為に、伯爵家へとやって来た。
「初めまして、アーノルド・レジットです。これから、家族の一員としてお付き合いして頂きたく思います。どうか私の事は、アーノルドとお呼び下さい」
見上げる程背が高く、漆黒の様な髪色に青空を思わせる碧眼の青年は、とても穏やかで礼儀正しかった。
「デイジーの姉、マーガレット・オルトーです。私の事は、マーガレットとお呼び下さい」
その日から父の執務室で机を並べ、昼間の殆どを共に過ごす様になった。
彼はとても優秀で、私が一度説明しただけで、直ぐに理解してくれる。
お父様はきっと彼の事を知っていて、私達姉妹のどちらかと、縁を結ばせるつもりだったのね。
だからお母様は、何時もデイジーだけを、パーティに連れて行ってたのだわ。
「…様。マー…様、マーガレット様。顔色が優れませんね、お休みになられた方が、宜しいのではありませんか?」
「す、すみません。大丈夫です、少し考え事をしていただけですから。あの…何処まで、お話したでしょうか」
「すみません、突然私が現れてしまった事で、混乱されているのでしょう。本来ならば、貴方が伯爵家を継ぐ予定でしたのだから…」
「あ…いえ…気を遣わせてしまい、申し訳ありません」
考えたって、仕方の無い事よね。
貴族なのだから、家同士の婚約は、本人の希望に添えない事等珍しくはないもの。
私は、何を期待していたのかしら…
父の執務を手伝って、立派に爵位を継げば、家族として認めて貰えると。
幼い頃に、両親からの愛情を求める事は、諦めたけれど。
家族として認めて貰う事は、まだ諦め切れてなかったみたい。
嫌ね、未練がましいわ。
爵位を、継げなくなるだけなのに。
「マーガレット、今日はもういい。部屋に戻りなさい」
「はい、お父様、少し疲れたようです。申し訳ありませんが、お言葉に甘えて、今日は失礼致します」
「お大事にしてください」
涙が零れるのを必死に堪えて、部屋に戻って来た私は、決壊が崩壊したように泣き続けた。
その泣き声は、部屋の外にまで聞こえていたようだけれど、慰めに来てくれる者は居なかった。
「あら、おめでとう。知らなかったわ、お父様は何も仰って下さらないから…」
「執務中はずっと一緒に過ごしているのに、愛されていないのね、お可哀想」
「そうね…お仕事の話し以外は、殆どした事がないわ」
「だからお姉様は、見放されたのよ。お相手はレジット候爵家の次男で、アーノルド様と言うの。我が家へ、入り婿として来て下さるのですもの」
「え…それは…」
「うふふ、馬鹿なお姉様。社交もしないで、家に閉じ籠って居るから悪いのよ。これからは、私とアーノルド様で伯爵家を継ぐから、安心してね」
嘘よね?目の前が真っ暗になった。
私は急いで、お父様の執務室に来たけれど…
何を話したら良いのか、分からない。
ワンピースの裾を握りしめて、突っ立っていた。
「マーガレット、何時迄そうしているつもりだ。立っていないで、座りなさい」
見兼ねたのか、お父様の方から、声を掛けて下さったわ。
「はい、すみません」
「何か用事があるのなら、簡潔に話しなさい」
「あ…あの。侯爵家から、入り婿が来ると、デイジーから聞きました。本当なのでしょうか?」
「本当だ。聞きたいことは、それだけか?」
「いえ…何故、デイジーなのですか?私は…」
それ以上は、喉が詰まって声に出来なかった。
「お前はパーティに参加しなかっただろう。毎回デイジーが、侯爵令息から声を掛けられていたと、聞いている。その縁で、入り婿の話しが進んだのだ」
私はパーティに出なかった訳では無いと、喉元迄込み上げて来た言葉を、無理やり飲み込んだ。
お母様が、連れて行ってくれなかっただけなのに…
言ったとしても、どうせ信じて貰えないのだし、今更状況が変る訳でもないのよね。
「分かりました…私の今後は、どうなるのでしょうか」
「どうもならんだろう。1年間、アーノルド侯爵令息には、お前の仕事を手伝ってもらう。その間に、爵位を継げる者かどうかの判断を下す。お前はしっかりと、自分の役割を果たしなさい」
「承知…致しました…」
その後自分が何をしていたのか、どうやって部屋に戻ったのか、何も覚えて無かった。
侯爵家と、伯爵家での話し合いが、どの様に行われたのか分からないけれど…
私の気持ちの整理が付かないまま、彼は執務を覚える為に、伯爵家へとやって来た。
「初めまして、アーノルド・レジットです。これから、家族の一員としてお付き合いして頂きたく思います。どうか私の事は、アーノルドとお呼び下さい」
見上げる程背が高く、漆黒の様な髪色に青空を思わせる碧眼の青年は、とても穏やかで礼儀正しかった。
「デイジーの姉、マーガレット・オルトーです。私の事は、マーガレットとお呼び下さい」
その日から父の執務室で机を並べ、昼間の殆どを共に過ごす様になった。
彼はとても優秀で、私が一度説明しただけで、直ぐに理解してくれる。
お父様はきっと彼の事を知っていて、私達姉妹のどちらかと、縁を結ばせるつもりだったのね。
だからお母様は、何時もデイジーだけを、パーティに連れて行ってたのだわ。
「…様。マー…様、マーガレット様。顔色が優れませんね、お休みになられた方が、宜しいのではありませんか?」
「す、すみません。大丈夫です、少し考え事をしていただけですから。あの…何処まで、お話したでしょうか」
「すみません、突然私が現れてしまった事で、混乱されているのでしょう。本来ならば、貴方が伯爵家を継ぐ予定でしたのだから…」
「あ…いえ…気を遣わせてしまい、申し訳ありません」
考えたって、仕方の無い事よね。
貴族なのだから、家同士の婚約は、本人の希望に添えない事等珍しくはないもの。
私は、何を期待していたのかしら…
父の執務を手伝って、立派に爵位を継げば、家族として認めて貰えると。
幼い頃に、両親からの愛情を求める事は、諦めたけれど。
家族として認めて貰う事は、まだ諦め切れてなかったみたい。
嫌ね、未練がましいわ。
爵位を、継げなくなるだけなのに。
「マーガレット、今日はもういい。部屋に戻りなさい」
「はい、お父様、少し疲れたようです。申し訳ありませんが、お言葉に甘えて、今日は失礼致します」
「お大事にしてください」
涙が零れるのを必死に堪えて、部屋に戻って来た私は、決壊が崩壊したように泣き続けた。
その泣き声は、部屋の外にまで聞こえていたようだけれど、慰めに来てくれる者は居なかった。
229
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
恋という名の呪いのように
豆狸
恋愛
アンジェラは婚約者のオズワルドに放置されていた。
彼は留学してきた隣国の王女カテーナの初恋相手なのだという。
カテーナには縁談がある。だから、いつかオズワルドは自分のもとへ帰って来てくれるのだと信じて、待っていたアンジェラだったが──
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる