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溺愛される妹と、毛嫌いされる姉

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 「本当に貴方は取り柄のない、つまらない子。どうしてもっと愛想良く出来ないの?父親にそっくりで、気持ち悪いわ」
 若干6歳の娘に対して実母が放った言葉は、深い傷となって私の心に突き刺さる。

 「お母様、そんな本当の事を言っては、お姉様が可哀想だわ」
 「可哀想なのは私です、こんな陰気臭い子が娘だなんて…デイジーは賢くて、愛らしいのに。姉妹でどうしてこんなに違うのかしら?」
 母の後ろで舌を出している2歳下の妹を見つめて、私は泣きそうになったのを我慢した。

 母は侯爵家の娘で、将来は格上の貴族へ嫁ぎたいと思っていた。
 当時思いを寄せていた、公爵令息も居たと、お婆様から聞いていたの。
 だけど、公爵夫人になる為の素養が身についていないと言われ、縁談は進まなかった。
 それどころか、格下になる伯爵令息だったお父様に嫁がされたわ。
 望まぬ結婚だった事もあり、お母様はお父様の何もかもが気に入らなく、夫婦仲は冷え切っているの。
 貴族の夫婦なんて、何処も似た様な物だけれど、父親に良く似た私まで毛嫌いされるなんて…
 それでも私は愛されたい一心で、母のご機嫌を取ろうとしていたわね。

 「お母様、ハンカチ…」
 「わたし、お母様の為に、一生懸命刺繍したのよ。まだまだ下手くそだけれど」
 「そんな事はないわ、デイジー、とても素敵なハンカチよ。一生の宝物にするわね、ご婦人達にも自慢しなくては」
 そう言って、私が母にプレゼントしようとしていたハンカチは、妹からのプレゼントだと誤解された。

 「お母様…」
 「レースでショールを編んだの。とても恥ずかしいのだけれど、お母様に似合うと思って…」
 モジモジしながら母に甘えた目を向ける妹を抱きしめて、私の手から奪ったショールを肩に掛け、満足そうに笑い合って居る母娘を眺めていた。

 「お母様、絵を描いたので、見て頂けませんか?コンテ…」
 何時も、何処で見ているのかと思う位素早く妹が割り込んできて、言葉を遮ってしまった。
 「私が描いたのよ、凄いでしょう。コンテストに応募したいの」
 母は目を輝かせて、妹の頭を撫でながら、絶賛している。
 「デイジー、とても素晴らしいわ、貴方は私の自慢よ。早速応募しましょう」
 その絵は、見事、最優秀賞に輝いた。
 私は複雑な心境で、豪華な額縁に入れられ、玄関ホールに飾られた絵を見ている。

 「描いたのは、私なのに…」
 そんな呟き等、誰も聞いてはくれない。

 こんな事は、日常茶飯事だ。

 この家は母を中心に回っているのだから、父親に似てしまって毛嫌いされた私を、気に留める者なんて居ないわね。

 母は、自分にそっくりな妹を溺愛している。
 その為か、妹の言葉は全て真実で、私の言葉は全て偽りとされた。

 初めのうちは反論もしていたけれど、無駄な事だと分かってからは、只我慢する事しか出来なかった。
 私が刺した刺繍も、編んだレースも、描いた絵も全てが妹の作品になってしまった。
 
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