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第8話 無知な夫

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 お義父様の傍に控えていた執事が、私を呼びに来たわ。
 「夫に会うのは久し振りだわ。なんだか緊張するわね」
 「私達もおりますので、ご安心ください」
 「そうね、ありがとう」
 私は開けて貰った扉から、部屋の中へと入った。

 そこには、私の姿を見て驚愕した夫とハンナが、二人並んでソファーに腰掛けていた。
 「ご無沙汰しております、レックス様」
 お二人は、声も出せない様ですわね。
 「ナターシャ、此処に座りなさい」
 「はい、お義父様」
 「体調はどうかしら、無理はしないでね、胎教に悪いですもの」
 「はい、気分が悪くなりましたら、直ぐにお暇させて頂きます。お義母様」

 「それで、聞きたいのだがナターシャ。今使用人が抱いている子に、見覚えはあるか?」
 「いいえ、ありませんわ、初めてお会いしました。産まれて間もないのでしょうか、とても小さくて可愛いですわね。私も早く我が子に会いたくなりました」
 「そうね、私も早く、の顔が見たいわ」

 「見覚えが無いのは当然か、ひと月前から私達と共に、屋敷に居るのだ。私も、の誕生を、楽しみにしている。身体に悪い、ナターシャ、もう下がっても良いぞ」
 「はい、失礼致します。お義父様」
 私が下がろうとすると、レックス様に呼び止められました。

 「待て、ナターシャ。その腹は何だ!お前は、俺に隠れて不貞を犯したのか。侯爵家に泥を塗るとは…」
 まぁ。ご自分の事は棚に上げて、私を責めるのですね、呆れましたわ。
 「黙りなさい。不貞を犯して居るのは、レックス、お前の方だろう」
 「そ…それは。違います、父上。ナターシャは、離れに男を連れ込んで居たのです」
 離れには、常に見張りが居たのよ、不貞なんて犯せる訳ないわ。
 
 「ナターシャが、初夜に不貞を犯したと言うのか。レックス、その赤子は誰の子だと言った?」
 「そ…それは…ナター…シャ…」
 私が妊娠しているとは思っていなかったみたいね、誤魔化し切れなくなって、どうなさるおつもりかしら?
 「ナターシャ、身体に障るわ。部屋に戻って良いわよ。」
 「はい、失礼致します。お義母様」
 私は何か言いたげなレックス様を一瞥してから、客間を後にした。


 「お前は、一体何を考えている。人様の、大切なご息女を騙しただけでは無く、離れに監禁する等。人の心を持った人間のする事では無いぞ」
 「………その様な事は、決して…」
 「それだけでは無い。これを見なさい」

 「これは、何ですか?」
 「ナッ!ナターシャが、実家に宛てた手紙ですわ」
 「ハンナ、どうして君が知っているんだ?」
 「そっそれは…そうですわ。ナターシャから、出す様にと、頼まれましたの」
 「愛人風情が!侯爵家の嫁を、何度も呼び捨てにするとは、無礼者が!」
 「ヒッ」
 「父上、大声を出さないで下さい。息子が泣いてしまいました」
 
 「赤子を別室に連れて行きなさい」
 「畏まりました」
 「父上、息子を泣かせたままにするのですかっ」
 「使用人が居るだろう。レックス、中を読みなさい。その封蝋は、偽造された物。手紙もだ」
 「そんな事、一体誰が…封蝋の偽装は大罪ですよ、何故その様な事をすると言うのですか。これは、ナターシャの字で間違いありません。彼女は、実家に酷い要求をしていたのです。宝石や金をせびる等、侯爵家の嫁には相応しくありません。浅まし過ぎます」
 「そっそうですわ。ナターシャ…様は、私に執務も押し付けておりましたもの。性格が、ねじ曲がっているのです」
 「そうですよ、父上。ハンナはナターシャの代わりに、執務もしっかりとこなせる、優秀な女性なのです」

 「愛人に執務を任せる等…ならば何故、ナターシャが本邸に来てから、執務が滞っているのだ?その女が、執務をこなしている姿を、直接見たのか」
 「いえ、見た事はありませんが…ハンナ、産後も執務をこなせると、言っていただろ」
 「私は…い、育児に疲れて…少し休んでいただけです」
 「そうか。聞きましたか、父上ハンナは…」
 「レックス、お前は本当に何も分かっていないのだな」

 「分かっていないのは父上です。ハンナが平民だからと言って、毛嫌いするのは、お止め下さい」
 「そうか、そんなに一緒になりたいのなら、好きにすると良い。お前達の婚姻を認めてやろう」

 
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