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第5話 本邸へ逃げました
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「ごきげんよう、陰気で惨めな奥様。今日は見せてあげたい物があるのよ、素敵な指輪でしょう。あんたの結婚指輪の何十倍も高いのよ」
そう言って、三本の指からはみ出している、大きな宝石の付いた指輪を見せられた。
「そうですか…羨ましいです」
早く帰って欲しい。
私は俯いて、愛人の機嫌が良くなる様に、演技をしていた。
「ねぇ、あんた…体型変わったんじゃないの?」
ビクッと、身体が小さく跳ねた。
「それは…太ったのです」
「あっはっはっはっは。男に捨てられて、惨めに閉じ籠ってばっかりだから、ブクブクとブタみたいに肥えて行くのよ。いい気味、そのまま太り続けなさい。そうだわ、レックスに頼んで、食事の量を増やしてあげるわね」
ハンナは想像通り頭が軽い人だったらしく、私の体型を馬鹿にして、大きくなったお腹をこれみよがしに自慢しながら戻って行った。
彼女の姿が小さくなって行く。
「あんなに離れたのに、まだ笑い声が聞こえて来るわ。何が楽しいのかしら?」
溜息が零れた。
嫁いで来てから、溜息ばかり付いている気がするわ。
両親も、義両親も手紙を受け取っているわよね?
ハンナに見られてしまうから、返事は不要だとしたためてある。
きっと驚いていると思うのだけれど、大丈夫上手く行くわ、もう少しの辛抱よ。
最近ハンナが大人しくなったと思っていた頃、別館が慌ただしくなり、彼女が産気づいたと報告が来た。
「陣痛で、動けなかったのね…」
まるでこのタイミングを見計らっていたかの様に、義実家の馬車が私を迎えに来てくれたので、急いで乗り込んだ。
離れに居た使用人達も連れて、そのまま本邸にいる義両親の元へ逃げて来たのだけれど…
義両親は、私の手紙を読んだけれど、半信半疑だったようでとても驚いている。
「ナターシャ、よく来てくれた。疲れただろう、部屋を用意しているから、休みなさい」
「はい、お義父様。お言葉に甘えさせて頂きます」
私が部屋に案内されて休んでいた時に、夫から速達便で世継ぎの男児が産まれたと報告が来た様で、義両親は余計に混乱したみたい。
翌日朝食の席で、私の大きなお腹を見て、一体誰の子が産まれたのかと聞いて来た。
手紙は急いでしたためた為、詳しい事情を義両親は知らなかったのだ。
私は今迄の事や、ハンナの事も全て打ち明けたら、酷くお怒りになってらしたわ。
「レックスは何を考えている、執事は何をやっているんだ?愛人との子を世継ぎにするなど、許される訳がないだろう」
「そうよ。だからと言って、ナターシャをこんな酷い目に合わせるなんて…」
お義母様は、途中から我慢出来なくなったのか、泣き出してしまった。
「すまなかった、ナターシャ。不肖の息子だとは思っていたが…ここまで腐っているとは、親として情けない」
「お義父様、お義母様私は今後、どうなるのでしょうか?出来る事ならば、レックス様とは、離縁しとうございます」
「そうだな。其方の気持ちを、一番に考慮したい所だが…お腹の子は間違いなく我が侯爵家の血筋。私生児にする訳にはいくまい。申し訳無いが、子が産まれて来る迄、此処で辛抱してはくれないだろうか」
「そうですわね。ナターシャは、母親になるのですもの。安心して出産に臨める場所が無いのは、問題ですわ。離縁は後になるとしても…そうね、貴方は私達の娘ですもの、出産後も此処に残ったら如何かしら。我が子と早々に離れる事になるのは、辛いでしょう」
「そうだな。私達の目が届く場所ならば安心だ。あの馬鹿息子は、子が産まれたら追放しよう」
「ですが…レックス様は、たった一人のお子ではございませんか。追放などされたら、世継ぎはどうなるのですか」
「心配はいらない、世継ぎは親戚から探す。ナターシャは、無事に子を産む事だけを、考えていなさい。もし、元気な子が産まれたなら、爵位は孫に譲ろう」
「そうよ、貴方は何も心配する事は、無いのよ。今迄本当にごめんなさいね、辛かったでしょう」
お義母様は、優しく私を抱きしめて下さった。
私は安心したのか、決壊が崩壊したように、泣きじゃくってしまったわ。
そう言って、三本の指からはみ出している、大きな宝石の付いた指輪を見せられた。
「そうですか…羨ましいです」
早く帰って欲しい。
私は俯いて、愛人の機嫌が良くなる様に、演技をしていた。
「ねぇ、あんた…体型変わったんじゃないの?」
ビクッと、身体が小さく跳ねた。
「それは…太ったのです」
「あっはっはっはっは。男に捨てられて、惨めに閉じ籠ってばっかりだから、ブクブクとブタみたいに肥えて行くのよ。いい気味、そのまま太り続けなさい。そうだわ、レックスに頼んで、食事の量を増やしてあげるわね」
ハンナは想像通り頭が軽い人だったらしく、私の体型を馬鹿にして、大きくなったお腹をこれみよがしに自慢しながら戻って行った。
彼女の姿が小さくなって行く。
「あんなに離れたのに、まだ笑い声が聞こえて来るわ。何が楽しいのかしら?」
溜息が零れた。
嫁いで来てから、溜息ばかり付いている気がするわ。
両親も、義両親も手紙を受け取っているわよね?
ハンナに見られてしまうから、返事は不要だとしたためてある。
きっと驚いていると思うのだけれど、大丈夫上手く行くわ、もう少しの辛抱よ。
最近ハンナが大人しくなったと思っていた頃、別館が慌ただしくなり、彼女が産気づいたと報告が来た。
「陣痛で、動けなかったのね…」
まるでこのタイミングを見計らっていたかの様に、義実家の馬車が私を迎えに来てくれたので、急いで乗り込んだ。
離れに居た使用人達も連れて、そのまま本邸にいる義両親の元へ逃げて来たのだけれど…
義両親は、私の手紙を読んだけれど、半信半疑だったようでとても驚いている。
「ナターシャ、よく来てくれた。疲れただろう、部屋を用意しているから、休みなさい」
「はい、お義父様。お言葉に甘えさせて頂きます」
私が部屋に案内されて休んでいた時に、夫から速達便で世継ぎの男児が産まれたと報告が来た様で、義両親は余計に混乱したみたい。
翌日朝食の席で、私の大きなお腹を見て、一体誰の子が産まれたのかと聞いて来た。
手紙は急いでしたためた為、詳しい事情を義両親は知らなかったのだ。
私は今迄の事や、ハンナの事も全て打ち明けたら、酷くお怒りになってらしたわ。
「レックスは何を考えている、執事は何をやっているんだ?愛人との子を世継ぎにするなど、許される訳がないだろう」
「そうよ。だからと言って、ナターシャをこんな酷い目に合わせるなんて…」
お義母様は、途中から我慢出来なくなったのか、泣き出してしまった。
「すまなかった、ナターシャ。不肖の息子だとは思っていたが…ここまで腐っているとは、親として情けない」
「お義父様、お義母様私は今後、どうなるのでしょうか?出来る事ならば、レックス様とは、離縁しとうございます」
「そうだな。其方の気持ちを、一番に考慮したい所だが…お腹の子は間違いなく我が侯爵家の血筋。私生児にする訳にはいくまい。申し訳無いが、子が産まれて来る迄、此処で辛抱してはくれないだろうか」
「そうですわね。ナターシャは、母親になるのですもの。安心して出産に臨める場所が無いのは、問題ですわ。離縁は後になるとしても…そうね、貴方は私達の娘ですもの、出産後も此処に残ったら如何かしら。我が子と早々に離れる事になるのは、辛いでしょう」
「そうだな。私達の目が届く場所ならば安心だ。あの馬鹿息子は、子が産まれたら追放しよう」
「ですが…レックス様は、たった一人のお子ではございませんか。追放などされたら、世継ぎはどうなるのですか」
「心配はいらない、世継ぎは親戚から探す。ナターシャは、無事に子を産む事だけを、考えていなさい。もし、元気な子が産まれたなら、爵位は孫に譲ろう」
「そうよ、貴方は何も心配する事は、無いのよ。今迄本当にごめんなさいね、辛かったでしょう」
お義母様は、優しく私を抱きしめて下さった。
私は安心したのか、決壊が崩壊したように、泣きじゃくってしまったわ。
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