4 / 9
第4話 想像もしていなかった事
しおりを挟む
夫との散歩を終えたハンナが、何時もの様に嫌味を言う為だけに、離れに訪ねて来た。
「ごきげんよう、執務をする事しか出来ない惨めな奥様。ドレスも買って貰えず、宝石もプレゼントされていないのでしょう。ねぇ、今どんな気持ちなの?正直に聞かせて頂戴。私はとっても幸せなのに、あんたは全然幸せじゃないみたい」
「そうですね…」
「俯いちゃって、本当に陰気だわぁ。そんなんだから、誰からも愛されないのよ、惨めねぇ。実家からも見放されているの、知っているかしら?知る必要もないわね。あんた、両親からも、兄からも嫌われているんだもの」
「え?」
実家からの手紙を、読んでいると言っていたわね、両親が私を見放したと言うの?
何故、どうして、理由が何も思いつかないわ。
「あらら~青褪めちゃって~良い気味ね!たかが伯爵家に産まれたってだけで、何不自由なく生きて来て、侯爵家に嫁入り迄出来ちゃうんだもん。散々贅沢に生きて来たんでしょう?これからは惨めに生きて行かないと、釣り合わないわね」
高笑いしながらハンナは出て行った。
酷い理屈だわ、私が選んで貴族に産まれたとでも、思っているのかしら?
それにしても…香水の香りが部屋中に充満してしまった。
私は思わず顔を顰めて、鼻を押さえた。
「臭いわね、窓を開けて頂戴」
「かしこまりました」
「妊婦なのに、あんなに香水をつけて、気にならないのかしら?なんだか気持ち悪くなって来たわ」
「奥様…」
「何かしら?」
「大変申し上げ憎いのですが…」
「構わないわ、話して頂戴」
「はい…その、月の物が来ていないようですので、一度医者に診て貰っては如何でしょうか」
嫁いで来て五か月が過ぎてたけれど、やはり月の物が来ない事に違和感を覚えたのね…
「そう。私も気付いてはいたのだけれど…精神的な物だと思うわ」
「でしたら医者に診て貰うべきです。直ぐに手配いたします」
「待って、侯爵家の医者は信用出来ないわ。万が一私が身籠っていたら…何をされるか分からないもの」
「そうですね。恐れながら、私の知り合いで宜しければ、腕の良い医者がおります。口も堅いので、心配はないかと…」
「ありがとう、助かるわ。その方を呼んで頂戴」
直ぐに、使用人の知り合いである町医者に、診て貰う事が出来た。
「おめでとうございます。ご懐妊でございます」
「本当に?精神的な物では無かったの?」
「はい。安定期に入ってはおりますが、まだまだ安心は出来ません。決して無理はしない様に、気を付けてください」
「そうですか…私は、初夜の一回で子を授かったと言うのね?」
「珍しいケースではありますが…全く無いと言う事でもありません」
「そう…ね」
最近、お腹周りが太って来たと思っていたのだけれど…運動不足では無かったのね。
戸惑いと、喜びの感情が渦巻いている。
もし、この事を知られたら、私も子供もどうなるか分からない。
この事実は、絶対に伏せなければならないわ。
私は町医者に、口止めをした。
「私の懐妊は、他言無用です。この子を護りたいの」
「存じ上げております。どうか、ご安心ください。何かありましたら、直ぐに駆け付けます」
「ありがとう、宜しくお願いするわ」
「差し出がましい事ですが、御実家には連絡致しますか?」
「そうしたいのだけれど…」
「でしたら私が、手紙を直接差し出して来ましょう」
「良いのですか?」
「はい、帰り道ですから、お気遣いなく」
私は町医者の言葉に甘えて、両親と義両親にも簡単な報告だけを手紙にしたためた。
「お願いします」
「承りました」
それから私はハンナに悟られない様、細心の注意を払って、懐妊の事実を隠し通した。
「ごきげんよう、執務をする事しか出来ない惨めな奥様。ドレスも買って貰えず、宝石もプレゼントされていないのでしょう。ねぇ、今どんな気持ちなの?正直に聞かせて頂戴。私はとっても幸せなのに、あんたは全然幸せじゃないみたい」
「そうですね…」
「俯いちゃって、本当に陰気だわぁ。そんなんだから、誰からも愛されないのよ、惨めねぇ。実家からも見放されているの、知っているかしら?知る必要もないわね。あんた、両親からも、兄からも嫌われているんだもの」
「え?」
実家からの手紙を、読んでいると言っていたわね、両親が私を見放したと言うの?
何故、どうして、理由が何も思いつかないわ。
「あらら~青褪めちゃって~良い気味ね!たかが伯爵家に産まれたってだけで、何不自由なく生きて来て、侯爵家に嫁入り迄出来ちゃうんだもん。散々贅沢に生きて来たんでしょう?これからは惨めに生きて行かないと、釣り合わないわね」
高笑いしながらハンナは出て行った。
酷い理屈だわ、私が選んで貴族に産まれたとでも、思っているのかしら?
それにしても…香水の香りが部屋中に充満してしまった。
私は思わず顔を顰めて、鼻を押さえた。
「臭いわね、窓を開けて頂戴」
「かしこまりました」
「妊婦なのに、あんなに香水をつけて、気にならないのかしら?なんだか気持ち悪くなって来たわ」
「奥様…」
「何かしら?」
「大変申し上げ憎いのですが…」
「構わないわ、話して頂戴」
「はい…その、月の物が来ていないようですので、一度医者に診て貰っては如何でしょうか」
嫁いで来て五か月が過ぎてたけれど、やはり月の物が来ない事に違和感を覚えたのね…
「そう。私も気付いてはいたのだけれど…精神的な物だと思うわ」
「でしたら医者に診て貰うべきです。直ぐに手配いたします」
「待って、侯爵家の医者は信用出来ないわ。万が一私が身籠っていたら…何をされるか分からないもの」
「そうですね。恐れながら、私の知り合いで宜しければ、腕の良い医者がおります。口も堅いので、心配はないかと…」
「ありがとう、助かるわ。その方を呼んで頂戴」
直ぐに、使用人の知り合いである町医者に、診て貰う事が出来た。
「おめでとうございます。ご懐妊でございます」
「本当に?精神的な物では無かったの?」
「はい。安定期に入ってはおりますが、まだまだ安心は出来ません。決して無理はしない様に、気を付けてください」
「そうですか…私は、初夜の一回で子を授かったと言うのね?」
「珍しいケースではありますが…全く無いと言う事でもありません」
「そう…ね」
最近、お腹周りが太って来たと思っていたのだけれど…運動不足では無かったのね。
戸惑いと、喜びの感情が渦巻いている。
もし、この事を知られたら、私も子供もどうなるか分からない。
この事実は、絶対に伏せなければならないわ。
私は町医者に、口止めをした。
「私の懐妊は、他言無用です。この子を護りたいの」
「存じ上げております。どうか、ご安心ください。何かありましたら、直ぐに駆け付けます」
「ありがとう、宜しくお願いするわ」
「差し出がましい事ですが、御実家には連絡致しますか?」
「そうしたいのだけれど…」
「でしたら私が、手紙を直接差し出して来ましょう」
「良いのですか?」
「はい、帰り道ですから、お気遣いなく」
私は町医者の言葉に甘えて、両親と義両親にも簡単な報告だけを手紙にしたためた。
「お願いします」
「承りました」
それから私はハンナに悟られない様、細心の注意を払って、懐妊の事実を隠し通した。
215
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる