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第1話 幸せの絶頂から地獄の底へ
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「ナターシャ、俺には、愛する人がいる。お前は彼女と同じ髪と瞳の色をしていたから娶っただけだ。この後からは、離れで大人しく過ごすんだな」
「待って下さい、何かの冗談ですよね」
「冗談ではない、俺はハンナの為なら、何でも出来る。彼女の身分が低いと言うだけで、結婚を両親に反対されたのだ。お前は身分があるから、両親も賛成してくれた、只それだけだ。形だけでも、侯爵家の嫁になれたのだ、有難く思え」
そう言うと、夫はベッドから降りて、衣服を纏いだした。
「待ってください」
縋ろうとする私に、侮蔑の眼差しで、さらに追い打ちをかけて来る。
「それと…彼女は既に俺の子を身籠っている。お前との間に出来た子だと公表し、世継ぎにする。俺が良いと言う迄、外に出る事は禁じる。分かったな」
「子供…世継ぎって…」
夫から向けられる冷たい視線に、それ以上何も言えなくなってしまったわ。
私を見降ろしたまま夫は、メイドに寝室から連れ出す様言ってから、部屋を出て行ってしまった。
「どうして…」
「あらあら、旦那様も残酷な事をなさるわね。貴方も運が無かったのよ、諦めた方が良いわ」
直ぐにメイドが来て、私を嘲笑しながら身支度を整え、引き摺られる様に離れへと移された。
「ほら、新妻様がいらっしゃったわよ。きちんとお世話して下さいね、陰気者同士、仲良くなれるでしょう」
別邸のメイドは、私を乱暴に引き渡すと、笑いながら戻って行った。
「奥様、大丈夫ですか?お労しい、直ぐにベッドへお連れ致します」
「ありがとう…」
昨夜、新婚初夜を迎えたばかりの新妻に、こんな酷い仕打ちが待っているなんて、考えてもいなかった。
私は…どうなるのかしら?
彼との出会いは、とある貴族家で開かれたパーティだった。
私は伯爵家の娘で女性にしては背が高く、真っ白い肌は氷の様な冷たさを感じさせていた。
髪と瞳の色が真っ赤な事もあり、更にキツイ印象を持たれる事が多い。
結婚適齢期を迎えたけれど、パーティに出ても、言い寄って来る男性はいなかった。
彼は、そんな私が見上げる程背が高く均整の取れた体格に、金色に輝くサラサラした髪から覗く碧眼は美しく、見る者を魅了する王子様の様だった。
沢山の女性に囲まれていたのに、私を見つけると駆け寄ってきたのだ。
初対面で熱烈なプロポーズをされ、その後も砂糖菓子の様な甘い言葉をささやかれ、毎日の様に素敵なプレゼントを持って会いに来てくれた。
初めは警戒していたのだけれど、そんな彼の態度に絆されて、信じ切ってしまった私は愚かたっだのだろう。
昨夜までの、幸せなひと時はなんだったのだろうか?
彼の甘い囁きが、今でも耳に残っている。
思い返してみたら、沢山人の集まる場所に、二人で出掛けた事は無かった。
何時も侯爵邸か、伯爵邸で過ごす事が多く、結婚式も身内だけで済まされた。
気怠い身体を無理に起され離れ迄来たけれど、ここは未来の侯爵夫人となる私が住むには、あまりにも質素で粗末だった。
「奥様、お辛いでしょうけれど、寝室迄もう少しです」
「ええ、頑張るわ」
救いは、ここの使用人達が、私に同情的だった事。
何かと気を遣ってくれたので、直ぐにベッドへ横になり、頭の中を整理する事が出来た。
最初から、彼に愛されてはいなかったのね。
愛人との子を世継ぎにする為に、私は選ばれたに過ぎない。
この結婚が無効にならないよう、初夜の後で真実を継げられたのだと、これ以上は尽くす意味が無いと言われたのだ。
用済みになったのだと理解は出来たけれど、まだ現実を受け止める事は出来なかった。
「待って下さい、何かの冗談ですよね」
「冗談ではない、俺はハンナの為なら、何でも出来る。彼女の身分が低いと言うだけで、結婚を両親に反対されたのだ。お前は身分があるから、両親も賛成してくれた、只それだけだ。形だけでも、侯爵家の嫁になれたのだ、有難く思え」
そう言うと、夫はベッドから降りて、衣服を纏いだした。
「待ってください」
縋ろうとする私に、侮蔑の眼差しで、さらに追い打ちをかけて来る。
「それと…彼女は既に俺の子を身籠っている。お前との間に出来た子だと公表し、世継ぎにする。俺が良いと言う迄、外に出る事は禁じる。分かったな」
「子供…世継ぎって…」
夫から向けられる冷たい視線に、それ以上何も言えなくなってしまったわ。
私を見降ろしたまま夫は、メイドに寝室から連れ出す様言ってから、部屋を出て行ってしまった。
「どうして…」
「あらあら、旦那様も残酷な事をなさるわね。貴方も運が無かったのよ、諦めた方が良いわ」
直ぐにメイドが来て、私を嘲笑しながら身支度を整え、引き摺られる様に離れへと移された。
「ほら、新妻様がいらっしゃったわよ。きちんとお世話して下さいね、陰気者同士、仲良くなれるでしょう」
別邸のメイドは、私を乱暴に引き渡すと、笑いながら戻って行った。
「奥様、大丈夫ですか?お労しい、直ぐにベッドへお連れ致します」
「ありがとう…」
昨夜、新婚初夜を迎えたばかりの新妻に、こんな酷い仕打ちが待っているなんて、考えてもいなかった。
私は…どうなるのかしら?
彼との出会いは、とある貴族家で開かれたパーティだった。
私は伯爵家の娘で女性にしては背が高く、真っ白い肌は氷の様な冷たさを感じさせていた。
髪と瞳の色が真っ赤な事もあり、更にキツイ印象を持たれる事が多い。
結婚適齢期を迎えたけれど、パーティに出ても、言い寄って来る男性はいなかった。
彼は、そんな私が見上げる程背が高く均整の取れた体格に、金色に輝くサラサラした髪から覗く碧眼は美しく、見る者を魅了する王子様の様だった。
沢山の女性に囲まれていたのに、私を見つけると駆け寄ってきたのだ。
初対面で熱烈なプロポーズをされ、その後も砂糖菓子の様な甘い言葉をささやかれ、毎日の様に素敵なプレゼントを持って会いに来てくれた。
初めは警戒していたのだけれど、そんな彼の態度に絆されて、信じ切ってしまった私は愚かたっだのだろう。
昨夜までの、幸せなひと時はなんだったのだろうか?
彼の甘い囁きが、今でも耳に残っている。
思い返してみたら、沢山人の集まる場所に、二人で出掛けた事は無かった。
何時も侯爵邸か、伯爵邸で過ごす事が多く、結婚式も身内だけで済まされた。
気怠い身体を無理に起され離れ迄来たけれど、ここは未来の侯爵夫人となる私が住むには、あまりにも質素で粗末だった。
「奥様、お辛いでしょうけれど、寝室迄もう少しです」
「ええ、頑張るわ」
救いは、ここの使用人達が、私に同情的だった事。
何かと気を遣ってくれたので、直ぐにベッドへ横になり、頭の中を整理する事が出来た。
最初から、彼に愛されてはいなかったのね。
愛人との子を世継ぎにする為に、私は選ばれたに過ぎない。
この結婚が無効にならないよう、初夜の後で真実を継げられたのだと、これ以上は尽くす意味が無いと言われたのだ。
用済みになったのだと理解は出来たけれど、まだ現実を受け止める事は出来なかった。
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