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19 エピローグ
大好き、星夜くん
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床に頬を押しつけられた状態で、結月と視線がぶつかる。力が漲った。
組みつく男性を引き剝がす。すぐに、バックパックから4号サッカーボールを取り出した。結月と一緒に蹴り合ったボールだ。結月と、あと……そう思いかけた時――
結月の目に光が眩く含まれた。そうして、俺に向けて手を挙げる。口を開く。
聞こえない。
だけど、俺は確信する。
結月はターミナル中に響き渡る声で、こう言ったはずだ。
星夜くん、パス!
俺はありったけの気持ち込めて、結月に向けて声を張る。
「結月、フランスでもっと上手くなって帰ってこい!」
結月が言葉を返してくれたようだ。耳を指さしている。相手の声が聞き取れなくても、コミュニケーションは成立する。歓声に覆われたサッカー試合会場でのパスのように。
「また一緒にボールを蹴るぞ!」
俺たちはもう三角形でパスを回せない。俺と結月は三角にはなれない。あの日のように……あの日? というか三角形? どうしてそう思うんだろう。でも、でも、この丸いボールのように――。
「帰ってきたら、チームで円陣を組もう。今日、俺が解いた優勝の円陣を、結月も一緒に、皆で組もうな!」
言い終え、結月をじっと見つめた。
うずくまり、顔を覆いながら泣く結月が、覚悟を決めたように立ち上がった。ゆっくり頷く。何度も、何度も。
どうしてか、結月の背後に懐かしい顔を見た気がした。
――兄貴。
声変わりしきっていない無邪気な声。空耳なのにすっと馴染む。俺を後押しする。一緒にボールを蹴ってくれる、俺たちを繋いでくれる、あいつ。
結月を真ん中に、人波が割れた。
俺は迷いなく、結月に向けてボールを蹴った。
結月が目を輝かせながら、ボールを受けるために足を浮かせる。
「ナイスパース! 大好き、星夜くん」
一瞬、彼女の声が耳を通った直後、俺は音を失った。
-------------
お読みいただき、ありがとうございました (o^―^o)
組みつく男性を引き剝がす。すぐに、バックパックから4号サッカーボールを取り出した。結月と一緒に蹴り合ったボールだ。結月と、あと……そう思いかけた時――
結月の目に光が眩く含まれた。そうして、俺に向けて手を挙げる。口を開く。
聞こえない。
だけど、俺は確信する。
結月はターミナル中に響き渡る声で、こう言ったはずだ。
星夜くん、パス!
俺はありったけの気持ち込めて、結月に向けて声を張る。
「結月、フランスでもっと上手くなって帰ってこい!」
結月が言葉を返してくれたようだ。耳を指さしている。相手の声が聞き取れなくても、コミュニケーションは成立する。歓声に覆われたサッカー試合会場でのパスのように。
「また一緒にボールを蹴るぞ!」
俺たちはもう三角形でパスを回せない。俺と結月は三角にはなれない。あの日のように……あの日? というか三角形? どうしてそう思うんだろう。でも、でも、この丸いボールのように――。
「帰ってきたら、チームで円陣を組もう。今日、俺が解いた優勝の円陣を、結月も一緒に、皆で組もうな!」
言い終え、結月をじっと見つめた。
うずくまり、顔を覆いながら泣く結月が、覚悟を決めたように立ち上がった。ゆっくり頷く。何度も、何度も。
どうしてか、結月の背後に懐かしい顔を見た気がした。
――兄貴。
声変わりしきっていない無邪気な声。空耳なのにすっと馴染む。俺を後押しする。一緒にボールを蹴ってくれる、俺たちを繋いでくれる、あいつ。
結月を真ん中に、人波が割れた。
俺は迷いなく、結月に向けてボールを蹴った。
結月が目を輝かせながら、ボールを受けるために足を浮かせる。
「ナイスパース! 大好き、星夜くん」
一瞬、彼女の声が耳を通った直後、俺は音を失った。
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お読みいただき、ありがとうございました (o^―^o)
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