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結月からの応答は、一切なかった
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怒涛の日々が続いた。
俺と結月は両親を亡くした。
悲しむ暇もなく、葬儀、両親の勤め先対応、学校対応をこなす。頭・手・足をフルに使い、日々を乗り越えていく。
結月も同じなのだろう。
連絡を入れても、返信や折り返しはない。その実情に深入りする余裕もまた、いまの俺にはなかった。
とにかく、日々をこなしていく。それが精一杯だった。
あまりに忙しく、両親を亡くした現実感をなかなか抱けなかった。きっと、色々なことが落ち着いたら、悲しみがドッと押し寄せてくるのだろうか。
事故原因は、どうやら親の方にあったようなことをそれとなく聞いた。右折時の視認不足。直進車は何度もクラクションを鳴らしたが、親がそれにもかかわらず右に舵をきったとのこと。まるでクラクションによる警告が聞こえていなかったみたいに――。
不幸中の幸いではあるが、いまのところ、金銭面で困窮することはなさそうだ。ざっとだが、当座の俺と蓮の学費はなんとかなりそうだ。でも、これも改めて精査する必要があるだろう。追われる日々に対応することで手一杯だ。
そうは言っても――。
結月は?
気になる。どこかのタイミングできちんと話し合いたい。
日々の暮らしぶりから推察するに、おそらくは結月の家庭も大丈夫だとは思うが……。
もしキツければ、俺が何とかしてやりたい。大学を退学して、働きに出ても構わない。
蓮もよく耐えてくれている。
「兄貴、僕はあれやるよ。これやるよ」と、要所要所で俺をよくサポートしてくれていた。
それでも、ある日の夜半、蓮が父母の骨壺を前に泣いているところを、見かけてしまった。声をかけることができなかった。
穂乃から電話があった。
事故直後は穂乃も心理的ダメージを受けていたが、声を聞く限り、彼女はだいぶ持ち直している。
しかし――、
結月が塞ぎ込んでいた。
「どんな状況なんだ?」
『お姉、って呼びかけるだけで、身を縮こませるようにしちゃうんだよね。誰とも話したくないオーラがびんびん出てる』
俺が相槌をうつよりも早く、穂乃が言葉を重ねた。ごごっ、とノイズのような息遣いが電話越しに伝わる。
『蓮君は大丈夫? 蓮君に何度も電話してるんだけどいっこうに出てくれない。だから――』
つれないが、耳からスマホを離してしまった。それでも声が漏れ聞こえてくる。
穂乃が落ち着きだした頃合いで、今後必要となってくる事務作業について助言をしてから、電話を切った。
結月が心配だ。
事故の日以来、彼女とはまともな会話をしていない。
俺は結月に電話をかけた。スマホを耳にあて、立ったまま、テレビボード脇の置き時計の秒針を、目で追う。
コール音が続く。秒針がぐるりと一周した。結月は出ない。まるで電波が、果ての無い闇の中を彷徨い続けているみたいだった。結月に届かない。
耳からスマホを離す。
知らずのうちに呼吸を止めていた。貪るように息を吸いこんだ。
その後も、折に触れて結月に連絡を入れた。
しかし、彼女からの応答は、一切なかった。
俺と結月は両親を亡くした。
悲しむ暇もなく、葬儀、両親の勤め先対応、学校対応をこなす。頭・手・足をフルに使い、日々を乗り越えていく。
結月も同じなのだろう。
連絡を入れても、返信や折り返しはない。その実情に深入りする余裕もまた、いまの俺にはなかった。
とにかく、日々をこなしていく。それが精一杯だった。
あまりに忙しく、両親を亡くした現実感をなかなか抱けなかった。きっと、色々なことが落ち着いたら、悲しみがドッと押し寄せてくるのだろうか。
事故原因は、どうやら親の方にあったようなことをそれとなく聞いた。右折時の視認不足。直進車は何度もクラクションを鳴らしたが、親がそれにもかかわらず右に舵をきったとのこと。まるでクラクションによる警告が聞こえていなかったみたいに――。
不幸中の幸いではあるが、いまのところ、金銭面で困窮することはなさそうだ。ざっとだが、当座の俺と蓮の学費はなんとかなりそうだ。でも、これも改めて精査する必要があるだろう。追われる日々に対応することで手一杯だ。
そうは言っても――。
結月は?
気になる。どこかのタイミングできちんと話し合いたい。
日々の暮らしぶりから推察するに、おそらくは結月の家庭も大丈夫だとは思うが……。
もしキツければ、俺が何とかしてやりたい。大学を退学して、働きに出ても構わない。
蓮もよく耐えてくれている。
「兄貴、僕はあれやるよ。これやるよ」と、要所要所で俺をよくサポートしてくれていた。
それでも、ある日の夜半、蓮が父母の骨壺を前に泣いているところを、見かけてしまった。声をかけることができなかった。
穂乃から電話があった。
事故直後は穂乃も心理的ダメージを受けていたが、声を聞く限り、彼女はだいぶ持ち直している。
しかし――、
結月が塞ぎ込んでいた。
「どんな状況なんだ?」
『お姉、って呼びかけるだけで、身を縮こませるようにしちゃうんだよね。誰とも話したくないオーラがびんびん出てる』
俺が相槌をうつよりも早く、穂乃が言葉を重ねた。ごごっ、とノイズのような息遣いが電話越しに伝わる。
『蓮君は大丈夫? 蓮君に何度も電話してるんだけどいっこうに出てくれない。だから――』
つれないが、耳からスマホを離してしまった。それでも声が漏れ聞こえてくる。
穂乃が落ち着きだした頃合いで、今後必要となってくる事務作業について助言をしてから、電話を切った。
結月が心配だ。
事故の日以来、彼女とはまともな会話をしていない。
俺は結月に電話をかけた。スマホを耳にあて、立ったまま、テレビボード脇の置き時計の秒針を、目で追う。
コール音が続く。秒針がぐるりと一周した。結月は出ない。まるで電波が、果ての無い闇の中を彷徨い続けているみたいだった。結月に届かない。
耳からスマホを離す。
知らずのうちに呼吸を止めていた。貪るように息を吸いこんだ。
その後も、折に触れて結月に連絡を入れた。
しかし、彼女からの応答は、一切なかった。
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