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貴族編
第51話 それぞれのお付きメイド達③ シホリン編 アーネ編 ???
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「ああっ、食べた―。続きよもぉー、アーネ本返してー」
「はい、リルお嬢様。こちらです」
「ありがとう」
ふんふんふーん、アーネの主人たる奴隷の少女リルはベッドに飛びこんで寝転がり、本を受け取ると鼻歌まじりに読み始める。
貴族の子女であるならば、そんなはしたない真似をしたら叱りつけるところだが、アーネは従者であって教育係ではない。
そのため注意もせずクルクルと、リルの黒い毛のない尻尾が嬉しそうに空中で踊るのを見つめる。
さて、とアーネはリルのなかなかコミカルな動きをする尻尾から目を離し、部屋を見渡す。
机の上に置ききれず、部屋の床に雑多に積みあがられた本。
魔導書から英雄譚のような物語まで置かれ方と同じで雑多に集まられている。
というのも、リルがアーネに片っ端から持ってこいと言われているからだ。
そして読んだ後も返すことを拒むため、床に積みあがられているというわけだ。
ほかに荷物という荷物はなく、クローゼットにダンジョン用のローブや装備などがあるくらいだ。
家具も机と椅子、それにクローゼットだけ。
まぁ数か月前まで性奴隷の一人だったのだ。
荷物がないのも無理からないものだろうと、幼子のように小さなリルの背中を見ながらアーネはそんなことを思う。
相変わらずフリフリと尻尾を振って、本に集中しているリル。
アーネはそんな愛らしいわが主人を横目でみつつ、右のポケットに手を伸ばした。
握りしめて感じる金属の感触。
玉状のとある魔法具の存在を感じつつそれをそっと取り出し、そして――――
「ねぇ、それ何?」
「―――っ!」
アーネは本能的に隠すようにストンっと今取り出したそれを落とすように右のポケットにしまう。
「な、にがでしょうか」
リルは本に目を向けたままでこちらはみていない。
「うーん、なんかアーネから魔法の匂いがする」
ぱらりと、ページが捲られる音が部屋に響く。
スゥっと静かに息を吸い込み、アーネは冷静さを取り戻した。
「ああっここに来る前厨房で、火の魔法を身近で見ていたのでもしかしたら残り香がしたのかもしれません。すみません。私はリルお嬢様のように魔法の才がありませんので気づかずに、」
「そうじゃない」とアーネの言葉を遮るようにリルが言う。
「と、言いますと」
「もっと強い。魔法具の匂いがする」
「――――っ」
驚くアーネ。けれどリルは本を見たまま動かない。
ぱらりと、ページが捲られる音が再び部屋に響いた。
「ふぅー実は旦那様にはコッソリ調べるように言われていたのですが、リルお嬢様には隠し事は出来ませんね」とアーネは左のポケットから魔法具を取り出す。
紐で結ばれた棒が2本ついた魔法具をリルの前に出す。
「何それ?」
「魔法具を探知する魔法具でございます」
「ふーん、どうなるの?」
「このようにかざしまして魔法具が近くにあると共鳴して。そう例えばリルお嬢様の杖とか」
アーネはリルの杖のほうに魔法具をかざすと、棒が震え出し、棒同士があたりリィンリィンリィンとぶつかってトライアングルのようにきれいな音色を奏でだす。
「へっー」
「はい。改修したとはいえロガリエス盗賊団に占拠されていた城ですので、リルお嬢様のお部屋に何か危ないものがないか調べるように言われております」
「そう」とリルは興味がなくなったのか、視線を本に戻した。
「だったら、調べなくてもいいよ。私魔法探知できるから魔力反応があれば大体分かるし。この部屋には何もないよ」
「・・・・・・さようでございましたか」
アーネは礼をして、「失礼致しました。では辞めておきます。私は一度外しますので何かあれば呼んでくださいませ」と背を向けた。
「はいはぁーい」
そう足をベッドの上でばたつかせるリルを見ながら、そっとアーネは席をはずした。
パタンと扉を閉めて、アーネはコツコツと廊下を歩きだす。
紐のついた二本の棒のついた魔法具を右のポケットに押し込むとカチンと音がなった。
棒状の魔法具と玉状の魔法具がぶつかり金属音を奏でたのだ。
だが、アーネは気にせず自室へと戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁーまじ朝から最悪」
そう嘯きながら、唇を尖らせ、ステップにも似た軽やかさで絨毯の廊下を音もなく歩く。
揺れるスカートの裾。
動きやすい服装なのは結構だけど、やっぱりエロすぎるよね~。
そんなことを思いながら、シホリンは目的地についた。
コンコンコンと帝国式の3回ノック。
「シルフィーお嬢様、お呼びでしょうか。シホリンでございます」
「・・・・・・入って」
そう静かに部屋から聞こえてきてシホリンは扉を開いた。
両の三つ指をスカートの前で揃えてお辞儀する王国式の礼をとり「お待たせ致しました。シルフィーお嬢様。いかがいたしまましたでしょうか?」と静かに言う。
「・・・・・・どうしたのぉー」
と後頭部に、疑問が投げかけられる。
そっちこそ、呼び出しておいてどうしたはないでしょ!と思うがそこは一流のメイドを自負するシホリンはそうは返さない。
「何かおかしなことがありましたでしょうか?」と顔を少し上げて主人であるシルフィーの顔色をうかがうと・・・・・・ベッドにいない。
顔を上げ、部屋をキョロキョロと見渡すと、シーツや布団がぐちゃぐちゃになったベッドに、あけ放たれクローゼットに、一陣の風が部屋に吹きすさむ。
早朝の澄んだ冷たい風に、揺れるカーテン。
バルコニーにもシルフィーの姿はいない??一体に何処から――――と思った時だった。
部屋のバルコニーその縁に足がかかってるのが見えた。
瞬間、シホリンは駆けだす。
カモシカのごとく、1歩2歩と跳躍して、バルコニーについて、下を見れば、
「・・・・・・おはよう」
嘘でしょ?!
「な、なにしてるのよ!バカなの?!!」
あろうことか、シルフィーは縁に足をかけ、ぶら下がる状態で弓を番えていた。
ぶぉおおお、と下から風が巻き起こり、シホリンの鮮やかな桃色の髪をかきあげる。
それもそのはずここは、3階である。
下は庭園の緑があるとはいえ、落ちたらタダではすまない高さだ。
「・・・・・・トレーニング?」
「はぁ?!まじ意味不。なんで疑問形なのよ!っていうか、早く上がってよ!何からあったら私の責任になるでしょ」
「・・・・・・まだ始めたばかり」
「そういう問題じゃない!早くする!!」
シホリンが怒鳴りつけると、「・・・・・・分かった」とシルフィーはいつもの無表情さそのままに腹筋をするように上体を戻すとバルコニーの縁に座るような体制になる。
それのシルフィーの腕をつかんでシホリンはホッと肩をなでおろした。
まったく朝から何してくれてるのよ。
「はい、そこから降りて」
「・・・・・・風が気持ちいいよ」
「いいから、早く!」
「・・・・・・」
シルフィーは、スタッとバルコニーから素直に降りると「部屋に入って、早く!」と急かされ部屋へと入った。
すぐさま、シホリンはバルコニーの窓を閉め、カギをかける。
ふっー、これで一安心だ。
そして、キッと目を細めてシルフィーを見る。
まじで何してくれてるんの?という思いをぐっとこらえる。
「う、うん!」と咳払いして「シルフィーお嬢様、あのような行為は淑女がされるものでありません。今後はなさらないようにしてください」と王国式の礼をしつつ、シルフィーを諭す。
「・・・・・・絶対?」
「絶対に!でございます」とシホリンは目尻を震わせながらも、満面の笑みで答える。
「・・・・・・ふーん」と何を考えているの分からない無表情、けれどシホリンは翠の瞳から目を逸らさずに「・・・・・・」見つめ返した。
例えわがままを言われても、認めるつもりはないと断固の意思をシホリンは視線に込めた。
すると。別報告からの攻めがきた。
「・・・・・・その話し方嫌い」
「あっはい? 話し方でございますか」
完全に虚を衝かれ、思わず詰まってしまう。
話し方・・・・・・何か間違っていただろうか。
確かに普段、こんな言葉遣いはしないが、でも訓練を受けた身としては、そう間違っていないはずだが・・・・・・と考えをめぐらす。
「申し訳ございません。長らく王国にいたもので帝国なまりのアクセントに違和感があるのかもしれません。今度、少しづつ学んでいきたいと思います。シルフィーお嬢様にはご不便おかけしますが、平に容赦頂けますと幸いです」
とりあえず頭を下げておこう。
さすがに言葉のアクセントが違うくらいでクビにはならないだろうし。
「・・・・・・違う」
「何が違うのでしょうか?」
どうやら違うらしい。
・・・・・・ていうか、だったら何が気に食わないのか、言え!つーの、直しようがないでしょ!!
もうこいついっつも言葉が短いのよねぇ。
と言いたいところだが、シホリンは頭を下げて主人の言葉を待つ。
「・・・・・・いつものしゃべり方じゃない」
「私はいつもこのようにしゃべらせ頂いておりますが」
「・・・・・・会った時はそうじゃなかった」
会った時・・・・・・とシホリンは記憶を辿る・・・・・・あの時のことを言っているのだろうか。
シルフィーやほかのお嬢様方と面談が終わった際、シホリンは少しでも情報収集をしようとほかのメイド候補や使用人候補などに話しかけていたのだ。
「どもっ、今日どんな感じ―?誰のところいった?」
「ああっ、私はダメ元でローザ様とあとシオンていうところの子そっちは?」
「ああ、うちはシルフィーちゃんとレナールちゃんかな。そんな厳しくなさげだったし」
「レナールってあの狐人族の子っていうか、工房の人でしょ。なんでいつのまに愛人になってるんだろうって感じだよね」
「あ、なんか知ってる感じ?」
「知ってるも何も私の家、あの子に鍋底とか蓋とか直してもらったことあるもん」
「まじぃー、知り合いじゃん。いけばよかったのにー」
「いやぁなんか逆に行くずらくて・・・・・・」
そんな会話をしているとシルフィーが静かにこちらを見ていたのに気づいた。
あっやべ思ったが、その時は、何も言われずただ通り過ぎただけだったが、ああこれは落ちたかなと思ったがなぜか私は従者に受かっていたので驚いたほどだ。
その時のことを言っているのなら、
「あの時は友人と会話をしておりましたので言葉遣いが少々フランクになっていたのかもしれません。今度はオフの時も気を使いたいと思います」
そう丁寧にシホリンは返すがシルフィーが静かに首を振るう。
「・・・・・・フランクでいい」
「ご冗談を。シルフィーお嬢様・・・・・・さぁそろそろお着換えをしませんと、朝食に間に合わなくなってしまいますわ。初日から遅刻なんて旦那様にお𠮟りされてしまいます」とシホリンは、話題を切り替え、クローゼットに向かう。
服は少ない、ダンジョン用の装備に、これは私たちと同じいやらしいメイド服プレイ用だろう。
ワンピースやドレスが少々あり、普段着のワンピースぽい服を手に取り振り返ると、
「ちょ、はぁ、マジ!? 窓から離れなさいよ!!」
いつの間にか再び、バルコニーの窓をシルフィーが開けようとしている。それにシホリンが服を投げ出し、慌てて追いかける!
「あんた、なにしようとしているわけ!」
「・・・・・・トレーニング」
「だからそれはやめろつぅーの!」
こいつの頭は鳥かなんなの!!
シルフィーのほうが背が高い上から睨みつけるように翠の瞳がこちらを見るが、シホリンも負けじと睨み返す。
「・・・・・・しゃべり方」
「はい?」
「・・・・・・それがいい」
・・・・・・こいつ、とシホリンは思うが、無表情に淡々と、灰緑の髪の間から覗く翡翠の瞳を見てシホリンは折れることにした。
「ちっ、・・・・・・ああっはいはい。分かった、分かったよ。とりあえず窓から手を離して」
「・・・・・・うん」
「言っとくけど、二人きりの時だけだかんね? 流石に公の場でこんなんしゃべってたらマヂ、ヤバイからわぁーた?」
「・・・・・・うん」
ホントかよ。とシホリンは思うが、とりあえずあの無謀なトレーニングをやめさせるのが先決だ。
はぁーとため息をつきつつ、投げ捨てた服を拾い上げる。
「とりま。これ着て。そのあと髪を梳くから、暴れないでよ」
「・・・・・・うん」
と偉く素直になるシルフィーに違和感を覚えつつも、シホリンは従事を続けるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ある者は職を得るため、またある者は出世するため、
それぞれのお付きメイド、従者になれたものはその初日、それぞれの秀作のお嬢様に振り回され、疲労困憊ゆえに、また翌日の従事に備えるために早めの就寝を取っていた。
だが、
シュッサク城の屋根に、星が振ってきそうなほどの星空の柔らかい光が二人の人物を浮かび上がせていた。
容姿性別は分からない。
二人とも黒い外套を纏い白い能面のようなのっぺりとした仮面をしているためだ。
仮面にはそれぞれ墨のように黒いマークがついている。
横に三本線を引いたマークの仮面をした一人がしゃべりだした。
「無事、潜入で来たようね。まさか従者に合格すると思わなかったわ。まぁおかげで替わってもらう必要はなくなったけど」と笑う。
「・・・・・・ご用件を。ここのメイドの中には中々の手練れもおりますので」
安易な接触は危険だ。という意思を籠めて、渦巻き型のマークが書かれた仮面が答える。
二人とも夜空に声が通る。
高く、綺麗な女性のような声色だ。
「そうですね。今は何もしてないのに揉め事は困りますから」
「その通りです」
「ふっふふ様子を見に来たのですが、心配しすぎのようでしたね。では我らに依頼はありません。引き続き監視と情報を収集を、特に軍備に関しては綿密に」
「はっ!」と渦のマークの仮面が片膝をついて片手を地面に付ける彼らの最敬礼をもって答える。
「では、渦。私たちの存在を気取られないようにお気を付けなさい。すべては、」
「「我らが御屋形様ひいては、」」
「「『風』のために」」
その声が一陣の風に乗っていく。
すると静寂さが再び戻る。
風がやむ頃には城の屋上に二人の姿はもうなかった。
「はい、リルお嬢様。こちらです」
「ありがとう」
ふんふんふーん、アーネの主人たる奴隷の少女リルはベッドに飛びこんで寝転がり、本を受け取ると鼻歌まじりに読み始める。
貴族の子女であるならば、そんなはしたない真似をしたら叱りつけるところだが、アーネは従者であって教育係ではない。
そのため注意もせずクルクルと、リルの黒い毛のない尻尾が嬉しそうに空中で踊るのを見つめる。
さて、とアーネはリルのなかなかコミカルな動きをする尻尾から目を離し、部屋を見渡す。
机の上に置ききれず、部屋の床に雑多に積みあがられた本。
魔導書から英雄譚のような物語まで置かれ方と同じで雑多に集まられている。
というのも、リルがアーネに片っ端から持ってこいと言われているからだ。
そして読んだ後も返すことを拒むため、床に積みあがられているというわけだ。
ほかに荷物という荷物はなく、クローゼットにダンジョン用のローブや装備などがあるくらいだ。
家具も机と椅子、それにクローゼットだけ。
まぁ数か月前まで性奴隷の一人だったのだ。
荷物がないのも無理からないものだろうと、幼子のように小さなリルの背中を見ながらアーネはそんなことを思う。
相変わらずフリフリと尻尾を振って、本に集中しているリル。
アーネはそんな愛らしいわが主人を横目でみつつ、右のポケットに手を伸ばした。
握りしめて感じる金属の感触。
玉状のとある魔法具の存在を感じつつそれをそっと取り出し、そして――――
「ねぇ、それ何?」
「―――っ!」
アーネは本能的に隠すようにストンっと今取り出したそれを落とすように右のポケットにしまう。
「な、にがでしょうか」
リルは本に目を向けたままでこちらはみていない。
「うーん、なんかアーネから魔法の匂いがする」
ぱらりと、ページが捲られる音が部屋に響く。
スゥっと静かに息を吸い込み、アーネは冷静さを取り戻した。
「ああっここに来る前厨房で、火の魔法を身近で見ていたのでもしかしたら残り香がしたのかもしれません。すみません。私はリルお嬢様のように魔法の才がありませんので気づかずに、」
「そうじゃない」とアーネの言葉を遮るようにリルが言う。
「と、言いますと」
「もっと強い。魔法具の匂いがする」
「――――っ」
驚くアーネ。けれどリルは本を見たまま動かない。
ぱらりと、ページが捲られる音が再び部屋に響いた。
「ふぅー実は旦那様にはコッソリ調べるように言われていたのですが、リルお嬢様には隠し事は出来ませんね」とアーネは左のポケットから魔法具を取り出す。
紐で結ばれた棒が2本ついた魔法具をリルの前に出す。
「何それ?」
「魔法具を探知する魔法具でございます」
「ふーん、どうなるの?」
「このようにかざしまして魔法具が近くにあると共鳴して。そう例えばリルお嬢様の杖とか」
アーネはリルの杖のほうに魔法具をかざすと、棒が震え出し、棒同士があたりリィンリィンリィンとぶつかってトライアングルのようにきれいな音色を奏でだす。
「へっー」
「はい。改修したとはいえロガリエス盗賊団に占拠されていた城ですので、リルお嬢様のお部屋に何か危ないものがないか調べるように言われております」
「そう」とリルは興味がなくなったのか、視線を本に戻した。
「だったら、調べなくてもいいよ。私魔法探知できるから魔力反応があれば大体分かるし。この部屋には何もないよ」
「・・・・・・さようでございましたか」
アーネは礼をして、「失礼致しました。では辞めておきます。私は一度外しますので何かあれば呼んでくださいませ」と背を向けた。
「はいはぁーい」
そう足をベッドの上でばたつかせるリルを見ながら、そっとアーネは席をはずした。
パタンと扉を閉めて、アーネはコツコツと廊下を歩きだす。
紐のついた二本の棒のついた魔法具を右のポケットに押し込むとカチンと音がなった。
棒状の魔法具と玉状の魔法具がぶつかり金属音を奏でたのだ。
だが、アーネは気にせず自室へと戻っていった。
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「はぁーまじ朝から最悪」
そう嘯きながら、唇を尖らせ、ステップにも似た軽やかさで絨毯の廊下を音もなく歩く。
揺れるスカートの裾。
動きやすい服装なのは結構だけど、やっぱりエロすぎるよね~。
そんなことを思いながら、シホリンは目的地についた。
コンコンコンと帝国式の3回ノック。
「シルフィーお嬢様、お呼びでしょうか。シホリンでございます」
「・・・・・・入って」
そう静かに部屋から聞こえてきてシホリンは扉を開いた。
両の三つ指をスカートの前で揃えてお辞儀する王国式の礼をとり「お待たせ致しました。シルフィーお嬢様。いかがいたしまましたでしょうか?」と静かに言う。
「・・・・・・どうしたのぉー」
と後頭部に、疑問が投げかけられる。
そっちこそ、呼び出しておいてどうしたはないでしょ!と思うがそこは一流のメイドを自負するシホリンはそうは返さない。
「何かおかしなことがありましたでしょうか?」と顔を少し上げて主人であるシルフィーの顔色をうかがうと・・・・・・ベッドにいない。
顔を上げ、部屋をキョロキョロと見渡すと、シーツや布団がぐちゃぐちゃになったベッドに、あけ放たれクローゼットに、一陣の風が部屋に吹きすさむ。
早朝の澄んだ冷たい風に、揺れるカーテン。
バルコニーにもシルフィーの姿はいない??一体に何処から――――と思った時だった。
部屋のバルコニーその縁に足がかかってるのが見えた。
瞬間、シホリンは駆けだす。
カモシカのごとく、1歩2歩と跳躍して、バルコニーについて、下を見れば、
「・・・・・・おはよう」
嘘でしょ?!
「な、なにしてるのよ!バカなの?!!」
あろうことか、シルフィーは縁に足をかけ、ぶら下がる状態で弓を番えていた。
ぶぉおおお、と下から風が巻き起こり、シホリンの鮮やかな桃色の髪をかきあげる。
それもそのはずここは、3階である。
下は庭園の緑があるとはいえ、落ちたらタダではすまない高さだ。
「・・・・・・トレーニング?」
「はぁ?!まじ意味不。なんで疑問形なのよ!っていうか、早く上がってよ!何からあったら私の責任になるでしょ」
「・・・・・・まだ始めたばかり」
「そういう問題じゃない!早くする!!」
シホリンが怒鳴りつけると、「・・・・・・分かった」とシルフィーはいつもの無表情さそのままに腹筋をするように上体を戻すとバルコニーの縁に座るような体制になる。
それのシルフィーの腕をつかんでシホリンはホッと肩をなでおろした。
まったく朝から何してくれてるのよ。
「はい、そこから降りて」
「・・・・・・風が気持ちいいよ」
「いいから、早く!」
「・・・・・・」
シルフィーは、スタッとバルコニーから素直に降りると「部屋に入って、早く!」と急かされ部屋へと入った。
すぐさま、シホリンはバルコニーの窓を閉め、カギをかける。
ふっー、これで一安心だ。
そして、キッと目を細めてシルフィーを見る。
まじで何してくれてるんの?という思いをぐっとこらえる。
「う、うん!」と咳払いして「シルフィーお嬢様、あのような行為は淑女がされるものでありません。今後はなさらないようにしてください」と王国式の礼をしつつ、シルフィーを諭す。
「・・・・・・絶対?」
「絶対に!でございます」とシホリンは目尻を震わせながらも、満面の笑みで答える。
「・・・・・・ふーん」と何を考えているの分からない無表情、けれどシホリンは翠の瞳から目を逸らさずに「・・・・・・」見つめ返した。
例えわがままを言われても、認めるつもりはないと断固の意思をシホリンは視線に込めた。
すると。別報告からの攻めがきた。
「・・・・・・その話し方嫌い」
「あっはい? 話し方でございますか」
完全に虚を衝かれ、思わず詰まってしまう。
話し方・・・・・・何か間違っていただろうか。
確かに普段、こんな言葉遣いはしないが、でも訓練を受けた身としては、そう間違っていないはずだが・・・・・・と考えをめぐらす。
「申し訳ございません。長らく王国にいたもので帝国なまりのアクセントに違和感があるのかもしれません。今度、少しづつ学んでいきたいと思います。シルフィーお嬢様にはご不便おかけしますが、平に容赦頂けますと幸いです」
とりあえず頭を下げておこう。
さすがに言葉のアクセントが違うくらいでクビにはならないだろうし。
「・・・・・・違う」
「何が違うのでしょうか?」
どうやら違うらしい。
・・・・・・ていうか、だったら何が気に食わないのか、言え!つーの、直しようがないでしょ!!
もうこいついっつも言葉が短いのよねぇ。
と言いたいところだが、シホリンは頭を下げて主人の言葉を待つ。
「・・・・・・いつものしゃべり方じゃない」
「私はいつもこのようにしゃべらせ頂いておりますが」
「・・・・・・会った時はそうじゃなかった」
会った時・・・・・・とシホリンは記憶を辿る・・・・・・あの時のことを言っているのだろうか。
シルフィーやほかのお嬢様方と面談が終わった際、シホリンは少しでも情報収集をしようとほかのメイド候補や使用人候補などに話しかけていたのだ。
「どもっ、今日どんな感じ―?誰のところいった?」
「ああっ、私はダメ元でローザ様とあとシオンていうところの子そっちは?」
「ああ、うちはシルフィーちゃんとレナールちゃんかな。そんな厳しくなさげだったし」
「レナールってあの狐人族の子っていうか、工房の人でしょ。なんでいつのまに愛人になってるんだろうって感じだよね」
「あ、なんか知ってる感じ?」
「知ってるも何も私の家、あの子に鍋底とか蓋とか直してもらったことあるもん」
「まじぃー、知り合いじゃん。いけばよかったのにー」
「いやぁなんか逆に行くずらくて・・・・・・」
そんな会話をしているとシルフィーが静かにこちらを見ていたのに気づいた。
あっやべ思ったが、その時は、何も言われずただ通り過ぎただけだったが、ああこれは落ちたかなと思ったがなぜか私は従者に受かっていたので驚いたほどだ。
その時のことを言っているのなら、
「あの時は友人と会話をしておりましたので言葉遣いが少々フランクになっていたのかもしれません。今度はオフの時も気を使いたいと思います」
そう丁寧にシホリンは返すがシルフィーが静かに首を振るう。
「・・・・・・フランクでいい」
「ご冗談を。シルフィーお嬢様・・・・・・さぁそろそろお着換えをしませんと、朝食に間に合わなくなってしまいますわ。初日から遅刻なんて旦那様にお𠮟りされてしまいます」とシホリンは、話題を切り替え、クローゼットに向かう。
服は少ない、ダンジョン用の装備に、これは私たちと同じいやらしいメイド服プレイ用だろう。
ワンピースやドレスが少々あり、普段着のワンピースぽい服を手に取り振り返ると、
「ちょ、はぁ、マジ!? 窓から離れなさいよ!!」
いつの間にか再び、バルコニーの窓をシルフィーが開けようとしている。それにシホリンが服を投げ出し、慌てて追いかける!
「あんた、なにしようとしているわけ!」
「・・・・・・トレーニング」
「だからそれはやめろつぅーの!」
こいつの頭は鳥かなんなの!!
シルフィーのほうが背が高い上から睨みつけるように翠の瞳がこちらを見るが、シホリンも負けじと睨み返す。
「・・・・・・しゃべり方」
「はい?」
「・・・・・・それがいい」
・・・・・・こいつ、とシホリンは思うが、無表情に淡々と、灰緑の髪の間から覗く翡翠の瞳を見てシホリンは折れることにした。
「ちっ、・・・・・・ああっはいはい。分かった、分かったよ。とりあえず窓から手を離して」
「・・・・・・うん」
「言っとくけど、二人きりの時だけだかんね? 流石に公の場でこんなんしゃべってたらマヂ、ヤバイからわぁーた?」
「・・・・・・うん」
ホントかよ。とシホリンは思うが、とりあえずあの無謀なトレーニングをやめさせるのが先決だ。
はぁーとため息をつきつつ、投げ捨てた服を拾い上げる。
「とりま。これ着て。そのあと髪を梳くから、暴れないでよ」
「・・・・・・うん」
と偉く素直になるシルフィーに違和感を覚えつつも、シホリンは従事を続けるのだった。
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ある者は職を得るため、またある者は出世するため、
それぞれのお付きメイド、従者になれたものはその初日、それぞれの秀作のお嬢様に振り回され、疲労困憊ゆえに、また翌日の従事に備えるために早めの就寝を取っていた。
だが、
シュッサク城の屋根に、星が振ってきそうなほどの星空の柔らかい光が二人の人物を浮かび上がせていた。
容姿性別は分からない。
二人とも黒い外套を纏い白い能面のようなのっぺりとした仮面をしているためだ。
仮面にはそれぞれ墨のように黒いマークがついている。
横に三本線を引いたマークの仮面をした一人がしゃべりだした。
「無事、潜入で来たようね。まさか従者に合格すると思わなかったわ。まぁおかげで替わってもらう必要はなくなったけど」と笑う。
「・・・・・・ご用件を。ここのメイドの中には中々の手練れもおりますので」
安易な接触は危険だ。という意思を籠めて、渦巻き型のマークが書かれた仮面が答える。
二人とも夜空に声が通る。
高く、綺麗な女性のような声色だ。
「そうですね。今は何もしてないのに揉め事は困りますから」
「その通りです」
「ふっふふ様子を見に来たのですが、心配しすぎのようでしたね。では我らに依頼はありません。引き続き監視と情報を収集を、特に軍備に関しては綿密に」
「はっ!」と渦のマークの仮面が片膝をついて片手を地面に付ける彼らの最敬礼をもって答える。
「では、渦。私たちの存在を気取られないようにお気を付けなさい。すべては、」
「「我らが御屋形様ひいては、」」
「「『風』のために」」
その声が一陣の風に乗っていく。
すると静寂さが再び戻る。
風がやむ頃には城の屋上に二人の姿はもうなかった。
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それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
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『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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