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貴族編
第44話 絶対領域の盾
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帝国が己の領土だと主張するために建てたというだけあって、その内部は、立派な建物のようだ。
地下2階、居住区は4回建てに、物見やぐらの代わりなのか、
石の塔が2本立ち並んでいる。
三角頭の塔があると確かに城ぽいといえる。
内部も、手が細やかに入っており、廊下に敷き詰められた絨毯。
飾られた高そうな壺などの調度品や装飾品の数々は、金持ちの家!と言わんばかりの豪華さだ。
だが、それも今や本とんどが、調度品や装飾品は奪われ、絨毯ははがされ、板の間に、帝国の旗が無数の足跡をつけられて落ちているばかりだ。
さらに壁や床も今は無数の傷や焼け跡、中には完全に穴が開いてしまっているものもある。
ロガリエス盗賊団が荒らしたというのもあるが、少しは、僕たちのせいでもある。
「へっへへ、いい女ばかりじゃねぇか。女は殺すな。そこの豚だけ殺せ!!」
「へいへい、お嬢さんがた、そんな物騒なもんは置いて。楽しもうぜぇ」
といかにもなモブが廊下を占領している。
薄汚れた服に、黄ばんだ歯、しかし手に持つ獲物だけはその鋭さを表すように鋭利に光っている。
しかも、盗賊団は事前情報のように亜人種だらけのようだ。
品のない笑いや、怒声に混じって獣の唸り声、カエルの鳴き声、二足歩行というだけのモンスターと言われても納得できるものたち。
そのおかげか、僕は盗賊団といえど人を殺しているという罪悪感が少し薄れている。
「ファイアーボール!」
「こいつ室内で、魔法を」
「に、にげーーーー」
リルの魔法が、炸裂すると、逃げ道はない廊下に火の玉が走り、飲み込んでいく。
そして、爆裂。
窓や壁を吹っ飛ばして、もうもう黒煙を上げる。
ぷすっぷすっ……と黒焦げの十を超える死体があたりに転がっている。
ダンジョンと違い、死体は消えない。
生焼けの肉の匂い…………その生々しさに、胃から酸っぱいものがせり上げってくるのをなんとか僕は飲み込んだ。
「すごい、威力ね」とシオンがその光景を見ても、きれいな顔のまま、顔色変えずに平然と言う。
紅玉の瞳と相まって、こちらが悪者みたいだ。
「エンチャンター、これが付帯魔法のなの?」
「ええっ、そうよ。わたしのエンチャントの効果で威力をあげたの、まぁ強すぎたみたいだけど」とローザが答える。
いくらリルと言えどファイアーボール1発でここまでの爆発を起こせない。
そうローザの能力は、エンチャントと呼ばれる。
使用者の能力を向上させる力があるみたいだ。
それだけ聞くと自分では戦えない大した能力じゃないと思うが、
このリルの火力を見ると、3倍以上には軽くなってる。
魔法だけじゃなくて、身体能力を向上させるエンチャントもつけられるそうで、意外と幅が広そうだ。
さらに、
「ローザ様、お怪我はありませんでしたか?!私は、心配で、心配で。ああっ、お煙を吸い込んだりは?灰がおかかりになったりはしてませんか?お召し物は汚れておりませんでしょうか?そんなことになったら、トラエル様やお任せくださったベレーザ様になんといったら」と相変わらずのマシンガントークを繰り広げるメイド、エストア。
その能力は盾のようだ。
背中に担いでいるものは人が一人は隠れそうなほどの大きさの大盾それを今はローザを隠すように前に突き出されている。
さらにその盾からは、半透明なバリアみたいなのが僕たちパーティを包み込んでいる。
そのおかげだろう、リルのファイアーボールの熱波も煙も僕たちには届いてこない。
きっと、矢とか魔法とかも通さないんだろうな。
なんとなく…………どうやら、黄金卿のメンバーはメイドもチートらしい。
ということは、別行動している。
ベレーザさんやラフィも、チートなんだろうか。
まぁ、単独行動している時点でそうなんだろうな。
そんなことを思いながら、僕たちは首魁がいるだろう、4階を目指して進んだ。
進む途中、屋敷からは特大の騒音が響いているが、ベレーザとラフィのおかげか、ほとんど盗賊と合わずにここまでこれた。
大きな両扉の前、
「ここですね」
シオンがそう静かに言う。
「地図でも確かにそうよ!」とローザが律儀に確認する。
どうやらここで問題ないようだ。
団長のロガリエスはどういった奴なんだろうか。
僕がそんなことを考えているうちに、ローザとリルは杖を握りしめ、シルフィーは静かに弓矢を携え、シオンはショートソードを構えている。
僕も慌てて、黒剣を引き抜いた。
「慌てて、振り回さないでよね。危ないから」とリルに嫌味を言われる。
くっ、分かってるよ。ここで振っちゃいけないことぐらい。
「皆さま、大丈夫ですよ。この絶対の盾エストアにお任せください。この絶対領域に前ではいかなる魔法も攻撃も通しません。この結界の円からさえ出なければ安心安全です!たとえ火が吹き荒れようと、氷の刃が多いかかろうともローザお嬢様ひいては皆さまも一つたりとも傷つけさせません。すべてはこの盾エストアの受け止めてみせます。ああ、願わくば神よ。敵がローザお嬢様を見るその下劣で嫌らしい視線さえも遮る力を我にお与えください。すべての悪意とその攻撃もこのローザお嬢様の盾エストアが――――むぐぅつうう」
「ありがとう。エストア。でもここは敵地よ。静かになさい」
「はぅうー。申し訳ございません。ローザお嬢様、このエストア、またしてもお嬢様にご迷惑を。この失態、不肖絶対の盾エストアが必ずや、」
「エ・ス・ト・ア」
とローザが笑わない微笑みでエストアに話しかけると、ぴきーんと身を固めて、口を真一文字にして盾に縋りつくように前を向いた。
「もぅ、ごめんなさい。いきましょう。エンチャント」
そう言って、ローザが杖をリルの背中につけると、魔法陣が浮かびリルを包むように発光した。
「こんな娘だけど、力は絶対よ。黄金興ぐらいの力がないと力づくで突破はできないわ。つまりここのエストアの中心にいる限り安全ってことよ」
「そう、じゃあリル」
「はい、シオンお姉様」
リルが、杖に集中しながら呪文を唱える。
絶対の盾があるのだから、敵の奇襲なんて気にしなくていい。
一応みんなでリルを囲みながら、リルは朗々と呪文を完成させる。
ゴゥゴウと触れた物をすべてを焼き尽くす紅蓮の火の玉。
圧縮した太陽のようなそれは、いつもと質量が違う。
これがエンチャントの効果か。
「ファイアボール!!」
放たれたそれが、大扉に向けて放たれる。
ゴゥウウウウウウウウとして炎が一直線に廊下を進み、通った道を黒こげに焼いていく。
大扉は、開かれることなく業火に焼かれ、謁見の間、中央にて爆裂した!!
窓という窓が破裂し、カーペットは焼ききれ、わずかに残った調度品が爆風に吹き飛ばされて飛んでいく。
灼熱の爆風、粉砕物が廊下や壁に当たり削り取ってくるが、エストアの盾のおかげで何の被害も受けずに済んだ。
バチッバチッバチッバチッと火の粉が残滓のように残っている。
かなりの熱量になっているのだろう。
部屋と部屋の間が陽炎のように歪んでいる。
「私に歩幅を合わせてください。結界から出ると焼けどしちゃいますよ!」
エストアの円は、直径3mほどそこに6人入っているのだ。
正直まともに動けない。
おしくらまんじゅうのように進んで謁見の間に入る。
結界のおかげで暑さはなく快適だ。
「無人?」
そう思った時だった。
「バインド」
柱の後ろから、声がしたかと思うと、茨のようなとげのついたものが床を突き破るようにして飛び出してきた。
さらに何もない虚空からも茨が絡みつき、そして――――結界に阻まれた。
「魔法攻撃は効きませんよ!」
「なら、こいつはどうだい!」
あれは、ワニ?!
もう一つの柱の陰から巨大な二足歩行のワニがぬっと飛び出してきた。
さらにもはや岩と呼べるレベルの瓦礫をひょいと拾いあげると、こちらに投げつけてきた。
まじか!
こいつら隠れていたのか!
僕は思わず迫りくるそれに目をつむるが、…………衝撃はない。
ちらりと目を開ければ、岩が結界にはじかれているところだった。
「そんなのありかよ!」とワニがわめく。
「ふっふふ、すごいでしょう。スキル絶対領域の力は、これによって魔法も物理攻撃も通じません!!」
「でもよ、そっちには攻撃手段が―――うぉ」
弓矢が放たれ、ワニに強襲するが剣で防がれる。
ちっ、外したか。
「…………撃ちづらい」
シルフィーが不満げにそうつぶやくと、「出る」と結界を出ていった。
うぉおおお!?シルフィー危険だ。
何をして。
シルフィーは、結界を出ると、弓矢を次々と放つ。
「はぁは!そうこないとな!」とワニが凶悪な牙をむき出しにしながら、剣を振るって弓矢をはじく。
「ならっ!」とシルフィーが弓矢を放つ。
そのうちの一本はワニの背中を回るように軌道を変え、あらぬ方向に曲がる。
「ふんっ、」とそれは外套を守った男に向かうが、途中で現れた茨に阻まれてしまう。
「…………残念」とシルフィーが矢筒から、弓矢を抜き取ると、「させるかよ!」とワニが突っ込んでくる。
「う、んぅ!」とシルフィーが悩ましな声を出しながら、体制を立て直しながら弓で剣を受け止める。
「おらっおらっ!」と2mを超える巨体から放たれる凶刃を受け止めながらシルフィーはバックステップして、
「終わりだ!!」とその巨体を生かした踏み込みで大薙ぎで剣を振り下ろしてきた。
「ちっ、忌々しい」とワニがちろりと舌を出す。
両手剣のような巨大な剣が虚空で止まっている。
いや、結界に阻まれているのだ。
「…………えいっ」
「うぉ!」と今度はワニがバックステップを踏む。
それだけで数メートルは軽く飛びのいた。
見た目の巨体に会わない身軽さだ。
「はっははは、お嬢ちゃん。あぶねぇもん持ってるな」
結界から突き出された弓、その先には刃がついている。
はず槍で突き返したのだろう、当たらなかったようだけど。
「…………あの蜥蜴人強い。弦、切られた」
あのワニが、リザートマン?!
初めて見た。完全に二足歩行のワニかと思ってた。
ということは、あいつが団長のロガリエスか。
それに見ればシルフィーの弓の弦の部分が切られている。これでは弓を射ることは出来ない。
「…………補修」とシルフィーはいつもと変わらぬマイペースに行って、弦を貼り直し始めた。
予備を持っているのだろう。
「かぁー、補給もし放題か、こいつはずるいな、おいどうするトリニュー!…………ちっ、そっちの世界かよ」
茨のトリニュー。たしかロガリエス盗賊団のNO2の魔法使い。
茨を使ってきたのだし、こいつがそうだろう。
何もせず、こちらを観察するように立ち尽くしている。
外套のフードを頭からすっぽりとかぶり顔を隠している。
そんな不気味な男が口を開いた。
「久しいな、シオン。会いたかったぞ」
えっ、その言葉に僕は驚愕した。
し、知り合い?!
見れば、シオンの紅玉の瞳が珍しく驚きに見開かれている。
「…………茨、まさかあなたなの」
「ああっ、そうだ。会いたかったぞ。シオン…………どこぞの貴族に売られたとしった時は腸が煮えくり返りそうだったよ。こんな盗賊団に入り、こんな僻地に身をひそめて再起を待っていた甲斐があったもんだ」
男が手を伸ばす。
骨ばった皮だからの細腕、爪はマニキュアでも塗っているかのようなすべてが黒い不気味な手がシオンに向かられる。
「さぁ帰ってこい。お前の首輪の主人は俺こそがふさわしい」
な、なんだこいつ!
僕のシオンだぞ!
僕こそがシオンの主人なんだ!
なにを言ってやがるんだ一体!
さぁシオンを否定して…………シオン?
シオンはトリニューを見て、わなわなと震えている。
あの好戦的なシオンが…………。
「くっくくく、まずは邪魔な奴らから排除するとしようか」
外套から見える、男の狂気に満ちた瞳。
人ならざるもののような醜悪さで見つめられると体が震えだしてしまう。
くそ、落ち着け。
ここは絶対領域だ。
あいつらの攻撃は通らない!
「み、みなさん!息を吸わないでください!!ど、毒ガスれしゅううううう」とエストアが膝をついてしまった。
カランとリルも杖を落として手が震えている。
そ、そんなばかなナニが起こって。
「これ、まさか」とローザが震えながら、口元を押さえている。
「……痺れてる」
シルフィーの言葉にハッとする。
毒は毒でも痺れ毒か。
「絶対領域と言ったな。確かに厄介だ。なにせこちらの攻撃は一切通らないだけどな、行動阻害は攻撃じゃないんだよ」
理屈はよく分からんがな。とくっくくくとトリニューは狂気に満ちた顔でそう笑った。
地下2階、居住区は4回建てに、物見やぐらの代わりなのか、
石の塔が2本立ち並んでいる。
三角頭の塔があると確かに城ぽいといえる。
内部も、手が細やかに入っており、廊下に敷き詰められた絨毯。
飾られた高そうな壺などの調度品や装飾品の数々は、金持ちの家!と言わんばかりの豪華さだ。
だが、それも今や本とんどが、調度品や装飾品は奪われ、絨毯ははがされ、板の間に、帝国の旗が無数の足跡をつけられて落ちているばかりだ。
さらに壁や床も今は無数の傷や焼け跡、中には完全に穴が開いてしまっているものもある。
ロガリエス盗賊団が荒らしたというのもあるが、少しは、僕たちのせいでもある。
「へっへへ、いい女ばかりじゃねぇか。女は殺すな。そこの豚だけ殺せ!!」
「へいへい、お嬢さんがた、そんな物騒なもんは置いて。楽しもうぜぇ」
といかにもなモブが廊下を占領している。
薄汚れた服に、黄ばんだ歯、しかし手に持つ獲物だけはその鋭さを表すように鋭利に光っている。
しかも、盗賊団は事前情報のように亜人種だらけのようだ。
品のない笑いや、怒声に混じって獣の唸り声、カエルの鳴き声、二足歩行というだけのモンスターと言われても納得できるものたち。
そのおかげか、僕は盗賊団といえど人を殺しているという罪悪感が少し薄れている。
「ファイアーボール!」
「こいつ室内で、魔法を」
「に、にげーーーー」
リルの魔法が、炸裂すると、逃げ道はない廊下に火の玉が走り、飲み込んでいく。
そして、爆裂。
窓や壁を吹っ飛ばして、もうもう黒煙を上げる。
ぷすっぷすっ……と黒焦げの十を超える死体があたりに転がっている。
ダンジョンと違い、死体は消えない。
生焼けの肉の匂い…………その生々しさに、胃から酸っぱいものがせり上げってくるのをなんとか僕は飲み込んだ。
「すごい、威力ね」とシオンがその光景を見ても、きれいな顔のまま、顔色変えずに平然と言う。
紅玉の瞳と相まって、こちらが悪者みたいだ。
「エンチャンター、これが付帯魔法のなの?」
「ええっ、そうよ。わたしのエンチャントの効果で威力をあげたの、まぁ強すぎたみたいだけど」とローザが答える。
いくらリルと言えどファイアーボール1発でここまでの爆発を起こせない。
そうローザの能力は、エンチャントと呼ばれる。
使用者の能力を向上させる力があるみたいだ。
それだけ聞くと自分では戦えない大した能力じゃないと思うが、
このリルの火力を見ると、3倍以上には軽くなってる。
魔法だけじゃなくて、身体能力を向上させるエンチャントもつけられるそうで、意外と幅が広そうだ。
さらに、
「ローザ様、お怪我はありませんでしたか?!私は、心配で、心配で。ああっ、お煙を吸い込んだりは?灰がおかかりになったりはしてませんか?お召し物は汚れておりませんでしょうか?そんなことになったら、トラエル様やお任せくださったベレーザ様になんといったら」と相変わらずのマシンガントークを繰り広げるメイド、エストア。
その能力は盾のようだ。
背中に担いでいるものは人が一人は隠れそうなほどの大きさの大盾それを今はローザを隠すように前に突き出されている。
さらにその盾からは、半透明なバリアみたいなのが僕たちパーティを包み込んでいる。
そのおかげだろう、リルのファイアーボールの熱波も煙も僕たちには届いてこない。
きっと、矢とか魔法とかも通さないんだろうな。
なんとなく…………どうやら、黄金卿のメンバーはメイドもチートらしい。
ということは、別行動している。
ベレーザさんやラフィも、チートなんだろうか。
まぁ、単独行動している時点でそうなんだろうな。
そんなことを思いながら、僕たちは首魁がいるだろう、4階を目指して進んだ。
進む途中、屋敷からは特大の騒音が響いているが、ベレーザとラフィのおかげか、ほとんど盗賊と合わずにここまでこれた。
大きな両扉の前、
「ここですね」
シオンがそう静かに言う。
「地図でも確かにそうよ!」とローザが律儀に確認する。
どうやらここで問題ないようだ。
団長のロガリエスはどういった奴なんだろうか。
僕がそんなことを考えているうちに、ローザとリルは杖を握りしめ、シルフィーは静かに弓矢を携え、シオンはショートソードを構えている。
僕も慌てて、黒剣を引き抜いた。
「慌てて、振り回さないでよね。危ないから」とリルに嫌味を言われる。
くっ、分かってるよ。ここで振っちゃいけないことぐらい。
「皆さま、大丈夫ですよ。この絶対の盾エストアにお任せください。この絶対領域に前ではいかなる魔法も攻撃も通しません。この結界の円からさえ出なければ安心安全です!たとえ火が吹き荒れようと、氷の刃が多いかかろうともローザお嬢様ひいては皆さまも一つたりとも傷つけさせません。すべてはこの盾エストアの受け止めてみせます。ああ、願わくば神よ。敵がローザお嬢様を見るその下劣で嫌らしい視線さえも遮る力を我にお与えください。すべての悪意とその攻撃もこのローザお嬢様の盾エストアが――――むぐぅつうう」
「ありがとう。エストア。でもここは敵地よ。静かになさい」
「はぅうー。申し訳ございません。ローザお嬢様、このエストア、またしてもお嬢様にご迷惑を。この失態、不肖絶対の盾エストアが必ずや、」
「エ・ス・ト・ア」
とローザが笑わない微笑みでエストアに話しかけると、ぴきーんと身を固めて、口を真一文字にして盾に縋りつくように前を向いた。
「もぅ、ごめんなさい。いきましょう。エンチャント」
そう言って、ローザが杖をリルの背中につけると、魔法陣が浮かびリルを包むように発光した。
「こんな娘だけど、力は絶対よ。黄金興ぐらいの力がないと力づくで突破はできないわ。つまりここのエストアの中心にいる限り安全ってことよ」
「そう、じゃあリル」
「はい、シオンお姉様」
リルが、杖に集中しながら呪文を唱える。
絶対の盾があるのだから、敵の奇襲なんて気にしなくていい。
一応みんなでリルを囲みながら、リルは朗々と呪文を完成させる。
ゴゥゴウと触れた物をすべてを焼き尽くす紅蓮の火の玉。
圧縮した太陽のようなそれは、いつもと質量が違う。
これがエンチャントの効果か。
「ファイアボール!!」
放たれたそれが、大扉に向けて放たれる。
ゴゥウウウウウウウウとして炎が一直線に廊下を進み、通った道を黒こげに焼いていく。
大扉は、開かれることなく業火に焼かれ、謁見の間、中央にて爆裂した!!
窓という窓が破裂し、カーペットは焼ききれ、わずかに残った調度品が爆風に吹き飛ばされて飛んでいく。
灼熱の爆風、粉砕物が廊下や壁に当たり削り取ってくるが、エストアの盾のおかげで何の被害も受けずに済んだ。
バチッバチッバチッバチッと火の粉が残滓のように残っている。
かなりの熱量になっているのだろう。
部屋と部屋の間が陽炎のように歪んでいる。
「私に歩幅を合わせてください。結界から出ると焼けどしちゃいますよ!」
エストアの円は、直径3mほどそこに6人入っているのだ。
正直まともに動けない。
おしくらまんじゅうのように進んで謁見の間に入る。
結界のおかげで暑さはなく快適だ。
「無人?」
そう思った時だった。
「バインド」
柱の後ろから、声がしたかと思うと、茨のようなとげのついたものが床を突き破るようにして飛び出してきた。
さらに何もない虚空からも茨が絡みつき、そして――――結界に阻まれた。
「魔法攻撃は効きませんよ!」
「なら、こいつはどうだい!」
あれは、ワニ?!
もう一つの柱の陰から巨大な二足歩行のワニがぬっと飛び出してきた。
さらにもはや岩と呼べるレベルの瓦礫をひょいと拾いあげると、こちらに投げつけてきた。
まじか!
こいつら隠れていたのか!
僕は思わず迫りくるそれに目をつむるが、…………衝撃はない。
ちらりと目を開ければ、岩が結界にはじかれているところだった。
「そんなのありかよ!」とワニがわめく。
「ふっふふ、すごいでしょう。スキル絶対領域の力は、これによって魔法も物理攻撃も通じません!!」
「でもよ、そっちには攻撃手段が―――うぉ」
弓矢が放たれ、ワニに強襲するが剣で防がれる。
ちっ、外したか。
「…………撃ちづらい」
シルフィーが不満げにそうつぶやくと、「出る」と結界を出ていった。
うぉおおお!?シルフィー危険だ。
何をして。
シルフィーは、結界を出ると、弓矢を次々と放つ。
「はぁは!そうこないとな!」とワニが凶悪な牙をむき出しにしながら、剣を振るって弓矢をはじく。
「ならっ!」とシルフィーが弓矢を放つ。
そのうちの一本はワニの背中を回るように軌道を変え、あらぬ方向に曲がる。
「ふんっ、」とそれは外套を守った男に向かうが、途中で現れた茨に阻まれてしまう。
「…………残念」とシルフィーが矢筒から、弓矢を抜き取ると、「させるかよ!」とワニが突っ込んでくる。
「う、んぅ!」とシルフィーが悩ましな声を出しながら、体制を立て直しながら弓で剣を受け止める。
「おらっおらっ!」と2mを超える巨体から放たれる凶刃を受け止めながらシルフィーはバックステップして、
「終わりだ!!」とその巨体を生かした踏み込みで大薙ぎで剣を振り下ろしてきた。
「ちっ、忌々しい」とワニがちろりと舌を出す。
両手剣のような巨大な剣が虚空で止まっている。
いや、結界に阻まれているのだ。
「…………えいっ」
「うぉ!」と今度はワニがバックステップを踏む。
それだけで数メートルは軽く飛びのいた。
見た目の巨体に会わない身軽さだ。
「はっははは、お嬢ちゃん。あぶねぇもん持ってるな」
結界から突き出された弓、その先には刃がついている。
はず槍で突き返したのだろう、当たらなかったようだけど。
「…………あの蜥蜴人強い。弦、切られた」
あのワニが、リザートマン?!
初めて見た。完全に二足歩行のワニかと思ってた。
ということは、あいつが団長のロガリエスか。
それに見ればシルフィーの弓の弦の部分が切られている。これでは弓を射ることは出来ない。
「…………補修」とシルフィーはいつもと変わらぬマイペースに行って、弦を貼り直し始めた。
予備を持っているのだろう。
「かぁー、補給もし放題か、こいつはずるいな、おいどうするトリニュー!…………ちっ、そっちの世界かよ」
茨のトリニュー。たしかロガリエス盗賊団のNO2の魔法使い。
茨を使ってきたのだし、こいつがそうだろう。
何もせず、こちらを観察するように立ち尽くしている。
外套のフードを頭からすっぽりとかぶり顔を隠している。
そんな不気味な男が口を開いた。
「久しいな、シオン。会いたかったぞ」
えっ、その言葉に僕は驚愕した。
し、知り合い?!
見れば、シオンの紅玉の瞳が珍しく驚きに見開かれている。
「…………茨、まさかあなたなの」
「ああっ、そうだ。会いたかったぞ。シオン…………どこぞの貴族に売られたとしった時は腸が煮えくり返りそうだったよ。こんな盗賊団に入り、こんな僻地に身をひそめて再起を待っていた甲斐があったもんだ」
男が手を伸ばす。
骨ばった皮だからの細腕、爪はマニキュアでも塗っているかのようなすべてが黒い不気味な手がシオンに向かられる。
「さぁ帰ってこい。お前の首輪の主人は俺こそがふさわしい」
な、なんだこいつ!
僕のシオンだぞ!
僕こそがシオンの主人なんだ!
なにを言ってやがるんだ一体!
さぁシオンを否定して…………シオン?
シオンはトリニューを見て、わなわなと震えている。
あの好戦的なシオンが…………。
「くっくくく、まずは邪魔な奴らから排除するとしようか」
外套から見える、男の狂気に満ちた瞳。
人ならざるもののような醜悪さで見つめられると体が震えだしてしまう。
くそ、落ち着け。
ここは絶対領域だ。
あいつらの攻撃は通らない!
「み、みなさん!息を吸わないでください!!ど、毒ガスれしゅううううう」とエストアが膝をついてしまった。
カランとリルも杖を落として手が震えている。
そ、そんなばかなナニが起こって。
「これ、まさか」とローザが震えながら、口元を押さえている。
「……痺れてる」
シルフィーの言葉にハッとする。
毒は毒でも痺れ毒か。
「絶対領域と言ったな。確かに厄介だ。なにせこちらの攻撃は一切通らないだけどな、行動阻害は攻撃じゃないんだよ」
理屈はよく分からんがな。とくっくくくとトリニューは狂気に満ちた顔でそう笑った。
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