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ダンジョン編
第27話 タイムリミット
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瞼がとても重い、体が汗まみれで気持ち悪い。
それでも意識を手繰り寄せるようにしながら、僕はなんとか目を開けた。
木の板の―――見慣れた天井だ。
後頭部にあるのはいつもの宿屋のフカフカの枕で横には、「旦那様、目が覚めましたか」とシオンが横に座っていた。
銀髪の髪、気だるそうにした紅玉の瞳・・・・・・いつものシオンだ。
僕は半身を起こした。
それだけで体が重く、頭がガンガンと鳴る。
「旦那様、無理に起きらないほうが」
心配そうに肩に手を置いてくれるシオンの手、柔らかくて冷たくて、火照った体には心地よかった。
それを手に取り、僕は自分の頬にシオンの手を宛がいながら聞いた。
「何があったの?」
「・・・・・・第6階層へと向かおうとしたとき、突然倒れられました」
シオン曰く、僕が突然倒れたため、ダンジョン攻略を切り上げて戻ってきたらしい。
酷い発熱で医者を呼んで診たところ、疲労による軽い風邪とのことだった。
何度か意識は戻ったみたいが、無理矢理薬を飲ませつつ、また寝るみたいのを繰り返しいたみたいだ。
「いま、いつ?」
そうタイムリミットは・・・・・・外は暗くて、朝方なのか夜なのか分からなかったが。
「倒れた日の翌日の夜です」
今日、丸一日寝てたということか・・・・・・それはつまり、
「明日がタイムリミット」
「はい、そうなりますね」
ぐらりと体が倒れそうだった。
明日で第6,7,8,9の四階層を一気に駆け抜ける必要がある。
現実的に考えて無理だ。
精々出来て1日2階層まで。それでもかなり無理をしている。
だからこそこうして倒れてしまったわけで。
「旦那様、お言葉が今日は鮮明ですね」
言葉?・・・・・・シオンはこんな時に何を言っているんだろう。と僕は顔を上げるとシオンの紅玉の瞳と目が合う。
綺麗な宝石のような瞳に写る僕の醜い顔。
汗で髪がはりついてさらに不細工さが際立っている気がする。
「旦那様・・・・・・明日、ダンジョン攻略を出来なかった場合」
その続きは聞きたくなかった。でもシオンは流麗に途切れることなく言葉を紡いでいく。
「私は黄金卿に孕まされます。・・・・・・ですがそこまでマイナスではないかと」
なに?何を言ってるんだシオンは。マイナスじゃないなんてことないだろう。
「その代わり旦那様は、アリエル様が抱けます。アリエル様は天使族とお見受け出来ます」
アリエル・・・・・・黄金卿の隣座っていた金髪のお姉さんか。
確かに、天使の如き綺麗さだったが。
「天使族とまぐあうと加護を授かると言われております。旦那様にとってメリットは大きいかと」
天使の加護、そんなものはいらない。
僕はただ、シオンと・・・・・・それにリルやレナールと幸せに暮らせればそれでいいんだ。
それよりもなぜシオンはそんなに失敗した時の話ばかりするんだ。
それが無性に腹が立った。
「やめろ。そんな話は聞きたくない」
「ですが、覚悟を決めておくべきかと。ほかに手付けになった私が嫌なら売り飛ばすのも一興かと。黄金卿の子種を孕んでいるとなれば、かなりの値――――」
「―――やめろっと言っているだろう!」
「・・・・・・申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました」
そう頭を下げるシオン。
「シオン・・・・・・そんなこと、言わないでよ」
シオンの後頭部にそう話しかける。
「僕は、シオンのことが、本当に好きなんだ。・・・・・・シオンは、シオンは僕のことなんか好きじゃないんだろうけど」
言っていて惨めになるが事実だ。
僕のことを好きになる人間なんているはずがないんだ。
デブで、ついこの間童貞で、キモ面で、たまたま金を手に入れたからシオンを抱けただけで本当だったら、ここが日本で、学校で出会っていたら、話しかけることすらできなかったに違いない。
だけど―――
「そんな僕だけど、守って見せる。あんな黄金卿なんかに負けない」
だから、
「シオン、僕に魔法の言葉をくれないかな。頑張るために」
「・・・・・・申し訳ございません。私は魔法を使えません」
「そうじゃないんだ、顔を上げてシオン」
シオンの顔が上がる。端正な顔立ち、白い肌、ぷっくりとした唇、紅玉の瞳は不思議と輝いて見えて。
僕の心臓が高鳴る。
風邪とはまた違った熱が籠ってくるのを感じる。
完ぺきで、理想の、僕の美少女。
気恥ずかしくて、僕は顔を下げて、シオンの両手を握る。
白魚のようにきれいなシオンの指を見つめながら、
「嘘でもいい。本心じゃなくてもいい。今だけは、今だけでいいから、僕のこと好きって言って欲しい。愛していると言って欲しいんだ。そうしてくれれば、僕は、僕は頑張れるから」
ギュっっとシオンの手を握って、額をつける。
そうしてシオンの言葉を待つ。
シオンが近づく気配。耳元に吐息がかかる。
紡がれる。魂を揺さぶるウィスパーボイスで僕に命令する。
「どうか、顔を上げてください、旦那様」
僕はその言葉に顔を上げる。紅玉の瞳が僕を見ている、それだけで心臓がバクバクと高鳴る。
ま、万が一。
好きじゃない、嘘でも愛してるなんて言えない。なんて言われたらどうしよう。
高鳴るこの心臓は停止するかもしれない。
シオンがゆっくりと口を開いた。
「――――好きです」とそうハッキリと僕の顔を見ながらそう言った。
「愛しています。初めてを捧げた時からお慕いしております。私は黄金卿の子供なんか産みたくない。子供を作るなら旦那様の子が欲しいです」
――――心臓が止まるかと思った。
たぶん、僕のためにそう言ってくれてるだけの優しい嘘だと分かっていても、シオンの口からそう聞けると、体が火照ってくる。
いや、燃え上がってくる。
氷のように寒気がした体の芯が、指先が、燃えるように熱が全身に広がっていく。
その熱は、風邪を、不安を、どんどん燃やしていくのが分かった。
エネルギーが漲ってくる、まさに魔法の言葉だった。
「ありがとう。シオン」
僕はそう言って再びベットに倒れ込んだ。
「明日から、また戦おう。僕は絶対に諦めないよ。シオンを守ってみせる」
「はい、愛しの旦那様。シオンはその言葉を信じます」
「シオン、今日は一緒に寝てくれる」
「はい、もちろんでございます」
そう言ってシオンは僕の横に潜り込んでくる。
間近にくるシオンの顔に、僕は軽く顔を近づけると、意図を理解したシオンが唇を突き出す。
チュッとした軽いフレンチキッスして、僕はシオンを抱きしめる。
冷たい体温が心地よかった。
そのまま、僕はシオンの後頭部の匂いを嗅ぎながら、すぐに眠りに落ちた。
翌朝目覚めると、昨日はだるさは嘘だったように体が軽い。
熱も頭痛も寒気さも完全に吹き飛んだ。
全快だ!
「おう!上様、復活したんか!!」
「ふんっ、バカは風邪を引かないていうのは嘘だったみたいね」
レナールとリルがいつもの如くで迎えてくれる。
「おはようございます。旦那様」とシオンが昨日のことなんてなかったように澄まして挨拶をしてくる。
でも、シオンを見ているだけで僕の体に力が漲る。
やれる。今なら4階層だって一気に突破できる。
「み、みんな、きょきょ、今日は、がんば、ろう!」
くそ発破をかけるつもりが、いつも以上にカミカミだ。
でも、
「言われるまでもないわよ」とリルがつんっという。
「はっははは、しまらんへんやん。でも上様ぽいわ」とレナールが犬歯をキッと見せて笑う。
「ふっ~、まぁ旦那様らしいかと」と嘆息しながらそう答えるシオン。
いつものやりとりそれに、
「ふーん、最終日の朝だから、めそめそして泣いてるのかと思ったわ」と僕たちに以外の声がした。
碧と翠色の左右が違うオッドアイの瞳、フィービーがいつの間にか現れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ごきげんよう、猿豚ちゃん」
ベットに腰掛けるフィービー、見てくれだけはいいメスガキのために様になっている。
足を組みながら、こちらをニタニタと見つめている。
「ど、ども」
「ふん、相変わらず気持ち悪いわね」
うるせーな。こっちは今からダンジョン攻略をするんだよ。邪魔するなガキが理解らせるぞ。
「ふんっ、あんたたちこれからダンジョン攻略??? 出来ると思っているのかしら、今日一日で4階層突破なんて」
出来るか?じゃない、やるんだよ!
「はい、出来ると思っております。そのため一刻も早く出発したいと思っております」
シオンがそうハッキリとフィービーに告げる。
「そうや、お邪魔せんといてや、おチビはうちので十分やん」
「誰がおチビよ!そう呼ぶなって言ってるでしょ」
「はんっ、あんたたち揃って頭が弱いのね。無理だって言ってるのよ」とフィービーがドヤ顔を見せる。
「なにがやねん。そないなもんやってみないと分からへんやん。オッドアイのおチビにとやかく言われる筋合いはないわ!!」とそれにレナールが啖呵を切る。
まったくレナールに同意だ。
もうこんな奴無視していくかと思った時、
「あら、このフィービー様にそんなことを言っていいのかしら」
「ああん?なんやって、先から思ってたねん。なんでそんなに上から――――」
「―――レナールやめなさい。すみません、フィービー様」とシオンが仲裁して止めに入った。
「ふんっ。特別に許してあげるわ。いいこと私は、黄金卿から遣わされた監視者なのよ。分かる? それともう1つ」
ニィイとフィービーの顔が歪む。
「今回の件に関して邪魔するなとは言われてないのよ。おバカなあなたたちでもこの意味が分かるかしら?」
僕たちはその言葉に黙る。
当然だ、ただでさえ、困難なダンジョン攻略において、フィービーに邪魔されたらクリアできるわけがない。
いやあのチートスキル持ちどもの仲間だ。本気になればダンジョンにすらたどり着けないくらいの妨害だろう。
従うしかない。
「ハァハァ、ようやく立場が分かったようね」と息を荒げながら、顔を紅潮させてフィービーが言う。
「フィービー様、このように私たちは立場をわきまえております。ですのでそろそろご用件を教えていただけないでしょうか」とシオンが貴族が取るような中腰になる礼を取る。
「要件?」
「おとぼけを。邪魔するなということは、手助けをするなとも言われないということなのかと愚考致します」
―――そういうことか!フィービー様は僕たちを手助けするために来たのか!
なんだよ、このメスガキ、ツンデレかよ!
「ハーフの癖に頭は回るようね」
「恐れ入ります」
「ふんっ、そういうことよ。察しの悪い猿豚ちゃん。私は邪魔するなとも手助けするなとも言われないわ。つまり私の胸三寸ということよ」
で、「な、なにを?」すればいいんだよ。どうせ条件があるんだろう。
ニヤニヤとフィービーが笑いながら「少しは頭が回ってきたようね。そうね、まずはあれが見たいわ」
あれ?
「あんたたちの国に伝わるとかいう額を床に擦り付けるアレよ。土下座といったかしら。私の目の前に着てやりなさい」
日本古来に伝わる最上級の謝罪、その名も土下座。ひどくプライドが傷つく。
だが―――僕はそんなことでいいのかと思った。
手慣れた手つきで、膝を曲げ、指と額を床に付けて土下座する。
「フィービー様、どうかお助けください」という言葉までつけてやった。
すると、ガンっと後頭部を踏まれる感触。
ふんっ、どうということはないわ!
「(*´Д`)ハァハァ 躊躇なしとか・・・・・・やるのは最大の屈辱と聞いたのだけど、この猿豚ちゃんにプライドや埃というものはないのかしら、ないのよね。だって猿豚なんだもんね。(*´Д`)ハァハァ」
後頭部を靴でぐりぐりと押し込みながら、フィービーが(*´Д`)ハァハァと興奮している。
「まったく猿豚ちゃんのその素直な態度に免じて、これが出来たら手助けしてあげるわよ。顔を上げなさい」
土下座の姿勢のまま、顔を上げると足を組んで紅潮した顔でこちらを見下げてくるフィービーが見えた。
組んだを足を解き、持ち上げる。
光沢のあるマントが捲れあがり、拘束具を思わせる黒いベルトが食い込んだ太ももをあらわにしながらブーツをはいた靴を前に出してきた。
まさか――――
フィービーは指をブーツにはわせ、シュッ、シュッと靴ひもをはずす。
ボトンっと、ブーツが音を立てて目の前に転がってきた。
むわっと汗くさい、こもった匂いが立ち込め、思わず顔がこわばるの感じた。
「(*´Д`)ハァハァ、1週間は素足で履いてたのよ。あなたたちを追いかけるために」
道理で臭いわけだ。
そして、それを、
「舐めなさい。指と指の間も余すことなくね。それで手助けしてあげるわ」
フィービーの小さな足。
蒸れに蒸れて、えげつない臭さを醸し出している。
「どうしたの?盛りの付いた豚みたいに、ぶひぃぶひぃいいながら舐めなさいよ」
「(*´Д`)ハァハァいいのよ。嫌なら・・・・・・まぁそんな選択肢はないと思うけど、」
フィービーが光悦した表情でこちらを見下す。
そう選択肢などはなからないのだ。
「う、上様、そ、そないことせんでも―――」
「―――レナール、旦那様の御判断に任せましょう」
背中越しに聞こえるシオンの声。
そう僕はシオンを守ると決めたんだ。
僕は意を決した。
それでも意識を手繰り寄せるようにしながら、僕はなんとか目を開けた。
木の板の―――見慣れた天井だ。
後頭部にあるのはいつもの宿屋のフカフカの枕で横には、「旦那様、目が覚めましたか」とシオンが横に座っていた。
銀髪の髪、気だるそうにした紅玉の瞳・・・・・・いつものシオンだ。
僕は半身を起こした。
それだけで体が重く、頭がガンガンと鳴る。
「旦那様、無理に起きらないほうが」
心配そうに肩に手を置いてくれるシオンの手、柔らかくて冷たくて、火照った体には心地よかった。
それを手に取り、僕は自分の頬にシオンの手を宛がいながら聞いた。
「何があったの?」
「・・・・・・第6階層へと向かおうとしたとき、突然倒れられました」
シオン曰く、僕が突然倒れたため、ダンジョン攻略を切り上げて戻ってきたらしい。
酷い発熱で医者を呼んで診たところ、疲労による軽い風邪とのことだった。
何度か意識は戻ったみたいが、無理矢理薬を飲ませつつ、また寝るみたいのを繰り返しいたみたいだ。
「いま、いつ?」
そうタイムリミットは・・・・・・外は暗くて、朝方なのか夜なのか分からなかったが。
「倒れた日の翌日の夜です」
今日、丸一日寝てたということか・・・・・・それはつまり、
「明日がタイムリミット」
「はい、そうなりますね」
ぐらりと体が倒れそうだった。
明日で第6,7,8,9の四階層を一気に駆け抜ける必要がある。
現実的に考えて無理だ。
精々出来て1日2階層まで。それでもかなり無理をしている。
だからこそこうして倒れてしまったわけで。
「旦那様、お言葉が今日は鮮明ですね」
言葉?・・・・・・シオンはこんな時に何を言っているんだろう。と僕は顔を上げるとシオンの紅玉の瞳と目が合う。
綺麗な宝石のような瞳に写る僕の醜い顔。
汗で髪がはりついてさらに不細工さが際立っている気がする。
「旦那様・・・・・・明日、ダンジョン攻略を出来なかった場合」
その続きは聞きたくなかった。でもシオンは流麗に途切れることなく言葉を紡いでいく。
「私は黄金卿に孕まされます。・・・・・・ですがそこまでマイナスではないかと」
なに?何を言ってるんだシオンは。マイナスじゃないなんてことないだろう。
「その代わり旦那様は、アリエル様が抱けます。アリエル様は天使族とお見受け出来ます」
アリエル・・・・・・黄金卿の隣座っていた金髪のお姉さんか。
確かに、天使の如き綺麗さだったが。
「天使族とまぐあうと加護を授かると言われております。旦那様にとってメリットは大きいかと」
天使の加護、そんなものはいらない。
僕はただ、シオンと・・・・・・それにリルやレナールと幸せに暮らせればそれでいいんだ。
それよりもなぜシオンはそんなに失敗した時の話ばかりするんだ。
それが無性に腹が立った。
「やめろ。そんな話は聞きたくない」
「ですが、覚悟を決めておくべきかと。ほかに手付けになった私が嫌なら売り飛ばすのも一興かと。黄金卿の子種を孕んでいるとなれば、かなりの値――――」
「―――やめろっと言っているだろう!」
「・・・・・・申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました」
そう頭を下げるシオン。
「シオン・・・・・・そんなこと、言わないでよ」
シオンの後頭部にそう話しかける。
「僕は、シオンのことが、本当に好きなんだ。・・・・・・シオンは、シオンは僕のことなんか好きじゃないんだろうけど」
言っていて惨めになるが事実だ。
僕のことを好きになる人間なんているはずがないんだ。
デブで、ついこの間童貞で、キモ面で、たまたま金を手に入れたからシオンを抱けただけで本当だったら、ここが日本で、学校で出会っていたら、話しかけることすらできなかったに違いない。
だけど―――
「そんな僕だけど、守って見せる。あんな黄金卿なんかに負けない」
だから、
「シオン、僕に魔法の言葉をくれないかな。頑張るために」
「・・・・・・申し訳ございません。私は魔法を使えません」
「そうじゃないんだ、顔を上げてシオン」
シオンの顔が上がる。端正な顔立ち、白い肌、ぷっくりとした唇、紅玉の瞳は不思議と輝いて見えて。
僕の心臓が高鳴る。
風邪とはまた違った熱が籠ってくるのを感じる。
完ぺきで、理想の、僕の美少女。
気恥ずかしくて、僕は顔を下げて、シオンの両手を握る。
白魚のようにきれいなシオンの指を見つめながら、
「嘘でもいい。本心じゃなくてもいい。今だけは、今だけでいいから、僕のこと好きって言って欲しい。愛していると言って欲しいんだ。そうしてくれれば、僕は、僕は頑張れるから」
ギュっっとシオンの手を握って、額をつける。
そうしてシオンの言葉を待つ。
シオンが近づく気配。耳元に吐息がかかる。
紡がれる。魂を揺さぶるウィスパーボイスで僕に命令する。
「どうか、顔を上げてください、旦那様」
僕はその言葉に顔を上げる。紅玉の瞳が僕を見ている、それだけで心臓がバクバクと高鳴る。
ま、万が一。
好きじゃない、嘘でも愛してるなんて言えない。なんて言われたらどうしよう。
高鳴るこの心臓は停止するかもしれない。
シオンがゆっくりと口を開いた。
「――――好きです」とそうハッキリと僕の顔を見ながらそう言った。
「愛しています。初めてを捧げた時からお慕いしております。私は黄金卿の子供なんか産みたくない。子供を作るなら旦那様の子が欲しいです」
――――心臓が止まるかと思った。
たぶん、僕のためにそう言ってくれてるだけの優しい嘘だと分かっていても、シオンの口からそう聞けると、体が火照ってくる。
いや、燃え上がってくる。
氷のように寒気がした体の芯が、指先が、燃えるように熱が全身に広がっていく。
その熱は、風邪を、不安を、どんどん燃やしていくのが分かった。
エネルギーが漲ってくる、まさに魔法の言葉だった。
「ありがとう。シオン」
僕はそう言って再びベットに倒れ込んだ。
「明日から、また戦おう。僕は絶対に諦めないよ。シオンを守ってみせる」
「はい、愛しの旦那様。シオンはその言葉を信じます」
「シオン、今日は一緒に寝てくれる」
「はい、もちろんでございます」
そう言ってシオンは僕の横に潜り込んでくる。
間近にくるシオンの顔に、僕は軽く顔を近づけると、意図を理解したシオンが唇を突き出す。
チュッとした軽いフレンチキッスして、僕はシオンを抱きしめる。
冷たい体温が心地よかった。
そのまま、僕はシオンの後頭部の匂いを嗅ぎながら、すぐに眠りに落ちた。
翌朝目覚めると、昨日はだるさは嘘だったように体が軽い。
熱も頭痛も寒気さも完全に吹き飛んだ。
全快だ!
「おう!上様、復活したんか!!」
「ふんっ、バカは風邪を引かないていうのは嘘だったみたいね」
レナールとリルがいつもの如くで迎えてくれる。
「おはようございます。旦那様」とシオンが昨日のことなんてなかったように澄まして挨拶をしてくる。
でも、シオンを見ているだけで僕の体に力が漲る。
やれる。今なら4階層だって一気に突破できる。
「み、みんな、きょきょ、今日は、がんば、ろう!」
くそ発破をかけるつもりが、いつも以上にカミカミだ。
でも、
「言われるまでもないわよ」とリルがつんっという。
「はっははは、しまらんへんやん。でも上様ぽいわ」とレナールが犬歯をキッと見せて笑う。
「ふっ~、まぁ旦那様らしいかと」と嘆息しながらそう答えるシオン。
いつものやりとりそれに、
「ふーん、最終日の朝だから、めそめそして泣いてるのかと思ったわ」と僕たちに以外の声がした。
碧と翠色の左右が違うオッドアイの瞳、フィービーがいつの間にか現れていた。
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「ごきげんよう、猿豚ちゃん」
ベットに腰掛けるフィービー、見てくれだけはいいメスガキのために様になっている。
足を組みながら、こちらをニタニタと見つめている。
「ど、ども」
「ふん、相変わらず気持ち悪いわね」
うるせーな。こっちは今からダンジョン攻略をするんだよ。邪魔するなガキが理解らせるぞ。
「ふんっ、あんたたちこれからダンジョン攻略??? 出来ると思っているのかしら、今日一日で4階層突破なんて」
出来るか?じゃない、やるんだよ!
「はい、出来ると思っております。そのため一刻も早く出発したいと思っております」
シオンがそうハッキリとフィービーに告げる。
「そうや、お邪魔せんといてや、おチビはうちので十分やん」
「誰がおチビよ!そう呼ぶなって言ってるでしょ」
「はんっ、あんたたち揃って頭が弱いのね。無理だって言ってるのよ」とフィービーがドヤ顔を見せる。
「なにがやねん。そないなもんやってみないと分からへんやん。オッドアイのおチビにとやかく言われる筋合いはないわ!!」とそれにレナールが啖呵を切る。
まったくレナールに同意だ。
もうこんな奴無視していくかと思った時、
「あら、このフィービー様にそんなことを言っていいのかしら」
「ああん?なんやって、先から思ってたねん。なんでそんなに上から――――」
「―――レナールやめなさい。すみません、フィービー様」とシオンが仲裁して止めに入った。
「ふんっ。特別に許してあげるわ。いいこと私は、黄金卿から遣わされた監視者なのよ。分かる? それともう1つ」
ニィイとフィービーの顔が歪む。
「今回の件に関して邪魔するなとは言われてないのよ。おバカなあなたたちでもこの意味が分かるかしら?」
僕たちはその言葉に黙る。
当然だ、ただでさえ、困難なダンジョン攻略において、フィービーに邪魔されたらクリアできるわけがない。
いやあのチートスキル持ちどもの仲間だ。本気になればダンジョンにすらたどり着けないくらいの妨害だろう。
従うしかない。
「ハァハァ、ようやく立場が分かったようね」と息を荒げながら、顔を紅潮させてフィービーが言う。
「フィービー様、このように私たちは立場をわきまえております。ですのでそろそろご用件を教えていただけないでしょうか」とシオンが貴族が取るような中腰になる礼を取る。
「要件?」
「おとぼけを。邪魔するなということは、手助けをするなとも言われないということなのかと愚考致します」
―――そういうことか!フィービー様は僕たちを手助けするために来たのか!
なんだよ、このメスガキ、ツンデレかよ!
「ハーフの癖に頭は回るようね」
「恐れ入ります」
「ふんっ、そういうことよ。察しの悪い猿豚ちゃん。私は邪魔するなとも手助けするなとも言われないわ。つまり私の胸三寸ということよ」
で、「な、なにを?」すればいいんだよ。どうせ条件があるんだろう。
ニヤニヤとフィービーが笑いながら「少しは頭が回ってきたようね。そうね、まずはあれが見たいわ」
あれ?
「あんたたちの国に伝わるとかいう額を床に擦り付けるアレよ。土下座といったかしら。私の目の前に着てやりなさい」
日本古来に伝わる最上級の謝罪、その名も土下座。ひどくプライドが傷つく。
だが―――僕はそんなことでいいのかと思った。
手慣れた手つきで、膝を曲げ、指と額を床に付けて土下座する。
「フィービー様、どうかお助けください」という言葉までつけてやった。
すると、ガンっと後頭部を踏まれる感触。
ふんっ、どうということはないわ!
「(*´Д`)ハァハァ 躊躇なしとか・・・・・・やるのは最大の屈辱と聞いたのだけど、この猿豚ちゃんにプライドや埃というものはないのかしら、ないのよね。だって猿豚なんだもんね。(*´Д`)ハァハァ」
後頭部を靴でぐりぐりと押し込みながら、フィービーが(*´Д`)ハァハァと興奮している。
「まったく猿豚ちゃんのその素直な態度に免じて、これが出来たら手助けしてあげるわよ。顔を上げなさい」
土下座の姿勢のまま、顔を上げると足を組んで紅潮した顔でこちらを見下げてくるフィービーが見えた。
組んだを足を解き、持ち上げる。
光沢のあるマントが捲れあがり、拘束具を思わせる黒いベルトが食い込んだ太ももをあらわにしながらブーツをはいた靴を前に出してきた。
まさか――――
フィービーは指をブーツにはわせ、シュッ、シュッと靴ひもをはずす。
ボトンっと、ブーツが音を立てて目の前に転がってきた。
むわっと汗くさい、こもった匂いが立ち込め、思わず顔がこわばるの感じた。
「(*´Д`)ハァハァ、1週間は素足で履いてたのよ。あなたたちを追いかけるために」
道理で臭いわけだ。
そして、それを、
「舐めなさい。指と指の間も余すことなくね。それで手助けしてあげるわ」
フィービーの小さな足。
蒸れに蒸れて、えげつない臭さを醸し出している。
「どうしたの?盛りの付いた豚みたいに、ぶひぃぶひぃいいながら舐めなさいよ」
「(*´Д`)ハァハァいいのよ。嫌なら・・・・・・まぁそんな選択肢はないと思うけど、」
フィービーが光悦した表情でこちらを見下す。
そう選択肢などはなからないのだ。
「う、上様、そ、そないことせんでも―――」
「―――レナール、旦那様の御判断に任せましょう」
背中越しに聞こえるシオンの声。
そう僕はシオンを守ると決めたんだ。
僕は意を決した。
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