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アウの救出①

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「ああっ、タイチさん。お久しぶりでーーおっと?!」

「アウは、何処だ!」

タイチが服を破る勢いで目の前に現れたトゥーゼルの胸倉を掴むと、痛いですよタイチさんといつもと変わらぬ様子のトゥーゼルにタイチはさらに怒りを募らせた。

「アウが攫われたんだぞ! なのにてめぇは!」
「先生、落ち着いてください」
「落ち着いていられるか!」
「そうは言ってもそれじゃ、兄さんがしゃべれませんよ!」

くそっ、そう言ってタイチが手を放すと、「もぅ痛いなー」とトゥーゼルが首をさすっている。

「おらっ!さっさといえ、どこの誰に攫われたんだ!」

「落ち着いてくださいよ。まぁ座ってほら」

タイチはそれに従ってどかっとソファーに座りこんだ。

「おらっ、座ったぞ! 早くいえ!」

「全く、せっかちだな。リティ、こっちへ」

トゥーゼルが膝をぽんぽんと叩くとリティはちらりとこちらを見てからトゥーゼルの横に座った。

膝には座らないみたいだ、当たり前か。

「では説明しましょう。まずアウを攫ったのはダンゼムとディドゥーという冒険者の二人組です」

「誰だ、それは!」
「お、覚えてないんですか?」

リティがそんな馬鹿な、みたいに口を開けている。

ダンゼムとディドゥー? 確かに聞き覚えがあるといえば・・・あるが、タイチの記憶には残っていなかった。

タイチの態度から本当に覚えていないと察したのかリティが記憶を喚起させようと補足してきた。

「先生が、最初に冒険者登録した日の実践の担当官ですよ。炎岩のダンゼムという緑色級冒険者です」

冒険者登録? 炎岩のダンゼム?

……………

…………

ああっ!思い出した!!

「あの時の、マッチョ禿か!」

岩に変化したスラオをぶち破った、禿でマッチョな冒険者だ! 

「そうですよ、あんだけやられたのによく忘れられますね」

「禿マッチョなんて、とうに記憶からうせったわ!」

なぜあの二人組が、アウを? もそうだがふっとタイチはここで気になったことがあった。

「ところでリティさんや」
「…………? どうしたんですか先生」
「その時、リティはいなかったよね? どうしてそのことを知っているんだ?」

リティはまだ学園から帰ってくる途中だったし、当然トゥーゼルどころか商会の人間も同行していないから、知るはずもないが。

「ああっ、先生の町での動向は調べていますから当然ですよ」

とリティは眼鏡を指で直しつつ、どうしてそんなことを聞くんだろう?といった感じで答えてきた。

タイチはそのリティの態度に言い知れぬ何かを感じ取ったが、それよりも今はアウの事だ。

感じた違和感を無理やり飲み込み、アウの事を聞くことにした。

「で、どうして禿共がアウを攫ったんだ? それにアウは村に帰っていたはずだろ?」

禿共がアウを攫う理由が分からないし。そもそもアウはタイチが渡した結晶石を持って村に帰ると言っていた。

それがなんで戻ってきているんだ。

「アウさんが村に帰っているというのは分かりませんが、この商会に帰ってきたのはつい2日前ぐらいのことです。その時はかなり傷を受けていました。簡単な手当はいたしましたが、それとほぼ同時にダンゼムとディドゥーがアウを引き渡す様に言ってきたのです」
「引き渡すように言ってきた?」
「ええっ、それもBS商会の使いとして」

BS商会の使い? 引き渡すように要求?

「だから、何だっていうんだ! それでお前はアウを引き渡したのか!!」
「相手はBS商会ですよ? この町ではうちが一番でも商会の規模で見ればオーガとゴブリンぐらいの差です」

オーガとゴブリンがなんだっていうんだ、アウを、それも事情は分からないが傷だらけの女の子を売るなんてどうかしている!とタイチの頭はかぁっーとなり

「この野郎!」とトゥーゼルに殴りかかるべく、立ち上がろうとしたとき、

―――――っ!

両肩をものすごい強い力で抑え込まれた。

「トゥーゼル様への狼藉は許しませんよ、タイチさん」

右上を見れば峡谷のように聳える谷間の間からエフォートの顔を覗いていた。

「リティ様へもです」

左上を見れば幾分かは見通しのいい谷間からミスティーの顔が覗けた。

どうやら、メイド二人に抑え込まれてしまっているようだ。

ちっ、タイチが力を抜きソファーに深々と腰を下ろすと二人の手も離れていった。

「でなんで連中はアウを連れていったんだ? 懸賞金がかかっているのは俺だろう?」
「タイチさんをおびき出すためでしょうね」
「そうか、じゃあ場所を教えろ」
「場所?」
「とぼけるなよ。知っているんだろ? 連中から聞いているはずだ。じゃないと俺が罠にかからないからな」

タイチがそう言うとトゥーゼルは困ったように頬を掻いた。

「場所は調べがついています。が、教えることは出来ません」
「なぜだ?」
「みすみすタイチさんを引き渡すと? あなたを逃がすのもタダじゃなかったんですがね」

ぶん殴ってやろうかと思うが、巨乳と貧乳のメイドに挟まられてそれもかなわない。

普段なら嬉しいが、今はそんなに嬉しくない。

くっ、どうする。どうすればいい。


こうしている間にも、アウがあんなことやこんなことをされているかもしれない。

そう思うと、カッ!と熱が上がってくる。

ふざけるな!アウにそんなことしていいのは、俺だけだ!

そう思うだけで現状何も出来ない。
だけど、何もせずにはいられない。

タイチはソファーから立ち上がる。

「立ち上がって、どこにいくつもりです?」
「お前らが教えてくれたら、そこに行く。教える気がないなら」
「ないなら?」
「大声で叫びながら、連中をおびき寄せてやるさ」

それに、

「バカですか」
「バカ」
「はっはは、タイチさんらしい」
「先生、それは・・・・・・」

と四者それぞれが微妙な反応を示す。

「あなたは、懸賞金をかけられているんですよ」とトゥーゼルが教師のように言い出す。
「だから、どうした。そんな連中返り討ちだ」
「上位色の冒険者たちに、タイチさんの懸賞金の額を知れば町民や衛士だって捕まえに行きますよ。逃げ切れるんですか?それも手負いの女性を一人連れて」

・・・・・・うっ、確かに。

「それぐらい考えてください」とエフォートがため息交じりにいう。

「ええい、うるせぇ!俺は行くたら行くんだ!」

散々な言われようだが、そんなこと言われたところでやめる気はない。

構えるエフォートとミスティーをタイチが強行突破しようと覚悟を決めた時、
ドアが開いた。

「やれやれ、なかなか商談が纏まらないようだね」と初老の男性がいった。

構えを解き、頭を下げるエフォート、ミスティーそれに「パパ」「父さん」とリティ、トゥーゼルが続く。

トゥーゼルパパの登場だった。

「ここは、商会だ。クライアントの要望には答える義務があると思うぞ、トゥーゼル」
「ですが、父さん、そんなことしたら、」と言い募ろうとするトゥーゼルを手で制すトゥーゼルパパ。

その顔が、にこやかに笑う。

自然で屈託のない笑顔。


それは、

「さてタイチさん、GS商会が手に入れたアウさんの居場所、いくらでお買い上げいただけますか?」

磨き上げあげられた商人の顔なのだろう。




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ぴちょん、ぴちょんと水滴の落ちる音、
嗅ぎ慣れた生暖かい嗅ぎ慣れた川の風の香りにアウは目を覚ました。

薄暗い寂れた倉庫。
光源はボロいゆえに所々屋根に穴が空いて光が漏れ出ているぐらいだ。

しかしそれだけあればアウには充分だった。
琥珀色の瞳を見開くすると倉庫はまるで満月の下の夜道ほどに見えてきた。

アウは夜目が効くのだった。
もしかしたら、先祖の誰かはケットシーとでも交配していたのかもしれない。

人としては特異または鍛えるべくものをアウは生まれながらにして持ち、そして不思議に思わずに使う。

すると倉庫に2人の男がいることがわかった。

体の全てが筋肉で出来ているのではないかというほどの屈強な男、その横にはボロを纏い、杖をつく男。

見てくれから、モンクと魔法使いに思える。

倒せる相手かアウは、相手の佇まい、雰囲気、呼吸、を感じられるのもその瞳で、五感で視る。

結論は、・・・・・・無理だ。

相手はかなりの手練れ、それが二人もいる。

たいしてこちらは、手負いで武器もなく、手足が縛られている。

ここは、気絶しているフリを続けて体力の回復を待ちつつ、隙を見て――――。


「ほう、気づいたようだな」と筋肉の影から顔をのぞかせるように男が言った。

・・・・・・こちらの想像以上の手合いのようだ。

だが、アウは戦士だ。

戦士は、勝てる負けるで戦いを決めない。

「ナワ、トケ」
「わざわざ捕まえておいて、逃がすと思うか?」
「ニゲナイ」
「ならどうする気なんですぅ?」と襤褸の男がこちらの神経を逆なでするような声で聴いてくる。


一拍置いてアウは答えた。

「タタカウ。オマエラ、カル」

縛られて、怪我を覆いながらも気高きジャングルの戦士の決意は、

「くっくくく、戦うね」
「ヒュー」と軽く口笛や失笑で流されてしまった。

「かの有名なブリット族の戦士、一度手合わせをしたいところだ」
「ミセテヤル」
「だが、お前は半人前でそれも手負いだ。俺を満足はさせれないよ。それにそろそろ来るだろう」
「来ますかね。ダンゼムさんにあんなにボコボコにされて」
「来ないなら来ないでいいさ。このままこいつを引き渡して、仕事終わりだ、来るなら」


「おらぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「――――ふんっ!」

叫び、それと同時に倉庫の扉が破られて吹き飛んできたのを、ダンゼムは掌底で破壊する。

「懸賞金も入って、2倍美味しいだけだ」と口角を上げてダンゼムは笑う。


「大丈夫か!アウ!!」
「タイチ・・・・・・ナゼキタ?」

タイチは、両腕と足とを後ろ手に結ばれ、ところどころ傷がついているアウを見つけた。

そこには、ハゲと襤褸切れの男。

「おまぇらあああああああああああああ!!!」

「ハッハハハ、来いよ。またその軟弱なスライムごと破壊してやるよ!!」

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