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ゴールデンスライムのルーちゃん

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部屋の空気が代わり、タイチは後悔してはじめていた。

このGS商会、もといゴルスラ家にとってゴールデンスライムは特別みたいだ。

そりゃそうだよな。

明らかにゴールデンスライムのイニシャルに、略称だもんね。

リティが金のカチューシャを取り外し、両手で包むように触りに、「ルーちゃん」と声をかけると、ぎゅにぃ~といったかんじに形が変わり、ベビースライムぐらいの大きさの黄金のスライムになった。

本当に金の延べ棒を溶かして丸めた感じで、とてもきれいだ。

ただ、ふるふると震えていて、なんだが、

「弱っている?」
「分かりますか!?」
「ええっ、なんとなくだけども」

顔が近くてドキッとしてしまった。
そしてさすがスライム使いでもお嬢様、いい匂いがしやがる。

「この子が弱っているのですが、実はどうすればいいか分からなくて何かいい方法がないでしょうか?」
「うーん、普通にスライム食わせるとか?」

正直、スラオが元気じゃなかった時がないので微妙に分からないが、それでもスライムを与えると喜ぶので効果はある?はずだ。

「スライムを食べさせる?! 死体でもいいのでしょうか!」
「えっ、どうでしょう。生きているほうがいいような気が…」

スラオは生餌しか食わないしな。

「そうですか、じゃあ冒険者にお願いしてスライムを捕まえてもらわないといけないですね」
「ああっ、それでしたら1体作りますよ」
「えっ、つ、作る?!」

リティちゃんと言ったか、最初はキリっとした感じでいかにも優等生といった感じの印象を受けたが、なかなかどうして反応が可愛いじゃないか、とタイチは思った。

「スライム精製」

手のひらに魔力を集め、それが塊となってベビースライムのいっしょあがりよ!

リティの瞳が驚きに見開かれる。

「す、――――」
「すごいじゃないですか、タイチさん!!!僕それ初めて見ましたよ!なんでもっと早く見せてくれなかったのかな~ぐへぇ」

迫ってくるトゥーゼルを肘でどかしつつ、リティにベビースライムを渡そうとしたところで、ふっとタイチは思った。

「………なにか問題でも?」
「いや、考えてみればそのゴールデンスライム、えっと」
「ルーちゃんです」
「ルーちゃん、だとこのベビースライムに逆に喰われちゃうかも。弱っているみたいだし」

考えてみればスラオは、スライム喰極のおかげで負けることがないが、ルーちゃんにはそんなスキルはないしな。
逆にたくましいベビースライムに食べられてしまうかもしれない。

「そのスライムは召喚とは違うのでしょうか? 命令で動かないようにするとか」

つまり抵抗せずに喰われろと?可愛い顔して結構エグイことを言うな。

スライムの研究をしているというからマッドサイエンティストなのかもしれない。

「完全支配出来てないんだ」
「そうですか、でしたら戦わせることになるのは危険ですね」

大事そうに両手で包まれている黄金のスライム、何かないかと思案すると一つ思い当たるスキルがあった!

「あっ、一個あるな。そのルーちゃん、ちょっと触らせてくれない?」


タイチがそういうとリティは聞くようにトゥーゼルパパに目配せをする。

トゥーゼルパパは瞑目し、深く頭を下げる。
どうやら許しが出たようだ。

「気をつけてくださいね」とリティがゴールデンスライムを渡してきた。

触れ合う指と指とさすがお嬢様、スベスベで綺麗な指だ。

ゴールデンスライムのルーちゃんの感触は、硬くて金属の冷たさを持っている。

見ているタイチがその黄金のボディに移りこむほどにつるつると表面だ。

・スライムタッチエナジー
 スライム精製の派生スキル、スライムを精製するマナを用いて回復や成長を促すことが出来る。

このスキルであれば。

タイチが念じると、スライムを精製するときのように魔力が集まり、

その光がルーちゃんへと吸い込まれていっているのが分かる。

目の前のリティが信じられないといった感じで、息をのむ声が聞こえる。

こんなものか。

終わると少し疲れた。たぶんスライム1体分ぐらいの魔力は注いだと思う。

疲れたためかもしれないが、ルーちゃんも重くなった気がする。

すると、ルーちゃんはスラオのように振るえ、ぴょん!と飛び跳ねてリティの手元へと戻っていった。

「ルーちゃん!!」

リティがルーちゃんを抱きしめるように頬ずりしている。

「凄い、本当にすごい!ルーちゃん元気になりました」
「タイチさん、よくやってくれました! どうです、父上!これでゴルスラ家も安泰です!」

わきゃー、喜ぶ二人を置いて重くしい沈黙を保っていたトゥーゼルパパは目を開いた。

「タイチ殿。試すようなことをしてすまかった。この通り、謝罪する」

ロマンスグレーの白髪頭が深く机につきそうなほどに下がった。

「いえ、別に」とタイチもなぜか頭を下げてしまう。

くっ、これが日本人の習性かとタイチはすぐに頭を上げる。

それに合わせてトゥーゼルパパはゆっくりと頭を上げた。

「ミスティー、すまないがお茶を。長い話になりそうだ」
「それでしたら、父上。本日はタイチさんに命を救われたお礼として歓待の宴を準備していますよ!」
「そうか。酒が入ったほうが深い話も出来よう。では今夜は私も参加させてもらうとしよう」
「ぜひ、父上」

どんどん話が進んでいく。
といか今日、歓待の宴とか聞いてないぞ!

俺が冒険に出かけていたらどうするつもりだったんだ?

そんなことをタイチが思っていると、

「では、タイチさん。それまでスライムについて語りませんか、私の部屋で」

ぜひ色々とお聞きしたいです!と目を輝かせるリティ。

私の部屋?リティの部屋…………………………つまりおおおお、女の子の部屋!!!

それは、いい!すごくいい!

異世界の女の子部屋GOだ!とタイチが返事しようとすると、トゥーゼルパパが先に答えた。

「やめなさい。リティ、タイチ殿はスキルを使用しているんだ、疲れもするだろう」

いや、そんなことありませんよ。息子ともども元気いっぱいですよ!

「でも、お父様。殿方のお話が始まったら、スライムのお話ができないではありませんか?」

ぶーたれるお嬢様。そうだ、頑張れリティ!とエールを送るが、トゥーゼルパパに一喝されてしまった。

「リティ、お前は学園から帰ってきたばかりであろう。そのままで宴に参加する気か?準備なさい」

はいと項垂れるリティに、それにとトゥーゼルパパはわざとらしく間をあけて

「タイチ殿は、どこにも逃げんよ」などとひげをしごきながら、笑みを浮かべてくる。

くっ、なんだこの逃げなさい!オーラは、それにリティもそれもそうですね!とにこやかにこちらに無邪気な笑みを向けてくる。

まぁ別に急ぎの用もないし、一日や二日ぐらいならと思ってしまうタイチであった。


「では、タイチ殿。今夜また。トゥーゼル、話があるちょっと来なさい。エフォート後は頼んだぞ」
「はい父上。ではタイチさん、また今夜」

とトゥーゼルが満面の笑みを浮かべてトゥーゼルパパとともに出て行った。

「ではミスティー、リティ様をお願いします。私はタイチ様をお部屋にご案内致します」

ミスティーさんはん?と一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに取り繕い「かしこまりました、エフォートさん」と頭を下げた。

エフォートさん、癖っ気気味の緑の髪、緑の瞳とファンタジーな色合いを醸し出している、メイドさんだ。
トゥーゼルパパについていたし、格ではエフォートのほうが上なのかもしれない。

「タイチ様、滞在中は私がお世話させていただきます。エフォートと申します。なんなりとお申し付けください」

優雅にスカートをつまんで挨拶するエフォートさんは、まるで貴族の子女を思わせる優雅さだ。

だというのに、ぶるんと揺れる二つのスライムのように大きな果実が淫靡さを醸し出している。

何なりとお申し付けしたくなってしまう。

「こちらどうぞ、タイチ様」

ドアを開けエスコートしてくれる緑髪メイドさんに促されて席を立つタイチに、

「後で色々とお話させてくださいね」とリティが話しかけてきた。

やれやれ、もてる男はつらいぜ!と思いながら、タイチは髪をかきあげ、

「ああっ、またあとでね」と決めながら、エフォートとともに退出した。

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スラオ保持スキル
・スライム喰極
・擬態(砂、石、皮装備、葉、ミスリル鋼)・形成(砂、石、ミスリル鋼)限界+突破
・吸収
・ストーンバレット、ミスリルバレット、ウォーターバレット、ウォーターカッター
・スライムポケット、ポケット(中)、ウォーターポケット(パイント、クォーター、ガロン)

タイチ保持スキル
・スライム精製th2
・スライムスキル鑑定士
・スライムパシーth2
・スライム合成
・スライムタッチエナジー
・スライム図鑑
・スライム鑑定3th

・アウ?(不在)

スライム図鑑 11/151
※オリハルコンスライムは死骸を加工したもののため、図鑑には登録されていません。


美少女ちゃん封印解除まであと141種。

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