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冒険者ランク

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「あっ、タイチさん!」

こちらを見つけたのか、手を振る金髪の少女エマちゃんだ。

朝日が昇りはじめ明るくなってきた通りにあって金髪と笑顔がキラキラと輝いている。

全くいい朝だぜ。

「おせーぞ」とぶっきらぼうな少年の声。

お前がいなければな、とタイチは皮鎧で身を包んだ少年リアムを見た。

ツンツンと立った髪に、少年の面影が残る童顔をしかめっ面にして精一杯背伸びしているようだ。

「おはようございます、タイチさん」

リアムとは打って変わって神官服に身を包んだエマちゃんは笑顔で挨拶してくる。

それだけで心のHPは満タンだ。

「おはようございます、スラオさんも」

「……………」

「おはよう、エマ。ほら、スラオも挨拶しろ」

「……………」

寝ているのか、スラオは無反応だ。

「スラオ、おい!おい!」
「まぁタイチさん、朝も早いですし。寝ているのかもしれませんから、起こさないでおきましょう。これから一杯活躍してもらいますから」
「悪いね」
「けっ、そんなんで本当に大丈夫かよ!」
「もう、リアム。そんな言い方しないの!ちょっとリアム!」
「ふんっ、準備できてるだろ、行くぞ」

そう言うとリアムは手を頭の後ろで組んでまま歩き出した。

「ご、ごめんなさいね。昇格がかかっているクエストなのでちょっとピリついてて」

申し訳なさそうに眉根を寄せ、縋るように錫杖をぎゅっと掴む少女にタイチは微笑みかける。

「まぁ気にしないで。俺も本当に役に立てるか分からないしね」
「いえ、そんな! スラオさんは、タイチさんは十分お強いですよ。私たちこそ足手まといにならないように頑張ります」

錫杖の銀装飾をじゃんじゃんと鳴らしながら両手で握りこぶしを作るように杖の柄を握る様は見ていて微笑ましい。

可愛らしい妹が出来たようで守ってやらないといけないと思わせる。

「おーい!早くいくぞ」

リアムの不機嫌な声にどやされながら、エマとともにタイチはミクマリアの東門から外に出た。





草原、緩やかな丘陵が続くのどかな道、


それを馬車に乗りながら、陽光は馬車の布で遮られ、風が吹き抜ける。
快適な旅にリアムは詰まれた藁の上でどうどうと仰向けになって寝ている。

最初は一様護衛なのよ!ぷんすかしていたエマであったが、錫杖を杖のよう立てたまま、うとうとと船をこぎだしている。

無理もないこのお昼寝に最適な環境が整っている、なおかつこの360度開けた丘陵地帯にあってはモンスターの出現もほぼないとのことで、小鳥のさえずりに警戒もつい緩んでしまう。

本来、歩いていく予定であった道のりであったが、たまたま近くの村の住人が村へと帰るところ居合わせ、護衛をする代わりに送ってくれることとなったのだ。

こんなのどかな道だ。護衛というよりも小さいこの男女を心配で送っている気もするなーと御者台に座る人が好さそうな初老な村人をタイチは見やる。

風が荷台を吹き抜け、乾燥した藁の匂いを御者台の先の青空へと運んでいく。

パカパカという蹄の音とその一定の揺れのリズムにいつしかタイチも夢の世界へと誘われいた。


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「私たちとパーティを組んで欲しいんです!」

エマの衝撃的な一言から始まったパーティであった。

立ち話もなんだからだとギルドホームの空いている4人掛けの丸テーブルの一角に腰を据えた。

詳しく聞いたところ、事情はこうだ。


冒険者ランクは全部で7つのランクに分かれおり、

白>青>緑>赤>金>黒>虹の順番になっているそうだ。

それぞれにランク昇格条件が設定されているみたいだ。

白から青にあがるためには、白級用クエストを30回こなすと青級ランクへの昇格試験を受けることが出来る。
それに合格すれば、はれて青級ランクだ。

仮に不合格となると再び白級用クエストを30回受けることになる。

これは新米冒険者のためというよりはギルド的には低位クエストも潤滑に回していくための制度と言えるそうだ。

問題はここから、この二人の男女、神官見習いのエマと軽戦士のリアムの二人は白級冒険者であり、二人で30回のクエストをこなしてはれて青級ランク昇格試験を受けることとなったそうだ。



出された試験の内容もといクエストがこれだ。


【青級昇格試験クエスト】

クエスト内容:
①レギオンアントの巣跡にてスライムが大量発生していることのへの調査。スライムの数、種類、生態などをレポートにまとめること。
②スライムの討伐の証、一体以上
③このクエストは3人以上で望むこと。


「本来なら、俺たち2人で十分なんだよ」

拗ねたようにリアムがそううそぶく。

クエスト内容の③このクエストは3人以上で望むこと。があるために俺を誘ったのかとタイチは納得した。

「そ、それだけでありません!」

数合わせで誰でもよかった。そうタイチが感じたと思ったのか、椅子を倒す勢いでエマが立ち上がる。

「おい、気を付けろよ」
「ご、ごめんなさい」とエマは椅子を引いて再び座り、コホンとこぶしを唇に当ててわざとらしい咳払いをした。

「私たちがタイチさんを誘ったのはもちろん③の規定があるということもありますが、それだけでは決してありません」
「私じゃなくて、エマが!だけどな」
「もうっ、話の腰を折らないで!」

エマがぷくっと頬をふくまらして、めっとするように指を突き詰めると、ふんっとリアムは押し黙った。

もうすでに尻に敷かれているようだ。

「えっと私たちがタイチさんを誘ったのはスライムの専門家というのが一番です!」

エマ曰くこのクエスト自体の内容は決して難しいものではない。
仮に適当に一人荷物持ちを雇って3人でクリアしたということにしてしまってもいいわけだからだ。

「ただクリアしたからといって試験に合格できるわけではありません」

エマの説明は続く。

試験はクエストとその後の面接によって合否が分かれるそうだ。

そこで今回のクエストの意図を理解できているかがポイントになるとエマは考えているみたいだ。

今回のクエストの意図、それは二つある。

1つクエストの内容よっては普段組まないパーティメンバーでも組む必要があるためのいわば他人を入れる練習。
それと加入メンバーの能力はもちろん、パーティメンバーとの相性などを考慮する。

ランクが上がれば、おのずとクエストの難易度も上がってくる、そうすればパーティからレイドへと大人数の作戦もあるだろうということだろうとのことだった。


うん、なんていうか、真面目だ。とタイチは思った。

たぶんギルドにそこまでの意図はないんじゃないであろうか。と言う気がしないでもないが、

どうでしょうか!?と自分の推論の肯定してほしくて目をキラキラとさせているエマを前にしては言えるわけもなく


「なるほど、俺もそう思うよ。俺でよかったら、二人に協力するよ!」と言った。

すると、エマははぁーと大きく息を吐き出すと、破顔してよかったぁーと言った。

「断られたら、どうしようかと思いました。これからよろしくお願いしますね」と手を指しだされ、タイチはこちらこそと握り返した。

ぷにぷにとして柔らかい女の子特有の手であった。いつまででも握っていたい感触であったが、

「いつまで手を握ってるんだ、このヘンタイ野郎!」とリアムが手を引きはがしにかかる。

「リアム! タイチさんに失礼でしょ!!」
「このヘンタイ野郎が、ねぇ、―――エマの手を厭らしく握って鼻の下を伸ばしてやがるから」
「そんなことわけないでしょう!」エマがこちらを振り返と同時にタイチは顔を引き締める「すみません、タイチさん」と申し訳なさそうにするエマに、「いえいえ恋人が心配なのでしょう、構いませんよ」キリッ(`・ω・´)と返した。

「「こ、恋人じゃないありません!」」

二人は顔を真っ赤にして、ハモッって否定した。

うん、爆発しろ。と心で思いながらタイチは、笑ってごまかした。


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「おっさん、おい。おっさん、このヘンタイ野郎が!」

浴びせられる罵倒、頭上から注ぐ言葉の数々にタイチは目を覚ました。

「や、やっと起きやがったか!さっとスライムをなんとかしろ!」
「あん、スライム~?」

どうやら寝てしまっていたようだ、顔に張り付いた何本かの藁を放り捨てながらタイチは答えた。

「ね、寝坊てるんじゃない、このヘンタイ野郎」
「なんなんだよ、さっきからスラオ~」
 
呼びかけるとぶるりと、スラオは震えるとこちらにじゃれつくに体を引きのばして顔をぺたぺたと触ってきた。

よしよしとスラオを撫でながら、外を見るとどうやらそろそろ日が沈むようで、スラオの透き通った体は太陽の光を反射して赤銅色に輝いていた。

綺麗な色だな~と思いつつ、タイチが周りを見渡すと、馬車は止っているようで、
積まれた藁の上になにやらわめいているリアムと、馬車の隅にこちらに背をむけて座っているエマが見えた。

見習いとはいえ神官らしく何やら熱心に祈りをささげているようだ。

「見ていません。私は何も見てはいません」

何やら不思議な祝詞をささげているようだ。

「この露出狂が!早くしまえ」

リアムの叫びにタイチはようやく気づいた。

スラオも寝ていたのだろう、通常形態に戻り、体を本来のスライムのように引きのばす。

すると、半透明なスラオの体からは肌色成分が存分に透けて見え、まるで夕方に雨が降る。

いわゆる夕立なマイリトルサンが、やぁやっと目を覚ましたのかい?とこちらに手を振るように揺れていた。

「スラオ、皮装備擬態だ」

スラオがぶるりと震え、まるで背を伸ばす様にむにゅーんと体を伸ばすとタイチの体に巻き付いて皮装備そのものになる。

「いや、失敬失敬。だめじゃないか、スラオ。ハッハハハハハハ」とタイチはとりあえず笑ってごまかす反応を示した。

リアムはその童顔な顔に青筋を立てて、今にも切りかかってきそうだ。


「えっっと……エマさん」


祈るその姿をそのままにエマが答える。

「私は何も見ていません」
「そう、それはよか―――」
「―――ただ、その」

一拍の呼吸をおいて、エマが続けた。

、と思いました」

「お前はここで切り殺す!」
「ばか、やめろ。まじで危ない」


斬りかかってきたリアムからタイチは馬車から飛び降り、逃げ出したのだった。














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