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冒険者ギルド

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GS商会を出てすぐミスティーさんに教えてもらった通りの道を、といっても一本道だがを進むと冒険者ギルドを表すというマントに翼が生えただけという変わったエンブレムが掲げられた建物が見えてきた。

大きく時放たれた入り口からは、疎らに人が出入りしている。

大丈夫だよな。

タイチはペタッペタッ、と体もとい自身の纏っているだけの服を触る。

皮のブーツに、カーキ色のズボン、薄茶色のシャツの上には皮のベストをつけている。

駆け出し冒険者や軽戦士が好みそうな一般的な皮装備。

皮独特の鈍いテカりの質感、ぱっと見は皮装備に違いない。

タイチがそれをつまみ、引っ張るとぐにーと皮ではありえないゴムのようにそれが伸びる。

そうこれは皮装備に擬態したスラオなのだった。

GS商会にして、貰った皮装備であったが、身につけたところ着たところ。

身につけた装備品の数々を溶かして食ったのだ!

そのせいでお着替えを手伝いに来てくれたミスティーさんにはナニを見せることになった挙句、転んで押し倒してしまい、まるで今から踏み潰す虫を見るような目で「お戯れはやめてください」と罵られてしまった。

あまりの眼光の鋭さにハァハァする暇もなく平伏したほどだ。

おかげさまで、本来付いて来てくれるはずのミスティーさんから一人で行けますよね?と言われてしまいこうして一人で赴くことになったのだ。

タイチはペタッとペタッと見た目皮装備のスラオを触りながら、ため息をつきつつ、ギルドへと入った。

身の丈ほどある剣を背中に背負ったいかつい男とすれ違いながら中へ、見た目かっこいいけどあれ絶対抜けないだろうと思いつつ、人が集まるカウンターへと並ぶ。

なかなかに広いホールだ。

ホール真ん中にはマントに翼を生やした巨大なモニュメントが置かれ、マント部分には依頼書だろうか紙が大量に貼られている。

そのモニュメントを中心に左右対称のアーチを描いた階段があり二階へとつながっているようだ。

そのモニュメントを中心に入り口を背に右側にはソファーや椅子などが乱雑に置かれ疎らながら話に興じている人たちがいる。

傭兵のような人もいれば、商人のような身なりのものもいて多種多様で簡易的な打ち合わせスペースなのかもしれない。

次に左側には、長い木のカウンターで、5人ほどの受付嬢たちがそれぞれに形成された列を捌いていた。

奥にはスペースがあるようで本棚たそれに忙しなく往き来する人たちが見える。

タイチはぱっと見一番可愛くて胸が大きい受付嬢のところに並ぶ。

やはり一番人気なのか、列は長く他の列の後から並んだ連中に追い抜かれていく始末だ。

まぁ特に急ぎでもないからいいのだが、列は牛歩のように進んでいき、いよいよあと一人というところで、お待ちのお客様どうぞ、と隣の受付嬢に声を掛けられてしまった。

くっ、あと一人だったのに!タイチは気がつかないフリをしようとしたが、「早くしなさい!」と鋭くいわれ、渋々とタイチは隣の列に動く。

「全く、私たちは酒場の娘か何かと勘違いしているのでしょうか。でご用件は?」

まるでこちらが用もないのに巨乳受付嬢に会いに来たみたいな言い方だ。

まぁ次からはそうなるがな!

隣の受付嬢、短い鮮やかな青い髪に、薄い銀の縁のメガネをかけていかにも知的でクール、高飛車!という好きな人には堪らないタイプの女性だ。

ちなみにタイチは柔和で包み込むような胸が大きい美少女ちゃんや隣のおっぱい受付嬢のような子がタイプだ。

「冒険者登録に。これ紹介状です」

ミスティーさんから蔑んだ目で見られながら、渡された茶色の羊皮紙を思わせる紙に赤いロウの押韻が押された大層に丸められた紙を渡す。

「拝見します」と青髪受付嬢は両手で受け取って封を開け、読んでいく。

紹介状を盗み見てみると、英語のような筆記体のような文字が書かれていた。

どうやらここの世界の文字は読めないようだ。
仮に英語だとしても読めないがな。

「おい、メルシー今日は何時に終わるんだ?」
「まだまだお仕事ですよー。これ清算しちゃいますねー」
「だめだ、今日こそは付き合ってもらうぜ」
「左様。冒険者とギルドの親睦を深めるのも重要な仕事かと」
「女の子に強引は、だめですよー?」

馬鹿でかい男の声と妙に癪に障る甲高い声に、間延びした女の声。

あのおっぱい受付嬢はメルシーと言うらしい。
タイチは心のメモ帳に書き込んだ。
 
どうやら男たち二人組がナンパしているようで、メルシーはそれをのらりくらりとかわしているようだ。

見るからにモテそうだ、慣れているのかもしれない。

すると、ガリガリガリと目の前から歯ぎしりをするような音が、今度はなんだとタイチが見れば青髪受付嬢が紙が破けるんじゃないかというほどの筆力で羽ペンを走らせていた。

「紹介状をお持ちですのでこちらで必要書類を代筆します。いちおう確認を名前は?」

何やら怒っているようだ。見るからに真面目そうで、ああいうのが嫌いなのかもしれない。

「スガ タイチ」
「年齢は?」
「17」
「性別・種族は?」

見ればわかるだろう!とは怖くて言えないので、
「男、ヒューマンです」と素直に答える。

「最後に、ロールについてですが、……………スライム使い!ということでよろしいですか?」

妙にはっきりと【スライム使い】だけ大きな声で言われたのをタイチは、「あっ、はいそれで」と何気なく答える。

……………なんだ、そして妙な違和感を覚える。

静かなギルドに、青髪受付嬢のガリガリとした羽ペンが走る音だけが聞こえる。

そこでタイチは違和感の正体に気づいた。

そうギルドが静かなことに……………さきほどまで好き放題に騒がれ喧騒が取り巻いていたのに、襲る襲る周りを見渡すと、好奇を張り付けたような目、目、目、目、視線に取り込まれていた。

「お前、スライム使いなのか?」

さきほどメルシーをナンパしていた胸に七星の傷がありそうな筋骨隆々の男が近寄ってきた。

やめて、来ないで。目を合わせてはいけないタイプの人だ。

「そ、そうです」

か細い声で答えながら、タイチは視線を逸らす。

「へえ!そうかい、面白れぇースライムを見せてみな」
「……………無理です」
「俺様には見せらないっていうのかよ!」
「いや、そうじゃなくて」


飛んできた唾が顔にかかり、最悪だ。

それでもタイチにはスラオを見せらない理由があった。

そうスラオは今、タイチの服として機能しているのだ。

ここでスラオを見せるということは、マッパもしくは半透明肌色ボディを見せるということだ。

そんなことをしたら、この騒動にも同時にガリガリとペンを走らせている青髪受付嬢にどんな視線を送られるか、わかったもんじゃないし、何より恥ずかしい。

メルシーちゃんもぽけっーと見ているし。いや誰か呼んできて!

「ふんっ、スライム使いなどと……………この町の起源を知って少しでも注目をしようとする輩でしょう」

「どっちでもいいんだよ!それより見せるのか見せないのか!!なんだ、ボソボソ、何を言ってやがるんだ、ああん!」

頭まで筋肉で出来てそうなダンゼムという男がタイチの胸蔵を掴もうと、手を伸ばすとパシッと弾かれる。

スラオが触手のように体を伸ばし、男の手をはじいたのだ。

(スラオ、余計なことをするんじゃない!)とタイチが念を送るものの、時すでに遅し。

「この野郎ぉおおおお」

とダンゼムが額に青筋を立てるテンプレートな怒りを露にしてくる。

ダンゼムが拳を掲げた時、すっーと肩口辺りから、スラオが触手のように体を伸ばし、広げ男を威嚇しだした!

おかげで皮装備に見えていたものは色はそのままだが引き延ばした絵のように歪になってしまった。

つまり、

「うわ、スライムだ!」
「擬態していたのか!」
「てか、裸ってことじゃなん、変態だ!」
「うわ、体にスライムを纏っているのかよ」
「きゃー!最悪!!」

服がスラオをだとバレて阿鼻叫喚の渦だ。泣きたい。

ギルドなんて来るんじゃなかったとタイチは後悔し始めていた。

「本当にスライムなのかよ。おもしれ―、表でな!」

なんでだよ!この脳筋野郎! そこは気持ち悪い帰れ、それなら見逃してやるていう流れだっただろうが!

心の中で抗議の叫びを上げるタイチとは裏腹にダンゼムはにやりと凶悪な笑みを浮かべている。

どうにかこの場を凌げないか、タイチは逡巡し、

「……ぼ、冒険者同士のいざこざは良くないだろう!」

となんとか言い訳を絞り出す。さらにこの中で一番の常識人であろう、青髪の受付嬢さんに目を向けるのも忘れない。

青髪の受付嬢さん書類を書き終わったのか羽ペンを置くと、

「書類作成は終わりました。では続いて冒険者ランクの査定ですが、紹介状には30体ものゴブリンを同時に相手取り殲滅したとありました」

トゥーゼル、盛りやがったな!この場合、完全に有難迷惑だ。

案の定周りの反応も、

「マジかよ」
「スライム使いってそんなに強いのか?」
「ていうか、スライムってゴブリン倒せるの?」
「嘘だろ、せいぜい1体、2体だろ」

ダンゼムも益々、その笑みを凶悪にしていく。

「へっ、面白いじゃないか。なら冒険者のランクは強さの証。おれが試験官を務めてやるぜ」
「そうですね。ではダンゼム氏との戦う様子で査定させていただきます」

と青髪受付嬢さんは言った。

なんでだよぉお!試験というよりただの喧嘩じゃないか止めろよ!

「メルシー少し待っててくよな。こいつをボコったら、飯にでも―――」

「メルシーなら、仕事終わりましたーとかいいながら、帰って――――ウブッ!」

ダンゼムという脳筋野郎は、近くにいた冒険者の男を殴り飛ばすと、肩を怒らしてこちらに来た。

「さっさと、出ろ。殺してやる」


完全にフラれた八つ当たりじゃないか!!という叫びがタイチの心の中でこだました。










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