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一色間

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男たちの怒声が飛び交う荷捌き場を出て中に進むと白い壁、鏡のように輝くフローリングの床が出てきた。

それを踏みしめながら、ここで待っててください!とタイチは一室に通される。

ソファーと机が置かれた所謂応接間のみたいなところだ。
言われたとおりタイチは、ソファーへと腰を下ろすとぶかりと体が沈んだ。

きっと、このソファー高いんだろうなと思いながらタイチは、部屋を見渡す。

絹に、カラフルな糸が編み込まれたカーテン。何らかの紋様を描く花刺し、壁にはグリフォンだからライオンに翼と蛇の尾を足されたモンスターが躍動的に描かれている。

調度品一つをとってもどれも高級そうなオーラがプンプンにしてくる。

トゥーゼルはやっぱりボンボンなんだなとタイチは改めて認識した。

しばらくするとトゥーゼルが戻ってきて椅子に腰を下ろす。

「タイチさん。すみません、父も妹も帰ってくるのに一色間いっしょくかんはかかるそうです」

もしわけなさそうに言うトゥーゼル。

一週間か結構かかるな。
別にトゥーゼルパパに用ないので、構わないがスライム使いである妹さんには是非会いたかった。

その間どうするか、タイチが考えようとした時、コンコンと扉をノックする音、それにトゥーゼルが答える。

「失礼致します」とメイドさんが入ってきた!

ガラガラと銀のゴンドラを引いて、黒字に白いエプロン、ロングスカートといった正統派な出で立ちだ。

眼の前に高そうなティーカップをおいて注いでくれる。

なかなかに若い、金髪の髪はまとめられていてかけられたメガネが品性と知性を感じれる。

リアルメイドさんに感動するタイチであったが、当然トゥーゼルにとっては珍しくもなんともない生まれたときにはすでにいたのだ。

ところでと、話を戻す

「結局ユミル結晶石はどうするんです?」

ユミル結晶石、あの鍾乳石だ。
トゥーゼルは妙にこれに拘るな。少し勘ぐってしまうが、

「うーんそうだな。色々と買いたいし、トゥーゼルに売るよ」

それが一番だろう。
高く買ってくるっていうし。まったく知らない商人に売るよりは安心だ。

「ありがとうございます。入り用とのことですが、具体的に何を?」

「うん、まぁ装備とか服とかとりあえず旅に必要なもの一式かな」
「おおっ、それでしたら我が商会でも取り扱っておりますよ!どうでしょう?こちらで一通り揃えさせますので代金から相殺させていただくのは?勿論、お安くしておきますよ」

なるほど、金で買うより自分たちの仕入れた商品で払おうとなかなかに、商売上手だ。

そのままお願いすることにした。

「それで頼む。服とかこの街の一般的なやつで。装備も駆け出しの冒険者的な、軽戦士向きなやつで」

なにせゴブリンよ攻撃も意に返さないスラオがいるんだ、武器も防具も護身用程度でいいだろう、安上がりだろうし。

「武器にしてはそのように防具に関しては、タイチさんにピッタリのものをご用意出来ますよ。その名前もスライム装備です」
「スライム装備?!」

そんなものがあるのか!一体どんな装備なんだ。

トゥーゼルによると、パーツの殆どにスライムの素材、といえば聞こえがいいがようはスライムの死骸をふんだんに使ったもので、服を難くなに着ない妹用に作らせたのが始まりのようだ。

ただ当然一般的に需要は当然なく一部のマニアが好む程度で基本的にはオーダーメイドになるそうだ。

これも一週間ぐらいかかるそうだ。まぁ当然と言える。

「とりあえずそれを頼む。それとここらに珍しいタイプのスライムがいたりしない?」
「珍しいタイプのスライムですか、そうですね。ここらというかスライム自体がそんなに。。。ドワーフの鉱山跡になるのですが、ミスリルスライムが出ることがあると聞いたことがありますね。他には、ミスティー何かしらないかい?」

スライム自体に関心がないのだろう、当然だが絞り出すように出たミスリルスライムというのは初めて聞いた。

ストーンスライムがいるくらいだから、鉱石系で攻めていくのも正解かもしれない。
オリハルコンやアダンタイトみたいな感じでアップしていくみたいな。

お役に立てるかは分かりませんが、と前置きをおいてそばに控えたメイドさん、ミスティーさんというらしいが口を開いた。

「レギオンアントの巣のがあったところにスライムが大量発生しているという噂を街で耳にしましてございます。トゥーゼル様」

スライムが大量発生だと?!

それを聞いて、スラオもまるでおやつ!と言われてたポチのようにムクリと股間部に張り付いた体を起こした。

「それってここから近いんですか?」
「ここから2色日ほど歩けばつくそうですよ。大森林の手前にあるそうです」
「ありがとうところでさっきから言っている色ていうのは?あれ?」

何気なく聞いた言葉。それにミスティーさんはキョトンとして、引き締まっていた顔が素に戻っている。
それからトゥーゼルと顔を見合わせる。

どうしてそんなこと聞くんだろうか?みたいな???を頭に浮かべたようは不思議そうな顔をしながら、ミスティーさんは詳しく教えてくれた。

白、青、緑、赤、金、黒、虹

全部で7色の月が世界にはあり、それが暦と季節をあらすそうだ。

それにちなんで1週間をこの世界では1色間と言ってるみたいだ。

月が上って月があがるのを56回繰り返すと月は次の色へと変わると言われている。
つまり地球で言うところの一月は8週間という2か月分ということだろう。

1年感も6か月で白月、青月、緑月、赤月、金月、黒月の6つだ。

じゃあ虹はなんだというとなんでも4年に一度すべての月が現れるそうで虹の月日と呼ばれているそうだ。

ここらへんはファンタジー世界って感じだな、

話をまとめると、先ほどのスライムが大量発生しているというモンスターの元巣へは2色、つまり2日かかるということだ。

歩けば2日の行程を近いと表現するあたり魔法でのル〇ラ的な移動手段はないのかもしれない。

「詳しくどうも」
「いえ、お役に立てたようで恐縮です」

なんでそんなことも知らないんだという雰囲気だったが、特段そこは突っ込んでこなかった。

正直ありがたかったので出来るメイドさんだ!とタイチは思った。

「じゃあ、待っているのも暇だし。ちょっとそこに行ってみるよ」

何もスライムを作らないといけないというわけでもない。
見つけてもいいと、美少女ちゃんは言っていた。

ああっ、美少女ちゃん。最近ご無沙汰。

……………そう思うとタイチは体がうずうずしてきた。

「ちなみにタイチさんは冒険者ギルドに登録されてますか?」

冒険者ギルド!

「あるのか、そんなものが!」

「ええっ、辺境とは言え都市を名乗っていますから、当然ですよ。どうせ行くなら、冒険者登録してから行ったほうがいいですよ。たぶん何件か調査系のクエストも出てると思いますから、報酬ももらえて一石二鳥です!」

何もなかったとしても、報酬は貰える。

なるほど、絶対に損をしない商人の考え方だとタイチは感心するとともに興味を持つ。

なにせ、冒険者ギルドといえばゲームでも漫画でも定番だ。

仲間と共に多くの困難を達成してランクを上げ、金と名誉!を手にするだけではなく、

女冒険者は勿論、ギルド受付嬢や酒場のウェイトレスなど様々な可愛い女の子と仲良くなっていくのだ。

まさに冒険と宝に女とまさに男にとっての夢のような職業だ!

「登録するには何をすればいいんだ?」

こういうのだ、試験とか受けないといけないんだよなー。

スラオは武器としては認められるのだろうか?

「そうですね。一応試験がありますが、基本的にはお金を払えばだれでも登録できますよ。タイチさんは恩人ですし、こちらで紹介状をお書きしましょう。面倒な手続きはしないですむと思いますよ。ミスティー、用意してくれ。それとスライム装備が出来るのまでの間、代わりのものをこしらえてあげなさい」
「かしこまりました、トゥーゼル様」

僕は別件とタイチさんの歓待の準備を整えますので、今日はこのへんでまたお会いしましょうとトゥーゼルは朗らかな笑みを浮かべながら退室していった。

すると「では、タイチ様もこちらに」とミスティーが別室へと案内してくれた。

そこで装備などをくれるらしい。

本当に至れり尽くせりだ。


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