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河川都市ミクマリア

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白い月がその巨大な姿を消し、太陽がその座に返り咲くと共にタイチは目が覚めた。

強い太陽の陽光に目を覚ましたが、まだ眠い。
なにせ昨日は夜遅くまで激しかったか。

主にスラオの死闘が。

あくびを噛み殺すこともせずにタイチは大きくかいて寝ぼけた脳に酸素を送ると徐々に覚醒してきて昨日の出来事がありありと思い出してきた、そう昨日はアウのハルを買おうと。

アウ?!

船を見渡せば、すでに起きているようできゅうーと鳴く角の生えたピンクのイルカもといフィンコーンに謎肉を与えていた。

そんなアウの背中にタイチは、恐る恐る声をかける。

「お、おはようアウ」
「……………」

アウは振り向きもせずに、話しかけるなという怒気のオーラが立ち上っているようだった。

そんなアウにタイチは、膝と額を船倉につける。
謝罪の最上位。いわゆる土下座だ。

「昨日はすまなかった!スラオがどうしても言うことを聞かなくって!あっスラオていうのは俺の股間部に常時張り付いてるこのホモスライム野郎で、ひぁっあはん!ヴァイブブブブぶぶ、レーション、らっめぇ!」

スラオが突如鳴動を始める。

小学生の時にふざけて掛け合った電気あん摩のような振動にタイチは、言葉を遮られる。

(やめろスラオ。分かった、ホモスライムといったのは謝るから!)


股間部を押さえつけながら、のたうち回るタイチをまるで虫を見るような侮蔑の色を隠そうともせずアウが見下ろす。

「ヒトリデ、ヤッテロ」

一言にて寸断される。

違うんだ、アウ!。俺の話を聞いてくれ、本当にこのホモスライムやろうがががががっ!

「ちゃ、チャンスもくれ。絶対にスラオをどうにかしてみせる!だからアウのハルを!」

タイチが声を振り絞って買わせてくれ!と言おうとしたとき、アウが無情にも首を振る。

「モウ、ツク。ソンナ、ジカン、ナイ」

「そんなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

タイチの絶叫が川にこだました。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジャングルのマングローブのような蔓科植物たちの群生を抜けると川は一気に広がっていった。

まるで海のような広さだ。

どうやら、いくつかの支流がまじりあっているようだ。

それに合わせて帯同していたフィンコーンたちが、きゅいっー!可愛らしい声を上げてジャンプしながら、ジャングルへと帰っていた。

どうやら、ついては来ないらしい。

フィンコーンたちのピンク色のヒレを見ていると、

「あっ、タイチさん。おはようございます」

爽やかな笑みを浮かべるトゥーゼルが挨拶をしてきた。

トゥーゼルは何を勘違いしたのか、ニタニタしながら顔を寄せてきた。

「昨日はどうでしたか?まぁーブリット族は激しいらしいですからね。おっと、これも友人の話なんですがね」

楽しそうに話しかけてきたので、とりあえずぶん殴っておいた。

「いたいなー、いきなり何するんですか?!」

男の癖にトゥーゼルは、手鏡を持ちだし、殴られた頬を見ながらさすっている。

いい気味だ、トゥーゼルに八つ当たりしてタイチの溜飲が少しだけ下がった。

そんなタイチをトゥーゼルはちらりと見やる。

「その反応、……………買わなかったんですね?」

「知らねぇ」

「またまた、どうしたんですか?昨日はあんなに鼻息荒くしてたのに」

「うるせー、もう一発いくぞ」

とタイチが握った拳を示すと、トゥーゼルはうんうんと分かったように頷き始めた。

「分かりますよー、まぁ怖くなることもありますよ。誰しもはじめは――――あぶなっ、殴らないでくださいよ」

「そんなんじゃねーんだよ」

「う~ん、アウさんは見た目幼いですからね黒髪ですし。あっミクマリアに着いたら、娼館にご案内しますよ。人から亜人まで、それこそ金髪から白髪まで選り取り見取りですよ~」

トゥーゼルのその提案にはタイチも心惹かれるものがあった。

異世界の娼館は正直行きたい。きっとボンキュッボンのお姉さんからケモ耳少女まで色々といるんだろうな、俺も奴隷ハーレムとか作りたい!と思うタイチであったが、そこを恨めし気に見つめる。

マイリトルサンを優しく包み込む。ゲルのような肉体。

スラオが俺の脱童貞を阻止する心構えを解かない限り行ってもむなしいだけだろう。

タイチは、諦めから大きなため息をつく。

すると「タイチさん……………もしかして」とトゥーゼルが哀れむような顔をした。

「なんだよ」とタイチが返すと、トゥーゼルは手で制した。

「いえ、皆まで言わなくても。稀にそういうこともあると聞いたことがあります。お任せください、当家にそれに対しての特効薬があったはずです」

「えっ、まじで?!」

「ええっ、当家にもかつてそういう当主がいたとかいないとか。まぁ一定の需要はありますしね」

スラオをどうにかできる手段があるのか……………そういえばこいつの妹はスライム使いと言っていたな!!

だとすれば、スラオを完全支配する方法や一時的に無力化させる方法を知っていてもおかしくない!

なんだ、トゥーゼル。ゴブリン程度にビビってたぐらいだから大したことないのかと思っていたが、なかなか出来るじゃないか!

「よろしく、頼むよ!」

「ええっ、おまかせください」

トゥーゼルと熱い握手を交わしていると、アウが操舵しているようで再び船は帆を張り、加速し始めた。

風受け、帆と同時になびくアウのワンピースの裾野から覗く肌を見ながら、いざ、行かん!新境地に!とタイチは心の中で叫んだ。



河川都市ミクマリア。

トゥーゼル曰くヘルエス連邦王国に所属する都市の一つ。

元々はジャングルへの開拓村の一つであったらしいが、ジャングルの未知の富と巨大な運河が2つの国の国境となっており、その端は海にもつながる交易路を有している。

国の支援と集まる冒険者たち、それにあやかろうとする目ざとい商人たちと、すぐに村から町へ、町から都市へと変貌していったそうだ。

その証拠に、まず見えてきたのは見上げるほど大きな立派な石造りの城壁、川の水を引いているのだろう巨大な水門がその口を開けており、その下には桟橋がいくつも伸びて多くの船が停泊していた。

タイチたち一行もそのうちの一つの桟橋に停泊する。

上半身を裸にして、その日焼けしたマッチョな肉体を惜しげもなく披露する海の男たちが怒声を浴びせあっている。

ちなみにタイチはだが、裸体にスライムを纏っただけというパリコレの度肝を抜く奇抜さを通り越して変質者のそれではまずいのでスラオをマント上に変化させて纏っている。

町に着いたら、まずは服を買おう。

「GS商会のトゥーゼルです」とトゥーゼルが布のようなもの男たちに示す。

身分を証明するようなものなのかもしれない。

「GS商会様ですね。いつもお世話になっておりやす」

すると荒くれただった男たちがペコペコとしている様子から、GS商会というのは結構デカいのかもしれないとタイチは思った。

二、三、トゥーゼルが男たちと言葉を交わすと戻ってきた。

「アウさん、あのデカい船が水門を通ったら、通っていいらしいです。商会までお願いします」

「ワカッタ」

トゥーゼルの言葉にアウが頷く。

トゥーゼルが指さした、デカい船。

タイチが子供の頃に家にあったボトルシップに浮かべてあるような立派な帆船だ。

ガレー船と言ったかもしれないな。

それが通り過ぎると、あちらこちらから小船が水門へと殺到していく。

大型船と小型船を交互に運行させているのかもしれない。

アウも桟橋と船をつなぐロープをはずし、船を走らせる。

果たしてこの水門は閉められるのか?というほぼ巨大な水門をくぐるとまた桟橋が見えてきて、色々な船から人や物が降りている。

そこをアウは通り過ぎて別の水路に向かう。

「普通はあそこで荷を下ろすのですが、うちは専用の水路があるんで直接に商会の荷捌き場に行けるんですよ」とトゥーゼルがさらっとそんなことを教えてくれたが、それって結構すごいことなんじゃないだろうか。

やっぱりGS商会ってデカいのか。よく見ればトゥーゼル自身も商人という割には品があるし、顔もイケメンだ。
結構いいところのおぼちゃまなのかもしれない。

そんな考えをしているうちに船は水路をどんどん進む。

するとどことなく雑多だった景色が、整然としてくる。

立ちならぶ家々がまるで童話に出てくるような赤い屋根のレンガ造りへと変わっていき、遠くとんがり頭の建物からは鐘楼が鳴る音が聞こえる。

木々や可愛らしい花がレンガの壁を彩り、とても美しい。

タイチがヨーロッパの古い街並み、と言われてイメージする、そのものの景色を見ているようだった。

水路をさらに進んでいくと、川に飛び出る桟橋が見えてきた。

そこには多くの船が集まり、怒声も聞こえてくる。

どうやら、ついたようだ。

アウの船を見つけたのか、水門近くにいた男とは違い、ちゃんと服を着た(タイチが言うのもなんだが)
男がロープを投げ込んでくる、それを受け取ったアウが船に結び付けると、男たちが何人か集まり船を引っ張ってくれた。

「トゥーゼル坊ちゃん、おかえりなせー。成果はどうですか?」
 
屈強な体をむりやり押し込めているような、ぴちぴちの今にも弾けそうな白いシャツを着た立派なおひげを生やした男がトゥーゼルに手を貸し、船から降りる手助けをする。

「今回もだめだった。けど、やはりあの近辺にユミル結晶石を見つけた人がいるんだ!それも結構な大きさだよ」
「そいつは、おめでとうございます。坊ちゃん。でっそちらの見えない顔は?」
「ああ、それがユミル結晶石を見つけたタイチさんだよ。しかもスライム使いなんだ」

へぇ~と男は気のない返事をしながらもこちらを値踏みするような鋭い眼光を飛ばしてきた。

怖い。あれは身内以外信用しない顔だ。

恐れるタイチに対して実家に帰ってきた安心感からなのか上機嫌なトゥーゼルがあれやこれやと冒険のあらましを巻くして立てる。

それを聞いて射殺すような眼光が少しは収まる。

「そいつはどうも、うちの坊ちゃんの命を救ってくれたみてーで。タイチ様」
「いや、タイチでいいですよ?」と挨拶を交わしていると、

「グミット、父さんはいるかい? 命の恩人を紹介したいんだ。それに妹のリティはいるかい?同じスライム使い同士が合うと思うんだ」

妙にテンションが上がっているトゥーゼルが捲し立てるのをなだめるように、グミットというらしいダンディなおじさまは手で制した。

「坊ちゃん、落ち着いてくだせー。旦那様は会合で白月中はいないでさー。リティ嬢様はまだ学園からお戻りになってません」
「そうなのか、二人ともタイミングが悪いなー。まぁタイチさん、それまでゆっくりしていってください」


トゥーゼルに連れられ、桟橋から商会内へと案内される。

アウとはここでお別れのようだ。グミットから金銭らしきものを受け取ってアウはこちらを一瞥することもなく船へと乗り込んでいったのが見えた。

くそ、このスライムの封印を解いたら、きっと君に会いに行くからね!とタイチは心の中で誓うのだった。









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