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20話 小豆の能力
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翌日、ステージの上にはずらりと銃が並んでいた。
ベレッタをはじめ、ヨハクが持つAK47やコルトパイソンが複数置かれている。そのなかでも目を引くのが、アクション映画に出てくるような大砲のように大きい銃ライフル型の銃が2丁それに挟まれる形で新品ゆえのなのか光沢を放つヨハクの持つものとは明らかに違うAK47だ。
「じゃあ、今日のフォーメーションだけど」
笹が集まったみんなに説明を開始しようとしたとき、すっと小豆が手を上げた。
「えっ~と、小豆ちゃん。何かな?」
「そのことなんですが、何も全員で行く必要はないと思います。通路のいうほど広くないですし、フレンドリーファイアとか避けたいですし」
それに、小豆は一拍置いてから、
「基本、私がやりますよ。そのほうが早いですから」 と言い放った。
「なっ、」と絶句する笹に対して、ミリオは腕を組んだまま動じず、小豆に問うた。
「早いという根拠は?」
「私の能力は見てのとおり、蛇です。皆さんには黙っていましたが、一部蛇の能力が使えます。具体的にはピット器官。……えっと、ようは害虫(ペスター)の位置が分かります」
「ふむ、なるほど。距離は?」
「階を跨いでは難しいですが、同フロア内なら、薄い壁ごし程度なら見分けられると思います」
「そうか、レーダー付とはありがたい。害虫(ペスター)の位置を教えてくれたら、こちらで対処するとしよう」
「そうですね。マガジンの交換や撃ち漏らしがいたら、お願いするとします」
小豆の頑なな態度に、ミリオはさらに続ける。
「電動ガンとはいえ、数キロはあるぞ。扱えるのか?」
どうなんだ?というミリオの冷たい態度にも小豆はなんでもない。というように涼しい顔で答えた。
「これは次世代型電動ガン アブトマット カラシニコフ47 TYPEIII型。マガジンは90発使用、躍動感あふれるオートで動くダミーカート、本物により近づけるべこのためだけに新塗料を開発して、銃身もストック部分の木目調もさらなる質感とリアル感を再現。この冬発売の東京ゼロイ最新作」
ガチャン、と私を誰だと思っているんだと言わんばかりに小豆はレバーコックを大きく引いた。
さらに驚愕すべきは、
「それとこれは、レジデントデビルという海外のアクションゲームに登場する架空銃、スコヴィル U.02モデル。3シリンダー、フルオート最大・秒間約10発×3バレル=30発。毎分約1,800発を放つ。一度に3発(バレル)を放てることから、 トライデント(三つ又) ランスの異名をとる。こちらは来年の春、発売予定の電動ショットガンですね」
ヨハクも昨夜、そのごつさゆえに少年心をくすぐられて構えてみたが、非常に重く長時間持っているのは無理そうだった。それを二丁、小豆の黄金の蛇が絡みつくように持ち上げて見せた。
トライデント ランス2丁に、AK47を阿修羅のごとく持った小豆の異様な威圧感のままに、「問題ありませんよね?」とにこやかに笑って見せた。
それを見て流石のミリオも腕をほどいた。
「ふっう~。フィールドの妖精は伊達じゃないていうことか。俺たちは援護に徹しよう」
ミリオがそう言い切ると、
「あ、あずきちゃん。無理しなくてもぼぼぼ僕も参加するし」
「あああ、僕も僕も!」
今井に続き、グリもどたどたと駆け寄ってくる。そんな二人に小豆ちゃんと振り返り、花が咲くように微笑む。
「ええ、お二人ともありがとうございます!では私が撃ちますので、予備マガジンの交換をお願いしますね!期待していますから!」
完全な営業スマイルという奴なのだろうが、それで二人は脳をやられてしまったようで、「「はい!」」と元気よく返事をした。
二人ともマガジンの装填係にされているのだが、いいのだろうか。ヨハクは深く考えないことにした。
「ではヨハク先輩、お願いします」
小豆がヨハクに銃を差し出す。銃口が下に向けられているとはいえ、長身の銃が2丁も向けられるとかなりの威圧感がある。ヨハクはちょっと腰がひけながらも、銃身に触れ、能力を開花する。
死者を悼み、慰めの花を手向けるようにそっと心に咲いたスノードロップを銃身に置いてくる。そんなことをイメージすると、銃身が優しく悲しく燐光を放ち始める。
「綺麗ですね。こんなにも温かい光をしているのに、冷たい光です」
アイリスの光もそうだが、別に触れても熱くもなければ寒くもない。ヨハクのそれも一緒でミリオたちも別段、そんなことを言われてことはない。小豆が同じ花人(フロリアン)だからだろうか。それとも小豆の蛇の能力ゆえなのか。不思議に思ったが、ヨハクは特に指摘しなかった。
一通り、同じ手順で銃に付与していくとさすがに疲労感を感じた。額を触ると汗がびっしりとついていた。
「ヨハク、後は俺たちがやるから無理はするなよ」とミリオが早速声をかけてきた。
「うん、ありがとう。いざっていうときために一緒に行くけど、撃つのは任せるよ」
ヨハクは正直なことをミリオに伝えると、信頼されたようでおう!と答えてくれた。
「だけど」
「大丈夫ですよ。私が殲滅しますから」
「ああっ、笹先輩。小豆ちゃんキャラ変わってるんで……任せましょ!」
やけになっているのか、自信がみなぎっているのか、たぶん後者であろう小豆を心配する笹に、怜奈がボディタッチをしながら止める。
それを見ながら、ミリオがにっと笑って親指で指さす。
「まぁ俺たちの出番はもうなさそうだけどな」
そういうミリオにつられてヨハクも笑うのだった。
結論から言うと、全く危なげなく3階まで到達した。
笹が閉鎖したシャッターを一部開けると、静かな階段が見えた。
みなが緊張に耳をそばだっているところを小豆はまるでそこに何もないのを知っているかのように無人の野を行くようにスタスタと歩いていく。正確には銃の重さのせいでヨタヨタとではあるが、少なくとも害虫(ペスター)を警戒している風には見えなかった。
そしてその真価は階段を降りきった時に現れた。直後に壁に隠れるようにして居た、音もなく襲ってきた害虫(ペスター)を一瞥することもなくトライデント ランスの毎分1,800発というバレルが一つの数珠のようにストレートにばらまかれる一瞬にして害虫(ペスター)を消滅させた。
音におびき寄せられ複数体が群がって襲ってきても二丁に構えられたトライデントランス(三つ又の槍)が害虫(ペスター)にうめき声をあげる暇も与えずに消滅させていく。圧倒的な制圧力。
「あっ、そこのカウンターの後ろに一体寝そべっているので裏から回ってください」
壁や棚、カウンター下に隠れていようが、小豆のピット器官の前では奇襲も通じつ、トライデントランスのドゥルルルッルという機械音だけがあたりに響いた。
阿修羅モードの小豆を止まられるものはなく、まさに蹂躙といった感じで次々と階を開放していき、カラカラララララという空撃ち音がなり、
「ふぅう、今日はこの程度にしておきますか。ヨハク先輩も疲れているようですし」
小豆が満足気にそう言い放ったのを聞いた男性陣、ヨハク、ミリオ、笹、今井、グリ、ゴンは小豆には逆らわないでおこうと心に決めたのだった。
首領・ホーテは、全5階・屋上(地下はスタッフオンリーの備品庫だ)で、フロアごとに商品ラインナップが決まっているのが特徴的だ。
1階から食料品、日常品、2階は家電、キッチン用品、おもちゃ売り場、3階はキャンプなどのアウトドア用品や下着などの消耗品的な衣料品が置かれ、4階は時計やブランド品、ドレスなどの衣料品(ブティック)、5階がヨハク達のいるイベントスペース、屋上は、観覧車があるフリースペースだ。
最終的には地下を含めた1階まで制圧したいところだが、まずは3階までとどまった。
いくつか理由はあったが、球切れとヨハクの体力の限界。
それに「缶詰ゲット!」 底をついた食料品の入手という最大の目標が達成されたもの多い。
「お疲れ様。ごめんね、何の役にも立てなくて」
「そ、そんなことないよ。僕も実質何もしてないし」
3階までの安全が一旦確保されたので皆で降りてきたのだ。最初はおっかなびっくりではあったが、階を降りるごとに安心感が増したようで後で衣料品売り場にいこうなどかなり盛り上がっていた。
そんな中、ヨハクも小百合に労われ、今日の苦労が一気に吹っ飛ぶうれしさだった。
「とりあえず、缶詰を持てるだけもって上に行きましょう。あんまりここにはいないほうがいいです」
「そうなのか」
盛り上がるなか不吉なことを言い出した小豆に、ミリオが聞いた。
「ええっ、たぶんですけど、1階と2階はシャッターが下りてないですね。かなりの数がいると思いますよ」
それを裏付けるかのように、2階と3階をつなぐシャッターは若干ひしゃげていた。真ん中が盛り上がり、よく見ると人の頭の形に見えてくる。
気にしすぎかもしれない。
「な、なら早く戻ろうか」
「そうですね。そうしたほうがいいと思いますよ。一旦の目標は達成されましたし」
ヨハクもなんだか、嫌な感じがして小豆の言葉に同意するように言うと、皆一様に同意して、
念のため、途中3階と4階をつなぐシャッターを閉めなおしながら、イベントスペースまで退避することにした。
朝同様に各々グループに分かれ、ヨハク達とは違い、缶詰とはいえ久しぶりの食事にがっつくように食べていたが、それも2~3個を食べ終えると会話をしながら食べるぐらいの余裕は生まれてきた。
話題は当然のように1,2階の攻略となった。
「さて明日からなんだけど、やっぱり食料品が集中している備品庫である地下、出来れば2階1階は解放が必要だと思う」
自然な形で笹が音頭を取り、玲奈が「異議なーし」と元気よく手を上げて賛同する。
それにはみな納得でそうだな、とミリオが意見を出した。
「とりあえずは地下か。EVと1階のバックヤードを塞いでしまえば、解放しやすいしな。2階については、今まで同様に正攻法で行くしかないだろう。幸い、あずあんの能力の----」
「あ、あずあん?!」
小豆のあずあんという呼びに絵里奈が一番の反応を示した。驚き、そして怒りいつの間にそんな風に呼ぶ仲になかったんだ!と絵里奈はミリオをすごんだが、ミリオは気づいていないのかどこ吹く風だ。それに絵里奈はさらにかぁとなるが、そんな不穏な空気を感じたのか、小豆が口を開いた。
「ああ、えっとーみぃ~峰岡先輩?」
小豆は最初のほうの挨拶時の記憶をなんとか呼び覚ました。
「ミリオでいいぞ」
「……そうですか。でしたら、私もできれば小豆と呼んでいただければ、あずあんはまぁ、なんというか愛称なので」
「確かにあずあんは、まぁ蛇神チャンネルで、ともみんが付けた愛称だからね。小倉あんこちゃんは確かに代表キャラと言えるけど、やっぱりファン投票で決めたおぐあずのほうがファンとしては正しい呼称かなとは思うわけですよ」
急に立ち上がり、何事かを熱弁し始めた今井を一同が冷たい目、もといグリだけが熱い視線を送る中、小豆が恥ずかしいようなはにかんだ笑顔を浮かべる。
はぅうという気持ち悪い声を出しながら、今井が崩れるように座ったのを見届けると、可愛らしくコホンと間を置いた。
「そういう訳です。というか恥ずかしいので小豆でいいです」
ミリオも特にこだわりはなく、そうかと頷いて話をつづけた。
「話を戻すが、小豆の能力のおかげで大分安全に戦闘することが出来る。なにせサーモグラフィー付きだからな。少なくとも2階以降は全員で挑むべきだろう。撃ち手と玉補充等のバックアップ要因をキッチリと確立するべきだ。まぁなんにしても地下の解放が先だろう」
概ね、みなミリオの意見に賛成のようで反対意見は特に出ることはなかった。それを確認したのち笹が言った。
「方針は決まったね。問題といえば、明日も今日と同じように力が使えるかだけど」
視線が小豆とヨハクに注がれる。二人は目を見合わせるとそのままアイリスを見た。皆もそれに釣られ、自然と全員がアイリスへと注目することなった。
当のアイリスはというと、ヨハクのように気圧されることもなく、さもそれが当然とばかりに悠然と足を組み、まるで回答をじらす様に水をゆっくりと飲んでいる。
「ふぅ~、このフジヤマ?の水、なかなかに柔らかくて美味しいわね。気に入ったわ」
みなの視線などどこ吹く風のようで、アイリスは何も語ることなく、今度は爪をいじり始めた。
すると無言の「お前が聞け」という視線がヨハクへと集まり、「ええ僕?」というジェスチャーを交えて、ミリオの大きな頷きで諦めてアイリスに尋ねることにした。
「ねぇアイリス」
「問題ないわ」
まるでタンポポの種を飛ばす童女のようにアイリスは爪に息を吹きかける。
そして、黄色の双眸がヨハクのほうを向く、
「私の翼がある限り、何の問題もないわ。ヨハクも小豆も能力は使えるわよ」
そのアイリスの自信に満ちた発言を聞いて、だれが発言するまでもなく明日の作戦は決まった。
ベレッタをはじめ、ヨハクが持つAK47やコルトパイソンが複数置かれている。そのなかでも目を引くのが、アクション映画に出てくるような大砲のように大きい銃ライフル型の銃が2丁それに挟まれる形で新品ゆえのなのか光沢を放つヨハクの持つものとは明らかに違うAK47だ。
「じゃあ、今日のフォーメーションだけど」
笹が集まったみんなに説明を開始しようとしたとき、すっと小豆が手を上げた。
「えっ~と、小豆ちゃん。何かな?」
「そのことなんですが、何も全員で行く必要はないと思います。通路のいうほど広くないですし、フレンドリーファイアとか避けたいですし」
それに、小豆は一拍置いてから、
「基本、私がやりますよ。そのほうが早いですから」 と言い放った。
「なっ、」と絶句する笹に対して、ミリオは腕を組んだまま動じず、小豆に問うた。
「早いという根拠は?」
「私の能力は見てのとおり、蛇です。皆さんには黙っていましたが、一部蛇の能力が使えます。具体的にはピット器官。……えっと、ようは害虫(ペスター)の位置が分かります」
「ふむ、なるほど。距離は?」
「階を跨いでは難しいですが、同フロア内なら、薄い壁ごし程度なら見分けられると思います」
「そうか、レーダー付とはありがたい。害虫(ペスター)の位置を教えてくれたら、こちらで対処するとしよう」
「そうですね。マガジンの交換や撃ち漏らしがいたら、お願いするとします」
小豆の頑なな態度に、ミリオはさらに続ける。
「電動ガンとはいえ、数キロはあるぞ。扱えるのか?」
どうなんだ?というミリオの冷たい態度にも小豆はなんでもない。というように涼しい顔で答えた。
「これは次世代型電動ガン アブトマット カラシニコフ47 TYPEIII型。マガジンは90発使用、躍動感あふれるオートで動くダミーカート、本物により近づけるべこのためだけに新塗料を開発して、銃身もストック部分の木目調もさらなる質感とリアル感を再現。この冬発売の東京ゼロイ最新作」
ガチャン、と私を誰だと思っているんだと言わんばかりに小豆はレバーコックを大きく引いた。
さらに驚愕すべきは、
「それとこれは、レジデントデビルという海外のアクションゲームに登場する架空銃、スコヴィル U.02モデル。3シリンダー、フルオート最大・秒間約10発×3バレル=30発。毎分約1,800発を放つ。一度に3発(バレル)を放てることから、 トライデント(三つ又) ランスの異名をとる。こちらは来年の春、発売予定の電動ショットガンですね」
ヨハクも昨夜、そのごつさゆえに少年心をくすぐられて構えてみたが、非常に重く長時間持っているのは無理そうだった。それを二丁、小豆の黄金の蛇が絡みつくように持ち上げて見せた。
トライデント ランス2丁に、AK47を阿修羅のごとく持った小豆の異様な威圧感のままに、「問題ありませんよね?」とにこやかに笑って見せた。
それを見て流石のミリオも腕をほどいた。
「ふっう~。フィールドの妖精は伊達じゃないていうことか。俺たちは援護に徹しよう」
ミリオがそう言い切ると、
「あ、あずきちゃん。無理しなくてもぼぼぼ僕も参加するし」
「あああ、僕も僕も!」
今井に続き、グリもどたどたと駆け寄ってくる。そんな二人に小豆ちゃんと振り返り、花が咲くように微笑む。
「ええ、お二人ともありがとうございます!では私が撃ちますので、予備マガジンの交換をお願いしますね!期待していますから!」
完全な営業スマイルという奴なのだろうが、それで二人は脳をやられてしまったようで、「「はい!」」と元気よく返事をした。
二人ともマガジンの装填係にされているのだが、いいのだろうか。ヨハクは深く考えないことにした。
「ではヨハク先輩、お願いします」
小豆がヨハクに銃を差し出す。銃口が下に向けられているとはいえ、長身の銃が2丁も向けられるとかなりの威圧感がある。ヨハクはちょっと腰がひけながらも、銃身に触れ、能力を開花する。
死者を悼み、慰めの花を手向けるようにそっと心に咲いたスノードロップを銃身に置いてくる。そんなことをイメージすると、銃身が優しく悲しく燐光を放ち始める。
「綺麗ですね。こんなにも温かい光をしているのに、冷たい光です」
アイリスの光もそうだが、別に触れても熱くもなければ寒くもない。ヨハクのそれも一緒でミリオたちも別段、そんなことを言われてことはない。小豆が同じ花人(フロリアン)だからだろうか。それとも小豆の蛇の能力ゆえなのか。不思議に思ったが、ヨハクは特に指摘しなかった。
一通り、同じ手順で銃に付与していくとさすがに疲労感を感じた。額を触ると汗がびっしりとついていた。
「ヨハク、後は俺たちがやるから無理はするなよ」とミリオが早速声をかけてきた。
「うん、ありがとう。いざっていうときために一緒に行くけど、撃つのは任せるよ」
ヨハクは正直なことをミリオに伝えると、信頼されたようでおう!と答えてくれた。
「だけど」
「大丈夫ですよ。私が殲滅しますから」
「ああっ、笹先輩。小豆ちゃんキャラ変わってるんで……任せましょ!」
やけになっているのか、自信がみなぎっているのか、たぶん後者であろう小豆を心配する笹に、怜奈がボディタッチをしながら止める。
それを見ながら、ミリオがにっと笑って親指で指さす。
「まぁ俺たちの出番はもうなさそうだけどな」
そういうミリオにつられてヨハクも笑うのだった。
結論から言うと、全く危なげなく3階まで到達した。
笹が閉鎖したシャッターを一部開けると、静かな階段が見えた。
みなが緊張に耳をそばだっているところを小豆はまるでそこに何もないのを知っているかのように無人の野を行くようにスタスタと歩いていく。正確には銃の重さのせいでヨタヨタとではあるが、少なくとも害虫(ペスター)を警戒している風には見えなかった。
そしてその真価は階段を降りきった時に現れた。直後に壁に隠れるようにして居た、音もなく襲ってきた害虫(ペスター)を一瞥することもなくトライデント ランスの毎分1,800発というバレルが一つの数珠のようにストレートにばらまかれる一瞬にして害虫(ペスター)を消滅させた。
音におびき寄せられ複数体が群がって襲ってきても二丁に構えられたトライデントランス(三つ又の槍)が害虫(ペスター)にうめき声をあげる暇も与えずに消滅させていく。圧倒的な制圧力。
「あっ、そこのカウンターの後ろに一体寝そべっているので裏から回ってください」
壁や棚、カウンター下に隠れていようが、小豆のピット器官の前では奇襲も通じつ、トライデントランスのドゥルルルッルという機械音だけがあたりに響いた。
阿修羅モードの小豆を止まられるものはなく、まさに蹂躙といった感じで次々と階を開放していき、カラカラララララという空撃ち音がなり、
「ふぅう、今日はこの程度にしておきますか。ヨハク先輩も疲れているようですし」
小豆が満足気にそう言い放ったのを聞いた男性陣、ヨハク、ミリオ、笹、今井、グリ、ゴンは小豆には逆らわないでおこうと心に決めたのだった。
首領・ホーテは、全5階・屋上(地下はスタッフオンリーの備品庫だ)で、フロアごとに商品ラインナップが決まっているのが特徴的だ。
1階から食料品、日常品、2階は家電、キッチン用品、おもちゃ売り場、3階はキャンプなどのアウトドア用品や下着などの消耗品的な衣料品が置かれ、4階は時計やブランド品、ドレスなどの衣料品(ブティック)、5階がヨハク達のいるイベントスペース、屋上は、観覧車があるフリースペースだ。
最終的には地下を含めた1階まで制圧したいところだが、まずは3階までとどまった。
いくつか理由はあったが、球切れとヨハクの体力の限界。
それに「缶詰ゲット!」 底をついた食料品の入手という最大の目標が達成されたもの多い。
「お疲れ様。ごめんね、何の役にも立てなくて」
「そ、そんなことないよ。僕も実質何もしてないし」
3階までの安全が一旦確保されたので皆で降りてきたのだ。最初はおっかなびっくりではあったが、階を降りるごとに安心感が増したようで後で衣料品売り場にいこうなどかなり盛り上がっていた。
そんな中、ヨハクも小百合に労われ、今日の苦労が一気に吹っ飛ぶうれしさだった。
「とりあえず、缶詰を持てるだけもって上に行きましょう。あんまりここにはいないほうがいいです」
「そうなのか」
盛り上がるなか不吉なことを言い出した小豆に、ミリオが聞いた。
「ええっ、たぶんですけど、1階と2階はシャッターが下りてないですね。かなりの数がいると思いますよ」
それを裏付けるかのように、2階と3階をつなぐシャッターは若干ひしゃげていた。真ん中が盛り上がり、よく見ると人の頭の形に見えてくる。
気にしすぎかもしれない。
「な、なら早く戻ろうか」
「そうですね。そうしたほうがいいと思いますよ。一旦の目標は達成されましたし」
ヨハクもなんだか、嫌な感じがして小豆の言葉に同意するように言うと、皆一様に同意して、
念のため、途中3階と4階をつなぐシャッターを閉めなおしながら、イベントスペースまで退避することにした。
朝同様に各々グループに分かれ、ヨハク達とは違い、缶詰とはいえ久しぶりの食事にがっつくように食べていたが、それも2~3個を食べ終えると会話をしながら食べるぐらいの余裕は生まれてきた。
話題は当然のように1,2階の攻略となった。
「さて明日からなんだけど、やっぱり食料品が集中している備品庫である地下、出来れば2階1階は解放が必要だと思う」
自然な形で笹が音頭を取り、玲奈が「異議なーし」と元気よく手を上げて賛同する。
それにはみな納得でそうだな、とミリオが意見を出した。
「とりあえずは地下か。EVと1階のバックヤードを塞いでしまえば、解放しやすいしな。2階については、今まで同様に正攻法で行くしかないだろう。幸い、あずあんの能力の----」
「あ、あずあん?!」
小豆のあずあんという呼びに絵里奈が一番の反応を示した。驚き、そして怒りいつの間にそんな風に呼ぶ仲になかったんだ!と絵里奈はミリオをすごんだが、ミリオは気づいていないのかどこ吹く風だ。それに絵里奈はさらにかぁとなるが、そんな不穏な空気を感じたのか、小豆が口を開いた。
「ああ、えっとーみぃ~峰岡先輩?」
小豆は最初のほうの挨拶時の記憶をなんとか呼び覚ました。
「ミリオでいいぞ」
「……そうですか。でしたら、私もできれば小豆と呼んでいただければ、あずあんはまぁ、なんというか愛称なので」
「確かにあずあんは、まぁ蛇神チャンネルで、ともみんが付けた愛称だからね。小倉あんこちゃんは確かに代表キャラと言えるけど、やっぱりファン投票で決めたおぐあずのほうがファンとしては正しい呼称かなとは思うわけですよ」
急に立ち上がり、何事かを熱弁し始めた今井を一同が冷たい目、もといグリだけが熱い視線を送る中、小豆が恥ずかしいようなはにかんだ笑顔を浮かべる。
はぅうという気持ち悪い声を出しながら、今井が崩れるように座ったのを見届けると、可愛らしくコホンと間を置いた。
「そういう訳です。というか恥ずかしいので小豆でいいです」
ミリオも特にこだわりはなく、そうかと頷いて話をつづけた。
「話を戻すが、小豆の能力のおかげで大分安全に戦闘することが出来る。なにせサーモグラフィー付きだからな。少なくとも2階以降は全員で挑むべきだろう。撃ち手と玉補充等のバックアップ要因をキッチリと確立するべきだ。まぁなんにしても地下の解放が先だろう」
概ね、みなミリオの意見に賛成のようで反対意見は特に出ることはなかった。それを確認したのち笹が言った。
「方針は決まったね。問題といえば、明日も今日と同じように力が使えるかだけど」
視線が小豆とヨハクに注がれる。二人は目を見合わせるとそのままアイリスを見た。皆もそれに釣られ、自然と全員がアイリスへと注目することなった。
当のアイリスはというと、ヨハクのように気圧されることもなく、さもそれが当然とばかりに悠然と足を組み、まるで回答をじらす様に水をゆっくりと飲んでいる。
「ふぅ~、このフジヤマ?の水、なかなかに柔らかくて美味しいわね。気に入ったわ」
みなの視線などどこ吹く風のようで、アイリスは何も語ることなく、今度は爪をいじり始めた。
すると無言の「お前が聞け」という視線がヨハクへと集まり、「ええ僕?」というジェスチャーを交えて、ミリオの大きな頷きで諦めてアイリスに尋ねることにした。
「ねぇアイリス」
「問題ないわ」
まるでタンポポの種を飛ばす童女のようにアイリスは爪に息を吹きかける。
そして、黄色の双眸がヨハクのほうを向く、
「私の翼がある限り、何の問題もないわ。ヨハクも小豆も能力は使えるわよ」
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