Bloom of the Dead

ロータス

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19話 トークショー

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「フィールドの妖精というのは、アイドル活動のキャッチコピーみたいなものなんです。アイリスちゃんを見てしまう。妖精と名乗るのはおこがましく思えてしまいますね」
「ふーん、まぁ小豆の黄金の花もなかなかにきれいよ。私が天使になった暁には妖精を名乗っていいわよ」

 アイリスの上から目線の物言いにも小豆は朗らかに「はい、ありがとうございます」と返事をして、数分前の剣呑さは完全に消え失せていた。

 完全に毒気が失われてしまったってしばし呆然としていたが、今井の腹の音がぐぅ~と響いたのを合図に皆それぞれ固まって座り、ヨハク達が持ってきたコンビニの菓子などを食べつつ、簡単な自己紹介とこれまでの経緯などを話していた。

 一通り話終えると徐々にグループが分かれ始め各々で会話が始まっていた。

 ヨハクはどこの会話に参加しようかあたりを見渡す。

まずは、小豆とアイリスだ。二人は背丈も似ているので、美少女小学生が仲睦まじく話しているようでほほえましく絵画のようの美しさで何か冒してはならない聖域のように感じた。

つぎに目に留まるのはグリと今井の巨漢の二人だ。どうやら二人とも気が合ったらしく、ヨハクの知らないアニメの話で盛り上がっているようで入っていける気はしない。

視線をずらし、白い百合の花が見え、ドキッとしてしまう。

小百合と怜奈、ミリオ、笹のグループだ。真面目そうな大学生の笹に、ガタイのいいスポーツマンのミリオ、そしてまさに百合の花のように美しい小百合と表情がコロコロと変わり小動物的なポップさでもって、小百合とは正反対の可愛らしさを持つ怜奈の4人組だ。何の話をしているのか分からないが、はたから見ると完全なカップルに見えてしまい、ヨハクは心がどーんと沈むのを感じた。

小百合と話はしたいが、そこに入っていける勇気はなく、ヨハク必然的に最後の組に合流することにした。

「おっ、ヨハク。ちょうどお前の話をしていたところなんだよ」

 そういってゴンが話の輪に自然と混ぜてくれた。ゴンのこういうしれっとした気遣いはいつもありがたかった。
 最後のグループは、ゴンと葵、絵里奈、久美の女子三人組だ。委員長である葵とは多少の交流はあったが、他2人とはまともに話したことはなく、ヨハクは少し緊張した。

 イメージでは、久美が何かふざけたことをして、葵がそれを天然回答でごちゃまぜ、絵里奈がクールに処理をするのを教室で何度か見かけたことがあるが。

「えっーと、僕の話って?」
「そりゃ、お前。あの力についてだろう。なんだけ、あのスノーなんたら」
「スノードロップね」
「スノードロップってあの? やっぱり花が関係しているのかな。アイリスちゃんもアイリスだし」

 葵はどうやら花のスノードロップを知っているようだった。結構マイナーな部類だが、花が好きなのだろうか。

「むっむむ、つまり花がないっていうのは力がないっていうこと?」

 腕を組みながら、上半身ごと左にオーバーに傾けながら、久美が聞いてきた。

「うーん、たぶんそうだと思う。ゴンとグリも最初は雑草呼ばわりだったし」
「ぶっちゃけ、今もだけどな」
「ふん。で、あっちの二人は、華(うつくしさ)もあって、花(ちから)もあるってわけね」

 絵里奈が不機嫌そうにつっけんどんに言い放ち、あごをしゃくる。
 あっちの二人とは当然、小百合と怜奈のことで、どうやら絵里奈は二人のことが嫌いなようだと感じた。

「まったく、使えそうだと。早速唾をつけに行くのね。それに峰岡も峰岡でホイホイ」
「ちょっと、絵里奈! 言い方」

 悪態をつく絵里奈を葵はたしなめるが絵里奈は止まらなかった。

「いやだってさ。あいつは葵を助けに来たんだよ?!どう考えたって葵のところに来るでしょうが!それをさぁー。あの二人だって空気読めよって感じじゃない!」
「どぅおどぅおどぅおどぅ!」

 見かねた久美が抱き着く、

「ちょっと何よ、久美。どいて!」
「絵里奈っち、言い過ぎ。そういう子はどうされるんだっけ?」
「はぁ、何が……ひゃん!」

 久美が絵里奈の耳たぶを甘噛みする。それを顔を真っ赤にした絵里奈が振りほどこうと暴れる。

「ひゃやー、か噛むな!馬鹿っ、」
「むーん」
「「いてっ」」
「二人とも、暴れすぎ。ほらっ、スカート戻して」

 暴れる二人をチョップで黙らせ、暴れて大きくめくれたスカートを葵が手慣れた感じで戻しいく、キッとこちらを睨むのも忘れない。

 それにゴンとヨハクは示し合わせたように互いに左右に向く。ゴンは器用にヒューヒューと口笛を吹いている。
 ヨハクは一瞬見えた布地に頭に思い浮かべているのをごまかすようにぽりぽりと頬を掻いた。

 ちらりとヨハクが葵のほうを見ると、仁王立ちをして何かを言いたそうにしているのが見えたが、
「ごめん、みんな。ちょっといいかな」

 手を叩きながら、笹が皆の注目を集める。そのためだろうか、特に葵もその後何も言ってこずだったのでヨハクも素直に注目することにした。

「なぁ、ヨハク」と小声で隣のゴンが話しかけてきた。何かと思って耳をそばだっていると、
「黄色と青だったよな?」

 なんて言ってきたので、ヨハクはゴンの背中を叩いたのだった。



「みんなちょっと聞いてほしいんだ。ちょっと峰岡君とも話しをしていたんだけど」
「ミリオでいいぞ」
「……ミリオ君とも話しをしてたんだけど、ここにこのまま籠っていてもじり貧。というよりももう物資がないに等しいだから、」
「こここ、このビルを出るってこと?!」

 笹の話を遮るように今井が質問していきたのを、笹は朗らかに「そうじゃない」と前置きしてから、話をつづけた。

「いづれは出なきゃいけない時も来るかもしれないけど。その前にやることがある」

 笹は、一拍間をあけ、深呼吸してから続けた。

「このビルを開放して、拠点化することだ」
「開放って?」

 絵里奈の質問に笹は大きくうなづきながら、答えた。

「順番に説明しよう。このビルは5階と屋上、地下1階のまぁ7階に分かれている。うち、ここ5階と屋上はすでに開放してあるね。ほかの階は、あそこのシャッター見えるようにシャッターごとに区切られている。つまりそこの階の、……害虫(ペスター)というらしいね。をやっつければその階の物資丸ごと手に入るわけだよ。地下1階まで開放出来たら、この人数でも1年以上、下手したら数年は持つんじゃないかな」
「どうやってその害虫(ペスター)を倒すのよ」

 絵里奈の疑問は当然のことだった。なにせその害虫(ペスター)が倒せなくって葵は置き去りにされたのだ。それをさも簡単なように言われれも信じがたい。

「そうだね。それについては、ヨハク君とアイリスさんの力を貸してもらうよ」

 えっ、と急に話を振られて戸惑うヨハクに皆が一様に注目する。

「力の説明については、本人からのほうがいいかな、お願いできる?」

 いや、出来ませんとも言えず、人生で今もっとも人に注目されれているかもしれない事態に
ヨハクは固まってしまった。何かを言わないと、口がぱくぱくと動くが言葉が出てこなかった。

 それを見かねたのか、ミリオが俺からでもいいか。と前置きしてから前に出てくれた。

「ヨハクの力は、スノードロップといって、BB弾で害虫(ペスター)を倒す。いや、消滅させるが適切か?BB弾が触れた箇所数センチ~数十センチを消滅させることが出来て」

 ミリオが自分の額にトントンと指を当てながら続けた。

「頭(ヘッドショット)に当てれば一発で全身消滅する」
「ありがとう、ミリオ君。普通なら到底信じらないことだと思う。そもそも害虫(ペスター)事態だって信じがたいしね。ただ僕たちはすでに小豆ちゃんの蛇という例外を知っているし、そんなに信じがたい話じゃないと思う。みんなだって屋上から害虫(ペスター)が消滅する瞬間は見てたんじゃないかな」

 笹は周りを見渡し、反論が特にないのを確認する。

「ヨハク君の能力で力が付与された銃は、本人じゃなくても力が使えるらしい。みんなで武器を持って挑めは1階ごとなら制圧していけるとはずだ!みんなで害虫(ペスター)と戦おう!」

 笹の話は終わったが、特に歓声もなければ拍手もない、ただいくら害虫(ペスター)と戦う手段があり、必要があるとはいえ、一度あの脅威と対峙したことがあるものはその恐怖が喚起され、なかなか踏み出すことが出来なかった。
 皆が皆、周りの反応をうかがおうと気配を探っている中で、小豆が前で出てきた。

「いいと思いますよ。そのアイデア、私も一緒に戦います」

 小豆の意見に押され、皆が考えを言い始めた。

「そのBB弾?ていうか、銃? 撃ったことないんだけど」

 絵里奈がそういうと、葵と久美も続いた。

「私も……」
「同じく!」
「それも問題だけど、銃もBB弾もいうほどストックないだろう。どうする気だ?」

 ゴンの意見はヨハクも感じていた。銃も一人一丁持てるほどなくBB弾にもそんなに余裕はなかったはずだ。

「ああっ、それについては」
「問題ありませんよ」

 ミリオを遮るように小豆が答えた。そのままに、笹の横を通り過ぎる。


「まさか、こんなおもちゃが役に立つとは思いませんでした」

 小豆がステージを囲むカーテンに手を伸ばした時に、あっとヨハクは思い出した。

 ヨハクが初めて小豆を見た。漫画喫茶(ダブルハンド)のポスター、そこにはこう書かれていたはずだ。

エアガンの専門メーカーである東京ゼロイのホビーショー開催と、今が旬のミリタリーアイドル小倉(おぐら) 小豆(あずき)ちゃん来店&トークショー!と。

小豆が駆けるようにカーテンを引いていくとステージがあらわになる。

今朝まで使っていたのだろう、くしゃっと丸められた毛布と空のペットボトル、そしてその後ろにはライフル銃を思わせるパッケージデザインが印刷された段ボールがうずたかく積まれていた。

ガンショップのような品揃え、これなら戦力は十分だとヨハクは思った。
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