Bloom of the Dead

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15話 絵理奈とミリオ

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それから絵里奈は息を整え、久美に話しかけた。

「あれだ、久美」
「あれって?」

未だに目に涙と浮かべ、それでも自分をいかせまいと裾を強く握っている久美に、絵里香は思い付きを伝える。

「そうそうだよね。しん、だとは決まってないよね。電話……はまずいかも。LIONで送ろう」

そう、葵が死んだと決まったわけではないのだ。ただエレベーターに乗れなかっただけだ、そのうちBF1にとまっているエレベーターから上がってくるかもしれない。それに助けに行くにしても場所は把握していくべきだ。どこに隠れているか葵にLIONで聞けばいいと言ったのだ。安否確認も出来て一石二鳥だ。

 しかし、久美が送信!と可愛らしく人差し指を押した直後、ピロン!という聞きなれた着信が二人の近くから聞こえてきた。

「これ」
「なに?」
「葵のスマホ」

葵の荷物、といっても学校帰りからここに着の身着のまま逃げてきたため、学校指定の鞄1つぐらいしかないのだが、そこの外ポケットに入っていたスマホを手に取る久美を見て、絵里奈はまたかと思う。
 葵は、しっかりしているようで割と抜けているのだ。家に遊びに来たら大体忘れ、翌日届けるなんていうのはしょっちゅうだ。


 しかし、ここではタイミングが悪すぎた。これじゃ、

「助けに行くとき場所が聞けないじゃん……」

 再び泣き出したい気分になってきた。久美もあわわわどうしようと慌てている。

「貸して」

えっ、と惚ける久美から奪うように葵のスマホを取って起動する。

「どうするの?」
「そういえば葵、スマホをちょいちょいいじってた。たつ……もしかしたら誰かに連絡を取っていたかもじゃん?」

絵里奈はその“誰”か、にあいつを連想してしまい咄嗟に伏せた。

「誰かって、誰よ。それに連絡を取ってたとしてそれが何なのよ」

 幸い久美は気づかなかったようでほっとしつつ、スマホを起動する。

うん、まぁ確率は低いと思う、でももしかしたら違う人で助けに来てくれるかも」

 そう本当にあいつならきっと……

「やらないよりかはましか。あっ、暗証番号……0925、葵の誕生日から試し見よう」

 久美は制服の袖で涙を拭きながらも、可能性を感じたのか赤い目を真剣にさせ、提案してきた。まぁたぶんそれじゃないけどね、そう思いつつ絵里奈は番号を押す。

「違うか―。生まれ年とか?」
的外れな推理をする亜美に若干イラっとしながらも「0214」と確信をもって絵里奈は呟いた。

「えっ、バレンタイン?なぜに?」

 心底分からないといった顔している久美を横目に絵里奈は数字を打ち込んでいく。

「誕生日……たつ、ンッ! み、峰岡の……ほら開いた。ち、ちなみに私、あいつとは」
「ううっ、葵。健気すぎまた泣けてきた」


 久美の反応を見て、小学校が一緒でそれだけだから、という弁明は飲み込んだ。

「LION通知がいくつか来てる」

 そういうと久美は鼻をすすりつつ、絵里奈の横に来て一緒にスマホ画面をのぞき込んだ。
 期待していた通知はみな、公式アカウントの宣伝やアップデートとだったりと、絵里奈はこんな時にでも送ってくるのかよ!と怒りを感じた。

 次に誰と話したか新着順に表示されているトーク履歴を見ていく葵の交友関係などを覗き見しているみたいで後ろめたさを感じやめようかと思ったとき、峰岡の名前、ミリオを見つける。

 トーク履歴に名前があるということは、グループチャットではなく、個別チャットもしていたということだ。 そんな話は葵からは聞いていなかった。二人でLIONする仲だったんだ。相談してくれてもいいのに、と脳内に場違いに覚えた苛立ちを追い出しつつ、トーク履歴から、チャット履歴を見る。葵を救うためというよりも腹立たしさと好奇心に推されての行動だったが、久美もそれには何も言わずに、といよりもドキッドキッと顔に書いてあるような表情をしていた。

 こんな時に暢気な!と思わなくもないが絵里奈も同様だった。

 履歴には大した会話なく、同じクラスになったからよろしく。こちらもなみたいな挨拶しかなかった
 しかし、委員長が書いて、そして送らずにいたのだろう。LIONの文章作成欄には、“好きです”とだけ書かれていた。

 別に自分が書いたわけでもないのに、動悸が早い。今朝方葵がスマホをずっと凝視していたのはこれだったのだろうか、いや絶対にそうだ。葵のことだ、次にいつ会えるか分からないだろうから今のうちに送っておこう、でもあのバカに迷惑がかかるかもしれない。そんな自分の気持ちと相手の思いやりの狭間に揺れて何も出来ずにいたのだろう。

 葵は健気で優しい。そしてバカだ。一人で悩まずに相談してくれたらいいのに、………私と久美とで背中を押したのに、そうすればこんなことにもならなかったかもしれない。バカとバカ同志あの二人はお似合いだ。

 絵里奈はそう思い覚悟を決めた。

「えっ、絵里奈何するの?!」

葵の万感の思いが詰められた“好きです”に呆然していた久美が慌てた。それもそのはずだ、絵里奈はその言葉を削除してしまったのだ。そして、

「言ってたよな」

あのバカは確かに言っていた。

 言っていたって?久美が不思議そうに聞くが、絵里奈の耳には入っていなかった。絵里奈の意識は脳内の、夕暮れ、放課後の校舎裏へと飛んでいた。

あのバカは、確かにそこで言っていた。私は確かにそこで聞いていた!

「委員長のお願いなら断れん!あのバカは確かにそう言ってた!」

“助けて”それだけ打って送信する。

LION ミリオトーク

 
 《竹本 葵》助けて

 絵里奈は葵のスマホを握りしめ、祈るように額につけた。

 それはすぐ来たようにも感じたし、長く待たされた気もした。

 でも確かに、葵のスマホは、ピロンと場違いに高い音を出した。

 久美と絵里奈はお互いの顔を見合わせスマホをのぞき込んだ。

「あのバカ……」


 生きてた。そう思ったら、なんだが目元が再度じんわりと暖かくなったのを絵里奈は感じた。


LION ミリオトーク


 《竹本 葵》助けて
《ミリオ》どこにいるんだ?

 LIONのトークを見て、絵里奈はすぐに電話をかけた。

 プルルルルという呼び出し音じゃ1コール目が終わる前にプツンと途切れ、絵里奈の記憶の中にある、ずっと聞きたかった声が聞こえてきた。
「もしもし、委員長か」
 達夫の声だ。
「……達夫」
雨水をため、葉先から垂れるように、ぽたりぽたりと床にしずくが落ちる。
「うん?その声は……絵里奈か、委員長はどうし」
「助けてよ、葵が、……葵が大変なの!お願い、達夫助けに来てよ!」

 スマホが壊れるほどに握りしめ、大粒の涙を流しながら、絵里奈はそう叫んだ。


「というわけだ。協力して欲しい」

 ミリオはそう言ってびしっと斜め45度に頭を下げた。

 コンビニから食料を調達した日の翌日朝、ミリオからみんなに話があるといのうで、改まってなんだなんだと言いながらもリビングに集まり、話を聞いたのだった。

 要約すると今朝方、ミリオの幼馴染にしてヨハク達のクラスメイトでもある野崎 絵里奈から連絡があり、首領・ホーテで行方不明になってしまった委員長こと竹内 葵を救って欲しいとのことだった。

 寝起き一番、しかも昨日コンビニで食料を調達したばかりで今日は何もないだろうと思っていたヨハクにとっては完全な不意打ちのようなものだった、ゴンやグリもそれは同様みたいでみな一様に黙ってしまっていた。

 頭を下げたままのミリオ、その重苦しい空気を物ともせずに口を開いたのはアイリスだった。

「却下ね」

 すまし顔でそう短く告げ、頭を上げたミリオに続けた。

「そんなことしてなんになるのよ。無駄に危険なだけじゃない。そんなことに私の花は、協力させないわよ」
「アイリス、そんな言い方」とヨハクがアイリスをいさめようとしたとき、ミリオが右手を上げてそれを制した。何かアイリスを説得出来ることがあるのだろうか、ヨハクはミリオに任せることした。
「アイリス、確かに危険だが、今度のことも考えてだ。メリットも当然ある」
「ふーん、言ってみなさいよ」

 アイリスの黄色の双眸に、ミリオが映る。

「まず一つ、コンビニでは食料が圧倒的に足りない。俺らでも1~2か月ぐらいは持つかもしれないが、なくなったら終わりだ。2つ、武器が足りないのと弾薬の補充がきかない。ヨハクの武器はエアーガンだ、その弾であるBB弾だが、あと数回しか戦闘は出来ないだろう。それにここには薬や服なんかもあまりないしな。今のままでもかなりジリ貧なんだ。そこで武器と弾薬、食料に衣料品、薬なんかも探さないといけない」

 なるほど、確かにミリオの言う通りこのままコンビニで食料を調達してもいずれなくなるし、その前に球切れを起こすかもしれない。それを聞いてアイリスは小枝のように小さく細い人差し指を唇にあてうーん、可愛らしく考えているようだ。そこにミリオが追い打ちをかけていく。

「そこでそれを全部兼ね備えているのが、実は首領・ホーテなんだ。知っての通り……アイリスは知らんかもしれんが、ホーテは食料品から衣料品、雑貨からキャンプ用品、ドラックストアも併設されているから、この店に来ればなんでも揃うというのが謳い文句の店だ。規模もコンビニの比じゃないしな。それに極めつけはこれだ!」

 ミリオはそういって、両手で一枚のポスターを広げた。

琥珀色でおっとりしたたれ目に、ニッコリと満面の笑みをうかべ、ぴったりとした薄緑のタンクトップからは多少の膨らみ、構えた左手からは健康的で綺麗な脇が覗く。

東京ゼロイのホビーショー開催というデカデカとした文字と、今が旬のミリタリーアイドル小倉(おぐら) 小豆(あずき)ちゃん来店&トークショー!と書かれたポスター。

それはヨハクが二丁拳銃で見たものと同じものだった。

「残念ながら全部ではないが、相当数のエアーガンがすでにイベントスペースには持ち込まれているらしいぞ」

 こんな時におもちゃの銃に興味もってんじゃねーって怒鳴られたがなとミリオは笑いながら言った。

「それと絵里奈の話だとほかのクラスメイトも一緒に籠城しているようだ。朝霞に灰原、井上もいるらしい」

 朝霞、その名前を聞いてヨハクの心臓がドクンと高鳴った。

朝霞さんが生きてる。そして首領・ホーテにいる!ヨハクの胸になんとも言えないような高揚感と高鳴りを感じたが、恥ずかしさになんでもないように装っていると、「よかったな、ヨハク。小百合ちゃんに会えるぞ」なんてゴンがにやつきながら言ってきた。

 グリも隣でうんうんと満足げに頷いている。

「なっ、いやそそそんなんじゃ」と顔が赤くなっていくのを感じて早口で誤魔化そうとするが、ミリオが続きを話始めた。
「しかも聞いて驚け、俺たちのクラスメイトだけじゃなく、ほかにもフィールドの妖精こと小倉 小豆ちゃんもいるらしいぞ!」
「……えっ、う、うぉおおおおおおお!!まじかっ、蛇ちゃんがいるのか!なんでだよ?!」

 興奮するグリの横で、ヨハクはちらりとアイリスも見ると目をすっと細め「フィールドの妖精ねぇ」と不機嫌に声を発するのを聞いた。

「なんでもイベントのリハーサルだが視察だかでたまたま来ていて……巻き込まれたらしい」
「きたぁああああああああああああああああああああああああ」

 グリが再度を雄叫びを上げた。

「仲間がいる、武器がある、食料も衣料品も薬も、俺たちに必要なものは全部ある。ついでにお姫様を一人救うだけだ。どうだ、アイリス協力してくれないか?」

 ヨハクが再度アイリスを見ると

「ええっ、いいわよ。私もヨハクの妖精として協力してあげる」

 すでに先ほどの不機嫌さは消え、むしろ笑みまで零している。

「よし、決まった。これから委員長救出&新たなる拠点確保作戦だ!」

 まぁ気のせいかもしれないしな、ヨハクは特に気にもとめずにミリオに合して拳を天に挙げた。
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