30歳から始まる異世界週末基地

ロータス

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第3話:笛の音

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まるで網で焼かれた魚だ。そう自分の腕を見ながら思った。

はぁー。若いころならすぐに戻るが、30歳を超えてくるとこういうあとってなかなか再生しないんだよなと腕をこすりながら上を見た。

3股に分かれる巨木、その間に網が張られていた。

昨夜ここで夜を明かしたのだった。

あの後飲み水と言えるかは微妙だが、ほかにないならしょうがなく食虫植物にたまるみずを飲んだ後、
ここで野宿することにしたのだった。

理由は夕暮れが近づいているため、これ以上の移動は危険と判断したのと、食虫植物がこれだけの数がいれば寝ている間に変な虫が寄ってくるということもないだろうというものだった。

その予想はあたりおかげで、朝起きたら顔が腫れあがっていたということはなかったのが幸いだった。

ちなみにこの網は、アリバが持っていた投げ網だ。地べたで眠るよりは安全だということでハンモックのようにして吊り下げったのだった。

ただ当然寝具ではないので、結果はこのありさまだが。。。

「ほれ、喜べ。この私が直々に取ってきてやったのだぞ」

そううなだれていると、目の前に差し出された黒い斑点のついたコップ―――もとい食虫植物を受け取る。

背の高い木々の合間を縫って差し込む光に照らされた金髪をなびかせながら、ヴィーラスがその端正な顔立ちをゆがめながら水を飲んでいた。

本当に味がしないのに、なんでこんなに不味い!のか。

いろ〇す が恋しい!そう思いながら俺は一気に食虫植物の水を煽ったのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これでいいか」
「何をしている!早くいくぞ!!」
「わかってるよ、今行く!・・・・・・じゃあな、達者でやれよ」

俺は今しがた植えたイチゴの苗にそう声をかけてその場を後にした。
いつまでもイチゴの苗を持って移動なんてしてられないとここに植えていくことにしたのだ。

ここなら、食虫植物たちに守られて変な虫は着かないだろう。・・・たぶん




異世界に転移だが、召喚だが分からないが、着いて1日が経過した。

しかし、一向に女神様や神様が現れることもなく、何をしていいかもわからない。

いちおうこっそり二人が見えていないところでステータス!鑑定!などお決まりの文句を思いつく限り試してみたが、反応はなかった。

くっ、チートはない。ハードモード仕様のようだ。勘弁してほしい。

そんなわけで、このままでは飢え死にするかもしれないと、食料や水、寝床を求めて、誰が言い出したわけでもなく異世界サバイバルをすることになるのは当然の流れだろう。

ここに来た時同様にアリバが先頭に立ち、両腕を振るって道を切り開いていく。

漏れる日差しの量からして、朝には出発したが今は昼ぐらいだろうか。

行けども行けども森が続くばかりだった。

途中カラフルな実を見つけたが、ヴィーラス曰く食べれないらしい。
あんな黒い斑点の食虫植物の水は飲めて実は食べれないなんて!そう腹の虫が抗議してきたが、腹を壊したらここでは死活問題だ。

我慢して続いた。

しばらくそうしていると、森が開けた場所に出た、今度は広い草原のようだ。

ただ残念なことに、草原も広くはあるが、森に囲まれているようだ。

全くどんだけ広い森なのだろうか・・・アマゾンほどでないことを祈りたい。

「そろそろ休憩しないか?」

ここで動きぱなしなのもあるが、こちらは歩いているだけだが、先頭のアリバは障害物をなぎ倒し、切り裂いてきたのだ。その疲労は俺の非ではないだろうと思いそう提案したのだった。


アリバは、やはり疲れているのか無言で同意し、三人はそれぞれ適当なところに腰を下ろした。

すると、どっと疲れが体に染み渡るように広がる。
ヤバい、寝転がってこのままもう動きたくないそういう思いが巡ってくる。

だが、そういうわけにもいかない。

昨日から何も食べていないし、口に含んだのもあの食虫植物の水だけだ。
しかし、いまやあの不味い水すらない。

うーん、今ならあの水でもがぶ飲みできる自信がある。

疲労のためか、会話もなく三人ともに押し黙っている。

そんな沈黙がしばらく続いた唐突にそれは破られた。

ヴィーラスがおもむろに立ち上がり、何をするのか見ているとおもむろに笛を吹き始めたのだった。

何してるんだ、こいつと思って同意を求めるようにアリバのほうを見るが、胡坐を組み、瞑目していた。

もしかしたら、寝ているのかもしれない。

吹き風、草原の草がさざ波立つように揺れる。

そこに鳥のさえずりのような奇妙な音が鳴る笛の音。

初めて聞く旋律だったか、不思議と嫌いではなかった。

自然と落ち着く。考えてみれば、この世界に来てから落ち着く暇なんてなかった。

束の間の休息、不思議な旋律を耳に感じながら――――いつの間にか、俺の意識は遠ざかっていこうとしたとき、

アリバがガバリと身を起こした。

それに離れそうになっている意識が読み戻される。
「どうした?」と聞くと、アリバは真剣な瞳をしながら、あれを見ろと言わんばかりに顎をしゃくった。

そちらを見やると、注目されて嬉しいのか。

笛を吹きながら、体を揺らし。笛の音を一層と高くするヴィーラスが見えた。

あれがなんだ?とアリバを再度見やると、アリバはその奥だ。言わんばかりにその鋭い爪を伸ばした。

伸ばされた爪の先、調子に乗り始めたヴィーラスの後ろには草原しか――――いや、その奥に緑の中に不自然な白いモコモコが見えた。



あれは、


「・・・・・・ウサギ?」
「そのようだ」

ヴィーラスの音色に誘われてたのか、ウサギは少しづつこちらに近付いてるようだ。

白い毛に真っ赤な目、角や外的な特徴もないただのウサギのようだ。
でもここは、異世界だ。魔法でも打ってくるのかもしれない。

そんなことを考えていると、アリバは身を伏せて草にできるだけ体を隠すようにしながら、ウサギの風下へと少しづつ移動していった。

草からアリバが顔出すとそれは水面で獲物を狙うワニのようだが、・・・・・・まさか捕まえる気か?!

予感的中で、アリバは兎の背後へと忍び寄っているとき、

音色が終わった。

「ふっ、どうだ。我の演奏を聴けるなどそれこそ妖精王ほどの―――」
「「―――あっ!」」

演奏が終わると同時にウサギはまさしく脱兎のごとくというかそのものに駆けだし始めた。

「うぉおおおおおお!!!」

アリバがそれを身を起こして走り出した。

「ふっ、やれやれスタンディングオベーションなら、叫ばなくとも―――って貴様らどこに行く気だ!」
「ウサギがいたんだ、それをアリバが追ってるんだ。早くいくぞ!」
「な、ウサギだと。ふっ、小動物ですら魅了してしまうようだな、って聞け!!」

ヴィーラスが後ろで何事か叫んでいるが、今はそれどころではない。

アリバはその巨体に似合わず敏捷なようでうさぎを追い回している。

しかし、小さな体で素早くなかなか捕まえることができない。そして、ついに草原が終わりをつげ森へとたどり着いてしまった。

さすがにもうだめだと思った時、

「ここで終われるか!」

そんな少年漫画の熱いセリフのようなものを言いながらアリバは森へと突入していった。

まじかよ!

そう思いながらもアリバの背中を追う。

「おい、とか、ええい!アリバ この森は何がいるのか分からないのだぞ!危険だ、やめろ!!」

いつの間にか追いついてきたヴィーラスがそう叫ぶがアリバは止まらなかった。

「逃がしてなるものか!」とアリバが慟哭する。

一体なにがアリバをそうさせているか分からないが、過去何かがあったのだろうか

「俺は、俺は、ウサギが大好物なんだ!!絶対に食うぞ!」

・・・・・・大した理由ではなかった。

「どこまででも着いていくぞ。アリバとウサギが出会って始まらない物語はないのだ!!」

いや、そんなアリスとウサギじゃないんだから。

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