30歳から始まる異世界週末基地

ロータス

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第2話:飲み水

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「ニホン、ワリウネクル・・・ついぞ聞いたことがない」


鬱蒼とした草木をその両腕を振るいながら、切り裂き、掻き分けるのは、リザードマンの戦士アリバだ。

「高貴なる私は、下賤な民のことは知らぬな」

絹のようにきれいな金髪から覗く長耳が特徴のエルフ、ヴィーラスがアリバが切り開いた道を優雅に歩く。

「俺もワリウネクル、スワンゴも知らないな」

と最後尾には園田 拓海こと俺が続いた。

あの後、しばらく次の召喚者が現れるのを待ってみたが、現れることはなく。
また、召喚者自身もその気配すらないまま時が流れたが、いつまでもここにいる意味もないとのことであたりを捜索することにしたのだ。


森のことなら、エルフの出番だろうとヴィーラスに話を聞けば、

「私たちは、精霊の守り人であるぞ。このような暑苦しいところなど知らぬ」と一蹴されてしまった。

どうやら、3人ともにこの地形に覚えがないようだ。

鬱蒼と茂った草木に蔓が巻き付いた巨木がいくつかあり、高温多湿な気温はジャングルに思えなくもないが、どことなく違う気がしたといってもジャングルとか行ったことないんだけど。

それにしても――――喉が渇く。

思えばかなりの距離を進んでいる、草木を掻き分けてくれているアリバほどではないにしても成れない獣道ですらないでこぼこの地面を歩くのはかなり大変だ。

それに高温多湿な気温のせいで、かなりの汗を掻いていてTシャツの色が変わってしまうほどだ。

このままでは、脱水症状を起こしてしまいそうだ。

そう思っていた時、ヴィーラスが声を挙げた。

「ちょっと待て。とか――――」

さすがにどこにつくと分からぬ道に知れずにアリバは苛立っていたのかもしれない、ヴィーラスがトカゲと言い終わる前にその凶悪なかぎ爪を掲げる。言い終えたら、それで振り下ろすと言わんばかりに。

「んっ、コホン。アリバ。水が飲みたくないか。近くに水場がある」
「なんと、それは真か?!」
「うわっ、・・・本当だとも水の匂いがかすかだ感じたのだ。ええい!顔を近づけるな!!あっちだ!あっちに進め!」

アリバも喉が渇いていたのかもしれない。そんなヴィーラスの言葉にワニのような尻尾がまるで犬が喜ぶように揺れている。

「よし! こっちだな!!」

目標を見つけ、アリバが元気に両腕を振るって次々に草花を切り裂き、なぎ倒していく。

しばらくそうしていると、背丈の高い木々がなく円でくりぬかれたように青空がのぞいていた。

しかし俺はそんなことよりも、水場。川で早くこの渇きを癒したいと左右に視線を走らせる。

そこには、赤に黒い斑点。まるでてんとう虫のようなやばそうな色をした筒状の植物が大量に群生していた。

見た感じは、あれだなー。あーあの、虫を食べる食虫植物のそれだった。

筒状のそれが、大量にあるとパイプオルガンを思わせるが、その奇抜な色合いに神秘的よりも気持ち悪さを感じてしまう。

まぁいい、そんなことよりも。

「ふむ、川はないようだが?」

俺の疑問をアリバが先に口にした。その口調は怒っている?ように感じた。

「誰が、川と言ったのだ。私は、水場があると言ったのだよ」

そのうち口に赤いバラでも咥えだすのではないというほどの優雅さで髪をかき上げるヴィーラス。

「これのどこが、水場だ。馬鹿にしているのか」
 
表情が分かりにくいが、明らかに怒っている様子のアリバに、ヴィーラスも待て待て待てとさすがに慌てたようで両手を振るいカラフルな食虫植物たちへと向かっていた。

一体何をするのだろうか。腕組んでいるアリバとともに見つめている。

これはだめだ、こいつもか、こいつなら・・・とヴィーラスは食虫植物を覗き見ているようだが、まさか・・・。

と俺が嫌な考えがよぎったとき、「こいつなら大丈夫だな」とヴィーラスが筒状の食虫植物をもぎ取り!さもコップように三つもって戻ってきた。

「ほれ、飲むがいい」と差し出されたコップもとい筒状の食虫植物、中に透明な液体が満ちていた。

とりあえず、喉が渇いて飲めるならなんでもよい、ヴィーラスから受け取り、それ一気に煽る。

「って、飲めるか! こんな虫を溶かす溶解液、殺すか!」

俺の渾身のツッコミにふんっ、とヴィーラスは小馬鹿にしたように鼻をならす。

「無知な人の子に知恵を授けてやろう。ある条件を満たしているとこれの中の水は飲めるのだ!」
「なんだよ、その条件って!」
「ふっ、人の子に教えてもどうせ分かるまい」

その馬鹿にした態度にさすがの俺もカチンときた。

「言ってみなきゃ分からないだろうが!」
「無駄よ、無駄」
「なんだと、てめ―――」
「―――飲んでみろ」

俺とヴィーラスが口論に達しようとしたとき、切り裂くようにアリバが口を開いた。

「飲んでみろ、ヴィーラス。・・・どうした? 飲める水なんだろう?」
「も、もちろんだとも!」

ヴィーラスはそう叫ぶと食虫植物を見つめる。
それはとても険しい顔だった。

やっぱり噓なんじゃ

「―――え、ええい!」とヴィーラスは後に自分が言った手前後に引けむのか、食虫植物をコップのように掲げ一気に煽った。

喉がゴクゴクと動いてる。

こいつ、マジで溶解液を飲みやがった!!

「ぐっ、まっず!・・・・・・ふぅーどうだ、飲めたぞ!」

「どうだ、飲めたぞ!じゃないだろう、今まっず!って言ったろう」
「バカが!話はちゃんと聞け!誰もうまい水とは言ってないだろうが!」
「アリバもなんとか――――」

言ってくれ。と言いかけたとき、アリバも同様に食虫植物の水を飲んでいた。

一気に飲み干し、口元をチロリと蛇のような舌でなめとる。

「ふむ、不味いな。だが、飲めなくもない」
「・・・・・そ、そうだろう。そうだろう。そうだろうとも。さすがはリザードマンの戦士だ。どこぞのひ弱な人の子とは違うわ」
とアリバの肩に手を置きながら、勝ち誇ったようにこちらを見下げるヴィーラス。

くっ、悔しさに歯がみしていると。

「もうよいだろう。拓海、お前も飲め。脱水症状で倒れられても面倒だ」

とアリバが促してきた。

これを飲むのかよ。

赤地に黒色の斑点がついた筒状の食虫植物といういかにもヤバそうなものに入った溶解液。

「ふん、怖いのならそれでもよいぞ」とヴィーラスの挑発的な物言いに、覚悟を決め俺はそれを一気に煽ったのだった。

舌に感じたの若干の酸味で味はない。だというのに不味い!

生ぬるく、軟水のような柔らかさなのが救いで一気にゴクゴクと嚥下していく。

おかげで喉に潤いが戻った気がした。

だが。

「かぁー不味い!」

もう1杯と行きたくはない。


なんだかんだ、これがこの世界で最初に口にしたものであったが、この時はそんなことを気にする余裕は俺にはなかった。


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