シドの国

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グリディアン神殿

第64話 理想と安寧の連累

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~グリディアン神殿 夕暮れのスラム街 (ラルバサイド)~

 ハピネスを市街地に降ろした後、ラルバの引く荷車はまたしても辺りを破壊しながら強引に目的地へと突き進んでいた。
 何度声をかけても耳を貸さないラルバの説得をあきらめたナハルは、シスターに防御魔法をかけて激しく揺れる荷車から防護している。
「大丈夫ですか?シスター……」
「だ、大丈夫です……ナハル。心配入りませんよ」
 そう言ってシスターは優しく微笑ほほえんで見せるが、車輪が地面を離れ盛大に着地する度に顔を苦しそうにゆがめる。ナハルはラルバを恨めしそうな眼差しでみつけるが、当の本人はどこ吹く風で爆走を続ける。
「わぁ~たしはかぁ~ぜ~のぉ~ふぅらい~ぼぉ~あらよっとぉ!!」
「あの角野郎……降りたらぶん殴ってやる……」
 ナハルの小さな独り言は真横のシスターの耳にすら届かず、けたたましい走行音にき消されていく。

宵闇よいやみのスラム街 私営保健所”イキイキあんしんセンター“~

「はいとうちゃ~く!!」
 突然急停止した荷車。その目の前にはち果てたコンクリートの診療所が、今にもくずれそうな様相でたたずんでいる。意気揚々いきようようと扉を蹴破けやぶるラルバの後ろで、シスターは落胆らくたん憤怒ふんぬが入り混じった表情で診療所を見上げる。それを心配そうに見つめるナハルが、看護服のすそをぎゅっと握りしめる。
「んあ?どったの?入らないなら置いてくよ?」
 ラルバが振り返ると、シスターは一度だけ深呼吸をして前を向く。
「……いえ。すぐ行きます」
「なーんか不満そうだねぇシスタん」
「ここは……貧民街の心のり所でした」
 シスターは診療所に足を踏み入れ、ゆっくりと辺りを見回す。薄汚くはあるが、適度に掃除されていることがうかがえる。
「私も2回ほど来ました。出生報告を聞きにおとずれた女性達の喜びと悔恨かいこん……生まれた子が女の子であれば涙を流して喜び……男の子であれば自らの腹を殴りつけてまで怒り、悲しみ……中には男児の引き取り給付金を当てにして旅行や買い物の計画を立てている方もいました」
「うげぇー冒涜的ぼうとくてきだねぇ」
「この国では普通のことです。私も最初はこの文化を忌避きひしていましたが……それでも、男児と分かっても大事な我が子だと引き取る方も大勢いました。決して幸せな道は歩めないと分かっていながらも、自らの子を愛さずにはいられない……自分の勝手な母性で引き取ってしまったと、何度も何度も我が子にあやまり続ける母親が……大勢……そこには、確かな母の愛がありました……」
 シスターは受付の名簿めいぼを手に取り、名前を一つ一つゆっくりの指でなぞる。指先は次第に震えて、その振動はやがて腕と肩を伝っていく。
「ここに来る女性達は……ほとんどの人が……我が子と初めて出会う大切な場所なんです……!!ここが……寄りにもよって……!!ここが、地下街への入り口だなんて……!!!」
 肩を震わせうずくまるシスターの背中を、ナハルが優しくでる。しかしラルバは待合室の机の上で胡座あぐらをかき、魔袋またいから取り出した干し肉をさかな晩酌ばんしゃくを始めていた。
「ん~……その話長くなる?早く進みたいんだけど、置いてっていい?」
 馬鹿にするようなラルバの態度にしびれを切らしたナハルが立ち上がると、そのすそを引いてシスターが顔を上げる。
「いけませんナハル。私なら大丈夫です。進みましょう」
「シスター……」
 涙をいて立ち上がるシスターと、ワインボトルをあおりながら歩き出すラルバ。その後ろを、ナハルは下唇を噛み締めながら追いかけた。

 事務室奥の扉をこじ開け、1人分の細い通路を降り地下へと進む3人。シミだらけのコンクリートはやがて土壁になり、階段も段々と丸太を並べただけのものに変わっていった。
「シスター。手を」
「ありがとうナハル」
 泥濘ぬかるみ狭くなっていく階段を、一歩づつ歩く2人。最下層に辿り着いた時には、先に到着していたラルバが1人の若い男を尋問じんもんしている最中だった。
「うりうり、喋らないとこの針金を鼻から入れて目から出しちゃうぞ」
「うう~っ!!うう~っ!!」
 ギョッとしたナハルは大慌おおあわてで駆け寄り若い男からラルバを引きがす。
「や、やめないか!!」
「あ、死ぬよ」
「え?」
 ラルバのつぶやきに、ナハルは若い男の方へと振り返る。振り向いたナハルの眼前にあてがわれた若い男のてのひらからは奇妙な魔法陣が浮かび上がっており、今まさに攻撃が行われる寸前であった。シスターがナハルにけ寄るよりも早くラルバが動き、ナハルの首を無理やり後ろへかたむける。
「うぎっ……!?」
 若い男の放った光弾はナハルの鼻先をかすめて天井へ衝突しょうとつし、一瞬でドス黒い紫色の樹木に変化した。
 その直後、ラルバが若い男の顔面に蹴りを喰らわせ昏倒こんとうさせる。しかし若い男はすぐさま立ち上がり、白目をいたまま手をラルバの方へかざす。
「む、そうくるか」
 ラルバは再び放たれた光弾をジャンプしてかわすと、若い男目掛けて指を差す。すると若い男は拘束魔法によって真っ白な鎖に閉じ込められ動かなくなった。
「魔法は出来るだけ使いたくないんだけどな~」
 シスターはナハルへ駆け寄り、心配そうにナハルの首をさする。
「ナハル……首は大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫です。おいラルバ!!あれはどういうことだ!?」
「へ?どうって何が?」
 詰め寄るナハルにキョトンとして生返事をするラルバ。
「あの魔法はなんだ!?それにあの男の挙動……明らかに意識がなかった!」
 ラルバはシスターの方をチラリと見ると、不満そうに溜息を吐いた。
「ああ……あれは旧文明の魔法だよ。あれ、おたくら旧文明についてはどの辺まで知ってるの?」
 シスターが小さく首を振る。
「旧文明としょうされる事柄については何も……ぼんやりと、大昔に戦争があったことくらいしか……」
 ラルバは面倒くさそうに唸り声を上げると、ナハルを睨んでから愚痴ぐちこぼす。
「はぁ~全部言わなきゃダメか……めんどくさ~」
 そしてシスターに目を向け、吐き捨てるように呟く。
「結論から言う。ここにいる人間、誰1人として助けることは諦めろ」
 ラルバのいつになく真面目な恫喝どうかつにシスターは一瞬ひるむが、毅然きぜんとした態度をなんとか保ちつつラルバと対峙たいじする。
「なっ……何故ですか。見捨てるには、あまりに判断が早すぎます」
「いいや遅すぎるくらいだ。ここの連中全員、旧文明の残党の手下だ。さあて何から話したものか……言っておくが、何を聞いてもうたがうなよ。証明できないからな。勝手に話すだけ話してやるから、信じるも信じないも勝手にしろ」
 この“グリディアン神殿”をむしばむ事の顛末てんまつを、使奴のすさまじい演算能力で推察したラルバ。そして、不運にも彼女と遭遇そうぐうしてしまった純真無垢じゅんしんむく魔導外科医まどうげかいシスター。彼の理想を今、冷酷な現実主義者が非常にもへし折り始める。一方その頃……



~グリディアン神殿 宵闇のスラム街 (ハザクラ・ラデック・ラプーサイド)~

 おぞましい異形の神”たましいひつぎ“こと、使奴研究員”ホガホガ“から逃げ出したハザクラ達は、さいわいにも男性を擁護ようごしている立場のコミュニティと接触し、その拠点きょてんへとまねかれていた。
「はぃどぅぞぉ~」
 腰を90度に曲げた老婆がハザクラ達の元へコーヒーを持ってくる。
「どうもありがとう」
 ハザクラは老婆に会釈えしゃくをしてコーヒーを受け取る。
「ぃんやぁ大変でしたなぁ。すまねなぁこん国は昔っ……からこうでねぇ」
 老婆が指し示すように振り返る。辺りにはハザクラ達以外にも数人の男女がおり、いずれもいたる所に怪我を負っている。
「男の味方すんのも敵だっつって……警察や軍も見て見ぬふりだて」
 ハザクラはコーヒーを一口すすり、目を伏せる。
「そうですか……つかぬことをお伺いしますが、この国の地下のことについて」
「地下?地下っつーと……氷室ひむろんことかぃ?」
 老婆のキョトンとした顔を見て、ハザクラはラデックの方を向き顔を左右に振る。地下街で見た装飾品や服装。それらはグリディアン神殿の文化とはかけ離れており、恐らく秘匿ひとくされた空間ではないかというハザクラ達の推測は的中していた。
 その後聞き込みを続けるも地下街について知るものは居らず、代わりにスラム街へ突如とつじょとして現れた“紫の髪に赤い角の大女”のうわさを聞いた。まるで英雄のように悪党をぎ倒していく様を上機嫌に話す者達を見て、ハザクラは頭をかか項垂うなだれた。
 その直後、突然爆発音をともなう地響きがハザクラ達をおそった。住民が取り乱す中、ハザクラはすぐ様窓から外壁によじ登り、電柱を駆け上がって音の方角に目を向ける。すると遠くに橙色だいだいいろの灯りと、その中心から立ち込める黒煙がかすかに見てとれた。ハザクラは顔をしかめて電柱から飛び降り、戻って先程の老婆へ駆け寄る。
「あちらの方角。何か爆発する物を保管している場所はありますか?」
「あ、あああっちかい?ああああっちは……え、えーと……」
「ぱっと見ですが、燃えているのは3階建ての煉瓦造れんがづくりの建物。その隣には 2階建ての青いトタン屋根。反対側には2階建ての黒っぽい煉瓦造りの建物で、屋上に大きな貯水槽ちょすいそうがありました」
「あ、ああっ!!じゃああれだ!!あっと……こ、“光嵐こうらんの会”の管理してる建物だよっ!!この辺の自警団だが……中身はドクズのチンピラさぁ……!!」
 狼狽うろたえながら舌を回す老婆に、ハザクラは会釈をして立ち去る。
「どうもありがとう。ラデック!!ラデックどこだ!!」
 ハザクラが呼びかけると、奥の通路からラデックが焼き飯を頬張ほおばりながら駆け寄る。
「ハザクラ!!た、大変だ!!ここの焼き飯めちゃくちゃ辛い!!」
「近くの武装勢力の拠点が爆発した!!直に暴動が起こるぞ!!」
「肉も魚も全部辛いんだ!こんなことなら地下の飯を食べておくんだった……!!」
「ラプー!全員を安全な場所へ!!」
「んあ」
「ハザクラ水持ってないか!?俺の手持ちの飲み物ほとんど焼き飯に合わない……水か牛乳が欲しい……」
 ハザクラの警告通り、武器庫の爆発を境に四方八方から大勢の武装勢力が姿を表し、方々で激突することとなった。1時間と経たずに宵闇のスラム街は戦火によって昼間のように明るく、真夜中の静けさはけたたましい重火器の発砲音と悲鳴混じりの雄叫おたけびに塗り潰された。

 その様子を遥か遠くから眺める人物が1人――――
 ハピネスは喧騒を背に暗闇の路地裏を進んでいく。
「踊る阿呆あほうに見る阿呆あほう……同じ阿呆あほうにはなりたくないね」
 鼻歌混じりに魔袋またいからコニャックを取り出し、盲目者とは思えぬ軽い足取りで大きくびんかたむける。
「うぇっ……度数強っ」
 暴動を起こした陰の主犯は嘔気おうきはらみながらフラフラと街角へ姿を消した。



~グリディアン神殿 地下街 (ラルバサイド)~

 200年前の文明。それによる大戦争。使奴研究所。想像を絶する余りに無茶苦茶な話に、シスターは自分がだまされている可能性を考えた。しかし最初にラルバが言った「証明ができないから疑うな」という発言を思い出し、再び思考を泥の海へと沈める。
「――――とまあ昔話はこれぐらいかな。で、本題に入るが……この国の男性差別について、“男を嫌った”のではなく“男を欲した”結果だと言ったのを覚えているか?」
 ラルバはシスターの混乱などお構いなしに話し続ける。
「まずこのグリディアン教だが……旧文明にあった宗教に形式が酷似こくじしている。多分丸パクリだな。相違している部分といえば、“男”に関する部分だ。旧文明は全体的に男尊女卑だんそんじょひの文化だったからな。まず男性の権威けんいおとしめるような宗教は存在し得ない。故に、グリディアン教が大戦争をさかいに意図して作られた宗教であることは間違いない。問題は誰が作ったかだが……まずマンパワーを欲している時点で使奴の可能性は薄い。そしてさっきの男が使っていた黒い樹の魔法だが、あれは旧文明の中でも高度な複合魔法だ。到底今の技術では辿たどり着けん。あのレベルの魔法を現代人にも伝える技術を持っていると言うことは相当な技術者……まあ使奴研究員だろうな。そしてその使奴研究員は奴隷を作り出せる異能を有しており、200年もの間延命し続けてグリディアン神殿の陰の支配者であり続けている……とまあこんな所かな。以上が私の知っていることと推測。あんまり長話してられないし、質問は全却下ね」
 言うだけ言うとラルバは壁に耳をつけ、しばらく耳をませた後「あっち!」と指差し確認をして歩き始める。シスターも目を伏せたままではあるが、ラルバの後をゆっくりと追い始める。心配したナハルがシスターの顔を覗き声をかけようとするが、シスターが無言のまま掌を突きつけて制止させる。
「シスター……」
 ナハルが呟くと、シスターは独り言のようにぽつりぽつりと言葉を落とす。
「…………ナハル。ナハルはこういう時、どうしますか?」
「え?」
「自分が到底信じられない現実と直面した時、相手の言うことを全く信用できない時、その言葉が真実であると信じなければならない時……どうしますか?」
 ナハルは少し躊躇ためらった後、申し訳なさそうに口を開く。
「……進めば分かることです。シスター、私が……私が付いています」
 シスターはナハルを見上げ、再び目を伏せる。
「ありがとう。ナハル……」
 しかしシスターの頭には未だ暗雲が立ち込めており、軽快な足取りのラルバとの距離はどんどん離れていく。それでもシスターは、泥濘ぬかるみにまったかのように重い足取りをなんとか引きり歩みを進め続けた。

 暫く進むと、侵入を察知した男達が襲いかかってきた。しかしラルバはこれをほこりを払うように一蹴し、通路の端に転がす。そしてシスターが治療しようと駆け寄る度にラルバは制止させ「無駄だ」と睨みつけてきた。ラルバの言う通り、男達はシスターが近づくだけで手をこちらに向け魔法を放ってくる。
 魔導外科医という人を救わねばならない立場であるにもかかわらず、救える命を見捨てなければならない状況にシスターは酷く胸を痛めた。しかし、泣こうがわめこうがこの現実を受け入れる他なく、シスターは死刑囚のように放心した表情で現実に見切りをつけた。
 そうしていくうちに、ラルバは巨大な扉の前でピタリと足を止める。
「着いたよ」
 そしてシスターとナハルの方へ振り返り、わざとらしくお辞儀をして扉の脇に立つ。
「それではお客様……どうぞごゆっくり。命の保証はないけどね」
「……ありがとう……ございます」
 シスターはラルバにお辞儀じぎをして扉の前に立つ。黄土色の石壁に真っ赤な絨毯じゅうたん。像が通れるほど大きな扉には大きく“たましいひつぎ”と刻まれている。シスターはゆっくりと深呼吸をして、決意したように扉に手を掛ける。そこへナハルが後ろから手を重ね、シスターと目を合わせる。
「私が付いています。シスター」
「……はい。ありがとう。ナハル」

 扉を開けると、中はきらびやかな王室のような内装になっていた。しかし中央の真っ赤な天蓋てんがいカーテンのかかった巨大なベッド。その上にうずくまる真っ白の巨大な肉塊にくかいが、部屋の上品さをそのまま不気味さへと塗り替えていた。
『だ、だぁれ……?』 
 肉塊が女性の声をこぼす。そこでシスターは初めてこの肉塊が人間であるという事実に気がつき、全身の毛が逆立つのを感じた。
「っ……私は、魔導外科医をさせていただいております。シスターと申します。そしてこちらは助手のナハル」
 ナハルは何も言わずに肉塊を睨み続ける。肉塊は自己紹介にもぞもぞと身体をうごめかして反応し、ゆっくりと体長を上へ伸ばし始める。今までうずくまっていたのか、肉塊の奥から黒い毛の束が付いた部位が持ち上がり、次第に人間に近いシルエットを持つ。そして今までシスターが見ていた姿は、うずくまった肉塊の背中であったことが判明した。
『わだ、私は“グリディアン”……よく来たわね……あなだだち……』
 肉塊はゆっくりとこちらへ顔を向ける。顔中にひるが寄生しているのではないかと思うような悍ましい相貌そうぼう。よく見れば、全身は身動きが取れないほどの贅肉ぜいにくおおわれており、それ以上に肥大した皮膚ひふ幾重いくえにも段差を作り、グリディアンの一挙一動に合わせて揺れ動いている。
 シスターは込み上げる嘔気を必死にこらえ、真剣な表情で問いかける。
「グリディアン……あなたは、言わばこの国の……グリディアン神殿の創造主……ですね?」
 グリディアンは世にも恐ろしい笑顔を浮かべ、目を細める。
『そう……私が“魂の柩”となって……この国を守っているの……』
「ならば問います。一体……何のために“ザルバスを……今までの為政者いせいしゃを操っていたのか”を……!!!」
 グリディアンが一瞬身を強張こわばらせる。
「今までの政策は全て国民をおとしめ破滅へ向かわせる悪政です……!!!あなたは……あなたは自分が何をしたかを分かって――――」
『しがだないのよっ!!!』
 グリディアンの砲撃のような怒号が部屋を揺らし、シャンデリラの電球を破壊した。部屋はまたたく間に暗闇に飲まれるが、シスターは咄嗟とっさに炎魔法で明かりをともす。
『わだしだってこんなごとしたくないわぁ……人の悲しみ……憎しみ……それは痛いほどよぐ分かる……』
 暗闇の先でうごめく肉塊は、言葉をこぼしながらもぞもぞと身動みじろぎをする。
『でもしがだないことなの……分かってちょうだい……?』
 そしてその巨体を一瞬痙攣けいれんさせたかと思うと、眩暈めまいがするほどの波導はどうが突風のようにシスターを襲い、手元の炎魔法は掻き消されてしまう。
『だって……』
 再びシスターが明かりを灯すと――――
『だって男の子ってこんなに可愛いんですもの』
 視界を埋め尽くすほど近くに、グリディアンの顔があった。
「ひっ――――」
 ナハルもシスターを助けようと足を踏み出してはいたが一歩出遅れる。そしてそのままグリディアンはシスターを抱き締めるように腕を――――
『びゃっ――――――――っ!!!』
 うめくような悲鳴と共にグリディアンの半身が吹き飛んだ。いや、正確には“ひび割れ、裏返った”。
「お客さぁん。ウチ、お触りはNGなんですよねぇ」
 声の主の方を見て、全員が現状の変化に気がついた。見渡す限りの満天の星々に、地面を埋め尽くす石畳いしだたみ。そして、無邪気な笑みを浮かべる使奴が一人。
「シスター!ナハル!お前らもう寝てていいぞ。こっから先は、スーパーヒーローラルバ様の独擅場どくせんじょうだ!!!」
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