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クザン村
第32話 祟りの正体
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~クザン村 クザン湖~
ラルバが担い手大堂に連れ込まれた翌日の朝――――
「あー……ラデック」
「なんだ、ハピネス」
「何で釣りなんかしている?」
やることが無くなったラデックはクザン湖に来ていた。興味本位でついてきたハピネスは、予想外の行動に首を傾げている。
「釣りは嫌いか?あ、やったことないか」
「いや、そうではなくて、何故釣りなんだ?こんな汚い湖で。その岩鯨をどうするつもりだ?」
ハピネスはラデックが釣り上げた数匹の岩鯨を指差して不快な顔をする。岩鯨はバケツからはみ出して逃げ出そうと身を捻らせてのたうち回っている。
「いや、昨日ハピネスが”岩鯨は雑食で土でも毒でも食べる“って言うから、本当に石や木の枝でも釣れるか試してる。ちゃんと後で湖に帰す――――ん、もう一匹かかったな」
ラデックはしなった釣竿……よく見れば物干し竿の先に糸を括り付けただけのオモチャを後方へ倒し、釣り上げた岩鯨を陸に叩きつける。
「トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー……トンタトンタラッタラッタ……」
針を外しながら呟くように突然歌い始めたラデック。陽気とは程遠いラデックのイメージに驚いたハピネスは思わず尋ねる。
「ラ、ラデック君……歌なんか歌うようなキャラだっけ?」
「……?最近の人間は鼻歌とかしないのか?」
「いや、そうじゃないんだが……意外でな……何の歌なんだ?」
「んー……半分俺が作った。“トンタラッタの大冒険”という本を知って……るわけないか。200年以上前の本だしな」
「どんな本なんだ?」
ラデックは再び釣り針を湖面に投げつけタバコをふかす。
「俺が5、6歳の頃に読んだ児童向けの絵本だ。主人公のトンタラッタという少年が苦難を乗り越える内容の。さっきの歌はそれに出てくる」
「ラデック君は今26だっけ?今でも覚えてるなんて、相当お気に入りだったんだな」
「相当お気に入りどころか、俺の生きる理由でもある」
ハピネスはギョッとして目を見開き、眉一つ動かさず煙を吐き出すラデックを見つめる。
「そ、そんなに良い内容なのか?」
「恐らく一般的には駄作と表現されるものだろう」
「え?じゃあ何故……どんな内容なんだ?」
「トンタラッタの兄が勇者に選ばれ魔王退治に行くが返り討ちに遭い命を落とす。それで今度はトンタラッタが兄の仇を討ちに旅に出るんだ」
「随分ダークなスタートだな」
「スタートだけじゃない。道中トンタラッタは商人にぼったくられ、宿に泊まれず野宿をしていると追い剥ぎに襲われる。命からがら逃げ延びたところで兄の元仲間たちに出会うんだが、“お前の兄が弱っちいせいで俺たちは大怪我をした”と半殺しにされる」
「それ本当に児童向け絵本か?」
「恐らく苦難を乗り越えるトンタラッタを見習ってほしいと思ったのかもしれないな……降り掛かる火の粉が多すぎて前世の罪を精算させられているように見えるが」
ラデックは遠い目をしてタバコの煙を湯気のように吐き出す。
「トンタラッタは辛いことがあると歌を歌うんだ。“トンタラッタ叩かれた。お前のせいだと叩かれた。だけどそんなの大丈夫。引きずる右足壊れた左手。暫く寝てれば大丈夫。トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー”と。そこに俺が音程をつけたのがあの歌だ」
「聞いているだけで辛いストーリーだな……もしかして最後死んじゃったりする?」
「もしかして最後死んじゃったりする」
「報われない……」
「いや、そうでもない。結局後編でトンタラッタは魔王の手下に殺されて死んでしまうんだが、それでもトンタラッタの幸せは侵されない。暗闇で一人ぼっちで死んでいくが、トンタラッタは自分の信じた幸せを疑わなかった。兄を無能と貶すこともなく、自分を嵌めた人間を恨むこともなく、自分を受け入れない世界を憎むこともなく、理想を信じて守り抜いた。俺はそこに惹かれたんだ」
「惹かれ……惹かれる部分あったか?幸せ?」
「昔から物語を読むのが好きだったが、ハッピーエンドには必ず何かが必要だ。友人であったり、恋人であったり、才能であったり、境遇であったり。生きていれば必ず良いことがあると言いつつも、幸せになれるのは皆ハッピーエンドの条件を満たした者だけだった。けどトンタラッタは違う。どんなに惨めで弱小で報われなくても、信じる心一つで幸せになった」
「……ラデック。それは盲目というものだ」
「盲目でいい。見えないのと見ないのは別だ。トンタラッタがいたからこそ、俺は生きていれば必ずある“良いこと”を探すことに踏み出せる」
ハピネスは一通り話を聞くと、珍しく眉間に皺を寄せて目を閉じ唸り声を漏らす。
「なーんだラデック。そんな理由で私の脅しに従ってたのか」
突然割り込んできた陽気な声に2人が振り向くと、いつもと変わらぬ堂々とした姿勢でラルバがこちらを見下ろしていた。しかし、その後ろには小動物のように怯えているクアンタが無理やり手を引かれている。
「ラルバ。バビィ達はどうした」
「今から虐める。クアンタちゃんには特等席で見てもらおうと思ってなぁ」
「け、結構です……!!」
「ラルバ、よせ。トラウマになる」
「えー……めちゃんこ面白いのに……」
ラルバが手を離すと、クアンタは小走りでラデックに駆け寄った。
「ふーんだ。いいもんねー勝手にやっちゃうモン」
しゃがんだラルバが湖面に手をつけると、水中から氷の桟橋が浮かび上がる。それを合図に、村の方からバリアとラプーが簀巻きにされた村人達を引きずって歩いてきた。
村人達は皆顔を腫れ上がらせて血を流しており、誰一人として文句を言うことなく死体のようにじっとしている。
「いやーご苦労様!じゃあこれからクザン様のご機嫌を取るために生贄でも捧げましょうかねー」
ラルバの殺害予告に村人達は身体をビクッと震わせ、1人の男が命乞いを漏らす。
「たっ頼む……許してくれ……!」
しかしラルバは返事の代わりに男の腹を力一杯踏み潰す。
「がああああっ!!!」
「勝手に喋るなっつーに。罰として最初はお前からだ」
「…………!!!」
ラルバは息ができず悶える男を担いで、氷の桟橋を渡って端まで移動する。
「無駄だ……!」
そう呟いたのはバビィであった。地面に倒れ込み同じく顔をボコボコに腫れ上がらせて今にも泣きそうな顔はしているが、その中のは隠しきれない憤怒が見え隠れしている。
「無駄ぁ?何がぁー?」
ラルバが振り向いてバビィに返事を返すと、バビィは首だけをラルバの方へ振り向いて声を張り上げる。
「クザン様は女しか供物として認めん!!男では贄として認められんのだ!!祟りは防げん!!」
ラデックの陰に隠れていたクアンタも、目に涙を浮かべながら補足し始める。
「バビィの言う通りなんです……!結局……私が死なない限りは……!クザン様はお許しにならない……!」
「クザン様なんていないよ?」
ラルバのあまりに確信を持った物言いに、村の人間達は狂人を見るような目でラルバの方を見た。
「馬鹿者め……!クザン様を愚弄するとは……!」
「今すぐ謝れ他所者!!クザン様の怒りを買ったらどうする!!」
「んーそれはないよ絶対。だってクザン様なんていないモン」
ラルバは踵を返して氷の桟橋から陸へ戻る。
「まあ強いて言うなら……」
担いでいた男を足元へ転がし、ラデックが釣りに使っていたバケツに手を突っ込む――――
「これが“クザン様”だ」
一匹の岩鯨を村人達に掲げて見せた。
ラデックですらその言葉に首を捻り、理解できず沈黙する。
「祟りの正体?なんてことない。ただの毒ガスだ」
周囲の沈黙をいいことに、ラルバは岩鯨を指揮棒代わりにクルクルと振り回しながら解説を始める。
「このクザン湖だが、部分循環湖と呼ばれるものだ。普通は汽水湖なんかが当てはまるのだが……クザン湖は何らかの理由で水の一部が変質、比重が変わってしまったんだろう。そのため季節による水の温度差が起こっても一部しか循環しない。最下層では毒素が溜まり続け、上層部を侵食。毒素は広がっていく。しかし、本来はそうならない。何故ならこの湖は地下水脈と繋がっているからだ。山から流れてきた水が地下水脈を通って湖に流入し、また湖底の水脈を通って川や海へ流出していく。元々はそうやって循環していたんだ。では何故部分循環湖になったのか?その原因がコイツだ」
ラルバは振り回していた岩鯨を村人達の方へ放り投げる。地面に叩きつけられた岩鯨は、全身からドロドロとした半透明の粘液を分泌して硬直している。
「コイツらは危険を感じると、こうやって粘液を纏って仮死状態になるらしい。そうして自分たちが活動できる条件が揃うまで休眠し続ける――――世間では通称“トコネムリ“と言うそうだ。湖の腐敗は、コイツらが粘液で湖底にある下流を堰き止めてしまったのが原因だ。毒で休眠状態になったトコネムリは湖底の穴を塞ぐ。そしてまた毒素が増えて、余計にトコネムリは穴から出られなくなってしまう。湖が広がっていないと言うことは、恐らくどこかの地下水面と水位が同じなのかもしれんが、排水はもはや蒸発くらいでしか出来なくなってしまったのだ。溜まりに溜まった毒はいずれ毒ガスとなり、祟りとなって村を脅かした。クザン村の先住民は困っただろうなぁ。そこで発明されたのが“生贄でクザン湖を綺麗にしちゃおう作戦”だ!」
ラルバはラデックの使っていた釣竿を手に取り、釣り針にきのみを一粒刺して湖に投げ入れる。
「クザン様クザン様どうか村をお救いください~ってな。腐った湖にキレイなお肉をたらせば~この通り!」
ラルバが釣竿のを引くと、僅か数秒で岩鯨が釣り針に顎を貫かれていた。
「水を堰き止めていたトコネムリは、新鮮キレイなご馳走に目を覚ます。穴は一時的に解放され排水が始まる。そして一番濃い毒が取り除かれ、毒ガス噴出のタイムリミットは延長される。食事を終えたトコネムリは再び毒に当てられ、休眠しに穴に潜って水を堰きとめる……これが、お前らが代々信じてきた祟りの正体だ」
ラルバが担い手大堂に連れ込まれた翌日の朝――――
「あー……ラデック」
「なんだ、ハピネス」
「何で釣りなんかしている?」
やることが無くなったラデックはクザン湖に来ていた。興味本位でついてきたハピネスは、予想外の行動に首を傾げている。
「釣りは嫌いか?あ、やったことないか」
「いや、そうではなくて、何故釣りなんだ?こんな汚い湖で。その岩鯨をどうするつもりだ?」
ハピネスはラデックが釣り上げた数匹の岩鯨を指差して不快な顔をする。岩鯨はバケツからはみ出して逃げ出そうと身を捻らせてのたうち回っている。
「いや、昨日ハピネスが”岩鯨は雑食で土でも毒でも食べる“って言うから、本当に石や木の枝でも釣れるか試してる。ちゃんと後で湖に帰す――――ん、もう一匹かかったな」
ラデックはしなった釣竿……よく見れば物干し竿の先に糸を括り付けただけのオモチャを後方へ倒し、釣り上げた岩鯨を陸に叩きつける。
「トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー……トンタトンタラッタラッタ……」
針を外しながら呟くように突然歌い始めたラデック。陽気とは程遠いラデックのイメージに驚いたハピネスは思わず尋ねる。
「ラ、ラデック君……歌なんか歌うようなキャラだっけ?」
「……?最近の人間は鼻歌とかしないのか?」
「いや、そうじゃないんだが……意外でな……何の歌なんだ?」
「んー……半分俺が作った。“トンタラッタの大冒険”という本を知って……るわけないか。200年以上前の本だしな」
「どんな本なんだ?」
ラデックは再び釣り針を湖面に投げつけタバコをふかす。
「俺が5、6歳の頃に読んだ児童向けの絵本だ。主人公のトンタラッタという少年が苦難を乗り越える内容の。さっきの歌はそれに出てくる」
「ラデック君は今26だっけ?今でも覚えてるなんて、相当お気に入りだったんだな」
「相当お気に入りどころか、俺の生きる理由でもある」
ハピネスはギョッとして目を見開き、眉一つ動かさず煙を吐き出すラデックを見つめる。
「そ、そんなに良い内容なのか?」
「恐らく一般的には駄作と表現されるものだろう」
「え?じゃあ何故……どんな内容なんだ?」
「トンタラッタの兄が勇者に選ばれ魔王退治に行くが返り討ちに遭い命を落とす。それで今度はトンタラッタが兄の仇を討ちに旅に出るんだ」
「随分ダークなスタートだな」
「スタートだけじゃない。道中トンタラッタは商人にぼったくられ、宿に泊まれず野宿をしていると追い剥ぎに襲われる。命からがら逃げ延びたところで兄の元仲間たちに出会うんだが、“お前の兄が弱っちいせいで俺たちは大怪我をした”と半殺しにされる」
「それ本当に児童向け絵本か?」
「恐らく苦難を乗り越えるトンタラッタを見習ってほしいと思ったのかもしれないな……降り掛かる火の粉が多すぎて前世の罪を精算させられているように見えるが」
ラデックは遠い目をしてタバコの煙を湯気のように吐き出す。
「トンタラッタは辛いことがあると歌を歌うんだ。“トンタラッタ叩かれた。お前のせいだと叩かれた。だけどそんなの大丈夫。引きずる右足壊れた左手。暫く寝てれば大丈夫。トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー”と。そこに俺が音程をつけたのがあの歌だ」
「聞いているだけで辛いストーリーだな……もしかして最後死んじゃったりする?」
「もしかして最後死んじゃったりする」
「報われない……」
「いや、そうでもない。結局後編でトンタラッタは魔王の手下に殺されて死んでしまうんだが、それでもトンタラッタの幸せは侵されない。暗闇で一人ぼっちで死んでいくが、トンタラッタは自分の信じた幸せを疑わなかった。兄を無能と貶すこともなく、自分を嵌めた人間を恨むこともなく、自分を受け入れない世界を憎むこともなく、理想を信じて守り抜いた。俺はそこに惹かれたんだ」
「惹かれ……惹かれる部分あったか?幸せ?」
「昔から物語を読むのが好きだったが、ハッピーエンドには必ず何かが必要だ。友人であったり、恋人であったり、才能であったり、境遇であったり。生きていれば必ず良いことがあると言いつつも、幸せになれるのは皆ハッピーエンドの条件を満たした者だけだった。けどトンタラッタは違う。どんなに惨めで弱小で報われなくても、信じる心一つで幸せになった」
「……ラデック。それは盲目というものだ」
「盲目でいい。見えないのと見ないのは別だ。トンタラッタがいたからこそ、俺は生きていれば必ずある“良いこと”を探すことに踏み出せる」
ハピネスは一通り話を聞くと、珍しく眉間に皺を寄せて目を閉じ唸り声を漏らす。
「なーんだラデック。そんな理由で私の脅しに従ってたのか」
突然割り込んできた陽気な声に2人が振り向くと、いつもと変わらぬ堂々とした姿勢でラルバがこちらを見下ろしていた。しかし、その後ろには小動物のように怯えているクアンタが無理やり手を引かれている。
「ラルバ。バビィ達はどうした」
「今から虐める。クアンタちゃんには特等席で見てもらおうと思ってなぁ」
「け、結構です……!!」
「ラルバ、よせ。トラウマになる」
「えー……めちゃんこ面白いのに……」
ラルバが手を離すと、クアンタは小走りでラデックに駆け寄った。
「ふーんだ。いいもんねー勝手にやっちゃうモン」
しゃがんだラルバが湖面に手をつけると、水中から氷の桟橋が浮かび上がる。それを合図に、村の方からバリアとラプーが簀巻きにされた村人達を引きずって歩いてきた。
村人達は皆顔を腫れ上がらせて血を流しており、誰一人として文句を言うことなく死体のようにじっとしている。
「いやーご苦労様!じゃあこれからクザン様のご機嫌を取るために生贄でも捧げましょうかねー」
ラルバの殺害予告に村人達は身体をビクッと震わせ、1人の男が命乞いを漏らす。
「たっ頼む……許してくれ……!」
しかしラルバは返事の代わりに男の腹を力一杯踏み潰す。
「がああああっ!!!」
「勝手に喋るなっつーに。罰として最初はお前からだ」
「…………!!!」
ラルバは息ができず悶える男を担いで、氷の桟橋を渡って端まで移動する。
「無駄だ……!」
そう呟いたのはバビィであった。地面に倒れ込み同じく顔をボコボコに腫れ上がらせて今にも泣きそうな顔はしているが、その中のは隠しきれない憤怒が見え隠れしている。
「無駄ぁ?何がぁー?」
ラルバが振り向いてバビィに返事を返すと、バビィは首だけをラルバの方へ振り向いて声を張り上げる。
「クザン様は女しか供物として認めん!!男では贄として認められんのだ!!祟りは防げん!!」
ラデックの陰に隠れていたクアンタも、目に涙を浮かべながら補足し始める。
「バビィの言う通りなんです……!結局……私が死なない限りは……!クザン様はお許しにならない……!」
「クザン様なんていないよ?」
ラルバのあまりに確信を持った物言いに、村の人間達は狂人を見るような目でラルバの方を見た。
「馬鹿者め……!クザン様を愚弄するとは……!」
「今すぐ謝れ他所者!!クザン様の怒りを買ったらどうする!!」
「んーそれはないよ絶対。だってクザン様なんていないモン」
ラルバは踵を返して氷の桟橋から陸へ戻る。
「まあ強いて言うなら……」
担いでいた男を足元へ転がし、ラデックが釣りに使っていたバケツに手を突っ込む――――
「これが“クザン様”だ」
一匹の岩鯨を村人達に掲げて見せた。
ラデックですらその言葉に首を捻り、理解できず沈黙する。
「祟りの正体?なんてことない。ただの毒ガスだ」
周囲の沈黙をいいことに、ラルバは岩鯨を指揮棒代わりにクルクルと振り回しながら解説を始める。
「このクザン湖だが、部分循環湖と呼ばれるものだ。普通は汽水湖なんかが当てはまるのだが……クザン湖は何らかの理由で水の一部が変質、比重が変わってしまったんだろう。そのため季節による水の温度差が起こっても一部しか循環しない。最下層では毒素が溜まり続け、上層部を侵食。毒素は広がっていく。しかし、本来はそうならない。何故ならこの湖は地下水脈と繋がっているからだ。山から流れてきた水が地下水脈を通って湖に流入し、また湖底の水脈を通って川や海へ流出していく。元々はそうやって循環していたんだ。では何故部分循環湖になったのか?その原因がコイツだ」
ラルバは振り回していた岩鯨を村人達の方へ放り投げる。地面に叩きつけられた岩鯨は、全身からドロドロとした半透明の粘液を分泌して硬直している。
「コイツらは危険を感じると、こうやって粘液を纏って仮死状態になるらしい。そうして自分たちが活動できる条件が揃うまで休眠し続ける――――世間では通称“トコネムリ“と言うそうだ。湖の腐敗は、コイツらが粘液で湖底にある下流を堰き止めてしまったのが原因だ。毒で休眠状態になったトコネムリは湖底の穴を塞ぐ。そしてまた毒素が増えて、余計にトコネムリは穴から出られなくなってしまう。湖が広がっていないと言うことは、恐らくどこかの地下水面と水位が同じなのかもしれんが、排水はもはや蒸発くらいでしか出来なくなってしまったのだ。溜まりに溜まった毒はいずれ毒ガスとなり、祟りとなって村を脅かした。クザン村の先住民は困っただろうなぁ。そこで発明されたのが“生贄でクザン湖を綺麗にしちゃおう作戦”だ!」
ラルバはラデックの使っていた釣竿を手に取り、釣り針にきのみを一粒刺して湖に投げ入れる。
「クザン様クザン様どうか村をお救いください~ってな。腐った湖にキレイなお肉をたらせば~この通り!」
ラルバが釣竿のを引くと、僅か数秒で岩鯨が釣り針に顎を貫かれていた。
「水を堰き止めていたトコネムリは、新鮮キレイなご馳走に目を覚ます。穴は一時的に解放され排水が始まる。そして一番濃い毒が取り除かれ、毒ガス噴出のタイムリミットは延長される。食事を終えたトコネムリは再び毒に当てられ、休眠しに穴に潜って水を堰きとめる……これが、お前らが代々信じてきた祟りの正体だ」
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