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使奴の国
第5話 燃え盛る灯火
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~見晴らしのいい草原~
「へぁっ……はひぃっ……」
研究員の男は、財宝の入った袋を引き摺りながら草原を進む。疲労困憊の身体には恐ろしく遠い道のりではあったが、男の顔色の悪さには別の理由があった。
「あ、いたいた」
男の遥か後ろから、忌々しいゲームの主催者達がゆっくりと歩いてきた。
「おっお前らっ……! 何のっ用だっ……! やっぱり……宝をやるなんて嘘かっ!!」
財宝が入った袋にしがみつき、ラルバ達を睨み付けるが、その目にもはや生気はなかった。
「いやいやまさか。私は約束は守るぞ? ねーバリア?」
「うん」
何となく肯定したバリアの頭を撫でてから、ラルバは男へと歩み寄る。
「しかしだ優勝者くん。君、ちぃと具合が悪いんでないかい?」
そう言ってラルバが男の腹を軽く蹴ると、堰を切ったかの様に血反吐を吐き出した。
「うわ。汚ったないなもう」
軽く飛び退いたラルバは、僅かに血がついた靴の先を地面に擦り付ける。
「こっこれっ……お前のせいか……!」
腹を抱えてうずくまりながら男が呻く。
「私じゃなくてコイツのせいだ」
ラルバがラデックの頭を掴み男に差し出す様に引っ張る。
「……ガス単体であればそう毒性は強くないんだが、過度に吸引した被験者の体液……特に精液なんかは濃縮されて強い毒性を得る」
「うわぁなんて酷いやつだ。謝れ」
「ガスの副作用は事前に説明したはずだが……」
「うるさい。謝れ」
「ごめんなさい」
無理矢理頭を下げさせたラデックを放り投げると、ラルバは男に小さな黒い塊を見せる。
「そこでだ、この解毒薬を買わないか? 言い値で売ってやるぞ?」
男はラルバを細目で睨みつけた後、泣きじゃくりながら地面を殴りつける。
「おまっ……! 最初からっ……! そのつもりでっ宝をっ……!」
「全部寄越せなんて言ってないだろう。言い値だよ?言い値」
「くそっ……! くそっ……!!」
混濁した恨み辛みを単調な暴言で垂れ流しながら、宝の入った袋をラルバに向け蹴飛ばす。
「ほう、全部くれるのか。気前がいいなぁ」
「早っ……早く寄越せっ……! 薬っ……!!」
「どうぞどうぞ」
ラルバが黒い塊を男へ差し出すと、ひったくるように奪い取り飲み込んだ。
「しかしラルバ。解毒薬なんてよく見つけたな」
ラデックがのそのそと起き上がってきた。
「ん?ああ、私のお手製だ」
そう言ってVサインを作ると、男は目を見開いてゲボゲボと滝の様に血を吐き出した。
「ああ、やっぱダメだったか。製剤って難しいなぁ」
「だっ、騙し、騙したっ」
「騙した?なんてことを言うんだ。せっかく頑張って作ったのに」
ラルバがむすっとした顔で瀕死の男に抗議する。
「ちなみにラデック、お前は解毒薬作れるか?」
「俺がやるなら肉体改造して毒の耐性つけたほうが早いし確実だ」
それを聞くなり男はラデックにしがみつく。
「たった助けてくれっ……! たっ宝は返しただろっ!」
「え、ああ、うん。まあ」
狼狽ながらもしゃがみ込んで男の額に手をかざす。しかしその手をラルバが掴む。
「何してるんだ。世の中はギブアンドテイクだぞ。対価がなくては」
「宝は?」
「あれは私の解毒薬の代金」
男にはもはや暴言や命乞いをする力は残っていない。
「で、優勝者くん。何か対価はあるかね」
男は黙って首を振る。
「あれま残念」
ラルバがラデックの手を左右に振り「サヨナラ~」と男に微笑む。突如、男が青白い光に包まれ、一瞬で消えた。
「おん?」
「運搬魔法だ。近くに術者がいる。ラプー!」
「んあ」
ラプーが指を刺した先の岩陰から人影が現れる。
「我らは世界ギルド!私は”燃え盛る灯火“所属、レイヤだ!」
先頭の小柄な人影が声を張り上げ、それに続き後ろの女2人も前へ出る。
「同じく“燃え盛る灯火”所属。カローレン」
「同じく“燃え盛る灯火”所属!フェイト!」
カローレンは杖を、フェイトは弓を構えてラルバ達に対峙する。後ろではさっきの研究員がゲボゲボと血を吐きながら蹲っていた。
「ラデック。覚えたか?」
「世界ギルドの“燃え盛る灯火”所属。左からカローレン、レイヤ、フェイト」
「わかんないからいいや」
ラルバがわざとらしく肩で風を切って歩き、レイヤ達の前に立ちはだかる。
「私はラルバだ!その男を返せ!」
「断る!」
「じゃあいい!帰れ!」
毅然と拒否したレイヤに「どっか行け」と手で追い払うジェスチャーをして、ドヤ顔をしながらラデック達の元へ戻ってきた。
「……レイヤ、あいつらは多分話が通じない。さっさと捕まえて帰ろう」
カローレンがレイヤに囁く。
「確かに通じそうにないな……しかし、悪人にも人権はあるのだ」
そう言ってレイヤはラルバ達の方へ歩き出す。
「昨晩!魔工研究会からの連絡が突然途絶えた!」
「マコウってなんだ?」
「魔力で動く機械」
首を傾げるラルバにバリアが呟く。
「恐らく使奴研究所が彼ら相手に商売をするために名乗っていたんだろう。機械を魔工にするのはそう難しくない」
ラデックが説明しながらラルバの腕を引き自分の後ろへ下げる。
「我々は無関係だ!」
ラデックが声を張り上げた。
「あ、嘘つきだ」
「すぐバレるよ」
「嘘をつけ! この男が回復すればすぐわかることだぞ!」
「やーい嘘つき」
「やっぱりバレた」
ラデックは文句を言うラルバとバリアに「ごめん」と一言謝り、そのままのこのこ戻ってきた。
「はい!コイツです!コイツが全部やりました!」
ラルバがラデックの首根っこを持って振り回す。
「見苦しいぞ犯罪者共! 先程のやり取りの一部始終は聞いていた! 主犯格はお前だろう!! ラルバ!!」
ラルバは眉を八の字に曲げ、不満そうにラデックを落とした。
「やーい嘘つき」
ラルバの真似をして煽るラデックの腹を蹴飛ばし、前へ出る。
「そんな奴殺されて当然だ。命を粗末に扱い、肉欲に垂涎する悪の権化のような男だ」
「止まれ!」
威嚇するフェイトの矢先など気に求めず、レイヤ達に近づく。
「お前らの仕事は治安維持なんじゃないのか? だったら裁くべきは私ではなくそいつらだろう」
カローレンがラルバの足元を魔法で焼き払い足止めをする。ラルバにとってはなんの障害にもならなかったが、炎の手前で足を止めて3人を睨みつける。
「私の復讐の邪魔をするな」
炎にゆらゆらと揺れるラルバの冷たい眼光にレイヤは物怖じせず言い返す。
「復讐だと? 復讐は何も生まない。そんなことで失ったものは戻らないし、お前の心も癒されはしない」
ラルバは少し驚いたように目を見開き、数秒経ってから目を細めせせら笑う。
「当然! 復讐とは! 最も利己的で、最も豊かで、最も魅力的な、最も優れた娯楽である!!」
大きく手を広げ、鋭い歯をギラつかせ熱弁する。
「ギャンブル・セックス・ドラッグ・スポーツ・アート・ゲーム、お前は何かで遊ぶ時に生産性を求めるか? 娯楽の目的は快楽だ! その中でもリベンジは素晴らしい! 正義の名の下に悪を制することは他の何よりも甘美! お前らも覚えがあるだろう?」
レイヤは呆れたように眼差しを鋭く突き刺す。
「お前らが何をされたかは知らないが、どんな事情があれ誰かを傷つけていい理由にはならない。憎しみの連鎖は世界を滅ぼす。お前の言う正義は偽善だ」
ラルバはつまらなそうにムスっとする。
「話がまるで通じん……ラデックー?」
振り返ると静かに正座しているラプーの横で、ラデックとバリアが頭の上で大きくバツ印を掲げていた。
「全く、頼りにならん」
やれやれと呆れるラルバにレイヤが怪訝そうな顔をした。
「へぁっ……はひぃっ……」
研究員の男は、財宝の入った袋を引き摺りながら草原を進む。疲労困憊の身体には恐ろしく遠い道のりではあったが、男の顔色の悪さには別の理由があった。
「あ、いたいた」
男の遥か後ろから、忌々しいゲームの主催者達がゆっくりと歩いてきた。
「おっお前らっ……! 何のっ用だっ……! やっぱり……宝をやるなんて嘘かっ!!」
財宝が入った袋にしがみつき、ラルバ達を睨み付けるが、その目にもはや生気はなかった。
「いやいやまさか。私は約束は守るぞ? ねーバリア?」
「うん」
何となく肯定したバリアの頭を撫でてから、ラルバは男へと歩み寄る。
「しかしだ優勝者くん。君、ちぃと具合が悪いんでないかい?」
そう言ってラルバが男の腹を軽く蹴ると、堰を切ったかの様に血反吐を吐き出した。
「うわ。汚ったないなもう」
軽く飛び退いたラルバは、僅かに血がついた靴の先を地面に擦り付ける。
「こっこれっ……お前のせいか……!」
腹を抱えてうずくまりながら男が呻く。
「私じゃなくてコイツのせいだ」
ラルバがラデックの頭を掴み男に差し出す様に引っ張る。
「……ガス単体であればそう毒性は強くないんだが、過度に吸引した被験者の体液……特に精液なんかは濃縮されて強い毒性を得る」
「うわぁなんて酷いやつだ。謝れ」
「ガスの副作用は事前に説明したはずだが……」
「うるさい。謝れ」
「ごめんなさい」
無理矢理頭を下げさせたラデックを放り投げると、ラルバは男に小さな黒い塊を見せる。
「そこでだ、この解毒薬を買わないか? 言い値で売ってやるぞ?」
男はラルバを細目で睨みつけた後、泣きじゃくりながら地面を殴りつける。
「おまっ……! 最初からっ……! そのつもりでっ宝をっ……!」
「全部寄越せなんて言ってないだろう。言い値だよ?言い値」
「くそっ……! くそっ……!!」
混濁した恨み辛みを単調な暴言で垂れ流しながら、宝の入った袋をラルバに向け蹴飛ばす。
「ほう、全部くれるのか。気前がいいなぁ」
「早っ……早く寄越せっ……! 薬っ……!!」
「どうぞどうぞ」
ラルバが黒い塊を男へ差し出すと、ひったくるように奪い取り飲み込んだ。
「しかしラルバ。解毒薬なんてよく見つけたな」
ラデックがのそのそと起き上がってきた。
「ん?ああ、私のお手製だ」
そう言ってVサインを作ると、男は目を見開いてゲボゲボと滝の様に血を吐き出した。
「ああ、やっぱダメだったか。製剤って難しいなぁ」
「だっ、騙し、騙したっ」
「騙した?なんてことを言うんだ。せっかく頑張って作ったのに」
ラルバがむすっとした顔で瀕死の男に抗議する。
「ちなみにラデック、お前は解毒薬作れるか?」
「俺がやるなら肉体改造して毒の耐性つけたほうが早いし確実だ」
それを聞くなり男はラデックにしがみつく。
「たった助けてくれっ……! たっ宝は返しただろっ!」
「え、ああ、うん。まあ」
狼狽ながらもしゃがみ込んで男の額に手をかざす。しかしその手をラルバが掴む。
「何してるんだ。世の中はギブアンドテイクだぞ。対価がなくては」
「宝は?」
「あれは私の解毒薬の代金」
男にはもはや暴言や命乞いをする力は残っていない。
「で、優勝者くん。何か対価はあるかね」
男は黙って首を振る。
「あれま残念」
ラルバがラデックの手を左右に振り「サヨナラ~」と男に微笑む。突如、男が青白い光に包まれ、一瞬で消えた。
「おん?」
「運搬魔法だ。近くに術者がいる。ラプー!」
「んあ」
ラプーが指を刺した先の岩陰から人影が現れる。
「我らは世界ギルド!私は”燃え盛る灯火“所属、レイヤだ!」
先頭の小柄な人影が声を張り上げ、それに続き後ろの女2人も前へ出る。
「同じく“燃え盛る灯火”所属。カローレン」
「同じく“燃え盛る灯火”所属!フェイト!」
カローレンは杖を、フェイトは弓を構えてラルバ達に対峙する。後ろではさっきの研究員がゲボゲボと血を吐きながら蹲っていた。
「ラデック。覚えたか?」
「世界ギルドの“燃え盛る灯火”所属。左からカローレン、レイヤ、フェイト」
「わかんないからいいや」
ラルバがわざとらしく肩で風を切って歩き、レイヤ達の前に立ちはだかる。
「私はラルバだ!その男を返せ!」
「断る!」
「じゃあいい!帰れ!」
毅然と拒否したレイヤに「どっか行け」と手で追い払うジェスチャーをして、ドヤ顔をしながらラデック達の元へ戻ってきた。
「……レイヤ、あいつらは多分話が通じない。さっさと捕まえて帰ろう」
カローレンがレイヤに囁く。
「確かに通じそうにないな……しかし、悪人にも人権はあるのだ」
そう言ってレイヤはラルバ達の方へ歩き出す。
「昨晩!魔工研究会からの連絡が突然途絶えた!」
「マコウってなんだ?」
「魔力で動く機械」
首を傾げるラルバにバリアが呟く。
「恐らく使奴研究所が彼ら相手に商売をするために名乗っていたんだろう。機械を魔工にするのはそう難しくない」
ラデックが説明しながらラルバの腕を引き自分の後ろへ下げる。
「我々は無関係だ!」
ラデックが声を張り上げた。
「あ、嘘つきだ」
「すぐバレるよ」
「嘘をつけ! この男が回復すればすぐわかることだぞ!」
「やーい嘘つき」
「やっぱりバレた」
ラデックは文句を言うラルバとバリアに「ごめん」と一言謝り、そのままのこのこ戻ってきた。
「はい!コイツです!コイツが全部やりました!」
ラルバがラデックの首根っこを持って振り回す。
「見苦しいぞ犯罪者共! 先程のやり取りの一部始終は聞いていた! 主犯格はお前だろう!! ラルバ!!」
ラルバは眉を八の字に曲げ、不満そうにラデックを落とした。
「やーい嘘つき」
ラルバの真似をして煽るラデックの腹を蹴飛ばし、前へ出る。
「そんな奴殺されて当然だ。命を粗末に扱い、肉欲に垂涎する悪の権化のような男だ」
「止まれ!」
威嚇するフェイトの矢先など気に求めず、レイヤ達に近づく。
「お前らの仕事は治安維持なんじゃないのか? だったら裁くべきは私ではなくそいつらだろう」
カローレンがラルバの足元を魔法で焼き払い足止めをする。ラルバにとってはなんの障害にもならなかったが、炎の手前で足を止めて3人を睨みつける。
「私の復讐の邪魔をするな」
炎にゆらゆらと揺れるラルバの冷たい眼光にレイヤは物怖じせず言い返す。
「復讐だと? 復讐は何も生まない。そんなことで失ったものは戻らないし、お前の心も癒されはしない」
ラルバは少し驚いたように目を見開き、数秒経ってから目を細めせせら笑う。
「当然! 復讐とは! 最も利己的で、最も豊かで、最も魅力的な、最も優れた娯楽である!!」
大きく手を広げ、鋭い歯をギラつかせ熱弁する。
「ギャンブル・セックス・ドラッグ・スポーツ・アート・ゲーム、お前は何かで遊ぶ時に生産性を求めるか? 娯楽の目的は快楽だ! その中でもリベンジは素晴らしい! 正義の名の下に悪を制することは他の何よりも甘美! お前らも覚えがあるだろう?」
レイヤは呆れたように眼差しを鋭く突き刺す。
「お前らが何をされたかは知らないが、どんな事情があれ誰かを傷つけていい理由にはならない。憎しみの連鎖は世界を滅ぼす。お前の言う正義は偽善だ」
ラルバはつまらなそうにムスっとする。
「話がまるで通じん……ラデックー?」
振り返ると静かに正座しているラプーの横で、ラデックとバリアが頭の上で大きくバツ印を掲げていた。
「全く、頼りにならん」
やれやれと呆れるラルバにレイヤが怪訝そうな顔をした。
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