シドの国

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使奴の国

プロローグ 誰かが言った昔話

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 昔々、テレビはまだブラウン管で、携帯電話が贅沢な高級品だった頃、世界中に悪い金持ちがたくさんいました。

 悪い金持ちたちは、世界中から若い女を誘拐してきて、己の欲望を満たす”性奴隷“にしていました。

 とある悪い金持ちが言いました。

「ああ、つい最近さらってきた女も飽きてしまった。女というのは、どうしてこうも醜いのだろう。若い女は顔が悪かったり、美しい女は性格が悪かったり、性格の良い女は身体が醜かったり。折角完璧な女を手に入れても、少し遊べば飽きてしまう。それに、誘拐は多かれ少なかれリスクが伴う。こうも毎回誘拐を繰り返していたら、いずれ私の身にも危険が及ぶかもしれない」

 他の悪い金持ちも言いました。

「そもそも人は性奴隷に不向きだ。顔も性格も体格も、オーダーメイドというわけにはいかない。賞味期限も5年ぽっち。それなりに遊んでいたら1年も保たないだろう。そして、一体作るのに長い長い年月がかかる。幾ら金があっても、時間ばかりはどうしようもない」

「ああ、どこかに、美しく、若く、性格の良い、私を飽きさせない完璧な女がいないものだろうか」

 そして、悪い金持ちたちは閃きました。

「そうだ。いないなら作ってしまえばいいんだ」

 悪い金持ちたちは、悪い研究者たちに言いました。

「金なら好きなだけくれてやろう。その代わり、美しく、若く、性格の良い、私を飽きさせない性奴隷人形をたくさん作りなさい。顔も、体格も、性格も、全てが思い通りで、決して劣化しない。従順な性奴隷用の人形を」

 悪い研究者たちはとても困りましたが、大金を差し出されるとすぐに笑って答えました。

「かしこまりました。必ずや、ご満足いただける品を作りましょう」

 悪い研究者たちが金を欲しがれば、悪い金持ちたちは一も二もなく与えました。

 不出来な試作品も、文句ひとつ言わずに買い取りました。

 兵隊が必要となれば、大勢の私兵や飼いならしたマフィアを動かしました。

 そうして遂に、悪い金持ちたちの満足する“使い捨て性奴隷”ができあがりました。

「どうでしょう。顔も、身長も、胸も、尻も、声も、性格も、全てがあなたの思うがまま。もしも飽きてしまったら、その時はまた新しいのを作りましょう。どんな命令にも従う理想の性奴隷です。まだ肌の色や目の色、それと黒い痣が目立ちますが、それを差し引いても立派なものでしょう」

 悪い金持ちたちは大いに喜びました。

「ああ、素晴らしい。確かにこの真っ白な肌や真っ黒な目玉は気味が悪いが、“使い心地”は申し分ない。これぞ、私の求めていた完璧な女だ」

 悪い研究者は満足そうに笑い、深く頭を下げて言います。

「これからも我々にお任せください。肌や目の色の不具合も、すぐに解決して見せましょう。我々の研究は、まだ始まったばかりです」

 しかし、悪い金持ちたちの願いはここで終わりませんでした。

「そうだ、折角ここまで自由にできるなら、マッサージや歌も覚えさせてはどうだろうか」

 悪い研究者はニコリと笑いました。

「やってみましょう」

 願いがひとつ通ったことで、悪い金持ちたちは次々に注文を増やしていきました。

「身の回りの世話も任せたいな。家事もできるようにしてくれ」

「いざという時の護衛も任せたい。達人顔負けの武術も覚えさせてくれ」

「ここまで戦えるなら、いっそのこと軍事や政治の助言も欲しいな」

「一方向からの視点だけじゃダメだ! とにかく色んな知識を詰め込んでくれ!」

 こうして、使い捨て性奴隷は性奴隷としてだけでなく、最早できないことなどない万能な人造人間になりました。理想の奴隷を手に入れた悪い金持ちたちと悪い研究者たちは、この万能な人造人間の成果を大いに喜び、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし。めでたし。
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