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第二章

7 砂竜の群れへ

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※ 

 足跡一つない砂を踏み分け進むのは、心躍る冒険である。それが、目的地までもう間近という場所であれば、なおのこと気分が良い。

 鼻歌交じりに砂竜さりゅうに揺られて砂丘を上り切り、遮る物のない一面の蒼天を仰ぐ。その直後、視線を下げた先に点在する黒い天幕の群れを見つけた途端、ラフィアはてっきり、砂漠を一周して旅立ちの地に帰って来てしまったのではなかろうかと錯覚した。それほどまでに、白の集落の景色と酷似していたのだ。 

 集落の中央には一際大きな集会用の天幕があり、可動式の木柵に囲まれた砂地には、山羊と羊が白黒の小山のようにひしめき合っている。雨がほとんど降らない砂漠では、雲を見ることは稀である。眼前の家畜の群れはまるで、灼熱の陽光に耐えかねた綿雲の塊が空から地上に逃げ出して来たかのようにも見える。 

 人々の住まいは砂丘の谷間に沿って点々と散らばっているのだが、ラフィア達が姿を現わすや否や、大事件でも発生したような調子で人々が集まり始めた。 

 その中から、迷子となっていた三頭の砂竜の乗り手が飛び出して、涙ながらの再会を果たした。 

 砂竜らも嬉しそうに鼻を鳴らしたり相棒に頬ずりをしたりしているので、決して嫌い合っていたため脱走をした訳ではなさそうだ。 

 砂竜の様子がおかしいのには、やはり何か原因があるのだ。彼らやバラーのためにも、早々に事件を解決に導かねばならない。ラフィアは密かに拳を握り、決意を深めた。 

 そうと決まれば行動あるのみだ。招かれた天幕で日差しから身を隠しつつ、珈琲で一息吐くのもほどほどに、ラフィアは早速申し出た。 

「ディルガムさん、お願いがあります。砂竜に会わせて欲しいの」 
「砂竜に? 何で」 
「えっと、なぜか様子がおかしいのでしょう? もしかしたら何かわかるかもしれないと思って」 

 我ながら、駆け引きも何もない単純な言葉である。ディルガムは怪訝そうに眉根を寄せている。若干強面ゆえ、見る者によっては威圧感を覚えるだろうが、あいにくラフィアはそのようなことには鈍感である。 

 むしろ、傍から見ていたアースィムの方が気を利かせ、咳払いをしてから言った。 

「彼女は医術師……の卵なんです」 
「皇女様が?」 
「そ、そうなの。まだ半人前だけれど」 
「とはいえ、彼女の師匠が事前に見立てを出していますので、ご心配には及びません。万が一、赤き砂竜の身に起こっていることの原因が疫病のたぐいであったら大変です。砂竜を蝕む未知の病が生じたとすれば、白の氏族としてもただ傍観している訳にはいきませんから」 
「若いのに偉いなぁ。まあ、そういうことなら」 

 ディルガムは心底感心したという表情でラフィアを見て、快諾してくれた。 

 こうして首尾良く赤き砂竜の群れの中に入り込んだラフィアだが、肝心の手がかりは見つからない。 

 赤銀の巨躯は皆のんびりと砂を食んだり灌木の陰に腹這いになり微睡んだりして、安らいだ様子である。群れを観察し、最も繊細そうな個体を撫でてみたのだが、指先から流れ込むのはせいぜい、知らぬ人間への微かな警戒心であり、複数の砂竜が一斉に集落から逃げ出すほどの異変の気配はなかった。 

 時間を変えて何度か訪ねてみたものの、数回目に砂竜から不審そうな目を向けられただけで、有益な収穫はない。かくして太陽は傾き、東の空から紫紺の宵闇が迫る。 
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