私立オカルト編集者 〜千と一つの語り手〜

新川春樹

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魔法が解ける12時の鐘

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前説:シンデレラ。
どんな女性でも一度は夢見たことあるだろう。
ロマンチックな恋愛物語の代表格でもある。
そして、現実でもよくドラマチックな成功体験として例えられる。
だが、そんな魔法は永遠に続くはずもなく、それが現実なのだ。

三上:「先生っ。先生!」
金田:「うるさい、うざい、黙れ、静かにしろ」
三上:「ちょっ、酷すぎませんか?
    ていうか、一つ普通に暴言だったような……」
金田:「それで? 何の用だ、このバカ拡声器」
三上:「誰がバカ拡声器ですか」
金田:「いいからさっさと要件を言え」
三上:「あ、そうでした。えっと、見つけたんです。都市伝説を!」
金田:「ほう。……今度こそ、ちゃんとしたものだろうな?」
三上:「えぇ、勿論。その名も『歌舞伎町のシンデレラ』」
金田:「はぁ……。私は新手のキャバ嬢の売り文句を求めてるんじゃない」
三上:「違うんですっ! いいですか?
    それまで人気のなかったキャバ嬢が急に人気が出るんです」
金田:「そんなことくらい、普通にあるだろう」
三上:「最後まで話を聞いてください。
    それで、その急に人気になったキャバ嬢は
    全員12時を前に帰宅するそうなんですよ。
    アフターもないとかで、
    お客さんからはちょくちょく文句が出てるらしくて」
金田:「そんなの偶たm……。今『全員』と言ったな? 複数人いるのか?」
三上:「そうなんです。不思議じゃないですか?
    同じ時期に十数人もいるんですよ?
    しかも、12時までに帰れなかった人は
    次の日からまた人気がなくなったとか」
金田:「ふむ、興味深いな」
三上:「ですよね? 絶対に怪異現象ですよね?」
金田:「それは調べてみなければわからない。
    だが、今回は当たりかも知れないな。三上の割にはいいじゃないか」
三上:「なんか私の名前が蔑称みたいにされてるのは気のせいですよね?」
金田:「ほら、何ぼーっとしてる? 置いていくぞ」
三上:「え? どこ行くんですか?」
金田:「調べに行くに決まってるだろ」
三上:「あ、ちょっ、待ってください」



金田:「よし、助手。二手に分かれるか」
三上:「あ、はい、先生」
金田:「一応アポは取ってある。
    それに、昼間っから店に入るやつは私たちの他にいないとは思うが……。
    まぁ、名乗るのを忘れるなよ」
三上:「はぁ、私をなんだと思ってるんですか。これでも社会人2年m……」
金田:「三上だろ?」
三上:「あの、確かにそうですけど、
    せめてファーストネームを蔑称みたいに扱わないでください。
    全国の三上さんに謝ってもらいますよ?」
金田:「さっきからごちゃごちゃうるさい。さっさと行け」
三上:「はぁ、もういいです」



 金田 :「それで、あなたがシンデレラ?」
キャバ嬢:「あの、その呼び方やめてもらえます?」
 金田 :「申し訳ない。名前を伺っていなかったもので」
キャバ嬢:「私は吉田沙奈江です」
 金田 :「失礼ですが、本名ですか?」
キャバ嬢:「こんな普通の名前みたいな源氏名があるわけないでしょう」
 金田 :「失礼、こう言った世界には疎いもので」
キャバ嬢:「それで、金田さん、でしたっけ? 何が聞きたいんですか?」
 金田 :「いやぁ、何。ただ、人気が出た経緯をお伺いしたいだけですよ」
キャバ嬢:「私にも分からないです。気づいたらこうなってたので」
 金田 :「突然?」
キャバ嬢:「えぇ」
 金田 :「そうですか。本当に些細なことでもいいんです。
      その突然なった日に何か変わったことがあったら教えてください」
キャバ嬢:「そう言われても、ただ話を聞いて、いいなぁと思っただけで」
 金田 :「なるほど。ちなみに、その話はどなたから?」
キャバ嬢:「え? それは、仕事仲間からだけど」
 金田 :「そうですか……。ありがとうございました」
キャバ嬢:「へ? あ、もういいの?」
 金田 :「えぇ、それにあなたもお忙しいでしょう。
      時間をとらせてしまい、申し訳ない」
キャバ嬢:「はぁ……」
 金田 :「それでは」



三上:「先生、どうでした?」
金田:「まぁ、手がかりはほぼなかったな」
三上:「こちらもです。私の目にも何も映らなかったですし。
    もぅ、どうしましょうか?」
金田:「……手がかりがないことが手がかりというわけか」
三上:「はい? 先生が遂におかしくなっちゃったかな?
    っぃつぅ。ちょ、何でいきなり叩くんですか」
金田:「チョップだ」
三上:「どっちでもいいっ」
金田:「まずはその文句しか出ない口を閉じろ」
三上:「あぁ、もう。はいはい。……それで、どう言うことですか?」
金田:「助手。怪異現象の原理は覚えているよな?」
三上:「えぇ、噂や迷信が知名度の高い伝説や物語に結び付き、
    不可解な現象を引き起こす、でしたよね?」
金田:「あぁ、そうだ。
    だが、その現象の広まりがあまりにも短期的で局地的過ぎるんだよ」
三上:「……何か問題なんですか?」
金田:「その小さな脳みそでもう少し考えたらどうだ?」
三上:「はぁ?」
金田:「いいか? どれだけ結びつく先の物語の知名度が高くとも、
    その噂自体が広まるか言い伝え続かないと
    すぐに怪異現象そのものが消える。
    そうでなくとも、現象が発現する対象はひどく限られるんだ」
三上:「だから、それがなんだって言うんですか?」
金田:「まだ分からないか? この怪異現象、すぐ終わる」
三上:「は?」
金田:「今、怪異現象として現れてるのは、
    キャバクラの客まで噂を信じてるからだ。
    しかし、見慣れたり、そのまま人気であり続けたらどうなる?」
三上:「それは、噂にはなりませんね」
金田:「ま、そう言うことだ。
    恐らく、私の読みが正しければ、持って後一週間だな」
三上:「なんで、どうしてそう言い切れるんですか?」
金田:「はぁ……。成功したキャバ嬢は『シンデレラストーリー』として、
    失敗したキャバ嬢は忘れられる。もう言わなくても分かるだろ?
    ま、今回の怪異現象は無害そうだし、帰って寝るか」
三上:「ちょっと、待ってください。
    先生は運転できないんだから先行っても帰れないでしょ」



三上:「あれから一週間経ちましたけど、
    先生の言ったとおり、治りましたよ。あの噂」
金田:「何がだ?」
三上:「ほら、あの『歌舞伎町のシンデレラ』。
    成功したキャバクラ嬢は本まで出してるそうです」
金田:「あぁ、そうか」
三上:「もうちょい興味持ってあげてくださいよ。
    先生、あの後わざわざ話を聞きそうなキャバ嬢の元を回って、
    アドバイスしていたのに」
金田:「覚えてないな」
三上:「まぁ、キャバクラなんて、
    堅物オカルトオタクの先生には縁遠い世界でしょうし。
    ほら、お昼にしましょう」
金田:「メニューは何だ?」
三上:「カボチャのスープにカボチャの煮物、カボチャのサラダに……」
金田:「おいおい何の冗談だ? ハロウィンでもないだろ」
三上:「何となく、気分だったので」
金田:「はぁ、もう最悪だ」
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