盤上に咲くイオス

菫城 珪

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王都編50 待ち侘びた鍾愛

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王都編50  待ち侘びた鍾愛

 聞きたい事を聞き出した俺はオルテガに連れられて隣の部屋に戻ってきた。
 締め上げた所為なのか、後半は随分しおらしくなっていたグビッシュからは色々な事が聞き出す事が出来たし、欲しかった情報も得られた。ここまで来て女王様を演じた甲斐があるというものだ。
 ベッドの縁に腰掛けてぼんやりと室内を見回す。改めて見てみれば随分と豪華な部屋だ。彼方此方に飾られた人物画が妙にリアルな上に八方睨みの技法が使われているらしく、まるで見られているような感じがしてソワソワする。
「リア」
 落ち着かずに視線を彷徨わせているとドアに鍵を掛けたオルテガが寄ってきた。差し出される手を取って立ち上がるとそのまま腰を乱暴に抱き寄せられてオルテガの胸に顔面から突っ込む羽目になった。
 鼻をぶつけて痛い思いをしていると、顎を取られて噛み付く様に口付けられる。呼吸すら奪う様なキスは深くて激しいもので、元から媚薬の効果も残っていた俺は直ぐに腰砕けになってしまう。
「は……」
 息も絶え絶えといった辺りで漸く解放されるが、酸欠と快楽とでまともに動く事すらままならない。しかし、体は既に熱くなっていた。ずっとお預けをくらっていたのだ。こんな程度では足りない。
 奥まで抉って、意識が飛ぶ程激しく貪って欲しい。最奥を熱い種で満たして欲しい。
 そんな浅ましい俺の心を読んだのか、オルテガが意地の悪い笑みを浮かべて俺をじっと見つめてくる。俺に言わせたいのだろう。
「意地悪……」
「俺にされるのは好きだろう?」
 低い笑い声が耳元で響く。ぐう、悔しい事に言い返せない。そのまま首筋にキスをされてぴくりと体が跳ねる。焦らす様な触れ方は俺が強請るまで本格的にする気がなさそうだ。
「分かってる癖に。非道い男だ」
 相手の首に腕を回して、拗ねた様に言ってみる。しかし、相手もこの程度では折れない。
「言ってくれ。誰が欲しいんだ」
 今日はしつこい…というかなんだかやたらと言わせようとしてくるな。少々の違和感を覚えつつも、俺ももう我慢の限界だった。時間も有限だしな。
「……此処にフィンが欲しい」
「いい子だ」
 胎を撫でながら甘い声で啼いてみせれば、満足した様に黄昏色の瞳が細くなる。その瞳にギラギラと宿る欲情の色と低い声で褒められた事に背筋にゾクゾクと快感が這い上がってきた。
 やはり、支配するよりされる方が好きなのかもしれない。
 鏡と向かい合うようにベッドの縁に座ったオルテガの膝に乗り上げて甘える猫みたいに体を擦り寄せる。応える様に体に触れてくれる熱い手の感触に堪らない気持ちになった。
「……そういえば、お前も私にああいう事をしてみたいと思うのか?」
 すり、と指先で相手の顎を撫でれば、彼が小さく呻く。興味がなくはないんだろう。最近の嗜虐傾向を見るに、あそこまでハードではないにしろ縛るなり軽く叩くなりは興味がありそうだ。
 ぶっちゃけると俺の方は興味がある。オルテガもそんな俺の心境に気が付いているんだろう。じっと見つめていれば小さく溜め息をついて俺を抱き寄せてくる。
「……あんまり煽ってくれるな。そのうち好奇心で身を滅ぼすぞ」
「お前に滅ぼされるなら本望だが?」
 相手の膝に座りながら微笑めば、オルテガが俺の腰に腕を回した。密着する体の熱を感じながらうっとりする。こうやってオルテガに抱き締められるのが好きだ。
 すりと鼻先を擦り寄せながら甘えて見せれば、オルテガの手が俺の後頭部に回る。何をする気なんだろうと思っていれば、纏め上げていた髪を器用に解かれた。さらりと零れてくる黒い髪を手櫛で整える手の感触を心地良く思いながら目の前にある首筋に軽く噛み付く。
 俺よりずっと逞しい体をなぞりながら愛撫をして先を強請る。今日はずっと物足りなくて仕方が無かったのだ。
 相手の耳を舐めようとしたところで急に視界がひっくり返り、背中が柔らかいものに追い付けられる。押し倒されたと気が付いたのはオルテガが覆い被さってからだ。
「今日はどうしてやろうか」
 意地悪く耳元で囁く声に背筋がゾクゾクする。しかし、今日は少し違う趣向も試してみたい。俺ばかり余裕がないのも気に入らないからだ。
「フィン、今日は私にもさせて欲しい」
 唇の横に口付けながら強請れば、オルテガは黄昏色の瞳を丸くした。それから嬉しそうに、そして艶やかに色っぽく微笑む。
「分かった」
 俺の額にキスを落とすと、オルテガは体勢を入れ替えてベッドに足を投げ出す様に長座位になる。好きにしろ、という事なんだろうと解釈して嬉々としながらオルテガの足に跨がれば、彼はいっそう笑みを深くした。
 オルテガに見られながら彼のシャツを寛げて露わになった肌に舌を這わせた。俺のものより浅黒い肌に残る傷跡に口付けながら時折吸い付いて痕を残していく。オルテガの肌に俺のつけた痕が増える度に何とも言えない充足感に包まれる。
 彼が俺のものなのだという証。つける度に零れる甘い吐息にゾクゾクしてしまう。拙い愛撫でも感じてくれているのだろうか。既に雄は兆している様だ。
 ズボンの上から掌で触れれば、布越しでもその硬さと熱が伝わってくる。同時にこれが齎す快楽を思い出してきゅうと胎の奥が切なく疼いた。
 止められないので好きにしようと体を下げ、彼の下肢の間に蹲ってズボンを寛げる。待ち切れなくて性急になる手付きで下着ごとズボンを下げれば、飛び出した雄は腹につきそうな程聳り勃っていた。
 俺のものよりずっとグロテスクで雄々しい姿に思わず生唾を飲み込む。相変わらず、御立派な息子だ。
 鼻先を下生えに埋めながら根元の匂いを嗅げば、濃い雄の匂いがしてそれだけで胎の奥がきゅんきゅんする。これに貫かれる快楽を知っている体が勝手に先を期待してしまう。
「リア……」
 熱に浮かされたようなオルテガの声に急かされるまま、亀頭に口付けて舌を這わせる。太いカリをえずきそうになりながら口に含み口の奥へと咥え込んだ。
「んっ、む……」
 大きな手が髪を撫でてくれるのを感じつつ舌を動かし、音を立てながら肉棒をしゃぶっていく。フェラなんて忌避するものだと思っていたが、オルテガが相手ならば自らしたいと思ってしまう。性行為自体そこまで好きなものではなかったというのに、酷い変わり様だ。
 ちらりと視線だけでオルテガの様子を見れば、呼吸を乱し、色っぽい顔で俺を見ていた。元から良い男だが、快楽を耐える顔は壮絶な色気を放っていて堪らない気持ちになる。
 そして、普段は蹂躙される側だが、今はオルテガを蹂躙する立場だ。先程までグビッシュを甚振っていた時の事を思い出して少し意地悪したくなった。
 根元を指できつく絞めるとオルテガの顔が軽く歪む。限界も近かったのだろう。恨みがましげな視線が寄越されるが、無視して先端を重点的に嬲っていく。彼はここが弱いから。
 射精したいが、指で絞めている所為で上手くいかないのだろう。顔を顰めながら時折低く呻く姿が堪らなかった。やはりこういう趣向も悪くないかもしれないな。
「っ……。リア……」
 掠れた声が俺を呼ぶのを聞きながらパンパンに張った双玉も揉みしだき、しゃぶりついて相手を追い詰めていく。唇を噛む姿に加虐心が煽られてもっと意地悪したくなるが、後が怖いからこれくらいにしておいた方がいいだろう。自分の屋敷ならいざ知らず、外出先で足も腰も立たなくなるのはまずい。
 僅かに残っていた理性が留めた事で俺はオルテガの根元を戒めていた指を解き、先端に吸い付きながら鈴口を舌先で強く刺激した。途端に低い呻き声がオルテガの口から漏れてビュル、と口の中に大量の熱が吐き出される。
 吐き出された精を零さぬように尿道に残る最後の一滴までしゃぶりとる様にして口を離して見上げれば、爛々とした黄昏色の瞳と視線がぶつかった。
「……リア、そのまま鏡の方に向かって口を開けてくれ」
 荒い呼吸の合間に強請られて粛々とその言葉に従う。鏡に向かって座り直しながら口を開ければ、恍惚とした表情で口の中に大量の白濁を溜め込んだ俺が映っていた。我ながら酷い顔だと思いながらオルテガにこんな顔を晒しているのかと思うと羞恥心よりも悦楽が僅かに勝る。
 鏡越しにこちらを見つめるオルテガに口の中に溜まっている白濁を見せながら舌で軽く弄ぶ。美味いものではないが、こうするとオルテガが喜ぶから。唾液を絡めながらこくりと飲み下してやればオルテガの瞳孔が一気に大きくなる。それだけで彼が興奮しているのが分かってしまって先を期待する体が熱くなっていく。
「……膝立ちで此方を向け」
 命令口調で促され、大人しく従う。今度は立場が逆転する様だ。
 腰を抱かれるまま膝を跨ぐように座らされ、対面座位の状態になると大きな手が尻を揉み始めた。
「あっ……」
 堪らずに漏れた甘い嬌声に目を細めると、オルテガが俺の首筋に軽く噛み付いてくる。薄い肌に食い込む犬歯の感触はいつだって俺にこれから齎される快楽への嚆矢。
 喉を逸らして急所を晒す。狼は親愛を確かめる為に相手の喉に噛み付く事があるというが、そんな行動にそっくりだ。
 喉に舌が這い、熱を感じるのも束の間の事で唾液で濡れたところがひんやりする。どうやらこの建物内が涼しくしてあるのはこうして盛り上がっている連中が快適に過ごせるように、という事らしい。
 あっという間に服を奪われた体に冷えた空気が少し冷たくて身を震わせれば、目敏く気が付いたオルテガが暖めるように俺を抱き締める。嗚呼、彼のこういう所が好きだ。
 熱い体に腕を回して暖を取りながら与えられる快楽に溺れていく。媚薬の効果で熾火のように燻っていた体は直ぐに熱に犯され、薄らと汗ばみ始めた。触れ合う素肌が熱くて、溶けてしまいそうだ。
「は、あ……」
 零れ落ちる声も嬌声混じりでどろりと甘い。
 丁寧な愛撫にうっとりしながらも早く犯して欲しくて仕方が無かった。ずっとお預け状態で待っているのだ。
「フィン、早く……」
 相手の耳朶に軽く噛み付きながら強請れば、そのまま体勢を変えて乱暴に押し倒される。見上げた先にいる獣を受け入れるべく、俺は足を開いて見せるのだった。
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