盤上に咲くイオス

菫城 珪

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王都編39 想い交わす

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王都編39  想い交わす

 少し休んでから、俺はオルテガに連れられて庭にあるあの豪華な風呂に来ていた。
 体と髪を洗って湯船で一息つくと溜まっていた疲労感が溶けていくような気がする。やっぱり大きな風呂はいいな。うちにも欲しい。
「遠慮せずに入りに来ればいいのに」
 そうオルテガも他のガーランド家の面々も言ってくれるが、本気で入り浸りになってしまいそうで我慢しているのが現状だ。せめて婚約までは我慢したいが…もう今更か。指輪もピアスも言動も散々見せ付けて来たもんな。
 湯船に浸かりながらぼんやりと庭を眺めていると不意にオルテガが身を寄せてきた。俺の後ろに回るとするり、と背後から腹に腕が回る。
 密着する体にドキリとしていると悪戯するようにお湯の中で指が俺の肌の上を這っていく。探るように触れる指先は熱くてそれだけで背筋にゾクゾクと甘い痺れが奔った。
「ん……」
 思わず零れた甘い声音に煽られたのか、オルテガが鼻先で濡れた髪を掻き分けながら俺の首筋に喰らい付いてくる。優しく噛まれてぴくりと震える体は先の熱を期待して既に熱くなっていた。
「リア」
 強請るような甘えた声に応えるように腹に回る逞しい腕をなぞる。この腕で強く抱きしめて奥の奥まで暴いて欲しい。すっかりその気になった体は正直だ。
「あっ……フィン……っ」
 緩く兆し始めた性器を握られ扱かれる。直接的な刺激を与えながらもう片方の手と舌が同時に愛撫を始めて、あっという間に追い詰められていく。
 他の人も使う風呂場なのにと一瞬理性が顔を出すが、腰の辺りに熱く昂った物が押し付けられた事で直ぐに快楽に塗り潰される。
 これが欲しい。
 胎の奥まで抉って、呑みきれない程の快楽を与えて欲しい。
「っ……せめて湯から出たい。このままだとのぼせそうだ」
 辛うじてそれだけ告げると、抱え上げられて湯船から出された。青と白で描かれた幾何学模様のタイルの上に横たえられて愛撫を与えられる。
 指で、舌で、唇で。魔石ランプの淡い光の中で余す事なく体を暴かれていく。自分の嬌声が反響して響く事に羞恥を覚えるが、それすらスパイスにしかならないようだ。
 早く欲しくて仕方ない。
 そんなもどかしさに突き動かされて自分で自分の指を咥えて唾液で濡らす。早く欲しいけれど、女性と違って濡れない体は拓かなければ受け入れられないから。
 濡らした指で自分の後孔に触れるとオルテガが息を呑む気配がした。
「リア……見せてくれ」
 隠し切れぬ欲を滲ませながらオルテガが呟く。同時に体が抱え上げられて、浴室内の寝椅子に乗せられる。
 今まで逆光気味であまり表情が見えなかったが、久し振りの行為に彼も興奮しているようだった。爛々と燃える瞳に見られている。それだけで堪らない気持ちになる。
「んん……っ」
 強請られるままに自分の後孔に手を伸ばす。以前にも自分で準備したことはあるが、あの時は一人だった。
 今はオルテガに見られている。
 恥ずかしいのに、どうしようもなく体が熱く疼いてしまう。
 頭の片隅に残る僅かな理性の嘆きも直ぐに失せ、なるべく良く見える様に尻を高くあげた俯せの体勢をとりながら、ゆっくりと濡らした指先を挿入していく。違和感は拭えないものの、ここで得られる快楽を知っている体は先を期待してきゅうと指を締め付けた。
 オルテガより細い自分の指を難なく咥え込み、ゆっくりと自分で体を拓いていく。が、体勢的にどうしても善い所には指が届かない。もどかしくて腰を揺らしながら試行錯誤していると、腕を取られて一気に指を引き抜かれた。
 どうしたのかと思いながら振り返れば、オルテガが寝椅子の上に乗り上げてきて俺の尻に顔を近付けるのが視界に入る。
 何をするのか分からぬままオルテガの様子を見ていると、熱い手が俺の尻たぶを掴んで開く。そこまできてやっと彼が何をするつもりなのか気が付いて慌てて拒否しようとした。しかし、それより早くオルテガが俺の尻に顔を埋める。
 同時に後孔をなぞる様にぬるりとした熱い物が触れた事で思わず俺は悲鳴を上げた。
「ひっ……!? な、何をして……っ!」
 拙い前戯で緩くなった後孔に、無遠慮にぬるぬるしたものが入ってくる。少しざらついたその感触が齎す快感と嫌悪感、羞恥に頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
 な、舐められている!
 やっとその結論に至っても、気が付けばがっつり足を抱え込まれて逃げる事もままならない。
 成すがままに蹂躙され、唾液を注ぎ込まれる。舐められながら長い指が挿入されて自分の指では届かなかった善い所を散々弄られた。
「フィン、いやだっ! 舐めないで……んんっ」
「はは、可愛いなリア」
 尻から顔を上げて笑うオルテガは上機嫌だが、やられている側はたまったもんじゃない。
「馬鹿! 変態っ」
 涙目で悪態を吐くが、それすら彼には興奮する材料でしかないらしい。
 餓えた猛獣のような目が俺を見る。そんな目に思わず怖気付いてしまった。
「フィン……」
 俺の怯えを察したのだろう。黄昏色の瞳が緩むと大きな手が俺の頬を撫でてくれる。その手の平に擦り寄りながらホッとしていれば尻に熱い物が擦り付けられた。
「続けても良いか?」
 こんな時でもわざわざお伺いをたててくる辺り、律儀な奴だと思う。同時にその優しさが嬉しくて体勢を仰向けに変えながら彼の背中に腕を回す。
「いい……早く欲しい」
 強請る様に脚を開き、自分で膝の裏に腕を回して抱えるようにすれば、オルテガの喉仏が上下するのが見えた。
 後孔を差し出すような体勢に興奮してくれたんだろうか。それが嬉しくて仄暗い喜びが胸の内に湧き上がる。
 オルテガの大きな手が俺の膝裏に掛けられ、後孔に熱いものが擦り付けられた。焦らすような動きに、餓えた俺は浅ましく身を捩り、雄を受け入れたいとひくつかせる。
 ここまできて焦らすなんて意地の悪い、と非難するように見遣れば、黄昏色の瞳が意地悪く細くなった。
「リア、何が欲しいんだ。言ってくれ」
 親指の腹で俺の唇をなぞりながらオルテガが強請る。切羽詰まったような表情に彼もまた俺が欲しくて仕方がないのだと悟って堪らない気持ちになった。
「フィン……奥まで来て、私を満たしてくれ。お前が欲しい」
 彼の首に腕を回して頭を抱き寄せながら甘い声で強請ってみせる。俺の答えに満足したのか、笑みを浮かべると唇にキスされた。優しいキスは徐々に深くなり、お互いを貪るように激しくなっていく。
「ん……ふぅ……っ?! ん、んんーっ!!」
 厚い舌が口腔内に侵入してくるのとほぼ同時に後孔に楔が穿たれる。危うくオルテガの舌を噛みそうになりながらも一気に奥まで貫かれた俺はくぐもった悲鳴をあげて達してしまった。同時に性器から白濁を零して体を震わせる俺を見て、黄昏色の瞳が意地悪く細くなる。その様に背筋がゾクゾクするのは恐怖なのか、はたまた期待なのか。
 自分でも良く分からないまま、俺はただオルテガの広い背中に腕を回してしがみつく事しか出来なかった。

 ◆◆◆

「あっ……んん!」
 広い浴室内に俺の挙げる嬌声と結合部から零れる水音、それから肌がぶつかる音が響く。ドーム型になっている所為なのか、俺が思っているよりも音が反響するのが恥ずかしい。
 既に俺の中で数回達しているのに、オルテガが萎える様子はない。体勢を変えながら幾度も絶頂に導かれた俺はすっかり快楽に呑まれていた。
「フィン……っ、もっとぉ……」
 逞しい腰に脚を絡ませながら強請る俺に応えるように俺の足を折り畳んで膝の下に腕を入れ体勢をより深く繋がれるような体勢にする。
 これがいわゆる種付けプレスというやつか。
 頭のどこかで無駄な知識を思い出していると、余所見は許さないと言わんばかりにオルテガがのしかかってくる。一気に深くなった繋がりに、瞼の裏には星が散り、精を吐くことも無く幾度目かも分からない絶頂に達してしまう。
「ぅ、あ……」
 既に息も絶え絶えな嬌声に満足そうに笑みを浮かべると、オルテガが俺の頬を撫でる。
「愛してる、リア」
 短いその一言だけで一気に胸の内が幸福感に満ちていく。嗚呼、幸せだ。ずっとこうしていたい。
「ん、私も……私も愛しているっ……あぁっ!」
 想いを告げれば、奥の奥までオルテガが入ってくる。胎の境を越えて結腸まで侵入されると、壮絶な快楽が襲い掛かってきた。
 ここで得られる快楽を覚えてからというもの、俺の体はすっかり雌のようになっていると思う。オルテガに抱かれる悦びに染められた今では女性を抱く事は出来ないだろうし、他の男で満足出来る気もしない。
 オルテガだけなのだ。こうして俺を満たせるのは。
 二人分の体重と律動の衝撃を受けて壊れそうなほど軋んでいる浴室内の寝椅子の上でオルテガの背に腕を回して逞しい肩に爪を立てる。
 気持ち良くて、幸せでしあわせで、他になにも考えられない。
 直ぐ耳元で響く荒い獣のような呼吸音と身を貫かれる壮絶な快感に溺れながら胎の中に在るオルテガを締め付ける。
 奥に欲しい。この身がオルテガのものなのだと示す何よりの証左が欲しい。
 限界が近いのか、オルテガの息が荒い。歯を食いしばりながら耐える様は凄まじい色気だ。こんなスチルがなくて良かった。他の奴が見たらきっとそいつの目玉を抉り出していた。
 そんな事を考えながら逞しい腰に足を絡めて腰を密着させる。
「っ……リア」
 唸るような低い声が尋ねてくる。奥の奥に出すと後始末で負担が掛かるからとなかなかしてくれないのだ。どうやら今日は彼も乗り気らしい。
 あんまりないチャンスを逃したくなくて、俺はオルテガに微笑み掛けた。
「言っただろう? お前が欲しい。お前で奥まで満たしてくれ」
 頬に手を添えて軽く口付けて先を強請る。彼の全てが欲しくて欲しくて堪らないのだ。
 俺の答えに小さく唸ると、オルテガの律動が一段と激しくなった。俺を孕ませたいと言わんばかりの動きに必死でしがみつきながら甘く啼いて快楽を追う。
「あっ、んんっ! あ、ああ……っ!!」
「っー!!」
 一際深く穿たれ、悲鳴を上げながら絶頂に達する。同時にオルテガも達し、全て注ぎ切るように緩い律動を繰り返しながら精を吐き出した。
 荒い呼吸に上下する胸、滴る汗をぼんやりと見つめながら絶頂の余韻に酔う。過ぎた快楽と疲労感にくったりしていると一頻り余韻を楽しんだ様子のオルテガが軽く体を起こした。
「大丈夫か?」
 心配そうに甘い声が訊ねてきた。小さく頷いて見せたものの、既に体がぎしぎししている気がする。
「……明日立てなかったらどうしよう」
「そうなったら俺が運んでやろう」
 何度も頬や額にキスを落としながらオルテガが楽しそうに告げる。そんな事をされた日には憤死間違いなしだ。
「……抜くぞ」
「っ……!!」
 油断していたところで急に動かれて体が跳ねる。セックスは好きだが、この瞬間だけはいつも少し苦手だ。
 排泄感に似た感覚に何とも微妙な気分になる。そして、胎の中を占めていた熱が失せた事で中に吐き出された白濁がどろりと溢れてきた。この感覚が一番苦手だ。
 オルテガもその辺はわかっているようで機嫌を取るように俺の額にキスを落としてから後始末を始めた。疲労感が強くてなすがままだったが、手慣れたオルテガに手際良く清められて湯船に入れられる。
 脱力している人間一人洗って風呂に入れるなんて大変だろうに、オルテガは文句の一つも言わない。
 俺を後ろから抱き締めて支えてくれる厚い胸板に体を預けながらお湯の中でトロトロと微睡むのは気持ちが良い。このまま寝そうだ。だからこそ溺れないように支えてくれているんだろう。
「フィン……」
 名前を呼べば、優しい夕焼け色が俺を覗き込んで来る。
「どうした、もう眠いのか?」
「眠いのは眠い」
 それはもうめちゃくちゃ眠い。気を抜けば直ぐにでも夢の世界に意識が飛んで行きそうだ。だからこそ、今のうちに言っておかなければ。
「今日は一緒にねたい」
 後半の呂律が怪しくなりながら強請ればオルテガが嬉しそうに微笑んで俺のつむじにキスを落としてくる。
「わかった。俺が運んでやるから寝ても良いぞ」
「でも……」
 寝る為の準備をするのが大変だろう。
 そう言い掛けるが、オルテガがやんわりと制してきた。
「これくらいさせてくれ。最近、お前の事を甘やかしてないんだから」
 散々あんな事やこんな事しておいて!?
 声を大にしてそう尋ねたいが、領地にいた頃の激甘っぷりを思い出せばさもありなん。彼的には構い足りないのだろう。
 これはもう好きにさせておくべきか。そう諦めて身を任せれば背後のオルテガが嬉しそうに俺の頭に鼻先を埋めてきた。こういう事するから可愛いんだよなぁ。
 我ながらオルテガに甘過ぎると思いながらも甘やかされたい欲と睡魔には勝てそうになくて。
 程なくして俺の意識は眠りの淵へと堕ちていった。
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