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王都編20 銀狼との語らい
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王都編20 銀狼との語らい
少々しんみりしてしまったが、しっかり長湯からして脱衣所に戻れば、籐の寝椅子の所に冷えた飲み物が用意してあった。
どうやら俺達がのんびり風呂に入っている間にガーランド家の者が用意してくれたようだ。長湯で火照った体を寝椅子で冷ましながらのんびり良く冷やされた果実水を飲む。この上ない贅沢だな。
「あー、最高だった。私の邸にも欲しいな」
「またうちに入りに来ればいいさ」
うっとりしながら呟けば、オルテガが誘惑してくる。非常に魅力的な提案だが、いくら親しい隣の家とはいえ、侯爵家を銭湯代わりにするのは如何なものか。
「そう入り浸る訳にもいかないだろう」
「お前を入り浸らせる為に作ったんだ。遠慮は不要だ」
うーん、こうなる事は既にお見通しか。エルカンナシオンも噛んでいそうだし、これは多分俺を呼び寄せる為の策だな。悔しい事にほいほい乗ってしまいたい。誘惑に対する弱さに我ながら情け無いんだが、それだけ風呂が最高過ぎた。
「……婚約するまでは我慢する」
「今はそれで良い。入りたくなったらいつでも言ってくれれば連れて来るから。お前の家の者達にも入りに来ていいと伝えておいてくれ」
断腸の思いで断れば、予想外の話が出て来た。俺の家の使用人にもここを使って良いと言っているのだ。
「うちでも家族が入った後になら家人が使って良い事にするつもりだ。その方がお前も良いだろう?」
俺の為だけに、と言うと俺が恐縮して遠慮するところまでお見通しでの提案らしい。本気で囲い込みに来ているガーランド家の思惑に勝てる気がしないんだが。
「……伝えておく」
憮然としながら呟けば、甘やかす様に額にキスをされた。ぐぬぅ、この男と来たら本当にあざとい事をしてくれる。
一頻り休憩して服を着た所で俺は自分の屋敷に帰る事にした。明日も早いからな。
屋敷の入り口まで送ってくれたオルテガから竜の卵を受け取って別れようとするが、振り返った俺の腹にオルテガの腕がまわった。
「こら、私はもう帰るぞ」
背後から抱き締められて少々ドキドキしながらも叱り付ける。鼻先で器用に髪を掻き分けられ、首筋にチクリとした痛みを与えられて漸く解放された。痕を付けられた、と赤くなっていればくるりと体が反転させられて流れるように額にキスが落とされる。
「おやすみ、リア」
甘い声で囁くと、オルテガが俺を解放してガーランド家の方へと歩き出す。その背を見送りながら俺は思わずしゃがみ込んだ。
「っ! 甘さ具合に拍車が掛かってないか……?」
王都に戻ってからオルテガが俺を構う頻度が上がっているのは絶対に気のせいじゃないだろう。見せびらかしたいのか、愛執に突き動かされているのか、はたまた我慢を辞めたのか。どれか分からないが、このままでは俺の心臓がもたない。
しゃがみ込んで叫び出したい衝動を耐えていれば、不意に屋敷のドアが開く。
「じゃあ、リアによろし……ってこんな所で何してんの」
出て来たのはダーランだ。出た所でしゃがみ込んでいる俺に驚いたようで、細い目を見開いている。
「……叫び出したい衝動と戦っている」
俺の様子になんと無しに何があったのか理解した様で、彼は苦笑を浮かべた。
「手加減無しかぁ。今でこれなんだから新婚生活でリアがどうなるか楽しみだね」
「他人事だと思って」
ケラケラ笑いながら面白がって揶揄ってくるダーランに溜め息を吐きつつ答えて恐ろしくなる。絶対まだ加減してるだろう。あいつが本気になって俺を構い出したら日常生活で地面に足をつく事すら出来なくなりそうだ。
「愛されてるようで何よりだよ」
「重い……」
「リアがそれくらいしないと理解しないからでしょ」
ズバッと言われた一言にギクリとする。自身に対する自信の無さもあってつい一歩引いてしまうし、人に求められた事がなかったからどうしても予防線を張ってしまう。
「一回ベッタベタに甘やかされて溺れちゃえば良いのに。オルテガ様も満足してリアはあの人の愛情を思い知るだろ」
なんて恐ろしい事を言い出すのか。辛うじて保っている距離感が壊れたらどうなってしまうのか自分でも分からないというのに。
「とりあえずそんなとこで座り込んでないで屋敷に入ったら? 話があるんだけど」
纏っていた軽薄な空気を打ち消してダーランが促すのを聞いて、俺も気持ちを切り替える。彼には幾つか仕事を頼んでいるが、それに進展があったのだろうか。
折角良い気持ちだったが、それもここまでの様だ。
「アルバートさんに託けておいたけど、直接話せるならそっちの方が良いからねー」
「あーあ、美味い食事と良い風呂で最高の気分だったのに」
「俺だって商売だけしたいのを我慢して調べてんだからリアも頑張ってよ」
ダーランの嘆きももっともだと諦めてどっこいしょと声を漏らしながら立ち上がる。嫌だが、今後の為にも話をしておかないとな。
屋敷の中に入れば、アルバートが出迎えてくれたので茶の用意を頼んでダーランと連れ立って俺の書斎に向かう。茶が来てから向き合って座るとダーランは直ぐに口火を切った。
「朱凰の件で進展があった。今この国に来ているのは朱凰の第三皇子と第六皇子だ」
「……またややこしい事になっているな」
王族の血筋が来ているならこれは間違い無く侵略活動の一環だろう。頭を抱えながらこれまでに得た少ない朱凰についての知識を想起する。
朱凰はこの大陸から遥か東にある大国だ。皇帝による統治でいくつもの小国を属国として総べており、その大陸では朱凰に敵う国はない。栄華の絶頂にある皇帝は属国からそれぞれ側室を得ているから多数の子がいるようで、海を越えて勢力を伸ばす為に後継者争いも兼ねて沢山いる子を外国に送り出しては工作活動を取っているようだ。
それにしたってローライツに二人で来ているのは何故だろうか。
「中心人物のどちらかが王族なのは予測していたが、二人ともとは……」
「俺があの国にいた時間は短かったけど、皇家も一枚岩じゃない事だけは有名だよ」
「まあ、話を聞いているだけでも平穏とは程遠そうな気はするが、後継者争いに他所の国を巻き込むのはやめてほしいところだな」
溜め息を零す俺とは対照的にダーランはニンマリと笑みを浮かべる。あーあ、嫌な予感がするな。
「第三皇子は皇帝の正妃の次男で、第六皇子は皇帝が最も寵愛している妃の一人息子だ。元々この国に来ていたのは第六皇子だけだったそうだよ。それぞれ配下は第三皇子が十五人、第六皇子に五人。第三皇子はミナルチークと協力態勢にある」
んんん?なんか急に情報が増えたな。
これまで調べさせてもあまり情報が入って来なかったというのにこんなに細かな情報が俺の耳に入ると言う事は、だ。
「……第六皇子か」
「御名答。リアに会いたいってさ」
にこにこしているダーランに言われて考える。ここに来て急に俺に接触を図るなんてどんな下心があるのか。
第三皇子の方が考えている事が分かりやすい。ミナルチークと協力して宰相である俺を追い遣り、政権を奪った所でミナルチークをやり込めてこの国の中枢に食い込む。上手くいけば簡単に国を乗っ取れるだろう。
「……ダーランから見て第六皇子はどんな男だった?」
「んー、まだそこまで長く話した訳じゃないから腹の中は読み切れないけど、悪い人ではなさそう、かな。少なくともこの国に対して害意はないと本人は言ってるし、その言葉は信用して良いと思う」
ダーランがそう言うならある程度は信じても良いだろう。彼の人を見る目は信頼しているし、ここで俺と敵対しても第六皇子側に何のメリットもない。それよりも俺と手を組んで第三皇子を廃したいといったところか。
正妃の息子と最も寵愛されている側妃の長子ならば、バッチバチに政敵同士だろう。出来れば穏便に朱凰と国交が結べれば俺的には嬉しい所だがどう転がる事やら。
「個人的で良いなら会おう。繋ぎは任せた」
「りょーかい。日時はどうしようか」
「明日の夜で。ロアール商会の応接室に来てもらうように。私もそちらに行く」
「分かった。……あとさぁ、下調べ頼まれてた雄山羊の剣亭とその劇場なんだけど本当に観に行くつもり?」
とんとんと話が進んでいたが、不意に話題を変えたダーランが心配そうに訊ねてくる。彼が言っているのは先日ドルリーク男爵に観劇を頼んだ劇団に関連する話だ。
「行く。フィンを連れて行けば問題ないだろう」
「別の意味で問題が出て来そうなんだけど。何でわざわざあんな下劣の極みみたいなもの観に行くのかねぇ」
「お前の懸念もわかるが、相手の弱味や醜聞は握れるだけ握っておきたい」
澄ました顔で応えるが、ダーランはまだ不満の様だ。相手の醜聞や弱味は握るだけ握って脅すなり追い落とすなりの材料にしたい。ドルリーク男爵が匂わせて来た「雄山羊の剣亭」という酒場にはそれが転がっているのだ。
「それで言うならこれ以上ないくらいの弱味で醜聞なんだろうけどさー。俺的にはアレをリアの目には入れたくない」
「お前も観たのか」
「一応ね。面白いもんじゃなかったよ」
顔を顰めながら吐き捨てる様に呟くダーランの言い方に苦笑する。どうやら思ったより酷いものが見世物にされているらしい。
「内容についても出演者についても下調べは終わって今纏めさせてるから明日にでも資料を渡すよ。それからこの公演に関わってる奴についての詳細も」
頼もうと思っていたが、先に言われてしまった。優秀な部下がいると仕事がやり易くていいな。
「話が早くて助かる」
「これでもリアの右腕だからね」
得意気ににんまりと笑うダーランを心底頼もしく思う。彼の持つ人脈や情報網はなくてはならないものだ。勿論、ダーラン自身の人柄にも大いに助けられている。
「……いつも有り難う」
「どーいたしまして」
軽いやり取りを交わしてお互いに笑い合う。絶対的な味方がいてくれるというのは本当に心強いものだ。
現状を有り難く思いながら俺は暫しダーランと雑談に花を咲かせた。
少々しんみりしてしまったが、しっかり長湯からして脱衣所に戻れば、籐の寝椅子の所に冷えた飲み物が用意してあった。
どうやら俺達がのんびり風呂に入っている間にガーランド家の者が用意してくれたようだ。長湯で火照った体を寝椅子で冷ましながらのんびり良く冷やされた果実水を飲む。この上ない贅沢だな。
「あー、最高だった。私の邸にも欲しいな」
「またうちに入りに来ればいいさ」
うっとりしながら呟けば、オルテガが誘惑してくる。非常に魅力的な提案だが、いくら親しい隣の家とはいえ、侯爵家を銭湯代わりにするのは如何なものか。
「そう入り浸る訳にもいかないだろう」
「お前を入り浸らせる為に作ったんだ。遠慮は不要だ」
うーん、こうなる事は既にお見通しか。エルカンナシオンも噛んでいそうだし、これは多分俺を呼び寄せる為の策だな。悔しい事にほいほい乗ってしまいたい。誘惑に対する弱さに我ながら情け無いんだが、それだけ風呂が最高過ぎた。
「……婚約するまでは我慢する」
「今はそれで良い。入りたくなったらいつでも言ってくれれば連れて来るから。お前の家の者達にも入りに来ていいと伝えておいてくれ」
断腸の思いで断れば、予想外の話が出て来た。俺の家の使用人にもここを使って良いと言っているのだ。
「うちでも家族が入った後になら家人が使って良い事にするつもりだ。その方がお前も良いだろう?」
俺の為だけに、と言うと俺が恐縮して遠慮するところまでお見通しでの提案らしい。本気で囲い込みに来ているガーランド家の思惑に勝てる気がしないんだが。
「……伝えておく」
憮然としながら呟けば、甘やかす様に額にキスをされた。ぐぬぅ、この男と来たら本当にあざとい事をしてくれる。
一頻り休憩して服を着た所で俺は自分の屋敷に帰る事にした。明日も早いからな。
屋敷の入り口まで送ってくれたオルテガから竜の卵を受け取って別れようとするが、振り返った俺の腹にオルテガの腕がまわった。
「こら、私はもう帰るぞ」
背後から抱き締められて少々ドキドキしながらも叱り付ける。鼻先で器用に髪を掻き分けられ、首筋にチクリとした痛みを与えられて漸く解放された。痕を付けられた、と赤くなっていればくるりと体が反転させられて流れるように額にキスが落とされる。
「おやすみ、リア」
甘い声で囁くと、オルテガが俺を解放してガーランド家の方へと歩き出す。その背を見送りながら俺は思わずしゃがみ込んだ。
「っ! 甘さ具合に拍車が掛かってないか……?」
王都に戻ってからオルテガが俺を構う頻度が上がっているのは絶対に気のせいじゃないだろう。見せびらかしたいのか、愛執に突き動かされているのか、はたまた我慢を辞めたのか。どれか分からないが、このままでは俺の心臓がもたない。
しゃがみ込んで叫び出したい衝動を耐えていれば、不意に屋敷のドアが開く。
「じゃあ、リアによろし……ってこんな所で何してんの」
出て来たのはダーランだ。出た所でしゃがみ込んでいる俺に驚いたようで、細い目を見開いている。
「……叫び出したい衝動と戦っている」
俺の様子になんと無しに何があったのか理解した様で、彼は苦笑を浮かべた。
「手加減無しかぁ。今でこれなんだから新婚生活でリアがどうなるか楽しみだね」
「他人事だと思って」
ケラケラ笑いながら面白がって揶揄ってくるダーランに溜め息を吐きつつ答えて恐ろしくなる。絶対まだ加減してるだろう。あいつが本気になって俺を構い出したら日常生活で地面に足をつく事すら出来なくなりそうだ。
「愛されてるようで何よりだよ」
「重い……」
「リアがそれくらいしないと理解しないからでしょ」
ズバッと言われた一言にギクリとする。自身に対する自信の無さもあってつい一歩引いてしまうし、人に求められた事がなかったからどうしても予防線を張ってしまう。
「一回ベッタベタに甘やかされて溺れちゃえば良いのに。オルテガ様も満足してリアはあの人の愛情を思い知るだろ」
なんて恐ろしい事を言い出すのか。辛うじて保っている距離感が壊れたらどうなってしまうのか自分でも分からないというのに。
「とりあえずそんなとこで座り込んでないで屋敷に入ったら? 話があるんだけど」
纏っていた軽薄な空気を打ち消してダーランが促すのを聞いて、俺も気持ちを切り替える。彼には幾つか仕事を頼んでいるが、それに進展があったのだろうか。
折角良い気持ちだったが、それもここまでの様だ。
「アルバートさんに託けておいたけど、直接話せるならそっちの方が良いからねー」
「あーあ、美味い食事と良い風呂で最高の気分だったのに」
「俺だって商売だけしたいのを我慢して調べてんだからリアも頑張ってよ」
ダーランの嘆きももっともだと諦めてどっこいしょと声を漏らしながら立ち上がる。嫌だが、今後の為にも話をしておかないとな。
屋敷の中に入れば、アルバートが出迎えてくれたので茶の用意を頼んでダーランと連れ立って俺の書斎に向かう。茶が来てから向き合って座るとダーランは直ぐに口火を切った。
「朱凰の件で進展があった。今この国に来ているのは朱凰の第三皇子と第六皇子だ」
「……またややこしい事になっているな」
王族の血筋が来ているならこれは間違い無く侵略活動の一環だろう。頭を抱えながらこれまでに得た少ない朱凰についての知識を想起する。
朱凰はこの大陸から遥か東にある大国だ。皇帝による統治でいくつもの小国を属国として総べており、その大陸では朱凰に敵う国はない。栄華の絶頂にある皇帝は属国からそれぞれ側室を得ているから多数の子がいるようで、海を越えて勢力を伸ばす為に後継者争いも兼ねて沢山いる子を外国に送り出しては工作活動を取っているようだ。
それにしたってローライツに二人で来ているのは何故だろうか。
「中心人物のどちらかが王族なのは予測していたが、二人ともとは……」
「俺があの国にいた時間は短かったけど、皇家も一枚岩じゃない事だけは有名だよ」
「まあ、話を聞いているだけでも平穏とは程遠そうな気はするが、後継者争いに他所の国を巻き込むのはやめてほしいところだな」
溜め息を零す俺とは対照的にダーランはニンマリと笑みを浮かべる。あーあ、嫌な予感がするな。
「第三皇子は皇帝の正妃の次男で、第六皇子は皇帝が最も寵愛している妃の一人息子だ。元々この国に来ていたのは第六皇子だけだったそうだよ。それぞれ配下は第三皇子が十五人、第六皇子に五人。第三皇子はミナルチークと協力態勢にある」
んんん?なんか急に情報が増えたな。
これまで調べさせてもあまり情報が入って来なかったというのにこんなに細かな情報が俺の耳に入ると言う事は、だ。
「……第六皇子か」
「御名答。リアに会いたいってさ」
にこにこしているダーランに言われて考える。ここに来て急に俺に接触を図るなんてどんな下心があるのか。
第三皇子の方が考えている事が分かりやすい。ミナルチークと協力して宰相である俺を追い遣り、政権を奪った所でミナルチークをやり込めてこの国の中枢に食い込む。上手くいけば簡単に国を乗っ取れるだろう。
「……ダーランから見て第六皇子はどんな男だった?」
「んー、まだそこまで長く話した訳じゃないから腹の中は読み切れないけど、悪い人ではなさそう、かな。少なくともこの国に対して害意はないと本人は言ってるし、その言葉は信用して良いと思う」
ダーランがそう言うならある程度は信じても良いだろう。彼の人を見る目は信頼しているし、ここで俺と敵対しても第六皇子側に何のメリットもない。それよりも俺と手を組んで第三皇子を廃したいといったところか。
正妃の息子と最も寵愛されている側妃の長子ならば、バッチバチに政敵同士だろう。出来れば穏便に朱凰と国交が結べれば俺的には嬉しい所だがどう転がる事やら。
「個人的で良いなら会おう。繋ぎは任せた」
「りょーかい。日時はどうしようか」
「明日の夜で。ロアール商会の応接室に来てもらうように。私もそちらに行く」
「分かった。……あとさぁ、下調べ頼まれてた雄山羊の剣亭とその劇場なんだけど本当に観に行くつもり?」
とんとんと話が進んでいたが、不意に話題を変えたダーランが心配そうに訊ねてくる。彼が言っているのは先日ドルリーク男爵に観劇を頼んだ劇団に関連する話だ。
「行く。フィンを連れて行けば問題ないだろう」
「別の意味で問題が出て来そうなんだけど。何でわざわざあんな下劣の極みみたいなもの観に行くのかねぇ」
「お前の懸念もわかるが、相手の弱味や醜聞は握れるだけ握っておきたい」
澄ました顔で応えるが、ダーランはまだ不満の様だ。相手の醜聞や弱味は握るだけ握って脅すなり追い落とすなりの材料にしたい。ドルリーク男爵が匂わせて来た「雄山羊の剣亭」という酒場にはそれが転がっているのだ。
「それで言うならこれ以上ないくらいの弱味で醜聞なんだろうけどさー。俺的にはアレをリアの目には入れたくない」
「お前も観たのか」
「一応ね。面白いもんじゃなかったよ」
顔を顰めながら吐き捨てる様に呟くダーランの言い方に苦笑する。どうやら思ったより酷いものが見世物にされているらしい。
「内容についても出演者についても下調べは終わって今纏めさせてるから明日にでも資料を渡すよ。それからこの公演に関わってる奴についての詳細も」
頼もうと思っていたが、先に言われてしまった。優秀な部下がいると仕事がやり易くていいな。
「話が早くて助かる」
「これでもリアの右腕だからね」
得意気ににんまりと笑うダーランを心底頼もしく思う。彼の持つ人脈や情報網はなくてはならないものだ。勿論、ダーラン自身の人柄にも大いに助けられている。
「……いつも有り難う」
「どーいたしまして」
軽いやり取りを交わしてお互いに笑い合う。絶対的な味方がいてくれるというのは本当に心強いものだ。
現状を有り難く思いながら俺は暫しダーランと雑談に花を咲かせた。
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