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73 矢継ぎ早の客人
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73 矢継ぎ早の客人
ピティスに手紙を託し、王都へ飛ばして貰った三日後。王都からの使者に先んじて俺に来客があった。
訪ねて来たのは先日シガウスの手紙にもあったドルリーク男爵だ。どうやら馬を乗り潰しながらも最速で駆け抜けて来たらしい。祝夏の宴や嫩葉の会も近付いているからのんびりしている暇はないのだろう。
にこやかに出迎えて屋敷の中に案内してやれば、その間ドルリーク男爵はずっと恐縮しているようだった。
座る様に促して用件を聞けば、彼は挨拶もそこそこに自分の用件を話し始めた。内容は予想通り、ラソワ絹の流通についてだ。
「スレシンジャー様からの紹介状です」
「拝見しよう」
一頻り事情を聞いてから差し出されたのはすっかり見慣れたサインの書かれた封筒だ。どうやらこちらも急ぎで書いたのか、封蝋がない。
封を開けて読んでみれば、大した事は書いていなかった。まあ、彼もドルリークが泣きついて来る事も俺がそれを利用しようと思っている事も予測していたし、わざわざ細々と書く必要はないから当然か。
『存分に利用してやれ』と締められていた手紙を見て思わず苦笑しながら閉じる。利用するにしてもそうリターンがあるとは思えないが…。
「貴殿の状況は理解した。私で良ければ力になろう」
「本当ですか!!」
がしっと手を握ってくるドルリーク男爵の勢いに少々気圧される。ドアの外でガタリと音がしたが気のせいだろうか。
「元よりそのつもりでいた。私が一人で使うには流石に多過ぎるしな。詳しい価格交渉はロアール商会の者と行ってくれ。話を通しておく」
「あ、ありがとうございます!!」
歓喜の声を上げながらドルリーク男爵が俺の手をぶんぶんと上下に揺らす。どうやら相当切羽詰まっていたらしい。
「時間もあまりないだろうし、話は早い方がいいだろう。家の者にアルカマルへ案内させるからそこで話してくれ」
「承知致しました! 本当にありがとうございます、これで我が家は救われます!」
大袈裟な、と思ったが彼が元々は平民から貴族になった家柄なのを思い出す。古くからあり代々宰相を務めるレヴォネ家と成り上がり貴族であるドルリーク家では存続に対する危機感に大きな差があるだろう。
一刻も惜しいであろう男爵を見送る為に玄関へ向かう廊下を共に歩いていると、不意に男爵が立ち止まる。
「……そういえば、レヴォネ様は近頃城下で流行りの見世物をご存知でしょうか」
何事だろうかと思っていれば、ドルリーク男爵は急に変な事を話し始めた。内容を疑問に思いつつも、彼の質問の意図が分からないので素直に答えておく事にしよう。
「いや、王都から離れて久しいし、そういった物はとんと見聞きしていないな」
「実は我が家は舞台衣装も手掛けておりまして。もし、ご覧になる機会がありましたら王都の西側にある『雄山羊の剣亭』という飲み屋を覗いてみて下さい。場末の酒場ですし、侯爵様はご不快になられるかもしれませんが、面白いものが見られると思います」
「ほう……覚えておこう」
わざわざ教えて来たという事は何かしらの情報なのだろうか。後でダーランに探りを入れるようにお願いしておこう。
王都の西側というと比較的治安の悪い地区であった筈だ。スラムがなくなった代わりに非合法な物が跋扈しているという話も聞いているし、一度覗いてみたいと思っていた場所だ。
そんな場所で繰り広げられる見世物とはなんだろうか。それも、わざわざこうやって知らせて来るようなものなんて…。
ああ、そういえばちらっと小耳に挟んだ事があったと思い出す。貴族が出資して行っている趣味の悪いアンダーグラウンドな物があるとかないとか。
「その劇場は最近王都でも人気が出始めた劇団の傘下でして、カートという男が纏めて仕切っております。お声掛け頂ければ劇のチケットをご用意致しますので、そこで彼とお話されると宜しいかと」
「分かった。王都に戻ったらお願いするとしよう」
やっぱり何かしらの情報だと思った方が良さそうだが、ドルリーク男爵は末席とはいえミナルチーク派だった男だ。慎重に見定めなければ。
玄関まで来るとドルリーク男爵は丁寧に礼を述べてから待機していた自分の使用人と共にうちの馬車に乗ってアルカマルへと発った。その姿を見送ってから溜め息を一つ零す。
どうにも、こういったやり取りには慣れないから疲れる。今回は相手が自分より低位の貴族でこちら側が有利だったから簡単に話が進んだ。しかし、これで相手が自分より同等或いは高位貴族や立場的に有利な相手となると一気に考える事が多くなるし、下手なことが言えなくなる。かといって下手に出れば侮られるのだから難しい。
王都に戻ったらシガウスにその辺の振る舞い方を教わるのも良いかもしれない。嬉々として色々仕込んでくれそうだ。
そんな事を考えながら屋敷の中に戻ろうとドアをくぐったら横から腕が伸びて来て抱き寄せられた。ドアを閉める間もなくぽすりと体を受け止めてくれるのは嗅ぎ慣れたオルテガの匂いとすっかり馴染んだ熱だ。
「過保護な奴め」
どうやら部屋の外で待機していて今まで我慢していたのだろう。ドルリーク男爵に手を取られた時に物音がしたのはオルテガだったようだ。
「……他の男がお前に触れるのが許せない」
ぎゅっと抱き締められて耳元でそんな事を言われてみろ。一気に顔が熱くなるのを感じて慌ててオルテガの服に顔を埋めて隠す。最近、本当に俺のツボをついてくるから油断がならない。あーもー、本当にこの男ときたら…!
「早く俺のものだという証が欲しいな」
俺が逃げなかったのを良い事に、オルテガの手が腰を這う。耳元で響く低い声音に滲む独占欲に堪らない気持ちになった。こうして求められる事が嬉しくて仕方ないから。
「フィン……」
我ながら思ったよりも甘い声が出た。これじゃあまるで先を強請るようだ。多分、表情も溶けている。
オルテガも同じ事を思ったのだろう。口の端に笑みを浮かべて額にキスをくれた…ところでふと視線を感じてたった今俺が入って来た玄関のドアの方へと視線を向ける。
締まり切らずに開いていたドアの向こうには最もこういった場面を見せたくない人物がいた。サファイアのような深い青色の瞳をキラキラと輝かせる絶世の美少女、オルディーヌ・レイン・スレシンジャー公爵令嬢である。
キラキラした表情のレインと目が合い、俺は思わずフリーズした。当の彼女は「わたくしの事はお気になさらずどうぞ続きを」と満面の笑みで宣う。
「お言葉に甘えさせて頂こう」
冗談めかした声でオルテガが答えて俺の頬にキスしてきた所でやっと我に返って慌ててオルテガの腕から逃げようとするが、がっつり抱き締められて逃げられなかった。体格差も体力差もあるから捕まった後では逃げようもない。
「…………いっそ殺してくれ!」
「お兄様は照れ屋さんですのね」
「そこが可愛いだろう?」
嬉しそうなレインとオルテガの声を聴きながら両手で顔を隠す。顔どころか全身羞恥で熱い。
次からは絶対人目のありそうな場所ではイチャつかないと心に決める。絶対だからな!
盛大に恥をかいたところでレインを屋敷の中に案内する。
先触れは出さなくていいと言っていたし、今までもこうやってちょくちょく訪ねて来る事はあったから油断した俺が全面的に悪い。悪いんだが、機嫌は損ねた。それはもう盛大に。
わざとオルテガを一番遠い席に座らせて八つ当たりした俺はレインと向かい合う。わざわざ訪ねて来たんだから何かしら用事があるんだろう。
レインは俺がオルテガを遠くに座らせた事でまた何やら妄想でもしているのか非常ににこやかだ。悔しいが、またネタを提供してしまったらしい。
「それで、今日の用事は?」
仕切り直そうと訊ねれば、レインは笑みを消してスッと背筋を伸ばした。一気に雰囲気が変わった事に、俺もまたちゃんと座り直して話を聞く体勢を取る。
「ライネ様からお聞きしたのですが、お兄様はそろそろ王都にお戻りになるのですね」
「そのつもりでいる」
隠しても仕方ないし、素直に答える。レインがこちらに来てそこそこ時間も経っているし、そろそろ王都が恋しくなったのだろうか。
「わたくしもそろそろ戻ろうと思いますの。社交の準備もしなければなりませんし、わたくしは今年で成人ですから嫩葉の会の支度もしなければ」
そこでやっと彼女や王太子達が18歳だった事を思い出す。この国の成人は18歳で、嫩葉の会で国王に謁見し挨拶する事で一人前の貴族として認められる。だからこそ、我が子を嫩葉の会に送り出す貴族達はその装いに心血を注ぐのだ。
「そうか。……ゆっくり休めたか?」
「ええ。お兄様のお心遣いのお陰で王都では出来ない経験も沢山出来ましたわ。ヒューゴ様にも是非お礼を」
「伝えておこう」
心から楽しんでくれたのだろう。少女らしい無邪気な微笑みに安堵する。同時に本当に可愛らしい子だと思う。
ついでに俺が彼女を猫可愛がりして甘やかしているのを知っているからか、離れたところからこちらに飛んで来る視線が痛い。
「私からも君に成人の祝いにアクセサリーを贈らせて欲しい。髪飾りなんてどうだろうか」
俺の提案にレインが驚いた表情をする。
この国で成人する者にアクセサリーを贈るのは一般的には親族、或いはそれに匹敵する親しい間柄の者だけだ。成人の祝いに贈られたそのアクセサリーは嫩葉の会で身に付けたり、今後社交の場で身に付ける物となる。
「宜しいのですか?」
「ああ」
血の繋がりはなくとも、もう妹のようなものだ。レインもその意味に気が付いているのだろう。嬉しそうに破顔してくれた。こうやって年齢相応の顔をして喜んでくれる表情を見る度に、彼女を虐げた者達への怒りが再燃する。
彼等が犯した短絡的な行動の代償は重いだろう。
「本当にありがとうございます、リアお兄様。わたくしは一足先に戻りますが、お兄様の為に微力ながらお手伝いさせて頂きますね」
何を言い出すのかと思っていれば、レインはゆっくりと立ち上がって優雅にカーテシーをする。
「女には女の戦い方があるのですよ」
そう言って微笑んだ彼女の表情は先程までの可愛らしい少女とは程遠いものだった。
ピティスに手紙を託し、王都へ飛ばして貰った三日後。王都からの使者に先んじて俺に来客があった。
訪ねて来たのは先日シガウスの手紙にもあったドルリーク男爵だ。どうやら馬を乗り潰しながらも最速で駆け抜けて来たらしい。祝夏の宴や嫩葉の会も近付いているからのんびりしている暇はないのだろう。
にこやかに出迎えて屋敷の中に案内してやれば、その間ドルリーク男爵はずっと恐縮しているようだった。
座る様に促して用件を聞けば、彼は挨拶もそこそこに自分の用件を話し始めた。内容は予想通り、ラソワ絹の流通についてだ。
「スレシンジャー様からの紹介状です」
「拝見しよう」
一頻り事情を聞いてから差し出されたのはすっかり見慣れたサインの書かれた封筒だ。どうやらこちらも急ぎで書いたのか、封蝋がない。
封を開けて読んでみれば、大した事は書いていなかった。まあ、彼もドルリークが泣きついて来る事も俺がそれを利用しようと思っている事も予測していたし、わざわざ細々と書く必要はないから当然か。
『存分に利用してやれ』と締められていた手紙を見て思わず苦笑しながら閉じる。利用するにしてもそうリターンがあるとは思えないが…。
「貴殿の状況は理解した。私で良ければ力になろう」
「本当ですか!!」
がしっと手を握ってくるドルリーク男爵の勢いに少々気圧される。ドアの外でガタリと音がしたが気のせいだろうか。
「元よりそのつもりでいた。私が一人で使うには流石に多過ぎるしな。詳しい価格交渉はロアール商会の者と行ってくれ。話を通しておく」
「あ、ありがとうございます!!」
歓喜の声を上げながらドルリーク男爵が俺の手をぶんぶんと上下に揺らす。どうやら相当切羽詰まっていたらしい。
「時間もあまりないだろうし、話は早い方がいいだろう。家の者にアルカマルへ案内させるからそこで話してくれ」
「承知致しました! 本当にありがとうございます、これで我が家は救われます!」
大袈裟な、と思ったが彼が元々は平民から貴族になった家柄なのを思い出す。古くからあり代々宰相を務めるレヴォネ家と成り上がり貴族であるドルリーク家では存続に対する危機感に大きな差があるだろう。
一刻も惜しいであろう男爵を見送る為に玄関へ向かう廊下を共に歩いていると、不意に男爵が立ち止まる。
「……そういえば、レヴォネ様は近頃城下で流行りの見世物をご存知でしょうか」
何事だろうかと思っていれば、ドルリーク男爵は急に変な事を話し始めた。内容を疑問に思いつつも、彼の質問の意図が分からないので素直に答えておく事にしよう。
「いや、王都から離れて久しいし、そういった物はとんと見聞きしていないな」
「実は我が家は舞台衣装も手掛けておりまして。もし、ご覧になる機会がありましたら王都の西側にある『雄山羊の剣亭』という飲み屋を覗いてみて下さい。場末の酒場ですし、侯爵様はご不快になられるかもしれませんが、面白いものが見られると思います」
「ほう……覚えておこう」
わざわざ教えて来たという事は何かしらの情報なのだろうか。後でダーランに探りを入れるようにお願いしておこう。
王都の西側というと比較的治安の悪い地区であった筈だ。スラムがなくなった代わりに非合法な物が跋扈しているという話も聞いているし、一度覗いてみたいと思っていた場所だ。
そんな場所で繰り広げられる見世物とはなんだろうか。それも、わざわざこうやって知らせて来るようなものなんて…。
ああ、そういえばちらっと小耳に挟んだ事があったと思い出す。貴族が出資して行っている趣味の悪いアンダーグラウンドな物があるとかないとか。
「その劇場は最近王都でも人気が出始めた劇団の傘下でして、カートという男が纏めて仕切っております。お声掛け頂ければ劇のチケットをご用意致しますので、そこで彼とお話されると宜しいかと」
「分かった。王都に戻ったらお願いするとしよう」
やっぱり何かしらの情報だと思った方が良さそうだが、ドルリーク男爵は末席とはいえミナルチーク派だった男だ。慎重に見定めなければ。
玄関まで来るとドルリーク男爵は丁寧に礼を述べてから待機していた自分の使用人と共にうちの馬車に乗ってアルカマルへと発った。その姿を見送ってから溜め息を一つ零す。
どうにも、こういったやり取りには慣れないから疲れる。今回は相手が自分より低位の貴族でこちら側が有利だったから簡単に話が進んだ。しかし、これで相手が自分より同等或いは高位貴族や立場的に有利な相手となると一気に考える事が多くなるし、下手なことが言えなくなる。かといって下手に出れば侮られるのだから難しい。
王都に戻ったらシガウスにその辺の振る舞い方を教わるのも良いかもしれない。嬉々として色々仕込んでくれそうだ。
そんな事を考えながら屋敷の中に戻ろうとドアをくぐったら横から腕が伸びて来て抱き寄せられた。ドアを閉める間もなくぽすりと体を受け止めてくれるのは嗅ぎ慣れたオルテガの匂いとすっかり馴染んだ熱だ。
「過保護な奴め」
どうやら部屋の外で待機していて今まで我慢していたのだろう。ドルリーク男爵に手を取られた時に物音がしたのはオルテガだったようだ。
「……他の男がお前に触れるのが許せない」
ぎゅっと抱き締められて耳元でそんな事を言われてみろ。一気に顔が熱くなるのを感じて慌ててオルテガの服に顔を埋めて隠す。最近、本当に俺のツボをついてくるから油断がならない。あーもー、本当にこの男ときたら…!
「早く俺のものだという証が欲しいな」
俺が逃げなかったのを良い事に、オルテガの手が腰を這う。耳元で響く低い声音に滲む独占欲に堪らない気持ちになった。こうして求められる事が嬉しくて仕方ないから。
「フィン……」
我ながら思ったよりも甘い声が出た。これじゃあまるで先を強請るようだ。多分、表情も溶けている。
オルテガも同じ事を思ったのだろう。口の端に笑みを浮かべて額にキスをくれた…ところでふと視線を感じてたった今俺が入って来た玄関のドアの方へと視線を向ける。
締まり切らずに開いていたドアの向こうには最もこういった場面を見せたくない人物がいた。サファイアのような深い青色の瞳をキラキラと輝かせる絶世の美少女、オルディーヌ・レイン・スレシンジャー公爵令嬢である。
キラキラした表情のレインと目が合い、俺は思わずフリーズした。当の彼女は「わたくしの事はお気になさらずどうぞ続きを」と満面の笑みで宣う。
「お言葉に甘えさせて頂こう」
冗談めかした声でオルテガが答えて俺の頬にキスしてきた所でやっと我に返って慌ててオルテガの腕から逃げようとするが、がっつり抱き締められて逃げられなかった。体格差も体力差もあるから捕まった後では逃げようもない。
「…………いっそ殺してくれ!」
「お兄様は照れ屋さんですのね」
「そこが可愛いだろう?」
嬉しそうなレインとオルテガの声を聴きながら両手で顔を隠す。顔どころか全身羞恥で熱い。
次からは絶対人目のありそうな場所ではイチャつかないと心に決める。絶対だからな!
盛大に恥をかいたところでレインを屋敷の中に案内する。
先触れは出さなくていいと言っていたし、今までもこうやってちょくちょく訪ねて来る事はあったから油断した俺が全面的に悪い。悪いんだが、機嫌は損ねた。それはもう盛大に。
わざとオルテガを一番遠い席に座らせて八つ当たりした俺はレインと向かい合う。わざわざ訪ねて来たんだから何かしら用事があるんだろう。
レインは俺がオルテガを遠くに座らせた事でまた何やら妄想でもしているのか非常ににこやかだ。悔しいが、またネタを提供してしまったらしい。
「それで、今日の用事は?」
仕切り直そうと訊ねれば、レインは笑みを消してスッと背筋を伸ばした。一気に雰囲気が変わった事に、俺もまたちゃんと座り直して話を聞く体勢を取る。
「ライネ様からお聞きしたのですが、お兄様はそろそろ王都にお戻りになるのですね」
「そのつもりでいる」
隠しても仕方ないし、素直に答える。レインがこちらに来てそこそこ時間も経っているし、そろそろ王都が恋しくなったのだろうか。
「わたくしもそろそろ戻ろうと思いますの。社交の準備もしなければなりませんし、わたくしは今年で成人ですから嫩葉の会の支度もしなければ」
そこでやっと彼女や王太子達が18歳だった事を思い出す。この国の成人は18歳で、嫩葉の会で国王に謁見し挨拶する事で一人前の貴族として認められる。だからこそ、我が子を嫩葉の会に送り出す貴族達はその装いに心血を注ぐのだ。
「そうか。……ゆっくり休めたか?」
「ええ。お兄様のお心遣いのお陰で王都では出来ない経験も沢山出来ましたわ。ヒューゴ様にも是非お礼を」
「伝えておこう」
心から楽しんでくれたのだろう。少女らしい無邪気な微笑みに安堵する。同時に本当に可愛らしい子だと思う。
ついでに俺が彼女を猫可愛がりして甘やかしているのを知っているからか、離れたところからこちらに飛んで来る視線が痛い。
「私からも君に成人の祝いにアクセサリーを贈らせて欲しい。髪飾りなんてどうだろうか」
俺の提案にレインが驚いた表情をする。
この国で成人する者にアクセサリーを贈るのは一般的には親族、或いはそれに匹敵する親しい間柄の者だけだ。成人の祝いに贈られたそのアクセサリーは嫩葉の会で身に付けたり、今後社交の場で身に付ける物となる。
「宜しいのですか?」
「ああ」
血の繋がりはなくとも、もう妹のようなものだ。レインもその意味に気が付いているのだろう。嬉しそうに破顔してくれた。こうやって年齢相応の顔をして喜んでくれる表情を見る度に、彼女を虐げた者達への怒りが再燃する。
彼等が犯した短絡的な行動の代償は重いだろう。
「本当にありがとうございます、リアお兄様。わたくしは一足先に戻りますが、お兄様の為に微力ながらお手伝いさせて頂きますね」
何を言い出すのかと思っていれば、レインはゆっくりと立ち上がって優雅にカーテシーをする。
「女には女の戦い方があるのですよ」
そう言って微笑んだ彼女の表情は先程までの可愛らしい少女とは程遠いものだった。
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