78 / 151
67 愛しい黄昏
しおりを挟む
67 愛しい黄昏
卵を持ってきてから程なくしてサディアスが酔い潰れた事で酒宴は終わった。
元々そこまで酒に強くなかったサディアスだが、遠征明けにこの領地まで魔物の巣を潰しながら飛んで来たせいで疲労も溜まっていたようだ。急にスイッチが切れたようにテーブルに伏したサディアスは熟睡状態で、いくら起こしても起きる事はなかった。
自然とお開きになったところでオルテガにサディアスを客間に運んでもらい、俺は卵を抱いたまま自分の寝室に向かう。寝る前にもう少しばかりやっておきたい事が出来たから、寝室に卵を置いたら執務室に向かうつもりだった。
予想外の来訪者であったサディアスから今回の遠征の被害状況の報告も受けている。幸いな事に死者は出なかったようだが、大なり小なり怪我人は出ているらしいので彼等に対する補償金やら褒賞やらを用意しなければならない。その辺の指示を明日飛ばす分の手紙に追加しようと思った次第だ。指示さえ出しておけば、王都にいる補佐官たちが動いてくれるだろう。
卵をベッドの上に置いて寝室から出ようとした所でオルテガが階段を上がってくるのに出会した。俺が寝室から出て来たを見て不服そうな顔をしたから、俺がこれからしようとしている事に気が付いたんだろう。
「少しだけだから」
苦笑しながら言い訳するが、近寄って来たオルテガに腰を抱かれて捕まってしまった。
「酒も飲んでるんだから今日はもう寝ろ」
「私はそんなに飲んで……こら、やめろ」
ないと言おうと思ったが、オルテガが俺の首筋に顔を突っ込んでくる。長い髪を鼻先で掻き分けられて、熱い吐息が肌を擽ってくるから意図せず体が跳ねてしまう。
こうやって触れられるだけでぞわぞわと背筋に快楽が這いずる。すっかり染められた体は素直だが、流される訳にはいかない。
「フィン、こんな所で……っ!」
やめさせようと胸を押そうとするが、抱き込まれて拘束されてしまう。こうやって押さえ込まれると体格差を嫌でも思い知らされる。
動けずにいるうちに首筋にべろりと熱い舌が這った。思わず悲鳴をあげそうになるのを慌てて自分の口を手で塞いで飲み込む。
「……リア」
耳元で大好きな低い声が名前を呼ぶ。甘い声音は誘っているのだろう。ダメだ、ダメだ。ここで流される訳には…!
必死に誘惑に抗おうとする俺に焦れたのか、オルテガがぐりと腰を押し付けて来た。体に触れる硬い感触に一気に顔が熱くなる。
「て、手紙を少し書き足したい」
理由を告げて一旦拒否しようとするが、声が上擦ってしまった。俺が動揺している事なんて丸わかりなんだろう。腰に回された手が、首筋を這う舌が不埒な動きを始める。
嫌じゃない。というか、大歓迎なんだが竜を明日の朝イチで飛ばしてもらう都合上、どうしても今夜のうちに書き足してしまいたい。
「直ぐに終わらせるから。……少しだけ時間をくれ」
オルテガの頬を撫で、口付けながら囁く。色々試して思ったが、どうやら真っ向から拒否するより甘えてねだって見せた方が効果があるらしい。
効果は覿面で、ややあってから不承不承といった様子でオルテガが少し体を離す。
「本当に直ぐ終わるのか?」
「ああ。魔術師団や団員に対して遠征の褒賞や怪我人に補償金を出すよう少し書き足すだけだ」
「……分かった」
内容が内容なだけに俺の心情も汲んでくれたんだろう。溜息混じりに呟きながらぐりぐりと俺の首筋に鼻先を擦り寄せると、オルテガがやっと解放してくれた。しかし、魔石ランプに照らされる夕焼け色の瞳は飢えた獣のようにギラギラと輝いている。
その瞳に、背筋がゾクゾクした。同時に視線一つで先の快楽にまで思考が至る事に我ながら呆れてしまう。
されど、あの熱を知らない頃になどもう戻れない。
「早く終わらせて、俺の所に戻って来てくれ」
少しかさついた唇が額に落とされ、低い声が甘く誘う。その声音と台詞に思わず深い溜息が零れた。
「……お前、本当にそういうところだぞ」
「お前は直ぐに照れるから可愛いな」
千々に乱れる情緒、押し寄せる萌えと愛おしさに熱い顔を手で隠しながらぐうと唸る。くそ、心臓が爆発しそうだ。
ゲーム本編でもこれくらいかましていれば人気ナンバーワンに…いや、妬けるからやっぱりセイアッド限定でいい。
それにしても、手加減しないと宣言してから本当に手加減無しでグイグイくるから参ってしまう。オルテガに弱い自覚もあるし、オルテガも分かってやっているんだろうけど、心臓に悪い。
暴れ馬の如く跳ね回る心臓を宥められないまま、俺はオルテガから離れて逃げるように自分の執務室に向かった。
翌朝。
たっぷり愛し合い、多少の重怠さを抱えながら俺はオルテガの腕の中で目を覚ました。なんだかんだでまた流されてしまったが、どうにもオルテガには弱いのだから仕方ない。
今日は珍しく俺の方が早くに目が覚めたようだ。抱き締めてくれる腕の中でもぞりと動いても隣からは心地良さそうな穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
少しだけ身を起こしてオルテガの寝顔を堪能する。眠っている時は普段の精悍な印象とは打って変わって少し幼く見えるのが可愛い。逞しい首筋に残る俺が付けた所有印を指先で撫でながら堪らない気持ちになった。
こんなに良い男が俺の恋人なのだから。
胸の奥に湧く衝動に任せるままに眠っているオルテガの頬を撫でながら幾度も口付けを落として覚醒を促す。お互いに裸だから触れ合う肌の熱が心地良い。
幾度かキスを落としているうちに微かに瞼が震え、ゆるりと愛しい黄昏が覗く。寝惚けているのか幾度か瞬く瞳を見つめながら唇を重ねれば、答えるように俺の頭に大きな手が撫でてくれた。
「おはよう、フィン」
「……おはよう。まさかお前に寝込みを襲われる日が来るとは」
嬉しそうに言いながらオルテガが抱き締めようとするが、俺はその腕を擦り抜けて体を起こし、ベッドから立ち上がる。避けた事でオルテガは一瞬ぽかんとしていたが、逃げられた事を理解すると寝転がったまま拗ねたような顔をした。
存外子供っぽいところがある騎士団長殿は俺が逃げた事がお気に召さなかったらしい。
「私は風呂に入ってくる」
「なら、俺も」
「お前は駄目だ」
「何故?」
今度こそ本当に拗ねたのか、眉を寄せながら幼子のようにオルテガが尋ねる。可愛らしい事だ。
「朝の訓練がまだだろう?」
ここに来てからも毎朝欠かさずに行っていたルーティンだ。セイアッドが騎士としてのオルテガを尊敬している事もわかっているんだろう。彼は諦めたように溜め息を零す。
不満そうにしているオルテガを宥めるように少し硬い宵闇色の髪を撫でてから俺はベッドから離れる。ソファーに引っ掛けていたガウンを着てから未だに拗ねているオルテガと卵を残して寝室を出て向かうのはレヴォネ本邸の風呂だ。
朝から家の温泉で朝風呂なんて最高だよな。
レヴォネ領に温泉はいくつかあるが、本邸に引かれているのはとろりとした泉質の温泉だ。日本でも良く美肌の湯なんて言われていた温泉に近いようで、入るだけで肌の質感が良くなったように思う。
『リアが王都に戻ったら領地が賑わうだろうね』とダーランが言っていたが、この容姿が領地の金になるなら喜んで利用してやろう。最初はあまり乗り気ではなかったが、房事を晒されるよりはずっとマシだと思い直すことにした。
体と髪を洗ってから湯船に体を沈める。じんわりと体が温まり、思わずホッと溜息が零れた。ほぐれていくようなこの幸福感を入浴習慣があまりないこの世界の人間は知らないらしい。
王都の屋敷にも風呂はあったが小さいし、そもそも湯船に浸かるのは贅沢な事だ。魔法や魔石からお湯自体は作れるが、それも毎日となると厳しい。
王都に戻った時に嫌な事の一つが温泉に入れなくなる事だ。
「……帰りたくないな」
戻ったら温泉にも入れないし、食事の質も変わる。山のように仕事はあるだろうし、待ち受けているのは善意だけではなくそれを上回る悪意だ。それに、お互いに立場のある身だ。今のようにオルテガと過ごす事は難しくなるだろう。
分かっていた事だ。ずっとこうして過ごす事は出来ないのだと。だからこそ、考えないようにしてきた。
オルテガはセイアッドに愛を誓ってくれたけれど、世間が国が二人の婚姻を認めてくれるかどうかは別の話だ。
それだけ互いの立場は重い。
これからの事を考えて気分が沈む。落ち込んでいる場合では無いが、王都に帰ればいつかは直面する話だ。
どうにか二人が幸せになる道はないのかと「俺」はずっと考えて来た。しかし、良い案は浮かばないままズルズルときている。
片方の身分が低いだけならいくらでもやりようがある。相手をどこか有力な貴族の養子にするとか世間の風当たりは強いかもしれないが、無理を通せば普通に結婚だって出来るだろう。
だが、お互いに高位貴族、それも国において重要なポストに就いているとなると話がややこしくなる。
……これがゲームのヒロインならばあらゆる逆境を乗り越えて結ばれたのだろう。だが、俺はあくまでも脇役でしかない。いつか物語の強制力のようなものが襲って来た時、「俺」は対処し、乗り越える事が出来るんだろうか。
オルテガを、手離さずにいる事が出来るのだろうか。
明かり取りの窓から射し込む朝日は淡い金色に輝き、その光を呑んだお湯は時折上がる泡を宝石のように煌めかせながら揺蕩う。
美しい光景とは裏腹に俺の気分は沈んでいった。
卵を持ってきてから程なくしてサディアスが酔い潰れた事で酒宴は終わった。
元々そこまで酒に強くなかったサディアスだが、遠征明けにこの領地まで魔物の巣を潰しながら飛んで来たせいで疲労も溜まっていたようだ。急にスイッチが切れたようにテーブルに伏したサディアスは熟睡状態で、いくら起こしても起きる事はなかった。
自然とお開きになったところでオルテガにサディアスを客間に運んでもらい、俺は卵を抱いたまま自分の寝室に向かう。寝る前にもう少しばかりやっておきたい事が出来たから、寝室に卵を置いたら執務室に向かうつもりだった。
予想外の来訪者であったサディアスから今回の遠征の被害状況の報告も受けている。幸いな事に死者は出なかったようだが、大なり小なり怪我人は出ているらしいので彼等に対する補償金やら褒賞やらを用意しなければならない。その辺の指示を明日飛ばす分の手紙に追加しようと思った次第だ。指示さえ出しておけば、王都にいる補佐官たちが動いてくれるだろう。
卵をベッドの上に置いて寝室から出ようとした所でオルテガが階段を上がってくるのに出会した。俺が寝室から出て来たを見て不服そうな顔をしたから、俺がこれからしようとしている事に気が付いたんだろう。
「少しだけだから」
苦笑しながら言い訳するが、近寄って来たオルテガに腰を抱かれて捕まってしまった。
「酒も飲んでるんだから今日はもう寝ろ」
「私はそんなに飲んで……こら、やめろ」
ないと言おうと思ったが、オルテガが俺の首筋に顔を突っ込んでくる。長い髪を鼻先で掻き分けられて、熱い吐息が肌を擽ってくるから意図せず体が跳ねてしまう。
こうやって触れられるだけでぞわぞわと背筋に快楽が這いずる。すっかり染められた体は素直だが、流される訳にはいかない。
「フィン、こんな所で……っ!」
やめさせようと胸を押そうとするが、抱き込まれて拘束されてしまう。こうやって押さえ込まれると体格差を嫌でも思い知らされる。
動けずにいるうちに首筋にべろりと熱い舌が這った。思わず悲鳴をあげそうになるのを慌てて自分の口を手で塞いで飲み込む。
「……リア」
耳元で大好きな低い声が名前を呼ぶ。甘い声音は誘っているのだろう。ダメだ、ダメだ。ここで流される訳には…!
必死に誘惑に抗おうとする俺に焦れたのか、オルテガがぐりと腰を押し付けて来た。体に触れる硬い感触に一気に顔が熱くなる。
「て、手紙を少し書き足したい」
理由を告げて一旦拒否しようとするが、声が上擦ってしまった。俺が動揺している事なんて丸わかりなんだろう。腰に回された手が、首筋を這う舌が不埒な動きを始める。
嫌じゃない。というか、大歓迎なんだが竜を明日の朝イチで飛ばしてもらう都合上、どうしても今夜のうちに書き足してしまいたい。
「直ぐに終わらせるから。……少しだけ時間をくれ」
オルテガの頬を撫で、口付けながら囁く。色々試して思ったが、どうやら真っ向から拒否するより甘えてねだって見せた方が効果があるらしい。
効果は覿面で、ややあってから不承不承といった様子でオルテガが少し体を離す。
「本当に直ぐ終わるのか?」
「ああ。魔術師団や団員に対して遠征の褒賞や怪我人に補償金を出すよう少し書き足すだけだ」
「……分かった」
内容が内容なだけに俺の心情も汲んでくれたんだろう。溜息混じりに呟きながらぐりぐりと俺の首筋に鼻先を擦り寄せると、オルテガがやっと解放してくれた。しかし、魔石ランプに照らされる夕焼け色の瞳は飢えた獣のようにギラギラと輝いている。
その瞳に、背筋がゾクゾクした。同時に視線一つで先の快楽にまで思考が至る事に我ながら呆れてしまう。
されど、あの熱を知らない頃になどもう戻れない。
「早く終わらせて、俺の所に戻って来てくれ」
少しかさついた唇が額に落とされ、低い声が甘く誘う。その声音と台詞に思わず深い溜息が零れた。
「……お前、本当にそういうところだぞ」
「お前は直ぐに照れるから可愛いな」
千々に乱れる情緒、押し寄せる萌えと愛おしさに熱い顔を手で隠しながらぐうと唸る。くそ、心臓が爆発しそうだ。
ゲーム本編でもこれくらいかましていれば人気ナンバーワンに…いや、妬けるからやっぱりセイアッド限定でいい。
それにしても、手加減しないと宣言してから本当に手加減無しでグイグイくるから参ってしまう。オルテガに弱い自覚もあるし、オルテガも分かってやっているんだろうけど、心臓に悪い。
暴れ馬の如く跳ね回る心臓を宥められないまま、俺はオルテガから離れて逃げるように自分の執務室に向かった。
翌朝。
たっぷり愛し合い、多少の重怠さを抱えながら俺はオルテガの腕の中で目を覚ました。なんだかんだでまた流されてしまったが、どうにもオルテガには弱いのだから仕方ない。
今日は珍しく俺の方が早くに目が覚めたようだ。抱き締めてくれる腕の中でもぞりと動いても隣からは心地良さそうな穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
少しだけ身を起こしてオルテガの寝顔を堪能する。眠っている時は普段の精悍な印象とは打って変わって少し幼く見えるのが可愛い。逞しい首筋に残る俺が付けた所有印を指先で撫でながら堪らない気持ちになった。
こんなに良い男が俺の恋人なのだから。
胸の奥に湧く衝動に任せるままに眠っているオルテガの頬を撫でながら幾度も口付けを落として覚醒を促す。お互いに裸だから触れ合う肌の熱が心地良い。
幾度かキスを落としているうちに微かに瞼が震え、ゆるりと愛しい黄昏が覗く。寝惚けているのか幾度か瞬く瞳を見つめながら唇を重ねれば、答えるように俺の頭に大きな手が撫でてくれた。
「おはよう、フィン」
「……おはよう。まさかお前に寝込みを襲われる日が来るとは」
嬉しそうに言いながらオルテガが抱き締めようとするが、俺はその腕を擦り抜けて体を起こし、ベッドから立ち上がる。避けた事でオルテガは一瞬ぽかんとしていたが、逃げられた事を理解すると寝転がったまま拗ねたような顔をした。
存外子供っぽいところがある騎士団長殿は俺が逃げた事がお気に召さなかったらしい。
「私は風呂に入ってくる」
「なら、俺も」
「お前は駄目だ」
「何故?」
今度こそ本当に拗ねたのか、眉を寄せながら幼子のようにオルテガが尋ねる。可愛らしい事だ。
「朝の訓練がまだだろう?」
ここに来てからも毎朝欠かさずに行っていたルーティンだ。セイアッドが騎士としてのオルテガを尊敬している事もわかっているんだろう。彼は諦めたように溜め息を零す。
不満そうにしているオルテガを宥めるように少し硬い宵闇色の髪を撫でてから俺はベッドから離れる。ソファーに引っ掛けていたガウンを着てから未だに拗ねているオルテガと卵を残して寝室を出て向かうのはレヴォネ本邸の風呂だ。
朝から家の温泉で朝風呂なんて最高だよな。
レヴォネ領に温泉はいくつかあるが、本邸に引かれているのはとろりとした泉質の温泉だ。日本でも良く美肌の湯なんて言われていた温泉に近いようで、入るだけで肌の質感が良くなったように思う。
『リアが王都に戻ったら領地が賑わうだろうね』とダーランが言っていたが、この容姿が領地の金になるなら喜んで利用してやろう。最初はあまり乗り気ではなかったが、房事を晒されるよりはずっとマシだと思い直すことにした。
体と髪を洗ってから湯船に体を沈める。じんわりと体が温まり、思わずホッと溜息が零れた。ほぐれていくようなこの幸福感を入浴習慣があまりないこの世界の人間は知らないらしい。
王都の屋敷にも風呂はあったが小さいし、そもそも湯船に浸かるのは贅沢な事だ。魔法や魔石からお湯自体は作れるが、それも毎日となると厳しい。
王都に戻った時に嫌な事の一つが温泉に入れなくなる事だ。
「……帰りたくないな」
戻ったら温泉にも入れないし、食事の質も変わる。山のように仕事はあるだろうし、待ち受けているのは善意だけではなくそれを上回る悪意だ。それに、お互いに立場のある身だ。今のようにオルテガと過ごす事は難しくなるだろう。
分かっていた事だ。ずっとこうして過ごす事は出来ないのだと。だからこそ、考えないようにしてきた。
オルテガはセイアッドに愛を誓ってくれたけれど、世間が国が二人の婚姻を認めてくれるかどうかは別の話だ。
それだけ互いの立場は重い。
これからの事を考えて気分が沈む。落ち込んでいる場合では無いが、王都に帰ればいつかは直面する話だ。
どうにか二人が幸せになる道はないのかと「俺」はずっと考えて来た。しかし、良い案は浮かばないままズルズルときている。
片方の身分が低いだけならいくらでもやりようがある。相手をどこか有力な貴族の養子にするとか世間の風当たりは強いかもしれないが、無理を通せば普通に結婚だって出来るだろう。
だが、お互いに高位貴族、それも国において重要なポストに就いているとなると話がややこしくなる。
……これがゲームのヒロインならばあらゆる逆境を乗り越えて結ばれたのだろう。だが、俺はあくまでも脇役でしかない。いつか物語の強制力のようなものが襲って来た時、「俺」は対処し、乗り越える事が出来るんだろうか。
オルテガを、手離さずにいる事が出来るのだろうか。
明かり取りの窓から射し込む朝日は淡い金色に輝き、その光を呑んだお湯は時折上がる泡を宝石のように煌めかせながら揺蕩う。
美しい光景とは裏腹に俺の気分は沈んでいった。
65
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる