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67 愛しい黄昏
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67 愛しい黄昏
卵を持ってきてから程なくしてサディアスが酔い潰れた事で酒宴は終わった。
元々そこまで酒に強くなかったサディアスだが、遠征明けにこの領地まで魔物の巣を潰しながら飛んで来たせいで疲労も溜まっていたようだ。急にスイッチが切れたようにテーブルに伏したサディアスは熟睡状態で、いくら起こしても起きる事はなかった。
自然とお開きになったところでオルテガにサディアスを客間に運んでもらい、俺は卵を抱いたまま自分の寝室に向かう。寝る前にもう少しばかりやっておきたい事が出来たから、寝室に卵を置いたら執務室に向かうつもりだった。
予想外の来訪者であったサディアスから今回の遠征の被害状況の報告も受けている。幸いな事に死者は出なかったようだが、大なり小なり怪我人は出ているらしいので彼等に対する補償金やら褒賞やらを用意しなければならない。その辺の指示を明日飛ばす分の手紙に追加しようと思った次第だ。指示さえ出しておけば、王都にいる補佐官たちが動いてくれるだろう。
卵をベッドの上に置いて寝室から出ようとした所でオルテガが階段を上がってくるのに出会した。俺が寝室から出て来たを見て不服そうな顔をしたから、俺がこれからしようとしている事に気が付いたんだろう。
「少しだけだから」
苦笑しながら言い訳するが、近寄って来たオルテガに腰を抱かれて捕まってしまった。
「酒も飲んでるんだから今日はもう寝ろ」
「私はそんなに飲んで……こら、やめろ」
ないと言おうと思ったが、オルテガが俺の首筋に顔を突っ込んでくる。長い髪を鼻先で掻き分けられて、熱い吐息が肌を擽ってくるから意図せず体が跳ねてしまう。
こうやって触れられるだけでぞわぞわと背筋に快楽が這いずる。すっかり染められた体は素直だが、流される訳にはいかない。
「フィン、こんな所で……っ!」
やめさせようと胸を押そうとするが、抱き込まれて拘束されてしまう。こうやって押さえ込まれると体格差を嫌でも思い知らされる。
動けずにいるうちに首筋にべろりと熱い舌が這った。思わず悲鳴をあげそうになるのを慌てて自分の口を手で塞いで飲み込む。
「……リア」
耳元で大好きな低い声が名前を呼ぶ。甘い声音は誘っているのだろう。ダメだ、ダメだ。ここで流される訳には…!
必死に誘惑に抗おうとする俺に焦れたのか、オルテガがぐりと腰を押し付けて来た。体に触れる硬い感触に一気に顔が熱くなる。
「て、手紙を少し書き足したい」
理由を告げて一旦拒否しようとするが、声が上擦ってしまった。俺が動揺している事なんて丸わかりなんだろう。腰に回された手が、首筋を這う舌が不埒な動きを始める。
嫌じゃない。というか、大歓迎なんだが竜を明日の朝イチで飛ばしてもらう都合上、どうしても今夜のうちに書き足してしまいたい。
「直ぐに終わらせるから。……少しだけ時間をくれ」
オルテガの頬を撫で、口付けながら囁く。色々試して思ったが、どうやら真っ向から拒否するより甘えてねだって見せた方が効果があるらしい。
効果は覿面で、ややあってから不承不承といった様子でオルテガが少し体を離す。
「本当に直ぐ終わるのか?」
「ああ。魔術師団や団員に対して遠征の褒賞や怪我人に補償金を出すよう少し書き足すだけだ」
「……分かった」
内容が内容なだけに俺の心情も汲んでくれたんだろう。溜息混じりに呟きながらぐりぐりと俺の首筋に鼻先を擦り寄せると、オルテガがやっと解放してくれた。しかし、魔石ランプに照らされる夕焼け色の瞳は飢えた獣のようにギラギラと輝いている。
その瞳に、背筋がゾクゾクした。同時に視線一つで先の快楽にまで思考が至る事に我ながら呆れてしまう。
されど、あの熱を知らない頃になどもう戻れない。
「早く終わらせて、俺の所に戻って来てくれ」
少しかさついた唇が額に落とされ、低い声が甘く誘う。その声音と台詞に思わず深い溜息が零れた。
「……お前、本当にそういうところだぞ」
「お前は直ぐに照れるから可愛いな」
千々に乱れる情緒、押し寄せる萌えと愛おしさに熱い顔を手で隠しながらぐうと唸る。くそ、心臓が爆発しそうだ。
ゲーム本編でもこれくらいかましていれば人気ナンバーワンに…いや、妬けるからやっぱりセイアッド限定でいい。
それにしても、手加減しないと宣言してから本当に手加減無しでグイグイくるから参ってしまう。オルテガに弱い自覚もあるし、オルテガも分かってやっているんだろうけど、心臓に悪い。
暴れ馬の如く跳ね回る心臓を宥められないまま、俺はオルテガから離れて逃げるように自分の執務室に向かった。
翌朝。
たっぷり愛し合い、多少の重怠さを抱えながら俺はオルテガの腕の中で目を覚ました。なんだかんだでまた流されてしまったが、どうにもオルテガには弱いのだから仕方ない。
今日は珍しく俺の方が早くに目が覚めたようだ。抱き締めてくれる腕の中でもぞりと動いても隣からは心地良さそうな穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
少しだけ身を起こしてオルテガの寝顔を堪能する。眠っている時は普段の精悍な印象とは打って変わって少し幼く見えるのが可愛い。逞しい首筋に残る俺が付けた所有印を指先で撫でながら堪らない気持ちになった。
こんなに良い男が俺の恋人なのだから。
胸の奥に湧く衝動に任せるままに眠っているオルテガの頬を撫でながら幾度も口付けを落として覚醒を促す。お互いに裸だから触れ合う肌の熱が心地良い。
幾度かキスを落としているうちに微かに瞼が震え、ゆるりと愛しい黄昏が覗く。寝惚けているのか幾度か瞬く瞳を見つめながら唇を重ねれば、答えるように俺の頭に大きな手が撫でてくれた。
「おはよう、フィン」
「……おはよう。まさかお前に寝込みを襲われる日が来るとは」
嬉しそうに言いながらオルテガが抱き締めようとするが、俺はその腕を擦り抜けて体を起こし、ベッドから立ち上がる。避けた事でオルテガは一瞬ぽかんとしていたが、逃げられた事を理解すると寝転がったまま拗ねたような顔をした。
存外子供っぽいところがある騎士団長殿は俺が逃げた事がお気に召さなかったらしい。
「私は風呂に入ってくる」
「なら、俺も」
「お前は駄目だ」
「何故?」
今度こそ本当に拗ねたのか、眉を寄せながら幼子のようにオルテガが尋ねる。可愛らしい事だ。
「朝の訓練がまだだろう?」
ここに来てからも毎朝欠かさずに行っていたルーティンだ。セイアッドが騎士としてのオルテガを尊敬している事もわかっているんだろう。彼は諦めたように溜め息を零す。
不満そうにしているオルテガを宥めるように少し硬い宵闇色の髪を撫でてから俺はベッドから離れる。ソファーに引っ掛けていたガウンを着てから未だに拗ねているオルテガと卵を残して寝室を出て向かうのはレヴォネ本邸の風呂だ。
朝から家の温泉で朝風呂なんて最高だよな。
レヴォネ領に温泉はいくつかあるが、本邸に引かれているのはとろりとした泉質の温泉だ。日本でも良く美肌の湯なんて言われていた温泉に近いようで、入るだけで肌の質感が良くなったように思う。
『リアが王都に戻ったら領地が賑わうだろうね』とダーランが言っていたが、この容姿が領地の金になるなら喜んで利用してやろう。最初はあまり乗り気ではなかったが、房事を晒されるよりはずっとマシだと思い直すことにした。
体と髪を洗ってから湯船に体を沈める。じんわりと体が温まり、思わずホッと溜息が零れた。ほぐれていくようなこの幸福感を入浴習慣があまりないこの世界の人間は知らないらしい。
王都の屋敷にも風呂はあったが小さいし、そもそも湯船に浸かるのは贅沢な事だ。魔法や魔石からお湯自体は作れるが、それも毎日となると厳しい。
王都に戻った時に嫌な事の一つが温泉に入れなくなる事だ。
「……帰りたくないな」
戻ったら温泉にも入れないし、食事の質も変わる。山のように仕事はあるだろうし、待ち受けているのは善意だけではなくそれを上回る悪意だ。それに、お互いに立場のある身だ。今のようにオルテガと過ごす事は難しくなるだろう。
分かっていた事だ。ずっとこうして過ごす事は出来ないのだと。だからこそ、考えないようにしてきた。
オルテガはセイアッドに愛を誓ってくれたけれど、世間が国が二人の婚姻を認めてくれるかどうかは別の話だ。
それだけ互いの立場は重い。
これからの事を考えて気分が沈む。落ち込んでいる場合では無いが、王都に帰ればいつかは直面する話だ。
どうにか二人が幸せになる道はないのかと「俺」はずっと考えて来た。しかし、良い案は浮かばないままズルズルときている。
片方の身分が低いだけならいくらでもやりようがある。相手をどこか有力な貴族の養子にするとか世間の風当たりは強いかもしれないが、無理を通せば普通に結婚だって出来るだろう。
だが、お互いに高位貴族、それも国において重要なポストに就いているとなると話がややこしくなる。
……これがゲームのヒロインならばあらゆる逆境を乗り越えて結ばれたのだろう。だが、俺はあくまでも脇役でしかない。いつか物語の強制力のようなものが襲って来た時、「俺」は対処し、乗り越える事が出来るんだろうか。
オルテガを、手離さずにいる事が出来るのだろうか。
明かり取りの窓から射し込む朝日は淡い金色に輝き、その光を呑んだお湯は時折上がる泡を宝石のように煌めかせながら揺蕩う。
美しい光景とは裏腹に俺の気分は沈んでいった。
卵を持ってきてから程なくしてサディアスが酔い潰れた事で酒宴は終わった。
元々そこまで酒に強くなかったサディアスだが、遠征明けにこの領地まで魔物の巣を潰しながら飛んで来たせいで疲労も溜まっていたようだ。急にスイッチが切れたようにテーブルに伏したサディアスは熟睡状態で、いくら起こしても起きる事はなかった。
自然とお開きになったところでオルテガにサディアスを客間に運んでもらい、俺は卵を抱いたまま自分の寝室に向かう。寝る前にもう少しばかりやっておきたい事が出来たから、寝室に卵を置いたら執務室に向かうつもりだった。
予想外の来訪者であったサディアスから今回の遠征の被害状況の報告も受けている。幸いな事に死者は出なかったようだが、大なり小なり怪我人は出ているらしいので彼等に対する補償金やら褒賞やらを用意しなければならない。その辺の指示を明日飛ばす分の手紙に追加しようと思った次第だ。指示さえ出しておけば、王都にいる補佐官たちが動いてくれるだろう。
卵をベッドの上に置いて寝室から出ようとした所でオルテガが階段を上がってくるのに出会した。俺が寝室から出て来たを見て不服そうな顔をしたから、俺がこれからしようとしている事に気が付いたんだろう。
「少しだけだから」
苦笑しながら言い訳するが、近寄って来たオルテガに腰を抱かれて捕まってしまった。
「酒も飲んでるんだから今日はもう寝ろ」
「私はそんなに飲んで……こら、やめろ」
ないと言おうと思ったが、オルテガが俺の首筋に顔を突っ込んでくる。長い髪を鼻先で掻き分けられて、熱い吐息が肌を擽ってくるから意図せず体が跳ねてしまう。
こうやって触れられるだけでぞわぞわと背筋に快楽が這いずる。すっかり染められた体は素直だが、流される訳にはいかない。
「フィン、こんな所で……っ!」
やめさせようと胸を押そうとするが、抱き込まれて拘束されてしまう。こうやって押さえ込まれると体格差を嫌でも思い知らされる。
動けずにいるうちに首筋にべろりと熱い舌が這った。思わず悲鳴をあげそうになるのを慌てて自分の口を手で塞いで飲み込む。
「……リア」
耳元で大好きな低い声が名前を呼ぶ。甘い声音は誘っているのだろう。ダメだ、ダメだ。ここで流される訳には…!
必死に誘惑に抗おうとする俺に焦れたのか、オルテガがぐりと腰を押し付けて来た。体に触れる硬い感触に一気に顔が熱くなる。
「て、手紙を少し書き足したい」
理由を告げて一旦拒否しようとするが、声が上擦ってしまった。俺が動揺している事なんて丸わかりなんだろう。腰に回された手が、首筋を這う舌が不埒な動きを始める。
嫌じゃない。というか、大歓迎なんだが竜を明日の朝イチで飛ばしてもらう都合上、どうしても今夜のうちに書き足してしまいたい。
「直ぐに終わらせるから。……少しだけ時間をくれ」
オルテガの頬を撫で、口付けながら囁く。色々試して思ったが、どうやら真っ向から拒否するより甘えてねだって見せた方が効果があるらしい。
効果は覿面で、ややあってから不承不承といった様子でオルテガが少し体を離す。
「本当に直ぐ終わるのか?」
「ああ。魔術師団や団員に対して遠征の褒賞や怪我人に補償金を出すよう少し書き足すだけだ」
「……分かった」
内容が内容なだけに俺の心情も汲んでくれたんだろう。溜息混じりに呟きながらぐりぐりと俺の首筋に鼻先を擦り寄せると、オルテガがやっと解放してくれた。しかし、魔石ランプに照らされる夕焼け色の瞳は飢えた獣のようにギラギラと輝いている。
その瞳に、背筋がゾクゾクした。同時に視線一つで先の快楽にまで思考が至る事に我ながら呆れてしまう。
されど、あの熱を知らない頃になどもう戻れない。
「早く終わらせて、俺の所に戻って来てくれ」
少しかさついた唇が額に落とされ、低い声が甘く誘う。その声音と台詞に思わず深い溜息が零れた。
「……お前、本当にそういうところだぞ」
「お前は直ぐに照れるから可愛いな」
千々に乱れる情緒、押し寄せる萌えと愛おしさに熱い顔を手で隠しながらぐうと唸る。くそ、心臓が爆発しそうだ。
ゲーム本編でもこれくらいかましていれば人気ナンバーワンに…いや、妬けるからやっぱりセイアッド限定でいい。
それにしても、手加減しないと宣言してから本当に手加減無しでグイグイくるから参ってしまう。オルテガに弱い自覚もあるし、オルテガも分かってやっているんだろうけど、心臓に悪い。
暴れ馬の如く跳ね回る心臓を宥められないまま、俺はオルテガから離れて逃げるように自分の執務室に向かった。
翌朝。
たっぷり愛し合い、多少の重怠さを抱えながら俺はオルテガの腕の中で目を覚ました。なんだかんだでまた流されてしまったが、どうにもオルテガには弱いのだから仕方ない。
今日は珍しく俺の方が早くに目が覚めたようだ。抱き締めてくれる腕の中でもぞりと動いても隣からは心地良さそうな穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
少しだけ身を起こしてオルテガの寝顔を堪能する。眠っている時は普段の精悍な印象とは打って変わって少し幼く見えるのが可愛い。逞しい首筋に残る俺が付けた所有印を指先で撫でながら堪らない気持ちになった。
こんなに良い男が俺の恋人なのだから。
胸の奥に湧く衝動に任せるままに眠っているオルテガの頬を撫でながら幾度も口付けを落として覚醒を促す。お互いに裸だから触れ合う肌の熱が心地良い。
幾度かキスを落としているうちに微かに瞼が震え、ゆるりと愛しい黄昏が覗く。寝惚けているのか幾度か瞬く瞳を見つめながら唇を重ねれば、答えるように俺の頭に大きな手が撫でてくれた。
「おはよう、フィン」
「……おはよう。まさかお前に寝込みを襲われる日が来るとは」
嬉しそうに言いながらオルテガが抱き締めようとするが、俺はその腕を擦り抜けて体を起こし、ベッドから立ち上がる。避けた事でオルテガは一瞬ぽかんとしていたが、逃げられた事を理解すると寝転がったまま拗ねたような顔をした。
存外子供っぽいところがある騎士団長殿は俺が逃げた事がお気に召さなかったらしい。
「私は風呂に入ってくる」
「なら、俺も」
「お前は駄目だ」
「何故?」
今度こそ本当に拗ねたのか、眉を寄せながら幼子のようにオルテガが尋ねる。可愛らしい事だ。
「朝の訓練がまだだろう?」
ここに来てからも毎朝欠かさずに行っていたルーティンだ。セイアッドが騎士としてのオルテガを尊敬している事もわかっているんだろう。彼は諦めたように溜め息を零す。
不満そうにしているオルテガを宥めるように少し硬い宵闇色の髪を撫でてから俺はベッドから離れる。ソファーに引っ掛けていたガウンを着てから未だに拗ねているオルテガと卵を残して寝室を出て向かうのはレヴォネ本邸の風呂だ。
朝から家の温泉で朝風呂なんて最高だよな。
レヴォネ領に温泉はいくつかあるが、本邸に引かれているのはとろりとした泉質の温泉だ。日本でも良く美肌の湯なんて言われていた温泉に近いようで、入るだけで肌の質感が良くなったように思う。
『リアが王都に戻ったら領地が賑わうだろうね』とダーランが言っていたが、この容姿が領地の金になるなら喜んで利用してやろう。最初はあまり乗り気ではなかったが、房事を晒されるよりはずっとマシだと思い直すことにした。
体と髪を洗ってから湯船に体を沈める。じんわりと体が温まり、思わずホッと溜息が零れた。ほぐれていくようなこの幸福感を入浴習慣があまりないこの世界の人間は知らないらしい。
王都の屋敷にも風呂はあったが小さいし、そもそも湯船に浸かるのは贅沢な事だ。魔法や魔石からお湯自体は作れるが、それも毎日となると厳しい。
王都に戻った時に嫌な事の一つが温泉に入れなくなる事だ。
「……帰りたくないな」
戻ったら温泉にも入れないし、食事の質も変わる。山のように仕事はあるだろうし、待ち受けているのは善意だけではなくそれを上回る悪意だ。それに、お互いに立場のある身だ。今のようにオルテガと過ごす事は難しくなるだろう。
分かっていた事だ。ずっとこうして過ごす事は出来ないのだと。だからこそ、考えないようにしてきた。
オルテガはセイアッドに愛を誓ってくれたけれど、世間が国が二人の婚姻を認めてくれるかどうかは別の話だ。
それだけ互いの立場は重い。
これからの事を考えて気分が沈む。落ち込んでいる場合では無いが、王都に帰ればいつかは直面する話だ。
どうにか二人が幸せになる道はないのかと「俺」はずっと考えて来た。しかし、良い案は浮かばないままズルズルときている。
片方の身分が低いだけならいくらでもやりようがある。相手をどこか有力な貴族の養子にするとか世間の風当たりは強いかもしれないが、無理を通せば普通に結婚だって出来るだろう。
だが、お互いに高位貴族、それも国において重要なポストに就いているとなると話がややこしくなる。
……これがゲームのヒロインならばあらゆる逆境を乗り越えて結ばれたのだろう。だが、俺はあくまでも脇役でしかない。いつか物語の強制力のようなものが襲って来た時、「俺」は対処し、乗り越える事が出来るんだろうか。
オルテガを、手離さずにいる事が出来るのだろうか。
明かり取りの窓から射し込む朝日は淡い金色に輝き、その光を呑んだお湯は時折上がる泡を宝石のように煌めかせながら揺蕩う。
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