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突撃1 side作之助

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…………。

なんだったんだろう、今の時間。

嵐が過ぎ去ったような感覚に陥って、少しぼけっとしてしまった。

……続き読も。

……一度閉じた本を手にしてみたけど、なんか目がぼんやりしている……ああ、もう日が落ちるのか。そろそろ帰るか……。

そう思って腰を浮かしかけたけど。

………。心配だ。めちゃくちゃ心配だあの人。

あの見た目なら相当数ナンパとか危ない目に遭っていそうだけど、本人には全然危機感がないように見えた。

……今から追えば間に合うかもしれない。

でも俺が女子に絡んだとこ見られたら藤沢さんに悪影響しかない。

俺、一応教師からも不良認定されているから、藤沢さんまで悪印象を持たれてしまうかもしれない。

藤沢水都さんは俺でも評判くらいは知っていたけど、あの見た目なら納得という感じだった。

しかし中身はやばい。

いくらお母さんに憧れているからってヤンキーにまでなろうとするか? 

お父さんと幼馴染さん、大変だったろうな……。

……心配だ。



……結局。

急いで昇降口へ降りると、その先に先ほど屋上から見送った背中を見つけた。

一応、一応念のため……。

どうせ俺がいつ帰ろうが気にする者はいない。

少しだけ様子を見よう。

そう心の中で言い訳をして、藤沢さんを離れた場所から追うことにした。

……尾行と言うか、ストーカーとか思われたら死にたいくらいだが……。

とか一人でぐるぐる考えていたら、案の定すぎる展開になっていた。

藤沢さんがナンパされている。

思わず塀の影に隠れてこっそりうかがってしまった。

男が二人、他校の制服だ。

見た感じ真面目そうというよりはちょっとチャラい風体で、俺みたいな不良ではなさそうだけど……あ、殴った。うわ、もう一人には中段蹴り喰らわした。そして逃げた。

……まじか。言っていたこと全部本当だった……。えーと……どうすりゃいいんだ、これ……。

「くっそなんだあの女っ」

「見た目だけの中身暴れ馬かよっ」

「ね、おにーさんたち」

藤沢さんに殴られて蹴られての散々な目に遭った二人がうずくまっているところに出て行って見下ろした。

目つきの悪さを最大限使って。

「こ、コガサク……っ!?」

「お願いがあるんだけど、聞いてくんない? あ、だいじょーぶ。俺喧嘩嫌いだから、何もしなかったら殴ったりしないから」

わざとらしく笑って見せると、二人してひっと息を呑んだ。

……さすがに傷つく反応。

まあ、慣れているけど。

んで、一応その二人には藤沢さんが殴る蹴るしたのを口止めした。

ヤンキーになんかならなくても強くなる方法はいくらでもあるし、お母さんに見習うところはそこだけじゃないはず。

殴られたことは可哀想だけど、藤沢さんにふしだらな真似してなかったら殴られていないんだし、二人に自業自得なところはある。

藤沢さんもそもそも殴っちゃダメだけど。

そして心配過ぎるので、尾行を再開してしまった……。

変態だと思われませんように……。

あ、今度はやばめな奴ら。

今度は藤沢さんが三人の男に絡まれた。

あれは明らかに俺側……。ちょっと待て! そいつらも殴ろうとすんのかよ! うわ一人倒したし! 強いのはわかったけどもうやめろ!

気づいたら俺が飛び出していた。

「え、なん――」

藤沢さんに向かっていた一人の腕を掴んでねじりあげる。

「コガサクくん!?」

「あのさ藤沢さん。いくら義が自分にあっても簡単にヒト殴らない方がいいよ?」

俺に言えたセリフでもないんだけど。

ぱっと掴んでいた手を離す。

「いって……なんでコガサクが出て来るんだよ!」

腕をひねられていた奴がわめく。

なんでお前らが俺を知っているんだよ。ため息つきたくなる。

「この人と同じ学校。さすがに絡まれてるの見たら手助けするだろ」

「やられたのこっちなんだけど!?」

「うん、まあそれはそうなんだけど。藤沢さんから喧嘩売ったの?」

見ていたから絡んできたのが向こうとは知っているけど、一応訊いてみる。

「えと、なんか一緒に来いって言うから嫌だって言うついでに一発蹴った……くらいです」

………嫌だって言うついでに蹴られたのか、今腹押さえてうずくまっている奴は。可哀想だ。けど、

「藤沢さんに声かけてなかったらそんな目に遭ってないんだよ。そこはわかる?」

「わ、……かるけど、そういう話じゃねえだろ! なんだよ、コガサクの女かよ」

「それはない。同じ学校の人が絡まれてるから助けただけだし」

藤沢さんでなくても割って入っている。

たぶん絡んだ方と絡まれた方、どっちにも逃げられるだろうけど。

「お前の女じゃないんなら――」

「なくても関係ない。うちの学校の奴に手を出すな。金輪際だ。ほかの奴にも言っとけ」

手を水平に突き出して、一番騒ぐ奴の喉元に突きつける。

ひっと息を呑む音がした。

そのままでいると、舌打ちをして俺たちに背を向けた。

逃げるくらいなら俺にも喧嘩売らなきゃいいのに。

「藤沢さん」

「は、はい! あの、ありがとう――」

「よく今まで無事だったね」

お礼を言おうとしてくれたんだろうけど、これはちょっと怒った方がいい案件だ。

嫌味気味に俺は言った。

「幼馴染でいつも一緒だった親友がめちゃくちゃ強いことで有名だったので、私も喧嘩売られたことはなかったんです」

「………」

どんだけ暗躍してんだよ幼馴染。

藤沢さんが世間知らずに育ったの、幼馴染のせいじゃないのか?

「ヤンキーになりたいって言ってたけど」

ここは厳しく言おう。

「そんなことしたら藤沢さんはいつか後悔すると思うよ」

藤沢さんが目指しているのは、先にいる者としておすすめできない選択肢だ。

――そう、選択肢があるうちに引き返した方がいい。

だって、

「……なんでそんなことわかるんですか」

藤沢さんは不満いっぱいの顔で言ってくる。

俺がため息をつくと、肩をびくっと跳ねさせた。

「俺が後悔してるからわかるんだ」

……何度も思う。あのとき、ああしていなかったら、って。

「コガサクくんが?」

今度は藤沢さんは、目を見開いている。

俺の言葉を不思議に思ったのだろうか。

そりゃそうか。後悔してるくせに今も不良扱いされることやってるんだもんな。

「あのとき、あんな奴らの挑発にのって喧嘩してなかったら、とか、例え殴られてもやり返してなかったら、とか。色々考えるよ。……そうしたら今頃、普通の友達とか出来ていたんじゃないか、って……」

俺は良くない意味で見た目だけで目立つから、不良みたいなことをする奴らから目をつけられやすかった。

それにいちいち相手をしていたらこのザマだ。友達なんて今までいやしない。

……友達と言えるかはわからないけど、昔隣の家で仲良くしてくれていた奴がいただけだ。

「……わかりました」

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