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3 動き出す当主
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しおりを挟む「――俺に許嫁ですか?」
さしもの白桜も面食らった。
「然様(さよう)。貴方は御門流当主。御年にもなればそれ相応の者が必要でしょう」
御門別邸の客間で白桜の前に座るのは老齢の男性――小路流現当主・鴇卂逆仁(ときはや さかひと)だ。
以前は紅緒の当主名代を務め、紅緒が眠ってからは当主となっていた。
白桜は逆仁の言葉の意味を探った。
御門流と小路流は、お互いに婚姻の行き来はない。流派内での婚姻が主だ。
それをなぜ逆仁が白桜の婚姻問題に口出ししてくる?
「まあ、御門流でも小路流でもないが、力の強い方をご紹介することは出来ます。ですが私が貴方にそれを持ちかける理由はそれではありません」
そっと、湯飲み茶わんを持ち上げる逆仁。
流派内の婚姻が主といっても、派閥外の霊力の高い者を伴侶とすることは、過去にもある。
なぜそんな話を逆仁が白桜に持ちかけるのか……。
「……黒ですか?」
「ええ。白桜さんに許嫁が出来れば、黒藤様もいい加減にあきらめるのではないかと思いましてな。なにせ黒藤様が襲名を蹴る理由が、『白に惚れたからだ』ですから。……大丈夫ですか?」
机に突っ伏してしまった白桜を、逆仁が気遣う。
「……今心底からこう言葉に表せないけどぐつぐつとした感情にさいなまれています……」
「お可哀そうに……」
正座した膝の上でこぶしを握り締めうなだれる白桜に、逆仁は心底からの同情の眼差しをむける。
これはうちの若君のせいだから……。逆仁が困っていると、白桜はやおら顔をあげた。
その目は据わっている。
「……逆仁殿、俺に恋人が出来たら黒はあきらめると思いますか?」
「どうでしょうなあ……。相手を抹殺することはしないでしょうが、すぐに退くかは……私も、許嫁の話を持ってきておいて言い切れないのが申し訳ないですが」
言葉を濁す逆仁。そこは白桜も同意だった。
「ですが、真紅嬢の登場で一気に小路内部はあわただしくなってしまいました。元々知っていたのは十二家(じゅうにけ)の幹部連中だけでしたから、末端は黒藤様のほかに――それよりも当主に相応しいお方が帰っていらした、と。真紅嬢を推す空気は高まっています」
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