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side龍生8
しおりを挟む「愛子、在義に騙された詫びになんか食いモン出してやるよ」
「えっ……いいんですか? あ、あたしは本当に――」
自分の名前を出されてここまで来たのだから、少しながら罪悪感がある。仕掛けたのが他の奴だったらどうでもいいだけど、こと在義ならば違ってくる。しょうがねえ。
わざとらしい反応だった割には、俺が言い出すと本気でテンパり出した愛子を後目に、在義を追い払う。
「おめーはさっさと行けよ。んで、今度娘ちゃんのメシでも食わせろよ」
「……なんで咲桜を巻き込む」
「無頓着な流夜が惚れ込むくらいうめーんだろ?」
何回かいただいたことはあるから料理上手なのは知っている。が、ここで流夜の名前を出すのはただの嫌がらせだ。
案の定、在義は苦い顔になる。いいねえ、親父殿。
「愛子、なにがいい?」
「えっ、りゅ、龍生先輩が作ってくださるならなんでも!」
「おー、じゃあちょっと待っとけ」
小躍りでもしそうな愛子。こいつは通常でテンション高ぇんだよな……。俺はカウンターの中に入った。
在義は軽く息を吐いて、今度こそ顔を変える。……流夜が仕事場で顔を変える術は、在義から吸収したんだろうな。流夜たち三人は、在義のことも慕いまくっている。
「邪魔したな」
「おー。次はおめーの名前で愛子呼べよ」
「……そしたら愛子来ないだろう」
「当然じゃないですか。あたしいじめられる趣味ありませんもん」
からっと言い切る愛子。……愛子はいじめるというか嫌がらせをする方だからなあ。しかも陰湿な。
「在義。……今度は娘ちゃん連れて来いよ」
「……そうするよ」
猫の鈴の音と一緒に扉が閉まる。在義の消えた店内は静かな空気だった。……在義と愛子だけが騒いでいたのだ。
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