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side龍生5

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「あー、ここも久しぶりです」

カウンター席、俺の一つ隣に腰かけて、嬉しそうに足をぶらつかせる愛子。……あのさ、話すんのはお前ら二人なんだろ? 俺を間にしないでくれねえか?

「来てなかったのか?」

在義が言う。

「しばらく忙しかったのと、龍生先輩に出禁にされていたので」

在義が俺を見てくるので、舌打ちした。

「うちの客と喧嘩したんだよ、こいつは」

「ああ……」

簡単な説明から在義は察した。ここの客は俺と同じ世界の奴らだ。あるいは降渡と。その連中と喧嘩した……。まったく吹雪の血縁だ。

「だからまだ来るんじゃねえよ」

「華取先輩の呼び出しならいいでしょう?」

「さっさと話し済ませて帰れよ」

「どうして咲桜と流夜くん選んだ?」

「だって流夜くんって危ないじゃないですか」

「………」

こいつら、簡単に深い話に入った。

「うちにはほしい逸材ですけど。あの子、いつこっち側を離れてしまうかわからないじゃないですか。向こう側に落ちてしまうかわからない。自分にかけた鎖がないあの子は、龍生先輩の後継の中で一番危なく揺らぎやすい。だからまー、惚れ込んで入れ込める子がいたらいいなーと思いまして」

「それで?」

「流夜くんが逆らえない――逆らいたくない相手は、華取先輩か龍生先輩だけです。吹雪か降渡くんから廻る線もありますが、それではかわす道を同時に与える。絶対に逃げ道のない子は、華取先輩唯一の娘である咲桜ちゃんだけでした」

「………」

「そして流夜くんは、生きることを肯定出来る子ですから」

「―――……」

「一つだけ助かった命を責め続けた期間は長いから。……自分が生きていることを、自分の命をゆるすことが、あの子は出来る。今はもう迷いなく出来ます。そして――そろそろ、誰かにゆるす心を見せることも出来るんじゃないか、と。降渡くんの報告ほど親しくなるのは計算外でしたけど。……そんなとこですかねー」

「……咲桜のためにもなる、か……」

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