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九 たまにでいいから、こうしてもいいか?

side流夜8

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「りゅうやくん……」

「うん?」

咲桜をぎゅうと抱きしめて、その背中を撫でる。落ち着かせるみたいに。

咲桜の呼吸に乱れはない。静かな心音に揺られながら、ただ穏やかだった。

「……しあわせ?」

「幸せだよ。咲桜のおかげで」

「そっか……」

へへ、と、咲桜が照れたように笑った。

「……責任、どうすればとれるかな……」

少し身体を離して、咲桜の顔が見える距離にする。咲桜は真剣な顔で悩んでいた。変な所真面目だな。

「そうだな……。たまにでいいから、こうしてもいいか?」

「どうするの?」

「こうやって、傍にいてほしい」

こつん、と額と額がくっつく。俺が風邪のときにしたのと同じ動作だ。

「勿論、咲桜に恋人が出来るまででいい。それまで……たまに、近くにいてくれ」

「……うん」

「恋人がいてこんなことしたら浮気になるからな」

「………流夜くん」

「冗談」

少しだけ鋭く睨まれ、額を離した。

「……大丈夫か?」

そろそろ辞さねばならない頃合いだ。

「うん。ありがとう」

咲桜のはつらつとした笑顔。――だけじゃない、涙を抱えた笑顔を見て。……困った。また存分に泣かせてやりたくなる。涙を秘密にしなくていいから、と。

「咲桜、またうちに来い」

「流夜くんのとこ? あ、お掃除のお手伝い」

咲桜が言うので、違うよと笑いを返した。

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