上 下
162 / 179
九 たまにでいいから、こうしてもいいか?

side流夜6

しおりを挟む
「だーめ」

「だって……どうしようもないじゃん……。私がたくさんの人の幸せ、壊してるのは本当なんだから」

在義父さんの幸せを、夜々さんの幸せを、桃子母さんの幸せを――。

そう、呟く咲桜。

……咲桜は、壊したと思っているのか。その上でいつも、あんな笑顔を振りまいて……。

「それも、責任か?」

「……うん。でも、こればっかりはどうすれば責任とれるか、わかんない……」

そういうところに引け目を、負い目を感じているのか。

「なら咲桜、俺に対しての責任もとってもらおうか」

「また!? 私、流夜くんにほんとなにしたの!?」

「あ、いや。昨日のは責任取るのは俺の方だから。そこは混同しなくていい」

「流夜くんはなにしたの⁉」

「うん、だからそのうちまたしてやるから」

「今してよ! じゃないと考え込んで眠れないよ!」

「あー、今は無理だなー。朝間先生の瞳が光ってる」

「なんで夜々さん!? てか――今度は私なにした!?」

「俺を幸せにした」

「お――え?」

一度言われただけでは理解出来なかったようで、咲桜は見開いた目でこちらを見上げてきた。

なんだって? 驚きにあふれたその眼差しが問いかけてくる。

「だから、俺を幸せにした。誰かの幸せを壊したから責任があるって言うんなら、俺を幸せにした責任が発生してもいいんじゃないか?」

「え……流夜くん、幸せ、なの?」

「幸せだよ。『咲桜』と逢った時から、色々違ってしまった。俺も、家族を亡くした理由が理由なだけに、その犯人が捕まっていないだけに、自分が幸せになることを赦せないでいたかもな。そんな俺を幸せだなんて感じさせちまうんだから、お前はすごいよ。……お前は誰の幸せも奪ってない。誰かを幸せにしているだけだ」

「―――」

咲桜のおかげで、俺の生活も思考も、かなり変わった。

陽だまりのような、月明かりのようなあたたかさに、触れてしまった。もっと、触れていたくなった。

しおりを挟む

処理中です...