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七 今は偽モノ、だけど――
side流夜6
しおりを挟む「構わないだろ? 仮だけど婚約者演じなきゃならないんだ。名前くらい呼べるようにならないと」
「だからって――」
「はい」
「…………くん」
「くんしか聞こえない」
「~~~りゅうやくんっ」
咲桜は、もう自棄と言った様子で呼んだ。
「よく出来たな」
「………」
頭をわしゃわしゃ撫でると、咲桜は口を尖らせた。
「大丈夫だ、咲桜」
「………」
からかっていた手が落ち着いて、今度は整える。
「残酷なんて世界のどこにだって転がってる。お前も俺も、たぶんそれに近づくのが早くて、残酷性が目に見えて強いだけだ。咲桜を否定する要素になんかならない。だから、胸張って生きろ。頑張らなくていいから、胸張っていろ。俺や在義さんや、松生たちの愛情を素直に受け取っていればいい。――お前は、愛されているよ」
大丈夫。また、そう繰り返した。
「せん……流夜くんも、なにかあるの……?」
戸惑いに揺れている瞳と、砕けて来た口調。俺は素直に答えることにする。
「少しばかり、俺も変わった生まれをしているからな」
「生まれ……?」
「ああ。……咲桜がもう少し大丈夫になって、そのとき知りたかったら教えてやるよ」
「……今は、ダメなの?」
「駄目。さっき大泣きしたばかりだろ。俺のことまで抱え込まなくていい」
「やだ」
「やだって……」
子供っぽい反応に、今度は俺が当惑した。でも、大人びた咲桜の口調と態度を多く見ているから、こういう幼い反応を見る度、心をゆるしてくれるような気がしてしまう。
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