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六 私今ものすごくドキドキしてます。

side咲桜8

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「よく眠れたんならよかったです。だるさとかないですか?」


「ああ――むしろすっきりしてる」


「普段もちゃんと寝てればそんな感じなんですよ。失礼しますね」


ブレザーを自分の膝の上に置いて、身を乗り出して先生の額に手を当てた。うん、さっきと違って妙な熱さはない――な?


「……先生、おでこ熱くはないんですが顔が紅いですよ? 新しい風邪でもひきましたか」


「……いや、問題ない」


「先生の通常って色々人外です。あ、違った。人並み外れてます」


在義父さんが、先生に常識は当てはめない方がいいって言ったけど、その度合いを大幅に上げないといけないな、これ。


「おかゆ出来ました。あと、少しおかずを作り置きしておきますので、その間に食べておいてくださいね」


「あ、ありがとう……」


「いえ」


立ち上がったところで、ぐいっと腕を摑まれた。


「先生?」


先生はまだ正座しているから、私が見下ろす格好になる。


「あ、いや……何か、手伝えることはないか?」


「料理ですか? 大丈夫ですよ?」


「……自分の家事能力のなさが情けないくらいだと知った。少し、勉強させてくれないか?」


「先生が調子悪くないなら、いいですけど……」


「そうしたいんだ」


うーん。熱は下がったみたいだし、先生がいいっていうのなら、いいかな? おかゆはまたあたためなおせばいい。


食材を少し調達してきたから、簡単なおかずだけ用意しておこう。そう決めて、先生にはまず野菜を切ってもらうことにした。


ズダン!


「………」


「………」


私、先生、ともに硬直。二人の間の床に包丁が刺さっていた。


……先生の包丁の扱いが雑過ぎてぶっ飛んだのだ。キラリと蛍光灯の光を反射する刀身を見て、私は唾を呑み込んだ。ネギ切っただけのこのザマって……。

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