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六 私今ものすごくドキドキしてます。

side流夜3

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「必要なかったらそう言ってもらって構いません。でも、出来るだけ世話は焼かせてください。その……私だって先生とは利害一致の同じ立場、なんですから……偽物でも、少しは役に立てればと……だ、だから早く休んでくださいっ」


憤然と言った華取だが、その瞳は泳いでいる。追い出されたらどうしよう、そう言っているように見えた。


うーん……在義さんに睨まれてやるか。どの道、在義さんにも簡単に殺される気はない。


「ありがとう」


応えると、華取は勢いよく顔をあげた。そこに安堵が見て取れる。


「病人扱いもされたことがないから、どうしたらいいのかわからないんだが……」


「じゃ、じゃあ取りあえず――休みましょうっ」


「……どうやって?」


休む、という概念のない俺だった。そもそも休む必要がなかったから、どうしていれば『休む』ことになるのかわからず華取に訊いた。


華取の顔色が悪くなる。


「と、父さんから、先生にはあまり常識を当てはめるなとは言われてますが……」


「そうなのか? 迷惑をかけたな」


在義さんに何を言われたんだろうか。と言うか、華取から在義さんに訊いたのか、在義さんから聞かされたのか、その辺りが気になるな。


さっきとは違う感じで華取の瞳が泳いだ。


「ええと、ご飯、作ります。お勝手借ります」


「ん? ああ」


華取の方が頭痛でも抱えているような顔になった。


キッチン、リビング兼ダイニングは一間なので、華取の背中を見る形になる。


もう一つある六畳の部屋にベッドが置いてあるが、いつもリビングのソファで私事からの寝落ちが常だから、本を置いておく部屋としてしか機能していない。


「いつも、放っておいて治ってるんですか?」


「自覚してないから、そうなんだろうな」


空気から緊張が消え、のんびりしてしまっている。


そう言えば降渡や吹雪に「顔色悪いから休め!」と怒られたことは何度かあったが、体調悪い自覚もなかったから無視していた。


「……周りの苦労が忍ばれます……」


何故か俺の周囲が同情されていた。

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