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五 じゃあ、もらおうか。

side咲桜7

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「いーですよ、そんなの。あたしは咲桜のおまけなんですから」


ね、と笑顔を向ける笑満に促されて、私は今日のお弁当を渡す。


「ああ、ありがとう」


「いえ。あの、すきなものとか嫌いなものあったら教えてください。気を付けるので」


袋を手渡しながら言うと、先生は少し考える素振りを見せた。


「嫌いなものはないな。何でも食べないと投げ飛ばされたから」


「投げっ⁉」


「飛ばされた。厳しい時代を生き抜いたじいさんに育てられたからな。その辺りは厳しかった」


す、すごい教育方針だ。スパルタってこういうことを言うのだろうか。


「華取が作ってくれるものは全部美味いから、どれもすきだ」


「………」


いきなりべた褒めされて返事に困る。むしろ一気に顔が熱くなって頭から湯気出そうだ。それを隣から笑満が、にまにましながら見ていたことにも気づかなかった。


「先生、あたしにも普通に話してくださいって言ったら、そしてくれます?」


「普通にと言われても……」


「それとも、その顔は咲桜限定ですか?」


「………」


笑満のひっそりとした問いかけに、先生は一瞬真顔になって、軽く口元を緩めた。


「ああ、そのつもりだ」


「そうですかそうですか。それは重畳」


あの、日本語変換をしてほしい……。二人のやり取りの意味がわからなくて、私は疎外感に引きずられそうになった。けれど、笑満がやたら楽しそうな明るい顔で振り返った。


「咲桜! あたしいいよ、先生なら」


「え? なにが?」


振り向いた笑満の、満面の笑みの宣言に瞬く。


「咲桜の婚約者。先生ならガチでもいいよ」


「こ………ちょっ、な、なに言ってんの!」


はっきりと言われて、慌てて笑満の口を塞ぎに走った。学校でなにを言ってるんだこの子は!

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