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五 じゃあ、もらおうか。

side流夜5

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「お前の後継者だろうってスゴまれてよ。いや驚いた。あいつもあんな親みてーなキレ方出来るんだな」


心の底から感心している風情の龍さんに、俺は冷や汗をかいていた。


在義さん、一昨日のあの場では納得したような風だったが、やはり完全に手放しで受け入れたわけではないようだ。


そしてキレられていたのか……? ショックだった。


「……ん? 親みてーなって?」


降渡がそう訊き返していた。


衝撃で一時停止してしまったが、俺も同じことを疑問に思っていた。


母親が亡くなっているとはいえ、在義さんが父なのだろうに。


「ん? ああ、お前ら知らねーか。あいつも言わねーもんな」


頭をかいてバツの悪そうな顔をする龍さん。


また、猫の鈴が鳴った。


「ふゆー、こっちー」


降渡が呼ぶと、春芽吹雪がやってきた。


愛子の甥で、キャリアでありながら一年目で所轄に飛ばされたぶっ飛んだヤツだ。


見た目は、よく美人と言われる。


叔母の愛子によく似た、女性的な容貌をしているからだろう。


だが、美人と言われるとキレる。そのくせ、自分から潜入や内定でソレを武器にすることは厭わない面倒な性格をしている。


吹雪は俺の隣に腰かけた。


「どうしたの? 今日は」
 

わざわざ呼び出すなんて、と、吹雪が問うと、降渡は龍さんを見た。


「龍さんから来いって」


「そいつが在義んとこの娘(じょう)ちゃんと婚約したっつーから、調子に乗らねーうちにシメとこうと思ってな」


龍さんの言い方で、またダメージを受けた。


ガチでシメられてます……。


俺が一人、だんだんカウンターに額をつけているのが通常になってしまいそうになっている隣で、吹雪は素っ頓狂な声をあげた。

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